野球小僧-14
ゲームは初回の緑ヶ丘学園の攻撃で大勢が決まってしまった。その後は、サンディがチームの力量を把握するために、力をセーブして打たせて取るピッチングで回は進んでいった。元野球部の面々は軽やかな(亮にはそう見える)守備力でボールをさばき、次々とアウトと自信を重ねていった。亮は、回ってくる打順ではひたすら三振を重ね、飛んでくる打球には追いつくことさえままならず、一つのアウトも取れなかった。
「あんなにボールが恐いとは思わなかった……」
初めて打席に立ったとき、亮はプロ野球選手のようにかっとばすつもりでいた。しかし、女の子が投げたはずのボールは、たった今まで何人も自分のチームの選手が弾き返していたボールが、風を切りながらミットに収まった。1球目で恐さを感じてしまったあとは、訳もわからないままに空振りを続け、あっけなく三振。その後も一度もボールはバットに当たってはくれなかった。その代わり、やっとのことで追いついた打球が一度亮の顔に当たった。『軟』球という名前は嘘だと思い知らされてしまった。結局ボールに『触れる』ことができたのは、その一回だけだった。普段の練習は、初心者の亮向けに手加減されていたのだと、ようやく試合が終わって悟った。
小さく、ちくしょう、と呟く亮を見ながら美保子は何も言えなかった。励ましが亮の心を傷つけそうで、怖かった。
「お~い、亮君」
校門を通り抜けるときに、後ろから二人に声が掛かった。
「おっやぁ~、今日はお二人仲良く登校ですかぁ」
室は昨日とは別人のように元気だった。
「なんだよ」
「おっやぁ、亮君、今日はミホちゃんと一緒なのに、えらくクライじゃないの」
「なんだよ、それ」
「もしかして、昨日の試合のこと、気にしてるの?」
「悪いかよ」
「も、いいじゃない。試合は勝ったんだし。よかったよかった、ってことで」
「よくないよ」
「ま、亮君の気持ちもわからないではないけどね。あんだけ下手じゃ」
「……g」
「しかも、ね、ミホちゃん、途中で新田君と交代したらさ、あ、新聞部の新田君、そしたら、新田君のほうが上手いの。ね、亮君」
「……g」
「あやつも中川君に負けず劣らず達者なヤツでね、新聞部ってのはなんであんだけの人材がおるんじゃろ。ちょっと分けてもらいたいもんだ、ん」
もう亮は沈みきるだけ沈んでいて、もうぐぅの音も出なかった。
「ところで、ミホちゃんは昨日の試合はどうだった?」
「あ、あたし?あたしは、ダブルスに出ただけだから」
「それで?」
「一応、勝った、けど、団体戦だったの。で、3回戦負け」
「ミホちゃんは勝ったってか?」
「う、うん」
「1回戦も、2回戦も?」
「うん。でも、先輩が上手だから」
「でも、たいしたもんじゃの。ね、亮君」
「……ほんとだね。…ボク、こっちだから」
階段を上がると亮は左に曲がりながらそう言った。
「こら待て、あたくしもおんなじクラスじゃないか。じゃあ、ミホちゃん、またね」
室は慌てて追いかけた。美保子は、落ち込んでいる亮を心配しながらも追いかけるわけにもいかず、小さな亮の後ろ姿とそれにまとわりつく室を見送った。




