野球小僧-30
亮は学校に入ると教室に行こうともせずまっすぐにテニスコートに向かった。勝ったよとひと言だけ津田に言いたかった。ホームランを打ったことは別に言わなくてもいい。聞かれたら言えばいい。ただ、勝ったことの報告をしたかった。きっと喜んでくれる、そんな期待にわくわくしていた。
テニスコートではまだ練習中だった。息を切らして津田を探していると、津田はちょうどコートで練習中だった。少し待っていようと、荷物を置いて金網の近くにあったベンチに腰掛けた。ぼんやりと見ていると、津田がダブルスの練習をしているようだった。はっと、気づくとパートナーの相手は男子だった。あっと思って津田の仕種を目で追うと、ひと言ふた言サインを確認している津田の顔は見たことがないほど、輝いた顔をしていた。見入られるように、亮は、津田のプレイに引き込まれていた。テニスがよくわからない亮の目から見ても、試合に出ているだけあって、津田は生き生きと動いている。そして、パートナーの相手とコンビのサインをやりとりしている津田は、やっぱり輝いて見える。ふと、津田の台詞が思い出された。
『先輩が上手だから』
あの時、室とのやりとりの中で出てきた先輩は、この人なんだろうか?
『…、ミホちゃんは昨日の試合はどうだった?』
『あたしは、ダブルスに出ただけだから』
『それで?』
『一応、勝ったけど、……、先輩が上手だから』
タイムを取ってパートナーとポジションの確認をしている津田に、息を切らしながら長身の先輩と話している津田に、亮は辛くなってきて、そっとその場を立ち去った。




