13 気のせい?
お母様の訓練は大変だったけれど、おかげで金曜には自分でも少しは見れる顔だなと思えるようになった。
結婚を前提に、と言っていた。私は結婚をしたら、毎日早く起きて最低でもこの顔を造らなきゃいけない。元があんなに綺麗な男性というのもそういないが、まさか自分がその方の隣に立つことになるとは……。
いまさらだが、少し怖くもなった。
(明日……幻滅されたらどうしよう。いいえ、大丈夫よ、10歳の時の私を知って、望んでくれたんだもの)
心の中で何度も言い聞かせる。大丈夫、と。
鏡の中の私は可愛くない。少し、見れるようになっただけ。もし、……もし、これでフラれることがあったら、お母様の言う相手とのお見合いだ。
好色が過ぎて誰でもいいという方かな。それとも、貴族ではなく商家の方とか。刺繍は得意だけれど、もっと料理なんかも習っておけばよかった。
暗い考えが頭から離れない。明日着て行く服も靴も決めた。髪はメイドがやってくれる。明日……ユーグ様に成長した私の本当の姿を見られる。
いつまでもうだうだ考えても仕方がない。多少は見れる顔になったのだ、それでよしとしよう。元の顔は変えられないし。
私は化粧を落として風呂に入ると、落ち着くためのハーブティーを飲んで布団に入った。寝不足でひどい顔は、もっと見せられない。
翌朝目覚めた時には、少しは気分がスッキリしていた。私服を着て身支度を整え、朝食に降りていく。ジュールとお母様がいて、いつも通りの朝が始まった。
歓談をしながら、もっぱら話題は私の今日のデートの話。ジュールが興味津々で聞いてくるので、からかわないで、と笑って返していた。お母様も笑っている。
(あれ……?)
はた、と気付く。
社交界デビューの日から、私はお母様に「可愛くない」と一度も言われていない。今朝も起こしに来たメイドに、顔色がよくてとても綺麗ですわ、と普通に褒められた。
寝起きだったのでそのままありがとうと答えてしまったけれど、……妙な感じだ。
かと言って、正面からそれをお母様に聞いて、デートの日に「可愛くない」などと言われたくない。
私は今日も、勇気が出なかった。
夕方、待ち合わせ場所には先にユーグ様が待っていた。どこで見ても絵になる人だ。……こんなに可愛くない私では釣り合わないのではないだろうか。
しかし、それを口に出す教育は受けていない。卑屈は人に見せるものではない、まして、恋人として……いずれ結婚する相手として望んでくれた人に。
「お待たせしてしまいましたか?」
「いえ、時間通りです。——今日もとても綺麗です、シェリル嬢」
馬車から降りるのをエスコートしてくださりながら、彼はとろけるような笑顔で私を褒めてくださいます。
光の当たり具合で滑らかに光る薄ベージュのディナードレスは首元から袖は透ける生地に刺繍が入っていて、胸元からはプリーツが流れるような造りになっている。演劇は舞台の役者が主役なので控えめな色とデザインにしたのだが、ユーグ様はこと私を褒める事に関してはソツがない。
隙あらば褒めてくるので頰が赤くなってしまう。私はそんなに褒められるような、と言い掛けては口を閉じ、失礼に当たらないように微笑んでお礼を言った。
「少し歩きます。そんな距離ではないですが、お手をどうぞ」
「ありがとうございます、ユーグ様」
「シェリル嬢、どうかユーグと」
「……では、私のこともどうか、シェリルと」
敬称を外すまでの流れがあまりに自然で戸惑ったが、こういうものなのかしら、と了承した。
夕暮れに照れたような、こちらを向いたユーグの顔が照らされる。ほんのり頰が赤らんでいるように見えるのは、気のせいじゃないのか、夕陽のせいか。
「君を名前で呼ぶ日を、ずっと心待ちにしていました、シェリル」
「あ……、っありがとう、ございます。ユーグ」
ちょっとだけ金色の大きな犬のようにも見える。とびきり綺麗な毛並みの。
改めて名前で呼び合うというのは恥ずかしい。だが、胸の奥にロウソクに火を灯すような暖かいものがあった。
そうしているうちに予約を入れてくれていたらしいレストランに着いた。ディナードレスはそこまで浮いてないようだと客層を見てホッとする。
2階にあがって窓際のテーブルに向かい合って座り、観劇の前なのでお酒は控えて料理を楽しんだ。
……私の好きな食べ物が多かった気がするのだけど、気のせいかな?
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