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15 お母様とお母様

 遅くに帰ったので、私はメイドに迎えられることもなく、ひとりで部屋に向かった。


 途中、お母様の部屋から少し明かりが漏れているのに気付く。私は帰った事を告げようかと扉に近付き、お母様が誰かと話してる声に離れようとした。


「シェリルはあなたに似てとても綺麗になりましたわ。……私が社交界で間違えてしまったようにはならなかった。ちゃんと守ってくれる方が現れましたの」


 ピタリ、と私の足は止まった。


 盗み聞きはいけない事だけれど、あのお母様が私の事を『綺麗』と言っている……?


 意味がわからなかった。ずっとずっと、可愛くないと言って育ててきたのに。


 頭が混乱してどうにかなりそう。続きを聞けば何かわかるかもしれないと、そっと扉の近くの影に紛れた。


 少しだけ中を覗く。


 そこには、本当のお母様の肖像画と、それに向き合って背筋を伸ばして座るお母様がいた。


「初めてあの子を見た時、天使かと思ったわ。私はまだ19歳で、若くて……とにかく私と同じ道には進ませまいと、心を鬼にしてきた。その分、愛情も注いだつもり」


 肖像画の微笑んだ本当のお母様から返事はない。当たり前だ。それでも、お母様は返事があるように話している。


「分かっているわ。酷いことをしたのは……、突き落としてしまった私には資格が無いの。あの子の心を救うのは、あの子を守ってくれる、あの子だけの男性に委ねるしかない」


 お母様が泣いている。顔を手で覆って、背を丸めて。まるで懺悔をするかのように。


「ごめんなさい、シャーロット。私は愛情のかけ方が……あの時の私のやり方を貫く以外わからなかったの。シェリル、どうか私のことは許さないで……、愛し愛される幸せの中で、私のことを憎んでいい。許さなくていい。私はそれを得られなかった、そしてこれからも……旦那様は、シャーロット、そしてシェリルへの愛が深すぎた。シェリルを守るには、シェリルのそばに居られない旦那様ではダメだったの……、ごめんなさい、ごめんなさい、シェリル……愛しているわ……」


 お母様の独白は涙で掠れて揺らぎ、今日観てきた演劇よりも私の心を揺さぶった。


 お母様が私を愛してくれているのは知っている。だけど、何を酷いことをしたというの? 天使のようだと言っていた……。


 私が、可愛くない、のは、嘘?


「あの子には10歳のパーティーの時に、もう見合いの申し入れがあった。相手の方が成人して気が変わることがあるかもしれないと思って、ずっと手紙でやり取りを続けた。息子はシェリル以外を望まない、毎回その言葉にどれ程安堵したか。そして、パーティーで、見事にその方はシェリルに自分で気持ちを伝えたわ。……奥手な方だったら、シェリルが他の方を望んだら、形だけのお見合いをして、ユーグ様か、望んだ方の元へ嫁がせて終わらせようと思ったけれど。……シャーロット、シェリルは本当に素晴らしい子だわ。……私は、やっぱり間違えていたのかもしれない……」


 そこまでだった。もうこれ以上聞いていられなくて、私はその場を離れた。


 ユーグとパーティーでうまく出会うことができなかったら、誰も相手を見つけられなかったら、お見合いする。


 その相手は、ユーグ。


 抱き締められた体が熱い。ずっと望まれていた。そしてお母様の謎に触れた。


 喜びと、不安と、混乱と、不信感と、私の心はぐちゃぐちゃになる。


 ディナードレスを適当に脱いで髪を解き、化粧を落として月明かりの中の私の顔を見る。


 可愛くないシェリル。


 しかし、そこに映っているのは、私に可愛いシェリーと笑いかけてくれた本当のお母様そっくりの顔だった。

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