エモさを追求した結果…!!!
ジージーとセミが鳴いている声が聞こえる。
昨日、寝る前にカーテンを閉めていなかったのか、鋭い日差しが閉じられたまぶたへと降り注ぐ。
少しずつ薄目を開くと、窓越しに壮大な青空と優雅に漂っている浮雲が寝起きの私の視界へと飛び込んでくる。
相も変わらず降り注ぐ日差しのお陰と言うべきか、いつもは朝に弱く起き上がれない私の眠気を一気に目覚めへと持って行ってくれた。
枕元にある携帯で時刻を確認すると7時半。休みにしては珍しく早起きをしてしまったようだ。
リビングへと出ていくと、アンティーク調のダイニングテーブルの上に置いてある花瓶に刺さったゼフィランサスの白い花弁へと光が当たっていて、心なしかゼフィランサスもいつもに比べてとてもイキイキとしているような感覚を覚える。
洗面所で洗顔と歯磨きを済ませた後、あまり広い方とは言えないダイニングキッチンへと赴き友人に貰った中古のコーヒーメーカーで朝の一杯を作ることにする。
あまり舌が肥えてる訳でもないのでコーヒーの違いによる良さなどは分からないが、中古とはいえとても高いものらしく、そんな私でもはっきりとわかる高級感がカップの中にはあった。
コーヒーを作成している間に朝食を作ることにする。コーヒーが出来上がるまでに全ての工程を済ませなければいけないのでここからは時間との勝負になってくる。と言っても大したものは作らないが。
まずは食パンをトースターにぶち込む、その後サラダを用意しつつ溶き卵をサラダ油を引いたフライパンへと流し込み、火を通しながらかき混ぜる。
パンが焼ければバターを塗って、完成。
そう朝食はスクランブルエッグとサラダ、バタートーストとコーヒーといういかにもアメリカの映画を見て憧れたような食事だ。
コーヒーはトーストが焼き終わる前には出来ていたが私としては熱々は苦手なので氷を入れてテーブルへと運んでいく。
テーブルに全てを揃え終えたところでスクランブルエッグに味付けをしていなかったのを思い出す。まだ寝ぼけているのかもしれないな、なんで自嘲しながら塩コショウとマヨネーズを用意して頂きます、そう手を合わせて小声で言う。
シャクリとトーストがいい音をたてて噛み切られる。手を休めずにマヨネーズをかけたスクランブルエッグを食べ、コーヒーで飲み込む。
美味い、そう独り言として出てくるほど美味しい朝食だ。最近朝食を食べる暇がなかったのも影響しているかもしれない。そう考えつつたまにサラダで口をさっぱりさせながら食べ進めていく。
朝食を食べ終えた私は洗い物をしつつ、今日は何をしようかと考える。
そういえば県境の田舎の叔父が用事があるらしく呼んでいたことを思い出し、せっかくの好天気なので最近あまりできていなかったサイクリングでもしながら行こうかと支度を始める。
メンテナンスをサボっていたが幸い自転車には何事もなく、熱中症対策の帽子を深く被って街中へと漕ぎ出していく。
休日の朝のせいかいつもでは考えられないほど市街地に人が居ない、あまり人ごみは好きでは無い私にとっては最高だ。日差しも眩しいだけでそう暑くもなく快適なので気持ちがいい。
職場があるビル街を抜けると少しずつ寂れた街並みへと変化していく。コンクリートの隙間から生えている雑草や、道端に捨てられている潰れた缶を見ているとなんだか世紀末にでも迷い込んだと思ってしまう。一応住宅街のはずだが休日の朝とはいえど全く人気が感じられないこの雰囲気もとても好みだ。
ところどころにあるコンビニでドリンクやアイスを食べつつゆっくり進んでいるともう昼時になってしまった。
昼ごはんを済ませ、さらに自転車を進めると建物が田んぼへと変わり始めた。
ここを曲がれば確か近道だったはずと思い、セミの鳴き声がうるさい山道へと入っていくと、微かに見覚えのあるあぜ道が続いている。合っているか不安だがそれと同時に昔持っていたはずの好奇心が湧いてくる。
あぜ道は思っていたよりも長く続いているけれど、自転車に乗りながらでも安定して進めている。
ずっと周りが木に覆われていた中、奥の方に光が見え、出口だと思い少し飛ばす。
光の向こうへと飛び込むと懐かしい景色が広がっていた。
長いあぜ道が山の上にある叔父の家まで繋がっていてその両端を広い田んぼが挟んでいる。
周りを見れば山で囲まれていて丁度自然の壁で囲まれているこの道がたまらなく好きで子供の頃叔父の家へと夏休みの度に遊びに来ていたことを思い出し懐かしむ。
少し切ない気持ちになりつつ、ここまで来ればすぐだと叔父の家へと自転車を漕いで行く。
叔父の用は大したことではなく、少し気落ちしたがまぁ、不幸があった訳でもないし久々に子供の頃の気持ちやらを思い出して自身としても収穫があったのだから良かったのかもしれない。
夕暮れまで涼んで、帰り道も同じ道で帰ろうとすると叔父からすぐそこに駅が出来たことを伝えられる。明日都心部へと出かける用があり、自転車はその時に家へ持っていくから電車で帰ったらどうだという提案に乗って駅へと向かう。
県境の田舎なので電車はギリギリ1時間に1本あるかないかというレベルだが、たまたま到着した瞬間に居合わせ、無事暗くなる前に乗り込むことが出来た。
恐らくここからだと最寄り駅まで1時間ほどかかるだろうと思い人1人居ない車両の窓際を陣取る。
夕日に照らされながら流れていく風景を眺めて、独りノスタルジックに浸りつつ揺らされる。
まるでそこは揺りかごのようで、流れていく景色を横目に眠りへと落ちていく。