野球小僧-32
亮はいつもの壁の前に立っていた。表面がボロボロにささくれたスーパーボールを持ったまま。練習をしようという気はなかった、今日は。でも、ここしか自分にはないような気がして、いつものように準備までしてしまった。随分ボロボロになったオレンジ色のボール。まだ新品は2つあるけど、もったいなくて卸してくることができないでいる。
いいさ、練習しよう。このボールおかげで、打球が恐くなかった。バッティングのときも、ボールに対するスピード感が随分違っていて、何とかついていけるようになった。このボールのおかげなんだと、思いながら亮はいつものポジションから、ボールを投げつけた。ドスンといういつもの音が壁に響き、鋭いスピードで返ってきた。バシンと受けたグローブの手のひらが痛い。でも、ちゃんと捕れた。亮は今度はもっと力を込めて投げつけた。ドシンという音がして、一瞬でボールは亮の目の前まで跳ね返ってきた。慌ててグローブで払いのけてやっとかわした。叩きつけられたボールは転々と転がって、止まった。
まだまだこんなもんだと思って、ボールを拾った。ぐっと握り締めて、思いっきり壁に投げつけた。と、鈍い音がして、ボールは砕けて撥ねた。唖然としたまま、亮はボールではなくなった固まりを目で追っていた。ゆっくりと、近づいて、かけらを集めて、重ねてみると、それは間違いなく、元はボールだった。ボールだったかけらは、今はただのオレンジ色のゴムのかけらだった。
割れちゃった…。
亮はそれを大事にバッグに入れ、荷物をまとめて帰路に着いた。




