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再生 78 茜色センチメンタル

良い天気だ。

夏の暑さも終わり、穏やかな風が吹いている。

体育祭が終わり、高等部では、週末の学園祭に向けて準備が行われていた。

校庭では屋台やステージの設営が行われ、並木道は木々を傷つけないように色とりどりの連なった旗のような飾りがくくりつけられていた。

屋上にも書きかけの看板や仕切るためのポールが角に置かれている。

様々な場所で聞こえる声が遠くで聞こえる。

その声を聞きながら、凛は屋上から校庭を見下ろしていた。

「週末かー」

学園祭準備の真っ只中、休憩と称して屋上に移動した。

座りっぱなしだとお尻もいたくなるし、気分転換もしたい。

期待に胸を膨らませる気分と同時に寂しい気分になるのは、凛にとって二回目の最後の学園祭だからだ。

「(あたしが編入して一年ちょっと。去年の学園祭はすっごく楽しかったけど…初めから高等部に編入してたらどんな感じだったんだろう?)」

もしも、姉の麗と同じ時期に透遥{とうよう}学園にきていたらどうなっていたのだろう。

物思いに(ふけ)るわけではないが、たまに考える時がある。

考えていると、後ろにある屋上の扉が開く音が聞こえる。

他の生徒が来たと思い、凛は後ろを振り返る。

「梁木さん」

扉から梁木の顔が見える。

凛の声を視線に気づいたのか、梁木は凛を見ると、扉を開いて屋上に出た。

「ここにいたんですね」

「ずっと考えてると、頭も疲れちゃうしね」

張り切りすぎて、疲れるかもしれない。

梁木もそういう理由で屋上に来たと思っていた。

「教室を出る時、何か考えている様子だったので、何となく屋上かなと思ったのです」

たまに梁木は自分の考えていることが分かっていんじゃないか。そう思う時がある。

「梁木さんは、あたしのこと見てるんだね」

「気分転換したいのは僕も同じですし、何となく…レイと似てると思ったんですよ」

梁木は大きく息を吐くと、優しく笑う。

梁木と麗は去年、同じクラスだった。

もしかしたら、似たようなことを目にしたのかもしれない。

「あたしは皆と違って学園祭は二回目だけど、 もしも、あたしが姉さんと同じタイミングでこの学園に来てたらどうなっていたんだろうって思ってさ」

同じクラスにならないかもしれない。

寮の部屋割りも違っていたかもしれない。

それでも、学園生活は変わってたかもしれない。

梁木は凛が話し終わるのを待つと、自分の意見を伝える。

「一昨年は僕とレイは違うクラスだったのですが、シルフ…ユーリと仲良くなってたのかもしれませんよ」

悠梨とは風の精霊シルフが創り出した仮の器だ。

何のためにそうしたかは分からないが、彼女は仮の器を創り、麗と出会った。

「シルフは姉さんと寮の部屋も近かったし、姉さんが物語に関わった時にも一緒にいたって姉さんから聞いたよ」

その時に自分がいたら。

大野や梁木達といつ出会えたのか。

考えてもどれが正解か分からない。

「時を戻せるならどうなっていたか知りたい気持ちもある。けど、それはできないから、あたしは残りの高校生活を悔いのないようにしたい」

物語がどうなるか分からないし、学園祭が終われば期末テストに向けて勉強をしなければならない。

凛は今、できることをやりたいと考えていた。

「そうですね」

そう答える梁木も、同じ気持ちだった。

「本当にそう思うか?」

その時、どこからか声が聞こえる。

凛と梁木が振り向くと、屋上の端には実月が立っていた。

「実月先生?」

「いつの間に…」

学園祭の準備で人の出入りはあるものだが、凛が屋上に来た時は他に誰もいなかった。

もしかしたら、死角にいたのかもしれない。

実月はシャツのポケットに何かを入れると、凛と梁木に近づく。

「時間を戻したいか?」

それは、誰もが一度は考えることだった。

「お前が二年前、姉と一緒に高等部に編入していたら、どうなるか知りたくないか?」

実月の顔は真面目だ。

冗談に言っているようには聞こえなかった。

凛は考える。

時間を戻せるなら戻したい気持ちはある。

物語に関わって、それがきっかけになったが大切な仲間ができた。

映画で見たことが実際に起きているというのは凄いと思うが、見たこともない怪物に襲われたり、今までに感じたこともない痛みや恐怖を体感した。

それと、神崎に襲われた。

実際どこまでされたかは覚えていない。思い出したくないし、途中で意識を失い、気づいたら自分の部屋にいたからだ。

それでも、目に見えないものを変えることは難しいと知っている。

努力でどうにかなるものもあるが、どんなに足掻いてもどうにもならないことはある。

凛は実月の目を見て首を横に振る。

「姉さんと一緒に高等部に編入していたら、どうなるか知りたくないわけではありません。でも、あたしには今があります」

まっすぐ見つめる目は嘘を言っていない。

それが分かると、実月はフッと笑う。

「…冗談だ」

「冗談?」

凛と、それを見ていた梁木はきょとんとする。

真剣な眼差しは冗談には聞こえなかった。

冗談と聞いて梁木は胸に手を当ててほっと息を吐き、凛は笑う。

「もう、相変わらずなんだから!」

まるで、前から実月を知っていたかのように答えた後、凛は自分自身に驚いた。

「あれ?…今、何でそんなこと言ったんだろう?」

自分の言葉に何か違和感がある。

しかし、一瞬だけどこかで見た景色が見えたような気がする。

今まで鮮明に残る記憶が違っていた。

自分という存在が何か分からずにパニックになっていた時、彼の名前を叫んだ記憶が残っているような気がする。

凛は実月の顔を見る。

実月はほんの少しだけ驚いている様子だったが、いつもの表情に戻ると苦笑する。

「学園祭の準備で張り切りすぎて、頭が回ってないんじゃないか?」

そう言うと、実月はズボンのポケットから個包装された一口サイズのチョコレートを二つ取り出した。

「この時期、張り切りすぎて疲れるやつもいるからな」

そう言って近づくと、凛と梁木に渡した。

凛と梁木は手を出してチョコレートを受け取った。

確かに実月の言う通りかもしれない。

二学期に入って、合唱会の練習をしながら暁と特訓をして、体育祭が終わったと思ったら中間テストがあった。

終わってたら、すぐに学園祭の準備が始まり、慌ただしく過ぎている。

梁木も頷いているということは、実月の言葉に思い当たることがあるのだろう。

「ありがとうございます」

凛と梁木は、袋を開けて丸いチョコレートを口に入れる。

口の中ですっと溶けて、チョコレートの甘さが口いっぱいに広がる。

「おいしいー」

普段から食べているチョコレートも、今日は一段と甘く感じる。

やっぱり疲れているのかもしれない。

あっという間にチョコレートはなくなり、梁木は腕時計を見る。

「凛さん、そろそろ戻りましょうか?」

梁木が教室を出てから十分が経とうとしている。

クラスメイトに一言告げてから教室を出たが、作業は残っていてあまり長居はできない。

「そうだね」

凛と梁木は顔を見合わせて頷いた。

二人が扉に向かって歩き出した時、実月は二人に声をかける。

「高校生活最後の学園祭だ。思う存分楽しめよ」

『はい!』

二人は振り返って答えると、扉を開けて校舎に入っていった。



同じ頃、月代は家庭科室の隣にある準備室にいた。

講堂で打ち合わせがあり、早めに教室を出ようとしたところ、家庭科部の女子生徒に呼ばれたのだ。

できたから、一緒に家庭科室に来てほしい。

その言葉だけで、月代は無言で頷き、ついていった。

家庭科室に入ると、家庭科部の部員が学園祭に向けて作業をしていた。

何メートルか分からない布をミシンにかけている生徒、無造作に積んである布をただひたすらに切っていく生徒、トルソーに衣装を着せて様々な角度から確認する生徒、その様子はまるで戦場のようだった。

それを邪魔しないように通りすぎて準備室に入ると、テーブルの上に畳まれた服を渡された。

月代は決意してそれを受け取ると、一部の生徒を残して準備室から追い出した。

家庭科部のクラスメイトだけ残したのは、今から着るものの着方が分からなかったからだ。

数分後、家庭科部のクラスメイト、家庭科部の部員、冷やかしだと思われるクラスメイトの男子生徒はあるものを見て感嘆の息を吐く。

月代は周りの視線を見ようともせず、 諦めの悪い顔をしている。

「…よし」

家庭科部のクラスメイトは、疲労が見える顔で満足そうに頷いている。

月代はメイド服を着ていた。

メイド服を着ることになった後、すぐに家庭科室で採寸が行われた。採寸する場所が多いのはメイド服とステージ用のスーツの二着を作るためだ。

月代は改めて、家庭科部はすごいと感じる。

学園祭に向けて、演劇部の衣装、結城の燕尾服、さらに自分用のメイド服とステージ用の衣装、それを期日までにこなしている。

聞くところによると、生徒会が実行委員からの提案で何かをしているらしい。

それを聞いて、クラスで話し合い、クラスの出し物で着る服はクラスで分担してやることにした。授業以外で裁縫をやったことがない人には、家庭科部が手伝い、その人ができることを分担した。

最初は、家庭科部のクラスメイトがこだわった布地や材料の量に驚いていた生徒も、力を合わせて作業分担したおかげで、ゆっくりだが確実に衣装を仕上げることができた。

「こだわった甲斐があったね」

「これぞ理想!」

女子生徒は何やら二人で盛り上がっているようだ。

メイド服を着て、自分から評価を知りたいとは思わないが、家庭科室に行く前にあれほど笑っていたクラスメイトの男子生徒が何も言ってこない。

絶対に指をさして笑われると思っていた。

月代が男子生徒を見ると、月代の視線に気づいたのか、視線を反らしてしまう。

「まあ、その…なんだ、悪くない、じゃないか…」

男子生徒は歯切れの悪い返事する。

それを見た月代は俯くと、心の中で突っ込みを入れる。

無意識に握った拳が震えている。

「(そこは笑えよ!何、モジモジしてるんだよっ!!)」

せめて、笑ってほしかった。

それが気まずそうに視線を反らされると、こちらもどう反応しているか分からない。

月代は顔を上げると、後ろに手を回してエプロンの結び目をほどく。クラスメイトが何も言ってこないということは、メイド服のチェックも終わったようだ。

エプロンを脱いだ月代は背中に手を回そうとする。黒のワンピースのファスナーは後ろにあり、思うようにファスナーのつまむ部分に手が当たらない。

それに気づいた女子生徒は、月代の後ろに回ると少しだけファスナーを下ろした。

「そういえば、結城先生は試着したのか?」

あれから結城を見ていない。

「うん。昨日、試着してもらったよ。特に問題なし」

昨日、家庭科室に行っていたら結城に会えたかもしれない。

結城の燕尾服を見てみたかったが、自分よりも結城のほうが見せるのを拒否をするのではないかと考える。

「そっか」

それだけ言うと、クラスメイトは準備室から出ていく。

着方は教わるが、着替える時まで見られたくない。

背中に手を回してファスナーを下ろすと、黒のワンピースを脱いだ。

それだけですっきりして、解放感を得られる。

脱いだワンピースをテーブルの上に置くと、隣に置いた制服のシャツに袖を通した。

「…最後の学園祭か」

毎年、学園祭は楽しみだ。

それが、少しだけ寂しく感じるのは、高校最後だからなのかもしれない。



『あっ』

西側の空がオレンジ色に変わり始めた頃、それは起きた。

五つの声が重なり、別の声に気づくとそれぞれ顔を見合わせる。

一階の下足場には麗、大野、凛、梁木、佐月がいた。

学園祭の準備で終わる時間もばらばらなのに、五人が一度に集まるのは、かなり珍しいことだった。

「皆、一緒だったね」

「珍しいー」

麗と大野、凛と梁木は教室にいたが、佐月は体育館にいた。

「あまり、張りきりすぎても当日に体調を崩してはいけませんし」

それぞれ靴を履き替えると、邪魔にならないように端のほうに集まった。

急いで帰らないということは、多少の時間はあるようだ。

「最後の学園祭だね」

麗が四人の顔を見る。

期待に胸を膨らませているが、少しだけ寂しそうな表情だ。

その気持ちはすぐに理解できた。

一年の中でも一番の楽しみとも言えるのは学園祭だ。自然と気合いが入るが、高校生活最後ということは来年には卒業してしまう。

五人でこうして話すのも少なくなるだろう。

「楽しみだけど、やっぱり寂しいよね」

凛は思っていることを口にする。

「そうですね」

「さっき、ぐるっと回って他のクラスが何をやるか見てきたよね」

大野の横で麗が笑う。

「はい。どのクラスも気合いが入ってて、当日が楽しみです」

麗と大野は教室を出てから、三年生の教室がある四階の端まで歩いて、各教室を覗いてきたらしい。

「あたくしも部活の出し物の準備が終わって、がらにもなく学園内を散歩しちゃいました」

「実月先生の言うように、高校生活最後の学園祭、思う存分楽しみましょう」

梁木は凛を見て笑う。

突然、実月の名前が出て、麗は梁木を見る。

「実月先生?」

「あ、凛さんが息抜きに屋上に行った時、実月先生がいたんです」

「チョコレート、美味しかったね」

凛はただ梁木を見て笑っている。

それ以上、何も言わないということは覚醒したわけではなさそうだ。

「学園祭、去年はトウマと滝河さんと見て回ったけど、今年はどうしようかな?」

麗は去年のことを思い出しながら、週末のことを考える。

何気ない麗の一言に反応したのは梁木と凛だった。

梁木は実際に麗が誘われるのを見てるし、凛は滝河が高等部に来ていたことを思い出せなかった。

「去年はこの学園に来たばかりで、ようやく生活に慣れてきたのが学園祭の時だったなあ」

凛は大野の顔を見ながら、去年、初めての学園祭で大野と一緒に見たことを話しはじめる。

「当時、あたし達のクラスはカフェをやってて、中西先生も参加してくれたんだけど、すごかったよ!女の子はキャーキャー言うし、男の子も落ち着きがないというかそわそわしてたし。写真撮りたいって言って撮影を頼まれることが多かったかなー」

中西は高等部で男女ともに人気があり、カフェの時は白のシャツに黒いズボンとベスト、サロンを身につけていて、動きやすいように髪を高い位置で結っていた。

生徒もお客さんも、中西を見て黄色い声をあげていたらしい。

麗達も実際に見たし、写真も見せてもらった。

「今思えば、あの格好って物語でティアと同じだったんだよね」

本の挿絵で見た時、学園祭で見た中西の姿とよく似ていた。

「そればかりは偶然ですけどね」

梁木も答えたが、それは、誰もがそう思っていた。

「ふと思ったのですが、この中で誰が最初に覚醒したことになるんでしょうか?」

梁木の言葉に、五人はそれぞれ考えながら周りを見る。

「この中なら、多分、私でしょうか。一年の一学期でした」

大野が小さく手を上げて答える。

「大野さん以外なら、次は私かな。一年の学園祭だもん」

麗も大野と同じように小さく手を上げる。

「僕が一年の舞冬祭の前で、十一月だったと思います」

大野、麗、梁木の視線が凛と佐月に向けられる。

「あたくしは二年の夏前です」

「二年の学園祭。やっぱり、あたしが最後か」

改めて言い合うと、物語に関わる時期はばらばらだった。

あの本はいつからあったのだろうか。

精霊は本が図書室に置かれる前から存在していたのだろうか。

麗は悠梨のことを考える。

思い出は忘れてはいないし、覚醒したら凛が精霊を呼び出せるのでシルフとしての姿で会うことはできるだろう。

しかし、覚醒した凛を見たことあるが、精霊を呼び出して戦う姿は見たことがなかった。

麗の中であることが浮かぶ。

「あのさ、私が一年の学園祭の前、凛が二年の学園祭の前に本を見つけたんだけど、…もしかしたら、もう続きが書かれてたりして」

麗の一言で四人の表情が変わる。

あくまで可能性だ。

けれど、可能性はゼロではない。

「…見に行く?」

学園祭の準備が早く終わったから、今日は帰って身体を休めたい気分だったが、五人は再び靴を履き替えた。

階段を上り、三階の廊下を歩いて図書室に向かう。

図書室の扉は解放されていた。

受付には二人の司書と二人の図書委員がいたが、五人は奥へと進んでいく。

奥まで歩き、角を曲がるとSF・ファンタジーと書かれた見出しのある本棚がある。

本のある場所を見上げると、濃い青色の本を手にする。

本をめくっていき、自分達が知っているページをめくった。

ページをめくる手が微かに震える。

物語はどうなるのだろう。

五人の気持ちは同じだった。

しかし、めくった先は余白だった。

「…ないか」

麗はほっとしたような、残念そうな顔で一息吐く。

「書かれていないようでしたら、早めに出ましょう」

麗の隣で梁木が提案する。

学園祭の準備期間とはいえ、図書室にいたら結界を張られて敵に襲われるかもしれない。

五人いれば、敵に囲まれても太刀打ちできるだろう。けれど、連日の学園祭の準備で身体は疲れていた。

「うん」

「そうですね」

窓の外から西日が差し込む。

それぞれ頷くと、本を本棚に戻して図書室を後にした。



「お疲れ様でしたー」

講堂の舞台に立つ生徒の一言で、いっせいに声が飛び交う。

『お疲れ様でしたー!』

トウマ、カズ、フレイ、エイコの四人も一礼すると舞台の袖に向かって歩いていく。

「まさか、三年連続で学園祭のステージに出られるとは思わなかったな」

『そうですね』

舞台の袖から裏口を抜けて講堂の外に出たトウマ達は、後ろにいるカズとフレイの顔を見て笑う。

アマチュアでも高等部の学園祭に出させてもらえるのは嬉しいし、少しずつだがファンは増えている。

週末の学園祭でベストなパフォーマンスをしたい。

そう思いながら高等部の校舎に入ろうとした時、目の前から月代がこちらに向かってくる。

トウマは月代の存在に気づく。

「(確か、『S-kreuz』も参加するんだよな)」

『S-kreuz(エスクロイツ)』というのは月代が組んでいるバンドの名前だ。

トウマが組んでいる『SPARK(スパーク)』と同じ、今年も学園祭のステージで演奏する。

親しくはないが、同じ透遥学園に在籍する生徒であり、毎年、学園祭のステージに出ているので認識はしている。

月代のほうは、トウマの名前は知らないが、スーマの能力者として認識はしてるし能力を封印されたことも知っている。

今、立ち止まって覚醒しても、戦うのはトウマの後ろを歩くカズとフレイだ。

意識はするが、これから講堂で打ち合わせがある。バンドのメンバーには先に講堂に行ってもらうように伝えてある。

それに、先ほどメイド服とステージ用の衣装を試着して、気疲れしたのかあまり意識を集中することができない。

四人がすれ違う。

トウマの影が揺れる。

月代はそのまま講堂に向かって走り、トウマは特に気にしていない様子で歩いている。

『………』

それに比べて、カズとフレイは月代が襲ってこないか警戒していた。

月代がマリスの能力者として、物語を読んでどうなるのだろうか。

「(今年も参加する、か…)」

「(今年も注意しなきゃね)」

決して気づかれないように。

冷静に、いつもの調子を装いながら、敵意を剥き出しにしていたのだった。




このワクワクとキラキラがずっと続けばいいのに。

時間が止まればいいのに。

できないと分かっていも、そう思わずにはいられない。

高校生はもうすぐ終わりが見えてきている。

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