12 初めてのデート
私が帰るとすぐに、使用人と心配そうなお母様に出迎えられた。
「シェリル、おかえりなさい。どう? 素敵な方は見つかった?」
「はい、とても素敵な方が交際を申し込んでくださいました。……10歳のパーティーを覚えてますか? あの時の私と、今日の魔法にかかった私。どちらも褒めてくださる、本当に素敵な方です」
お母様はその言葉にほっと息を吐いて笑うと、後ろに隠れていたジュールが私を見て満面の笑顔になった。
こんな遅い時間まで起きていて大丈夫かと思ったものの、弟はどうしても私の晴れ姿が見たくて待っていたらしい。
「おかえりなさい、お姉様。とっても綺麗です」
「ふふ、ありがとうジュール。あなたにも魔法のかかった私を見てもらえて嬉しいわ」
「良い方が見つかったんですね。あぁ、僕がもっと大きければな。お姉様のことをエスコートしたかったのに」
「あら、そしたら私はいつまでも素敵な方を見つけられないわ。ジュールが全て跳ね除けてしまうでしょう?」
「当たり前です。お姉様の見た目だけで寄ってくる奴なんて……、あれ、そしたらお姉様とお話しする機会がないから……?」
混乱したように首を捻るジュールが可愛くて、思わずぎゅっと抱き締める。ありがとう、と言うと、照れたジュールが、おやすみなさい、と言って部屋に戻る。
「私たちも部屋に戻りましょう。魔法は解かないとね。肌にとっても悪いのよ」
「まぁ。……ねぇ、お母様。本当にありがとうございます。今度、一緒に演劇を見に行くんです。お願いします、私に魔法のかけ方を教えてください」
私の言葉にお母様は少し悩むと、まずは今日は休みましょう、と言って部屋に促された。
なんだかうまくはぐらかされたような気もするが、寝巻きに着替えて専用の油で化粧を落とし、顔を洗って髪を下ろした私は、やっぱりいつもの可愛くない私だ。
今日は本当に夢のような夜だった。お母様にも、使用人にも、ジュールにも褒められた……父にも見てもらえた。
そしてユーグ様との交際まで決まった。魔法は本当にすごい。……今日はそれだけを考えて寝よう。とっても、疲れたもの。
翌日、すぐにユーグ様から手紙と演劇のチケットが届いた。
週末の夕方に劇場前で。チケットを見ると、開演より2時間早い。夕飯を食べてから、という事らしい。
演劇も2時間あるし、途中で休憩はあるけれど供されるのは飲み物だけだ。
当日をとても楽しみにしている、と締められた手紙を胸に、私は少ししみじみとしてしまった。
可愛くない私でもあの方なら受け入れてくれる。10歳のあの日から、私だけを望んでくれていたと言った。
せめて恥ずかしくない程度にはしていきたい。演劇を見る前に食事ならば、ディナードレスがいいだろう。
髪はまた結い上げて、少し垂らして巻いて……、あとは、お母様が魔法のかけ方を教えてくれるといいのだけど。
デート……初めてのデート。とても緊張してしまう。
同時に浮き足立ってもいる。
そこにノックの音が響く。ベッドの上にいくつかのドレスを並べたままだったが、散らかしているわけじゃないので、どうぞ、と答えると、お母様が入ってきた。手には化粧箱を持っている。
「シェリル。これはね、あなたが成人した日に買ったもの。あなただけの化粧品。あなたにはずっと、服飾のセンスは教えてきたつもりよ。今日からはお化粧も練習するわよ、自分でできるようにならないとね」
「……! はい、お母様!」