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再生 67 守りたいもの

「確認しに来ました」

高屋の目が赤く光っていた。



麗、梁木、大野の三人は高屋が礼拝堂にいるということに驚き、また、梁木と大野はすぐに麗の前に立つ。

高屋と視線が合えば麗は操られてしまうと思ったからだ。

梁木の背中が光り、右には真っ白な翼、左には悪魔のような翼が現れる。そして、右頬には逆十字の黒い印がうっすらと浮かび上がる。

「操るつもりはありませんよ」

高屋はそれに気づいている。

「さっき高屋さんを見ても何もなかったから、多分、今は大丈夫だと思う…」

麗は目の前に立つ梁木と大野に伝える。

この先、操られるかもしれないが、今はちゃんと意識はある。

「けど、信用してもらえないので、本題に入りましょう」

そう言うと、高屋は腕を上げて手を広げた。すると、高屋の真下に黒い魔法陣が描かれる。

黒い魔法陣が赤く光りだすと、そこから、無数の小さな鬼が現れる。

小さな鬼は赤と黒の光のようなものに覆われ、短剣を握っている。

「あれは…」

「前に見たものと同じでしょうか」

「前と同じものでしたら、早く倒さなくてはいけませんね」

いつのまにか大野は両手で本を抱えていた。前と同じように鎌を薙ぎ払って敵を一掃しようと考えていた。

「………えっ?」

しかし、どんなに意識しても本は鎌に変わらない。

「大野さん、どうしたの?」

「鎌が……出ないんです…」

大野は信じられないような顔で呟いた。

『えっ?!』

麗と梁木も驚いて声をあげる。

大野はノームの力を得てから、意識をするだけで本から鎌の形に変わる。

しかし、どれだけ鎌の形を思い浮かべても、抱えている本の形は変わらなかった。

鎌が現れないことにも驚いたが、それより先に小さな鬼の群れはキイキイと鳴きながら走り出して短剣を振り上げていた。

「ボルトアース!」

大野は左手で本を持ち、右手を上げると、手のひらに電気が流れ、小さな鬼の群れの上空に幾つもの大きな雷の塊が現れる。

勢い良く降りかかると、小さな鬼の群れは次々に消えていってしまう。

「魔法が使えないわけではありませんが…」

呪文を唱えなくても魔法は使える。

「(いつもより負担が大きい。というより前みたいな感じ…ノームに会う前のような…)」

大野は軽く呼吸を整えながら、あることに気づく。

考えている間に、消えていったはずの小さな鬼は分裂して、元に戻ってしまう。

「風の精霊シルフよ、汝の力を変え渦と化せ…」

二人の後ろで呪文を唱えていた麗が二人の前に出る。

「タイフーングレイヴ!」

両手を前に突き出すと、麗の周りに幾つもの竜巻が現れて激しく巻き起こる。強い竜巻は小さな鬼の群れと高屋に襲いかかる。

激しい風によって、小さな鬼は吹き飛ばされ、強い竜巻は高屋に向かっていく。

「……」

高屋はそれをイメージする。

すると、高屋の両手が光り、先端が尖った棒のようなものに変わっていくと、大きな鎌に変わっていく。

『!!!』

それを見た三人は言葉を失った。

ノームの力を得た大野が持つ鎌と全く同じものだった。

高屋は大きな鎌を構えると、薙ぎ払うように大きく振った。薙ぎ払った場所が揺れて地面が剥がれると、大きな力が急激に加えられたように空気の刃が生まれる。

空気の刃は勢いを増すと、麗が放った幾つもの竜巻は消し飛んでしまう。

「そんな…」

信じられない顔で高屋を見る。

それまで覚醒したら、呪文を唱えなくても地の魔法は使えたし、疲労感のようなものもなかった。意識をすれば本から鎌の形に変えることができた。

それが、どんなに意識しても鎌の形に変わらないし、魔法を使うと内側から痛むような感覚がする。

もしかしたら、ノームの力がなくなったのではないか。

その予感は当たっているのかもしれない。

高屋はにやりと笑う。

「ノームが言っていた力を貸してあげている人というのは地司でしたか」

高屋の言葉に驚いた大野は、礼拝堂で会ったノームの言葉を思い出す。


「ねえ、もし、僕が浮気したら君はどうする?」


「浮気って、もしかしたら…」

気持ちが移り変わる、というより自分の力を与える人物を変えるということではないか。

魔力が元に戻るということなら、詠唱しないで魔法を使った時に疲労するし消費もする。

地の魔法が全く使えなくなる訳ではなく、ターサと同じように地の魔法は長けていると思っている。魔力に負担はかかるが、詠唱しなくても魔法は使えるのは分かった。

大野の反応を見て、高屋は鎌の持ち手を撫でる。

「ノームは気まぐれだけど力を貸してあげると言っていました。推測ですが、今まで見た地司の力が僕にも使えるということではないのでしょうか」

高屋にも地属性の力が備わっている。ノームとの相性は悪くないと思っていた。

高屋は手を広げながら腕を上げると、高屋の真下に黒い魔法陣が描かれる。黒い魔法陣が赤く光りだすと、再び無数の小さな鬼が現れた。

小さな鬼はいっせいに奇声のような音をだして口を開くと、そこから炎の球が生まれて、麗達に向かって放たれる。

麗が呪文を唱えようとした時、梁木が前に立った。

「ウインドウォール」

梁木が右手を上げると、どこからか風が集まり、梁木の周りを壁のように覆っていく。

炎の球は風の壁にぶつかると消えていってしまう。

風の壁が消えかかる頃、麗の魔法が完成する。

「ホーリーブレード!」

麗の左手が光ると、それは剣の形に変わっていく。

意識を集中すると、右手には長剣が現れる。

小さな鬼の群れを睨んで両手でそれぞれの剣を握ると、勢いをつけて踏み出して小さな鬼の群れを次々に倒していく。

小さな鬼の群れが消えていき、高屋までの道ができると、麗は高屋に接近して両手に握った剣を振り上げた。

高屋は僅かに後ろに下がると、鎌を振り回した。

すると、高屋の目の前の地面が盛り上がり、そこから人の形をした大きな岩が現れる。

「あれは?!」

麗はそれを見たことがあった。

シェイドによってトウマの身体が乗っ取られた時、麗の魔法を握り潰したのがそれだった。

それは両腕を伸ばすと、斬りかかっていた麗を勢いよく弾き飛ばしてしまう。

「レイ!」

梁木は咄嗟に翼を広げて、麗を受け止めようとする。

後ろを向いたその時、突然、梁木の足元に縄状の雷が現れ、梁木の足首に絡まると、身体中に電流が流れる。

「ぐあーーーーーっっ!!!」

激しい痛みに梁木は絶叫する。

雷が消えると、立っていることができないのか梁木は膝を着いて倒れてしまう。

「麗さん!梁木さん!」

大野は二人の名前を呼び、右腕を前に出した。本がひとりでにめくれると、麗と梁木の身体が光って傷が癒えていく。

麗と梁木はまだ痛む身体を押さえて、ゆっくりと立ち上がる。

高屋は自分の中の異変に驚いていた。

「(これがノームの力…。 鎌だけでも強大な力を感じるし、詠唱しないで魔法を使っていても、いつもより疲れない。地司が強くなったのがノームが力を与えたからだったら、精霊はどれだけの力があるのだろうか…)」

それは興味でもあり恐怖の対象であった。

「(これが精霊の力…)」

大野も改めてノームの力に驚き、同時に恐怖を覚える。

「気分ハドウデスカ?」

その時、どこからか声が聞こえる。

高屋が握っていた鎌が光り、形を変えてると、人の形に変わっていく。

翡翠のような瞳と髪、透けた身体と尖った耳、そして、岩や砂を思わせる法衣を纏っている。

それは、藤堂渉という人間ではなく、地の精霊ノームだった。

「ノーム…」

ノームが目の前にいる。それだけなのに、大野は何故か不安な気持ちだった。

「……」

人間の姿は会ったことがあっても、精霊としての姿は初めて見る。

精霊としてのノームの姿を見たことがなかった麗は、ノームの姿を見て声が出なかった。

「(シルフ、サラマンドラ、ディーネ、精霊によってこんなに違うなんて…)」

人間の姿の時は、どこか軽くて人をからかうような雰囲気だったが、今、目の前にいる精霊としての姿は、口調も違うし、静かに威圧されているようだった。

ノームは大野を見て笑う。

「ソノ苦シソウナ顔、良イデスネ」

ノームは何故か嬉しそうな顔をする。

ノームの後ろに立つ高屋は、精霊としての姿を見て感情を悟られないようにした。

精霊としての姿を目の当たりにしたのは二回目だ。シルフは人間としての姿は見ていたし、シェイドはトウマの身体を乗っ取っていた。

シェイドの時に感じた気持ちと似ている。

その力の底はどこなのか。

それは今の自分には理解できないことだった。

ノームの身体が翡翠色の淡い光りに包まれると、以前、見せた人の形に変わる。

「君が相良君にご執心なのは構わないけどさ、君は僕のものって言わなかった?」

ノームは高屋から離れて大野に近づく。

大野に何かするんじゃないか。そう思った麗と梁木は大野に近づこうとするが、ノームから電気のように流れる力に身体が動かなかった。

大野に致命傷を負わせるなら今だ。

そう思って動こうとしても、高屋も身体は動かなかった。

「僕を拒むの?」

ノームは首を傾げて、切ない顔で大野を見下ろす。

「(えっ?)」

拒んでいるつもりもない。

特別な気持ちを抱いているわけでもない。

けれど、何かがちくりと刺さったように胸が痛くなる。

「僕が君に興味を持ったのは、思いの強さ、それは相良君に対してっていうのは知ってるよ。まるでターサがスーマを慕うように、君も慕っている。でも、自分の気持ちは報われるの?相良君は君をどう見てるか分からないよね?」

大野は物語のスーマとターサを重ねるように、トウマを一人の男性として慕い、尊敬している。

これが好きという気持ちなのかは自分でも分からない。

例え、好きという気持ちがあっても、報われないかもしれない。トウマが誰かを好きなのかもしれない。

でも、自分の中にある気持ちは変わらない。

「確かに報われないかもしれません。けど、トウマ様に対する気持ちは変わりませんし、私は守りたいものが増えました」

麗や凛、梁木達に出会い、仲良くなるにつれて視野が広がり考え方も変わっていった。

大野はまっすぐな目で答える。

「あーあ、つまんない」

それが面白くないのか、ノームは僅かに不快な顔をすると顔を横に向けた。

大野は反応に困って、一歩後ろに下がる。

「逃ーがーさーなーいっ!」

ノームは大野の手首を掴んで身体を引き寄せた。

「好きだよ」

そう言って笑うノームを見て、大野は顔を赤らめる。

大野に対してノームの態度を見たことある梁木も、見たことのない麗も何故か顔を赤くする。

ノームは思い出したように高屋の顔を見る。

「ああ、そうだ。君が召喚したゴーレムは僕の眷属だけど、もう一体いるよ。それに、ゴーレムは戦うために創ったものじゃない、守るために創ったんだ」

ノームは余裕のある表情で笑っている。

その顔が何を言いたいのか。

言葉にしなくても気づいてしまった。


君にはできないよね。


そう言われているようだった。

気づいた時には、ノームの身体が光って大野の中に消えていった。

「消えた…」

ノームが消えたことによって麗と梁木は顔を見合わせたが、大野は違っていた。

「約一年前に感じた身体の痛み…」

多分、ノームはこの身体にいる。

力が溢れてくる感覚と身体の負荷を再び感じたことでそう思えた。

「…はあ」

高屋は大きく息を吐く。

周りを覆っていた黒い結界は消えて、瞳の色が元に戻っていく。

梁木の背中にある翼も消えていった。

「検証は終わりましたので、僕は失礼します」

まだ戦える。

けど、そうしないのは自分の中に生まれた複雑で、一つの簡単な感情が消化できなかったからだ。

高屋は後ろを振り向くと、瞬時にどこかへ消えていってしまう。

覚醒が解けて、もう何も起きないだろうと思った大野は後ろを向いて歩き出す。

「麗さん、梁木さん、校庭に行きましょう」

『えっ??』

麗と梁木は、どうして大野がそう言ったのか分からなかったが、大野が足早に歩き出したのを見て、麗と梁木は後をついて行く。

大野はあることに気づいていた。

初めてノームを見たのと、地の力が強く感じる場所は同じだ。

そして、その場所にそれはいる。

校舎を抜けて校庭に出ると、校庭の中心に誰かいる。

その後ろ姿には見覚えがあった。

「凛!佐月さん!」

麗の声に気づいて二人は振り返る。

「姉さん」

「麗様」

二人は麗、梁木、大野の顔を見て安心する。

「どうしてここに?それにその傷…」

凛と佐月がどうして校庭の中心にいるのか。それと、二人は全身に傷を負って疲れているようにも見える。

凛は自分の身に起きたことを話し始める。

「帰ろうとした時に廊下で佐月さんと会って、話してたら、急に校庭がぐにゃぐにゃって歪んだの。あ、芸術鑑賞日の帰りにも同じのを見て、最初は見間違いかなって思って…」

「あたしと凛様が一階に下りて校庭に向かうと、ここに巨大な岩の人形がいました」

佐月は今、立っている場所を指した。

「佐月さんの目を見て、覚醒したことが分かったから戦おうとしたんだけど、とにかく頑丈で攻撃しても精霊を召喚しても弾かれた」

「あたしの魔法も全く効きませんでした。凛様は精霊じゃないかと仰っていて、それから、ただ岩の人形を避けていたら…」

佐月は隣にいる凛を見る。

「いきなり、両腕を上げたと思ったら、あたしが身につけてるネックレスの中にすっと消えていったの」

続けて凛が答える。

「凛さんが見たのはゴーレムです。私も呼び出すことができますが、戦うというより、攻撃を受け止めたり弾いてくれます。この場所は、以前、地の精霊ノームが立っていました。私は、もしかしたらここでまた何かがあるんじゃないかと思って来ました」

大野はゴーレムの存在を教え、どうしてここに来たのかを説明する。

「私達は礼拝堂の近くで高屋さんに会って、…どうしてか分からないんだけど、地の精霊の力が大野さんから高屋さんに移動して…その力にか手も足も出なかった…」

ノームの力を痛感したのは二度目だ。一回目は去年、シェイドがトウマの身体を乗っ取った時。命令で戦わざるを得なくなった。

あの時も、大鎌の威力、ゴーレムの存在、魔法の力に歯が立たなかっのた。

「結果的に、ノームは再び大野さんに力を与えた。ということでいいんですよね?」

梁木もあまり分かっていなくて、大野に確認する。

「はい」

大野ははっきりと頷く。

ノームの真意は分からない。けれど、力が溢れてくる感覚と身体の痛みで、ノームが自分に力を貸してくれていると感じた。

「じゃあ、校舎を挟んで、あたし達と姉さん達がいたっていうことなんだ……あれ?」

凛はあるものを見つけて、話を止める。

「凛、どうしたの?」

凛の視線が自分達より上を向いている。

麗は真っ先にそれに気づく。

「今、何か光ったような…?」

太陽の光が窓ガラスに反射しただけかもしれない。

けど、何か少し違和感を覚えた。



「失礼します」

生徒会室の扉を少し開けて、中に神崎がいることを確認すると、高屋は中に入る。

神崎は高屋が入ってきたことだけ認識すると、手にしていた資料を見る。

「報告します。地の精霊の力を得た結果、呪文を唱えずに魔法が使えること、ゴーレムと呼ばれる大きな岩の人形を作り出すこと、大鎌を出せて振り回すだけで地面を削れるほどの威力があることが分かりました。しかし、ノームの気まぐれで力は再び地司の元に戻りました。また、精霊は思いの強さに惹かれて力を貸すと言いました」

風の精霊は中西へ、地の精霊は大野へ、それぞれ力を与えた。

火の精霊と水の精霊はあれからどうなったか分からない。それと、一時的とはいえ闇の精霊がトウマを操ったことは何か関係性があるのか。

それを知るのは精霊だけだし、目に見えないものを推し量るのはできない。

「私の思いの強さ、か…」

高屋の言葉に、神崎は反応して天井を見上げる。

その僅かな動きを高屋は見逃していなかった。

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