野球小僧-17
斜めに差し込む日差しがようやく校庭全体に広がってきた。掛け声が、早朝の校庭に響きわたる。
「もういっちょう!」
ノックの金属音が響くと白いTシャツ姿の少年がボール目掛けて駆けていく。土煙を上げて足でブレーキを掛けて、ボールに回り込む。と、ボールはしっかりとグローブに納まり、少年を、歓声が包む。
「ナイスキャッチ!」小林
「林、やるじゃないか!」木村
褒められた林の方は照れ隠しに、少しグローブを振って否定するような仕草を見せた。傍で見ていた高松と池田がその光景を見ながら話していた。
「やっぱり、学校で練習できるといいねぇ」高松
「まぁ、野球部のグラウンドは貸してもらえなかったけど」池田
「いいよ、ここでも」高松
「でも、土曜の朝くらいしか取れないんだよ。他のクラブも朝練に使うから」池田
「いいよいいよ、それで。でも、明日の朝も空いてるんじゃないの?」高松
「キャプテ~ン。それはやめようよ。日曜まで朝練は嫌だよ」池田
高松は笑いながら池田の言葉に頷いた。
「よおぉし、次。誰だ」小林
「ボクお願いします」
亮が手を上げながら駆けていった。
「大丈夫かな」池田
「キャプテン」山本
「何だ」高松
「あいつは、下ろすべきじゃない?」山本
「おい、何てこというんだ」高松
「でも、あいつ、下手だぜ。もう少し上手いやつじゃなきゃ、野球部に勝てねえよ」山本
「山本、俺たちは勝つためだけに集まったんじゃないぞ。野球が好きなやつが集まったんだ。下手なやつが上手くなるように手伝うのも、大事なことなんだ」高松
「でも、下手すぎるよ。な?」山本
「ん……、何とも言えないな」池田
「下手だって!見ろよ」山本
山本の指さす先で亮は懸命にボールを追って、追いきれずこぼしていた。
「な?下手だろ」山本
「…でも、前より良くなってるよ」池田
「確かに。前はただ立ちん坊だったけど、追いかけられるようになってるな」高松
「犬だよ、それじゃあ。まぁ、誰かもう一人くらい探そうよ。控えもいるし。そうすりゃ、もっといい試合ができるよ」山本
山本はグローブを持ってグラウンドに出ていった。高松と池田は、困ったやつだと言いながら、必死で追いかける亮を見ていた。亮は、グローブで掴むこと以外に何も考えていないかのようにひたすらボールを追い掛けていた。
午後の練習も終えて解散した後、いつものように亮は壁練にやって来た。ボールをぶつけている部分が少しだけ色が変わって見えている。表面が荒れてきたせいだろう。亮は少し右側に的を変えてボールを投げた。ボールはいつもと違う場所で不規則なバウンドをして転がってきた。ボールを捕って亮は少し悩んだ挙げ句、石拾いを始めた。いくら何でも不規則すぎるとまともにボールが転がってこないことも学習したので、大きな石だけ拾って、壁際に捨てた。凹凸も足で慣らした後、ボールを投げてみると、ボールは亮の思いどおり跳ね返って、少しイレギュラーした。それに素早く反応して掴むと、満足な笑みをこぼして、また投げつけた。返ってくるボールを何十球と追うことは、練習後では結構きつく、ついにへたり込んでしまった。
まだ、陽は高く、まだまだ時間に余裕はあった。バッグから飲み残しのスポーツドリンクを出して、口に含んで、少しずつ飲んだ。バクバク言ってる心臓を押さえ込むかのように喉を擦り抜けていく感触が、頭の芯まで伝わってきた。ふうっ、と、大きく息をして、空を見上げると、空はまだまだ青く、ちぎれ雲もまだまだ白かった。まだまだ大丈夫だと思いながら立ち上がって、またボールを投げつけた。何十回となく投げつけたボールは、また、亮の意に反した動きをして弾んできた。亮はそれが嬉しくなって、猫のようだと思いながら、また、飛びついた。




