20 結婚式の前夜
私が問題を解決して公爵家へ帰ると、ユーグが時間を作って出迎えてくれた。
「問題は解決した?」
「半分。残り半分は、これから解決していくの」
「私に手伝えることはあるかな?」
「えぇ、ユーグにはたくさん手伝ってもらわなきゃいけないわ」
晴れやかに笑って私がそう告げると、彼は私の手を引いて軽く抱き締め、おかえり、と頬に口付けた。
両家の間で結婚式について決まっていく。割合、私たち当人はする事が少なかった。衣装選びと、招待したい人を伝えるくらいだろうか。
貴族の結婚は家と家の結びつき。だから、当代当主同士が……もっといえばその奥方同士が……話をすすめていく。私とユーグは、もうただただ流されていくだけだ。
会場も日取りも決まり、私とユーグの婚礼衣装も出来上がった。
あっという間に明日が結婚式になった。今日の私は朝から隅から隅まで磨きに磨き上げられ、明日はさらに仕上げの磨きが入るという。
出窓のクッションに体を預けて星空を見上げていたら、外から声がかかった。
「シェリル。ドアを開けてくれ」
「ユーグ?」
あまり結婚前に寝巻きで会うのはよくないのだろうけれど、私はショールを巻いてドアを開けた。
彼は両手にマグを持っている。これではドアを開けられないはずだ。
ソファに座って、テーブルの燭台に火を灯す。あとは寝るだけだからと、薄暗い部屋でぼんやりしていたのだ。
マグの中はホットチョコレートにマシュマロを浮かべたもの。子供っぽい飲み物にちょっと笑ってしまう。緊張する前日は、これを飲むのが習慣だとユーグが告げた。
「私ね……、今のお母様に出会った時、一番初めに可愛くないと言われたの。それから、社交界デビューの……あなたと再会したパーティーの日までずっと」
「それは……! 虐待じゃないか、そんなの、君の母君がそんな……!」
「怒らないで。お母様には何か理由があったのだと思う。だってずっと愛してくれていたから。私が本当に虐待されていたのなら、私は公爵家に嫁ぐこともなかっただろうし、花嫁修行はもっと長引いて苛烈だったと思うの」
ユーグは目の色を変えていたが、私の言葉にぐっと押し黙る。
「私の事、初めて会った時から天使のように可愛かったって。今は女神のように美しい……なんてのは、母親の欲目だと思うわ」
「いいや、君は女神のように美しいよ」
「もう。……ありがとう。やっとあなたに褒められても、まだ全部ではないけれど、素直に受け止められる。お母様は、可愛いシェリー、そう言って泣きじゃくった私を抱き締めてくれたの。お母様の理由は知らない。だけど……、私はもうあなたの妻になる。もうあの家の子じゃない、あなたの、公爵夫人になるの。私は子供が産まれたら、どんな子でも可愛いと言って育てるわ。私とあなたの子なら、絶対に可愛いもの」
「シェリル……」
ユーグが私を抱きしめる。私の過去ごと、呪縛ごと、覚悟ごと。
私は明日、この人の妻になる。
そっと背に腕を回して目を閉じた。柔らかい唇が、私の唇に落ちてくる。
誓いの言葉はないけれど、私たちは、お互いの愛を確かめ合うように、優しく、何度もキスをした。




