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グリーンスクール - 野球小僧  作者: 辻澤 あきら
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野球小僧-4

 赤松先生は何も言い返せなくなっていた。サンディはきょとんとしたまま、その光景を見ていた。亮は、引導を渡されたような気分で硬直してしまっていた。

「すいませんが、取り込んでいますので、私はこれで」

監督は背を向けて、選手たちのほうへ向き直った。いつの間にか近づいてきていた選手たちが、監督に詰め寄るように迫った。

「監督!そんな言い方はないでしょう!」

「クラブ活動を楽しくやって何が悪いんだ!」

「人を選別するような真似をする資格があんたにあるのか!」

「うるさい。いいか、うちのチームはこの地区でも有数の強豪で……」

「それが、どうしたんだ。たまたま、直樹さんがいたから勝ち残っただけじゃないか」

「その前は、ずっと弱小だったじゃないか」

「前は前だ。今は強豪で……」

「いいじゃないか、負けても。勝つだけが試合じゃないぞ。勝ち負けより、ベストを尽くすことが大事じゃないか」

「うるさい、いいか、小林、1年でベンチ入りできたからといって、何でも言えるというわけじゃないんだ。まず、自分のやるべきことをやるんだ。いいな」

「嫌です」

「何だと?」

「嫌だと言ったんです」

「どういうことだ」

「僕たちは、奴隷じゃない。勝て勝てと、あんたに言われて、言われるままに試合をさせられるのは嫌なんだ」

「それに、俺たちは特権階級じゃない。こうやって、入部したいといっているやつを、断って、のうのうと野球部にいさせてもらいたいなんて思わない」

「じゃあ、池田、やめるんだな」

「はい」

「僕もやめます」

「小林。お前は、次のエースだぞ。本気か?」

「はい」

「チ。お前らもやめるんだな」

他の3人も頷いた。

「好きにしろ!」

5人は小さく頭を下げた。監督は小さくぶつぶつ言いながら、立ち去った。


 あまりの出来事に何も口出しができないままに亮たちは立ち尽くしていた。選手の一人が、サンディに話し掛けてきた。サンディは目の前で起こった出来事に気押されていたが、近づいてきた一人を認めるとすぐに笑顔を向けた。

「あの、僕、小林と言います。よかったら、一緒に野球やりませんか?」

「ヤキュウ?一緒に、できるのですか?」

「僕たち、前から自分たちで同好会を作ろうって相談してたんですけど、ここの野球部が居心地が悪いから。でも、人が足りないし、よかったら、一緒にどうです?」

「ハイ、やります。ワタシ、ヤキュウ、大好きです」

サンディは手を差し出して握手を求めた。小林も手を出して、握手を交わした。

「アナタ、名前は、何といいますか?」

「小林、純です」

「ジュン、ですね。ワタシは、サンディ、といいます、ヨロシク」

「あの、もし、よかったら、ボクも入れてください」

亮は思わず声を出していた。

「いいよ、来るものは拒まず。とにかく楽しく野球がしたい人が集まろうって決めたんだ」

やったあ、と亮は、飛び上がっていた。サンディが手を叩いて歓声を上げている。周りの目も気にせず、亮は飛び回っていた。遂に、野球ができる、できるんだ、と叫びながら。



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