野球小僧-29
路面電車に乗り込むやいなや、愛球会の面々はばたばたと座席を占領し、今日の勝利を肴に好き勝手に騒ぎだす。幸い車内は空いていて、運転手に少し睨まれただけで何のお咎めもなかった。
「完勝、完勝」山本
「楽な試合だったね」中沢
「始めは焦ってたくせに」小林
「まぁ、実力の差ってとこだね」池田
今日の勝利は前回よりも嬉しかった。やはり、前回は女子校の野球部だったこともあって、素直に喜べないところもあった。今日は強豪ではないにしろ、正式な野球部、しかも3年生主体のチーム相手に勝利を修めたことにチームの全員に自信が沸いてきた。特に、亮には初めての捕殺、初めてのヒット、初めてのホームランが一度に体験できた、信じられない日だった。おまけに、試合終了後に高松からMVPを言い渡された。やんやの声の中でひたすら照れるしかなかった亮だった。
御城駅で亮はサンディ、室、小林、木村と一緒に降りた。小林はそこから徒歩で、木村は自転車を駅に置いてあったので、そこで別れた。
「亮君バスでしょ、一緒に帰ろうよ」
「ん、ボク、ちょっと学校行きたいから、循環のバスに乗るよ」
「そぉなの。何の用?」
「ん、ちょっと……、忘れ物」
「なんじゃ?あやしいな…」
「違うよ、宿題忘れたんだ。ほら、理科のプリント」
「あ、そう。んじゃあ、サンディ、一緒に帰ろ」
「ハイ。リョウ、また明日」
亮は二人と別れて、バスを待った。少し後ろめたい気分になりながら。




