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ほぼ存在しない俺を、学園の姫だけは見つける  作者: さーど
第一章その1 これが、姫様との始まりだ
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EP9.姫はベランダに出る

 脳内でQP3mクッキングのBGMを流し、俺こと江波戸蓮えばとれんはエプロンを装備する。

 料理の説明なんて俺には出来ないから料理風景は割愛かつあいするが、上手く味噌煮と肉じゃが、炊き込みご飯が出来上がった。


 暖かくも落ち着いた色をした食事を前に、俺は手を合わす。

 全体的に柔らかく仕上げているのでとても食べやすく、俺好みだ。


 俺はゆっくりと咀嚼そしゃくして飯を平らげ、食器と調理器具を洗う。

 それから余った肉じゃがと炊き込みご飯をタッパーに詰め、冷蔵庫に放り込んだ。


 よし、これで数日間は自分の料理を食える……金の節約にもなるし、最高だ。

 まあ最高でも、面倒臭いからあまりしないんだけどな。


 俺は満たされた腹をさすりながら、夜風を浴びるためベランダに出た。


 そんな俺の片手には、コーヒーがある。

 暖かくコクがあるこいつを外で飲むのは、個人的には好きなのだ。


「……ふう……」


 椅子に座ってからコーヒーを啜り、ほっこりとした気分で夜空を眺める。


 こう一人でのんびりと過ごすというのは、やはり悪くないな。

 寂しいか、と訊かれたら、自己紹介した時のように勿論頷くしかないのだが。


「………」


 なんだか、視線を感じる。


 いや、まあ視線の犯人は分かりきっている。

 だが正直関わりたくないため、あまり触れないようにしているのだ。


 俺はコーヒーを横に置いてあったサイドテーブルに置いて、持参した参考書を開く。


 個人的には学校の授業を聞くより、こうやって参考書を開く方が楽だし頭に入る。

 読む方が得意でな……学校は単位を取るために通っているだけと言わせてもらう。


「家ではちゃんと勉強しているんですね」


 ゆっくりと参考書を読んでいた俺に、視線の犯人が急にそう行ってきた。

 俺はジト目になって、そいつを睨む。


 そいつの名は白河小夜しらかわさよ……なんでこいつもベランダに出てるんだ。


「……なんで睨んでくるんですか?」

「一人でゆっくりしたいのに、と思ってな」


 怪訝な顔をしてそう訊いてくる小夜に、参考書に視線を戻してそう答える。


 ……最近、こいつに対して皮肉や不満を言うことが多くなっている気がする。

 まあ、こいつが俺の日常を邪魔する唯一の存在だからなのだがな。


「そんなこと言わないでくださいよ。二人でゆっくり、夜空を眺めましょう?」


 らしい言い方に、俺はそちらに視線を向けながら「はっ」と鼻で笑ってやった。


「「姫」からのお誘いとは恐縮だな。遠慮しておくよ」

「その「姫」というのはあまり好きでは無いので、辞めていただいていいですか?」

「へいへい「姫」()


 小夜は「むぅ……」と頬を膨らませ、抗議したそうな顔で俺を睨んでくる。

 これからはできるだけ''様''を着けるように心がけてやろう。


 ……別に、嫌ってくれても構わんのだ。

 学校の奴らから集中砲火を食らう心配はこの体質のおかげでないからな。


 ……それに見えているとはいえ、どうせこいつも()()()()()()()だろうよ。 ''影が絶望的に薄い''ってのは、そういうものなんだ。


 そう思いながらしばらく黙っていると、小夜が思い出したように口を開いた。


「……そういえば、本当に料理はできるんですか?」

「……突然なんだ」


 デジャヴを感じる小夜の質問に、眉を顰めながら俺はそう返す。

 だが、デジャヴといっても今回はより疑うような質問できている。


「いえ、スーパーのことで。やはり、少し疑問に思ってしまいまして」


 なぜ自分ができないことが俺にも出来ないと、勝手に解釈されているんだ?

 なんだか屈辱的だし、目にもの見せてやろうか、と思う。


「そう疑うなら食えよ、ちょっと待ってろ」


 実際に口から出してしまった。

 ……まあだけど、こいつの弱点を目立たせるいい機会でもあるだろう、とも思う。


 そういう訳なので、俺は部屋に戻って冷蔵庫からさっき作った肉じゃが入りのタッパーを取りだした。

 ベランダに戻り、それを小夜に押し付ける。


「肉じゃがだから、料理の上手さはあまり関係ないかもしれねえけど、それ食ってから文句を言いやがれ」


 半分やけになりながらおら、といった感じに差し出すと、小夜は押し付けられ気味に差し出されたタッパーを見て目を見開く。

 困惑気味にそれを両手で受け取ると、様々な角度から舐めまわすように覗き込む。


 そして、一瞬考えるような素振りを見せた後、微笑んで頭を下げてきた。


「ありがとうございます。夕飯まだでしたので、丁度よかったです」

「惣菜とその肉じゃが、どっちの方が美味いかだけ、後で聞かせてくれよ」


 何を考えているのか分からないが、とりあえず皮肉だけ言い残す。

 そして、飲み干したコーヒーを淹れ直すために俺は部屋へ戻った。






 また暫くベランダで参考書を眺めていると、隣の部屋から戸が開く音がした。

 俺は再び、そいつを睨んだ。


「……何故私が出てきたら睨んでくるのですか?」

「挨拶だよ挨拶」

「そ、そうですか……」


 頬の引き攣った笑顔になった小夜は、洗ったのか綺麗なタッパーを俺に渡してきた。

 ……本当に、表情が豊かになってきたような気がする。


 しかし、早速本題に入らせてもらおう。


「感想の程は?」

「とても食感が良く、味に深みがあって暖かい気持ちになる美味しさでした。先程の御無礼、誠に申し訳ございません」


 それを聞いて俺は上機嫌に溜息を鼻から吐き、小夜にドヤ顔をかます。


「そんなに美味しかったんなら()()がお供の姫()に、俺の料理を恵んでやってもいいんだがな」


 これ以上にない皮肉を言ってやった……俺も悪いやつだ。

 もちろん、反省はしていない。


「……お願いしてもいいですか?」

「……は?」


 冗談半分で言ってのけた俺の発言に頷く小夜を見て、俺は目を丸くする。

 ……待て、何を言ってるんだ?


「……対価は払わせていただきます。どうか、お願いできないでしょうか?」


 懇願するような顔で言ってきやがる小夜。

 正直、すげえ否定しづらいが……


「……料理すんのも面倒くさいし、対価などはいらん。だが、料理をした時におすそ分けをしてやるのは視野に入れといてやるよ」


 約束してもいいが、さすがに毎日とか、いつもとかは勘弁してほしい。

 そう思いながらそう言うと、小夜が微笑んでぺこりと頭を下げてくる。


「ありがとうございます」


 感謝を述べて微笑んだ小夜のその言葉で俺はむず痒くなり、「おう」とだけ返事して部屋に戻った。

 その微笑み……本当に、豊かになったもんだな、と思った。

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[気になる点] なんで誰からも相手にされないことを寂しいと感じるのに、唯一と言っても過言ではない小夜をここまで邪険に扱えるのか? 言ってることとやってることが違いすぎて違和感があります。 主人公、やた…
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