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ほぼ存在しない俺を、学園の姫だけは見つける  作者: さーど
第二章 姫様との新学期

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70/100

EP70.四聖人と姫の憂鬱

 2本目。

 あれから数日たって、次の月曜日の話だ。

 俺こと江波戸蓮えばとれんは昼休み、廊下に出ていた学園の「魔王」様、黒神零くろかみれいに話しかけていた。


「お〜い零」


 少しだけ大きめの声で呼びかけると、零は気づいたようでこちらに振り向いた。

 いや〜、零に話しかけるのはだいぶ楽になったもんだわ。


「蓮か。廊下にでるとは珍しいな、何か用か?」

「いやな?少し気になったんだが、例の件噂になりすぎじゃねえか?」


 耳を済ませれば今でもだいぶ聞こえてくる。

 それは、最近かなり噂になっている『「勇者」若林勇翔わかばやしゆうとが「姫」白河小夜しらかわさよに再度フラれた』…というもの。

 そんな噂があるってことは、あの現場を誰かが見ていたことになるが…だからってそんな噂たてるのは人間性として大丈夫なのかね…


「あの噂か…あれって本当だったのか?」

「事実ですよ」


 噂をすれば何とやら、小夜が現れた。

 その長い金髪を靡かせ周りの視線を集めている。


「白河…そうだったのか」

「ええ…あまり広がって欲しくないものですよね。若林さんが可哀想です」

「勇翔もそうだが、白河もご愁傷さまだな」

「そうだよ。俺の心配をしてくれるのはありがたいけど、自分のことも心配しなきゃだよ?白河さん」


 なんか勝手に話が進んで俺が入れなくなっていたら、まさかの勇翔もやってきた。

 勇翔はあれからも普通に小夜に話しているので俺はモヤモヤが止まらない。


 というかあれ?勇翔って俺のこと見えてないから俺もっと話せなくね?

 そうなると暇なので耳を済ませると、今度は三人が集まってるからそれで話が持ち切りになっている。

 いやまあそらそうだよな、「RPG四聖人」のうち三人が揃ってるもんな。


「若林さん、ありがとうございます。私は大丈夫ですよ」

「そう?それならいいんだけど」

「まあともかく、二人ともお疲れ様だな」

「ありがとうございます」「ありがとう」


 …なあ、俺ってもう席外しといた方がいいのか?

 いる意味が分からなくなってきたんだが…どうすればいい?


「それにしても勇翔、それはさておいて君もまた勇気のある行動をしたものだ。さすがは「勇者」様だな?」

「やめてくれよ零。恥ずかしいし、その呼び名はあまり好きではないんだ」


 デリカシーの無さすぎる話のような気がしたが、言われている勇翔は笑っているので、それほど零と仲がいい事を伺える。


「すまんな。ふむ…俺は「魔王」、白河は「姫」…なぜこういうよく分からないあだ名ができたんだろうな?」


 いやお前ら全員顔も良いし有能すぎるからだよ!?

 自分たちで自覚ないんだろうけどお前ら全員かなりハイスペックなんだからな!?


 はあ、はあ…ん?なんか急に廊下が騒がしくなってきたな…


「そうですね。今でさえよく分かっていないです…」

「同感だよ…何が面白いんだろうね」

「本当だわ。嫌になっちゃうわよね」


 急に抑揚がなく、聞いているだけで縮こまりそうな冷たい声が廊下に響く。

 俺は目を見開いて、その声の正体を視界に入れる。


 紫の髪留めがされている真っ黒でツヤがかかった髪を腰まで伸ばし、規則正しい姿勢で歩く姿はとても凛としていて、綺麗で大人びていた。

 顔つきも整っており、紫がかった瞳は毒蛇のようにかなり鋭く、見るものを怖気させるほどの威圧を持つ。

 しかし、小夜に比べてかなり小柄なので、少し子供っぽいという謎のギャップもあるその人物は…


 学園の「魔女」、雪野紫苑ゆきのしおんその人だ。

 どこまでも真面目な文学少女で、四聖人の中では品行方正さが飛び抜けているのだが…言動や視線がもの凄く冷たく、皆が怖気付いてしまうため「魔女」という異名がついた。


「若林勇翔、早速で悪いけど少しネクタイが緩くなっているわよ。早急に直しなさい」

「あ、ごめんね雪野さん」


 そういって素直にネクタイを締め直す勇翔、こいつもつくづく器が広いと思う。

 それはそうとて…思ったことを言っていいか?


 なんで四聖人全員揃ってるんだ!?


 去年でもこんなことは多分少ないはずだ…かなりレアな光景を目の前で見れたものだな。


「さっきの話なのだけれど、なんの目的でそんなあだ名がついているのかしらね?全くもって理解が出来ないわ。娯楽だとしても、人を使わないで欲しいわよね」

「はは…」

「そうですね」


 魔女様の厳しい物言いに、魔王様は苦笑いをしていた。

 あだ名は「魔」同士なのに、紫苑のようなタイプは少し苦手なようだ。

 逆に姫様はわりと素な笑顔で聞いていた…なんで主人公側の方が魔女様に適性あるんだよ…


「能力が優れているから…とどこかの噂で聞いたことがあるのだけど、それならばもう一人いると思うのよね。あの方はどうなのかしら…?」

「え?誰のこと?」

「蓮か?」

「江波戸さんのことですか?」


 勇翔は俺の存在を認知していないらしい…自己紹介の時に結構目立ってただろ、俺。

 けどな?小夜も零も名前はださなくていいんだぞ?


「そうね。江波戸蓮…たしか御三方のクラスメイトよね?何処にいらっしゃるの?」

「さあ?クラスメイトなのも初めて知ったな」

「僕達の目の前にいるな」

「目の前にいますね」

「「え?」」


 俺は二人を睨んだが…二人とも気がついているのかいないのか無視してきやがった…

 紫苑と勇翔は、まだ俺を見つけられなくて困惑している様子だ…てか勇翔、なんで知らねえんだよ…

 ま、まあ、これは丁度いいな…勇翔は小夜のアレ的に、紫苑はタイプ的にここは黙らせてもらおう…


「あの…何処にいるのかしら?」

「俺もわからない…」

「今から呼ぶから少し待て…さてさて、蓮《れ〜ん》?少し痛むぞ〜?」

「は?」


 零がニコニコと近づいてくる…え?何?怖い怖い怖い!!

 逃げようとしたが、握力ゴリラの小夜に手首を掴まれて逃げれないんだな〜…あ、俺これ詰んだ?


「そいっ」

「ウガァッ!?」


 零は俺に思いっきりデコピンしてきやがった…

 デコピンなんて初めてされたから、こんな痛いと思わなかったぞ…

 …ちょっとまて!今俺結構でかい声出さなかったか!?


 恐る恐る紫苑と勇翔の方を見ると、俺を見て目を見開いていた…

 …あ〜も〜…めんどくせえな〜…


 俺は頭を抱えて、これからの展開に不安の気持ちを抱いたのだった。

 今日は甘さより少しだけギャグよりに寄せてみました。

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