EP99.文化祭を姫と回る
俺だ、江波戸蓮だ。
文化祭一日目午後の今、お化け屋敷によって腰を抜かした白河小夜にジュースを買ってきた帰りだ。
まず、小夜の様子を見て思ったことがひとつ。
……相変わらず大人気だなあ…と。
「白河さん!俺と文化祭に回りませんか!?」
「いや!俺とどうですか!?まだあまり回ってないのならオススメありますよ!」
「やめろ!白河さんは俺が先に誘ったんだ!」
…とても醜い争いだ。小夜が迷惑そうにしているのが分からないとは。
さっきもこんな事があったため、かなりの呆れと…あまりの醜さに怒りが込み上げてくる。
「いいです。遠慮しておきます」
「遠慮せずにさあ!文化祭1人じゃ楽しくないでしょ?」
「そうだよ!絶対楽しませてあげるから!」
別に1人ってわけじゃないが、まだ見つけれていない俺のために小夜は黙っている様子。
それを見て俺は息を吸い込んだ。
「遠慮しておきます。貴方達には興味ありません」
「それなら友達からで───」
「うぅるっせぇぇぇぇぇぇ!!!!」
俺の盛大の叫び声に、男共の体が跳ねた。
しかし、振り返ってかなりイラついている俺に対して、逆に睨んでくる。
「なんだてめえ?邪魔すんなよ」
「邪魔もなにも、あいつが迷惑そうにしてるのがお前らはわかんねえのかよ!?」
「は?そんなわけないよね白河さん?」
「そんなのわざわざ聞いてる時点で!!お前らは小夜の何も理解できてねえんだよ!そんなんじゃ承諾するわけねえだろうが!!」
まくし立てる俺を見て、男共が首を傾げた。
「…今白河さんの名前を呼ばなかったか?''小夜''って」
「あ?…!?やべ!!」
興奮するあまりボロ出しちまった!?
男共の睨みがさらに鋭くなり、俺はテンパってどうすればいいか分からなくなっちまった。
「……行きましょう。蓮さん」
座って黙っていた小夜がそう言って立ち上がった。
小夜が呼んだのは俺の下の名前だと察したであろう男共が目を強く見開いて小夜を見た。
しかし、小夜はそんなのを気にする間もなく俺の腕を取って歩き出した。
「は?小夜さん?」
「私の名前を気安く呼ばないで貰えますか?」
男の一人が俺たちの背中に小夜の名前を呼んだが、すぐに撃沈…他の男共も呆然とした顔になっていた。
「…悪い小夜。興奮して名前言っちまった」
「それは蓮さんがしたかったことなので、私は怒ってませんよ」
そう小夜は微笑んでくれる…さっきのを思い出し、なんとなく優越感があった。
「そうだったな…でも、これで噂がすぐに広がるだろうなあ…」
「…蓮さんは私とのことで広がるの、嫌なんですか?」
上目遣いでそう聞いてくる小夜に、俺は言葉が詰まる。
明日…の事もあるし、それに今は小夜がとても愛おしい。
「…そうでもないかもな」
「ふふ、そうですか」
そう言って笑う小夜の笑顔が凛々しくて、少し居心地が悪い。
話題を変えるため、実はさっきから気になっていたことを切り出す。
「…そういえばだが、アプローチとかナンパとかのあしらい方のキレが良くなったよな」
EP23の時も悪かった訳では無いが、些か語気が強くなった気がする。
…まあ、さすがにEP49の時の姉妹ほどではないが…あれは怖すぎる。
「そうでしょうか…たしかに、昔は相手の機嫌を損ねないようにしてますが、今は少し違うかもですかね?」
「ほう?例えばどんな感じだ?」
よしよし、何とか話題を変えれたぞ!
「…今は相手に踏み込む余地など、全く与えたくは無いです」
強い覚悟?か何かがあるのか、小夜が真剣な顔でそう言った。
その言葉が、なんとなく心臓に突き刺さった気がして…なんとも言えない気持ちになる。
「まあ、そういうわけです。行きましょうか」
「お、おう」
少し顔を赤らめた小夜が視線を合わせずそう言って歩き出したので、俺は引っ張られる形でついて行った。
この後も、色々と食べ物を食べたり遊んだりして回った。
文化祭二日目、午前はやはり小夜の影響でありえないくらい忙しかった。
…まあ、あくまで料理担当なので変わったことは無かったのだが。
午後、昨日のことがあったのか小夜の元に他の男は来なかった。
…まあそらそうだよな…小夜が男と下の名前を呼びあってる噂、もう広がってたし。
それで魔王様にからかわれたのだから…うん、鬱陶しかった。
「白河さん!」
そう思って小夜を誘おうとしたら、先に「勇者」様、若林勇翔が小夜に声をかけた。
「なんでしょうか?若林さん」
「いや、白河さんが男の人の名前を下で呼んだって噂、本当なのかなって」
…俺が聞く限り二回も小夜に告白した勇翔の事だ、そりゃあ気になるだろう。
そんな勇翔を、小夜は…いつもと違う微笑みでこういった。
「それが本当だったとして、若林さんはどう思うんですか?」
…なんか、怖いな。
「…いや、もう俺の入る余地なんて無いのかな…なんて思ってさ」
「………」
勇翔が悔しそうな顔をしていたが、小夜は黙ったままだった。
「ねえ、どうなのかな。やっぱり…」
「…バッサリ行っておきますと、噂がどうこうよりも、若林さんのことを恋愛の目で見ることは今後ないと思います。」
「…なんでか、聞いていいかな」
かなり小さな勇翔の言葉に、小夜は''学校でのいつもの笑み''のまま、こう言った。
「あなたが''学校での私''しか知らないからです。……それでは…」
「………うん」
小夜が勇翔の反対方向へと歩き出したので、慌てて俺も追いかけた。
「…なんだか、申し訳なくなりますね」
…いつも家に一緒にいたから忘れていたが、小夜は俺以外と話す時は基本的に微笑んでいた。
作ったような…儚げな微笑みを、だ。
…勇翔は、それしか小夜を知らなかったから、想いが叶うことがないと言われた。
あれが俺だったらどんな気持ちだろうか…最近話して悪くないやつだと思っていたので、少し同情してしまう。
しかし、小夜もそれは同じなようで…あの顔を見て申し訳なくなって、言葉をかなり慎重に選んでいた。
…それでも、切ったから…さらに増したんだろう。
「………」
「…舞台、行きませんか?昨日行ってなかったですし」
気まずくなって何も言えなくなっていたが、小夜がそう言ったので何も言わずに頷いた。
ある程度食べ物を購入し、舞台がある体育館にやってきた。
ここでは、部活や委員会、同好会による劇や演奏などの出し物がされる。
「…これを二回ですか。大変そうですね…」
今現在ロックな演奏をしているグループを見て、小夜がそう言った。
そう、舞台のプログラムは一日目と二日目で全く同じなのだ。
「しかたないだろ。予定が詰まってる人とかそうだし、評価があるからな」
評価とは…まず、舞台で出し物がある際に、横に発表グループ名がでかでかと晒される。
それを入口付近にある投票用紙と照らし合わせて簡単に評価し、帰る際に箱に入れる。
ちなみに、しおりや掲示板に舞台のプログラムは貼られているので、前か後かであまり有利不利は現れない…俺らみたいな気分などで差はでてしまうが。
「とりあえず、見ましょうか」
「そうだな」
二人で隣り合わせで空いてる席に座って少しした後…演奏の激しさが不自然に増した。
どうしたんだ?とよくよく見ると…まあこれはこれは、演奏者の視線が金髪美少女に集まってますわ…
体育館内は暗いにしても少しくらいは見えるので、金髪で目立ちやすい小夜はわかりやせいのだろう…
で、学園の「姫様」という肩書きがあるため演奏者…特に男が気合を入れる、と。
「…小夜、お前すごいな」
「え?何がですか?」
「…いや、なんでもない」
本人は知らない方が何となく気が楽だろう…多分。
周りの客的も盛り上がってるし…暫くこのままにしておこう。
「凄かったですね〜」
「そ、そうだな…」
結局、ずっと一緒に見て下校時間になってしまった…舞台の盛り上がり用はすごかったな。
小夜自身は普通にクオリティがあったという感想だろうが、小夜がいなかったらどうなっていたんだろうな、あれ。
そんなこんなで下校しているんだが…はあ、後夜祭はもう明日か…
…今日は緊張で眠れそうにないな。
そう思っていた俺なのであった。
次でいよいよ100ですね…
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