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ほぼ存在しない俺を、学園の姫だけは見つける  作者: さーど
第一章その1 これが、姫様との始まりだ

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EP8.姫とスーパーで

 やあ、諸君……俺だ、江波戸蓮えばとれんだ。


 とある日の夕方、俺はマンション近くのスーパーに来ていた。


 そろそろカップ麺に飽きてきたから、久しぶりに料理をしようと考えているのだ。

 綺麗になった部屋で過ごしているからか、今日はなんだか気分がいいしな。


さてさて?俺に捌かれたい物好きな具材共はどこにいやがる?

 ……いや、まあ、実を言うと献立は予め決めてあったんだけどな。


 今日の晩飯は、鯖の味噌煮と肉じゃがとついでに炊き込みご飯だ。

 和風の気分だったし、余っても鯖の味噌煮以外はある程度保存しても食えるからな。


 俺は買い物カゴをもって、さっき述べた料理の材料をメモで確認しながら物色する。

えーっと、あとは鯖にさっき確認したら丁度切らしてた味噌に……


「……あれ?江波戸さんじゃないですか」


 と、そんな事をやっていたら後ろから久しぶりに聞く声に話しかけられた。

 振り向けば、最近あんまり接触していない[学園の「姫」]、白河小夜しらかわさよがいた。


「……よお」


 外で会うとは思ってなかったからびっくりした俺は、でも驚きを見せず無愛想に挨拶をする。

 カゴを片腕に掛けた小夜も、微笑んで「こんばんは」と挨拶してきた。


「夕ご飯の買い出しですか?」

「まあな」

「ふむ、どれどれ……鯖?江波戸さんって料理できるんですか?」


 ちょっとまて、勝手に覗き込んできた挙句に逆に出来ないと思われていたのか?

 「失礼なやつだな」と俺は小夜を睨み、はあ、とため息を吐いた。


「掃除はできんが、料理は得意分野だ。今日は鯖の味噌煮を作ろうと思ってな」

「意外ですね。血色がよろしくないので、てっきりできないのかと思ってました」


 予想通り、勝手に出来ないと思われていたらしい。

というか初めて知ったけど、俺って血色が悪かったんだな……


 少しだけショックを感じながら、俺は仕返しとばかりに小夜のカゴの中を除く。


「そういうお前は何を……おい。大半が惣菜で埋め尽くされてるように見えるんだが?」

「あ、あはは……」


 惣菜とか飲み物以外に飲食類が見当たらないカゴを指さすと、小夜が苦笑する。


 EP4の時だったか?そういえばこいつ、料理は苦手っぽかったな。

俺の事は指摘しておいて……呆れた俺は、やれやれとため息を吐いた。


「俺が言うのもなんだが、よくそんなので健康的に過ごせているよな」

「まあ、栄養バランスだけは考えてますので……」

「……そうかよ」


 皮肉を言ったつもりだが、普通に返されてしまって俺はこれまたため息を吐く。


 ……まあいい、俺の買い物は今目の前にあるじゃがいもで全部揃う。

 これ以上話すこともないし、そう考えた俺は適当に別れの挨拶を告げてから、近くのレジに並んだ。


 ──なんか、ヤケに今日混んでるな。


 そして、横から他の客がすげえ割り込んできやがる。

 くそっ、下手につっかかってちょっとしたトラブルになるのも面倒だな……


「……あの、大丈夫ですか?」


 小夜も買い物を終えたのか、不安そうな顔でこちらに来る。

俺は不機嫌にも、すっとぼける。


「……何がだ」

「さっきから他の方に抜かされてるように見えるのですけど……」


 何故か小夜だけしか俺の事を見つけれないんだし、そらそうだろうよ。

 改めて思うが、本当にこいつはよく分からん……


「……ま、いいんだよ。空くまで待つ」

「……そうですか」


 そういって小夜は俺の後ろに並んだ。

 すると、もう抜かされなくなった。


「……はあ、すまんな」

「なにがですか?並んでるだけですけども」

「……ふん、そうかよ」


 次は俺の番だ……俺は前の人の会計が終わったのを見て、カゴを置いた。

 そして俺は、会計前に進んだ。


「……あの、お客様。なぜお進みにならないのでしょうか?」


 中年女性のレジの人が、俺ではなくまさかの小夜の方に向かって訪ねている。

 おいおい……


「あの、それは私ではなくこの方のものです」

「え?」


 レジの人が俺の方を向く。

 そして何も無かったかのように小夜の方に視線をもどし、首を傾げた。


「あの!……俺です。俺の買い物です」

「え?……え!?も、申し訳ございませんお客様!」


 久しぶりにこのスーパーに来たから忘れてたわ……くそっ。

 まあいい……その後俺はなんとか会計を済ませ、エコバッグに買った品を詰めた。


「エコバッグは持参しているんですね」


 そう言いながら、会計を終わらせたらしい小夜が近づいてきた。


「家にレジ袋なんか有り余ってるし、貰わなかったら少しは安くなるしな。だからエコバッグは毎回持ってきている」

「いい心がけだと思います」

「……さっきから思ってたんだが、俺を駄目人間に見すぎじゃないのか?」


 正直、すごい屈辱的なんだが。

 しかし小夜は、困ったような笑顔で……


「顔色とあの部屋をみると……」

「……はあ。顔色はまあわかるが、掃除は出来ないだけだっつの」


 悪態をつきながらも荷物を詰め終えたため、俺はエコバッグを持った。

 小夜の方を見ると、結構な買い物をしたらしくエコバッグがパンパンに膨れていた。


「……貸せ。持つ」

「え?大丈夫ですよ?」

「いいから貸せ」


 俺が会計を済ませれたのは、大方小夜のお陰ではある。

 で、俺も借りは返す主義だからさっさと貸せっての。


 ……言葉として、口にはしなかったがな。


「ありがとうございます」


 小夜が微笑みぺこりと頭を下げた、ふん。

 俺は2つのエコバッグをもって、小夜を待たずにスーパーを出て帰路についたのだった。

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