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4 花園での出会い(2)

 王宮の季節の中庭……今は初夏で、赤い薔薇の咲き乱れる庭だった……には、ガーデンパーティーの用意がなされていて、同年代の着飾った男女がたくさんいた。


 入り口まではお母様も一緒で、あとは大人は王宮の中で子供たちのパーティーが終わるのを待つらしい。子供たちの姿が見える、中庭に面した大きなガラス窓の嵌まったお部屋だそうだ。


 今日のお母様は王宮という場所に失礼のないような、それでいてとてもシンプルなドレスに目立たない薄化粧で、それでもとても綺麗だった。部屋に入ったお母様を見てみると、他の方のお母様たちは自分たちのパーティーのように着飾っていたが、私にはその理由は分からない。かえってお母様の方が綺麗に見えた。


 今日のメインは子供のパーティーだからそう時間はかからない。お昼の少し前に集められ、午後のおやつの時間の前には解散だそう。


 国王陛下が私たちと同年代の王子様を紹介し、皆身分は忘れて楽しんでいくように、という言葉で始まった。その言葉に礼をしたのは私だけで、少し恥ずかしい。誰も彼も初めてお目見えする王子様に夢中で、見られてなかったのはよかったと思った。


 私といえば、さっそくたくさんの女の子に囲まれてしまった。素敵なドレスと髪型なのに、どうしてそんなお化粧をしているの、と。そばかすはともかく、眉毛と唇が気になるらしい。


「継母にやられたの」


 私の一言に大半の子は、眉尻を下げてかわいそうにという顔をして、押し黙った。そして、そっと話題を変える。


 3人だけ「そんなの酷いわ!」と怒ってくれた。私はこの3人と仲良くなろうと思って「私のことは気にせず、パーティーを楽しんでくださいな」と笑って、別の話題になった子たちを促した。


 怒っていた3人の子は、その場に残った。どうしても私が野暮ったい化粧をされたことが許せないらしく、丸い頬をさらに膨らませてぷりぷり怒っている。


 3人の名前は、ビアンカ、エステル、セレンというらしい。苗字とお父様の爵位も聞いたが、それはひとまず横に置いておく。顔と名前を一度でちゃんと覚えるのはマナーのひとつらしい。あんまり大人数では難しかったかもしれないけれど、3人ならなんとかなった。


 残ってくれた3人に、実はね、と私は本当のことを打ち明けた。


「お母様は、私のために怒ってくれる友達を探しなさい、と言ってこんなお化粧をしたの。それは私の味方になってくれる子だからって。あらためて、私はシェリル。ビアンカ、エステル、セレン、私のために怒ってくれてありがとう。お友達になってくれるかしら」


 マナーの講師に、謙遜は尊いものだが卑屈になるのはいけません、と教わった。だから、私は心の中でだけ、こんなに可愛くない私でも、と付け加えた。


 3人は、もちろんよ! と、言って私の手を取り、パーティーの軽食やお菓子の並ぶテーブルの方へ向かった。喋りながら、私のお母様に今度は興味津々で、私はお母様が容姿だけは褒めてくれないことは隠し、どれだけ褒めて愛情を注いでくれているかを話した。


 なんだか、そんなお母様が容姿だけ褒めないことは、よくないように取られる気がしたからだ。私が可愛くないのは、ビアンカたちを見ても分かる。薄らと頬紅を乗せて、唇にも可愛らしい桃色で艶が出るような紅がのっている。素直に可愛いと思う。私は元が悪いのだから、お母様のやり方であっていたんだわ、とも。


 まぁ、お菓子を食べたら紅は取れてしまっていたけれど。私は紅が取れないように食べる方法を学んでいたので、ちょっと茶色く、艶のない唇はパーティーの終わりまでそのままだった。


 パーティーが終わる前にお手洗いを借りたくなったので、エステルたちとはそこで別れた。戻る頃には終わる時間だからだ。必ず手紙を書いて、遊びに行くわ、と4人で約束しあって、私は3人の素敵なお友達ができた。


 パーティーには当然給仕や護衛の大人たちがいたので、私は入り口に立っていた王宮の使用人にお手洗いを借りたいと告げると、道を教えられ、王宮内の、アーチを潜ってすぐ隣の庭園に面した、開け放たれたテラスのお部屋のお手洗いを借りた。


 子供がメインなのでこういう所にも気を遣っているらしい。迷うことはなく戻れそうだったが、私たちが居たのは初夏の赤薔薇が咲き乱れる庭で、この部屋の外には白薔薇と噴水のお庭があった。


 その噴水をじっと見ながら、白に金糸の縫い取りをした服の男の子を見かけた。風の吹くままにきらきらさらさらと流れる金髪の男の子。綺麗だな、と少し見惚れたが、終わりにはまた陛下がいらっしゃるはずだ。


「どうされました? パーティーはもう終わりますよ」


 私は、失礼かな、と少しだけ思ったけれど一応声をかける。


 振り向いた男の子は、とても綺麗な明るい緑の瞳いっぱいに涙を溜めて、なぜか泣いていた。

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