22 継母の甘言——私は幸せになります
結婚式は盛大なものになった。
いち伯爵令嬢の私が、本来ならば入ることは一生なかったはずの、王宮の神殿が使われる事になった。
王宮で外交官を勤めるお義父様の顔の広さはそれはもうすさまじく……逆に我が家で招いた方々は、父が事業を始めた頃からの新しいお付き合いの方ばかりで、私の知り合いはずっと仲良くしていた3人の女友達だけだ。
お母様のお友達などもいない。ドーヘン男爵夫妻とは初めて会ったが、孫として、私のことを送り出してくれた。
お母様が優しいのもわかる気がする。こんなお父上とお母上に育てられたのだから、優しくならないはずがない。
今日はさすがに、父にエスコートされる。控え室でウェディングドレスを着て鏡台を見ていた背中にノックの音がした。
振り返ると、父が呆然と立っていた。
何か小さな声で呟いたが、聞こえない。だが、父はそれを呑み込み、毅然とした態度で私に腕を差し出した。
「……とても美しいな、シェリル」
「ふふ、お母様譲りだもの」
本当のお母様と、お母様。2人の母は、どちらも美しい。
まだわだかまりは完全に解けたわけではない。当たり前だ、ずっとずっと刷り込まれてきた、可愛くない、という苦言。
それでも、あの結婚報告に帰った夜の言葉。たくさん流した涙に、一生分かけてくれた、可愛いシェリー、というお母様の言葉。
許さなくていい、責めていい、そう言われたけれど、私は過去に拘る気はなかった。
時折胸を苛むことはあるだろう。
父の態度、お母様の言葉、ジュールとの違い。
歪んでいた。しかし、歪みの中で私は豊富な愛情を受け取っていた。
それは父の稼ぐお金であったり。
お母様のセンスや褒めて伸ばしてくれるところであったり。
私とは違って素直に愛情をかけられて真っ直ぐに育った弟の言葉や笑顔であったり。
父の腕に手を置いたまま、神殿の聖堂の前に立つ。両開きの扉が開けられ、目の前には、これから私の家族となるユーグが……旦那様がいる。
金髪は大聖堂に降り注ぐ光に煌めいて、初めて出会った時のように綺麗だ。
こちらを向いている明るい緑の瞳は柔らかく微笑んで、私を待っている。
父と、バージンロードをゆっくりと進む。ドレスの裾を踏まないように、一歩一歩。
「お父様」
「……」
「私も、愛していますよ。でも、一番は旦那様です。……私に苦労をさせないでくれてありがとう」
「……いいんだ。何もかも……、すまなかった。元気でやるんだぞ」
「もちろんです」
こっそりとそんな言葉を交わし、私は父の腕から離れ、愛しい人の腕へと渡された。
美しい男の子。今なお綺麗な、それでいて全てを委ねられる旦那様。
視界の端にお母様が目に入る。
私は笑いかけた。
『可愛いシェリー』
お母様、私はその言葉を胸に、幸せになります。
誓いの言葉を述べて、私とユーグは唇を重ねた。
互いに、どんな時も、永遠に愛する。その言葉を封じるために。
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