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再生 62 芽吹いた双葉

荒れ果てた街で僕達は戦っていた。

魔法を撃っていた彼女は、ほんの僅かに足元がふらついてしまう。

魔法の球が彼女に向かっている。

それに気づいて僕が叫んだ時にはすでに遅く、彼女の身体は魔法によって貫かれていた。

仲間達が絶叫する。


信じられない。

信じたくない。


腹部からどんどん血が溢れ出している。彼女の身体はぴくりとも動かない。

「レイナーーーーー!!!」


自分の声が聞こえたような気がして飛び起きた。

目を見開いたまま、何があったか分からず呆然としていた。呼吸を繰り返していることだけ分かると目の前を見る。毎日見ている自分の部屋だった。

「………夢?」

運動をした後じゃないのに息がきれている。

激しく動揺しているのが自分でも分かる。

「あれは、何だったんだ?」

あれはただの夢なのか。

物語に関係していることなのか。

枕元にある時計を見ると午前三時を過ぎていた。

「明日は終業式なのに…」

また寝れるかどうか分からない。

気持ちを落ち着かせて再び横になる。


夢でありたい。

夢であってほしい。



終業式の朝。

月代は下足場で靴を履き替えて階段を上っていた。

二階が見えた時、目の前にいる人物に気づく。

「…結城先生?」

月代の目の前には結城が立っていた。

「話がある」

結城の瞳は黄金色だった。

気づいた時には周りが黒い壁のようなものに囲まれていた。

「結界が張られてる…」

結界が結城が作り出したとしたら、結界から抜け出すのは難しい。

結界は作り出した人物の力によって違う。自分より力の強い結城の結界はいつ張られたかも分からないし、結界を壊す力が必要だ。

「何か用ですか?」

逃げられないと察した月代は警戒しながら結城を見る。

自分で聞いておきながら、月代はどうして結城が結界を張ってまで待ち伏せしていたか分かっていた。

「その顔で質問しても説得力がないな。月代、あれから何があったか?」

自分はどんな顔をしてるのだろう。

結城はただ月代を見ている。

「(結城先生の目…、怖いのに、目が離せない)」

月代は顔を背けようとして、それを止める。

月代は先月、屋上で橘と戦った時のことを話し始める。

「…あの後、気づいたら自分の部屋にいました。俺は物語の通りになるのが怖くて、学校に行けませんでした…。覚醒したらどうなるか、能力者として俺は存在しないんじゃないか、そう思いました」

できるならずっと部屋に閉じこもっていたかった。

それができないのは、単位もあるし期末テストがあったからだ。

実際に学校を休んだのは十日くらいだった。

学校に行くようにしたものの、覚醒したり、結城や神崎の顔を見るのが怖かった。

話を聞いていた結城は、一つの疑問を口にする。

「今、翼はあるのか?」

物語は進み、今の月代に翼がどうなっているか気になっていた。

結城は階段を下りて月代に触れようとする。しかし、月代は咄嗟に避けてしまう。

「すみません…」

月代は無意識にしてしまったことに対して謝る。

月代の立場は考えてるつもりであっても、もしかしたら触れられるのでさえ嫌なのかもしれない。結城はそう考える。

「…夢を見たんです。俺の翼が全部抜け落ちて骨だけになってしまって…。あれから覚醒していないから翼を見ていませんが、俺は怖いです…」

ミスンの能力を持つ橘によって、自分の身体に異変が起きた。何かが流れていく感覚と、背中にある漆黒の翼が抜け落ちた。

自分でもどうなっているか分からない。

非現実なことが現実に起きている。それは誰しも認めたくないことだ。

それは結城も分かっていた。

「お前に意思がないと言うならそれでも構わない。望むなら、高屋に言って能力を封印することもできる」

それは以前、聞いたことがあった。生徒会の役員の中で、高屋だけが能力を封印する力を持っている。

力を封印された者は覚醒してからの記憶が無くなってしまうらしい。

記憶が消えれば物語に関する夢も見なくなるかもしれない。うなされることもなくなるかもしれない。

けど、それ以上に結城との関係がなくなる。それは月代にとって恐怖を感じることだった。

「…それは嫌です」

それが今、言える答えだった。

「そうか」

月代に拒否反応がないと分かった結城は、月代の右肩に触れる。

「隠された真実よ」

結城の言葉に反応したように月代の背中は白く光りだす。そこから現れたのは白い翼だった。

「………」

まだそれに神経が通っている。

月代は言葉を失う。

結城は何を言おうか考え、あることを伝える。

「橘は家の都合で休学中だそうだ。あの時から誰も橘の姿は見ていない」

マリスの片割れであるミスンの力を持っている橘はまだいる。

彼女が存在しているということは、自分の存在が消えない。何故かそう思えた。

「一昨日、物語の続きが見つかったらしい。途中までしか書かれていなかったが、お前も時間がある時に読んでおくといい」

結城は少しだけ困ったような顔でそう話す。

物語の続きが見つかった。

そう言われても、今日は終業式。学校へ行く用事がなければ、次に学校に行くのは始業式だった。

月代が考えていると、結城は月代に背を向けて階段を上って去っていく。

「…結城先生?」

いつの間にか、周りを囲む結界と白い翼は消えていた。

深く追求されなかった。

そのことに疑問を抱きながら、とりあえず、近いうちに物語の続きを読もうと決意する。



ホームルームが終わり、麗、凛、梁木、大野は保健室にいた。

「やっと、お互いが能力者って分かったんだな」

実月は麗と凛を見て笑う。

優しく笑うというより、今更といったような笑いだった。

「…えっ?」

実月の言葉に麗があることに気づく。

「実月先生は凛が能力者って知ってたの?」

「ああ」

それを聞いて驚いたけど、凛の気持ちも考える。以前、彼女が風の精霊だった時、それを知っていた実月を責めようとした。その時に相手の気持ちを考えることに気づいた。

「(実月先生、本当に誰にも言ってなかったんだ)」

凛は言葉にしなかったものの、実月が誰にも言わなかったことに気づく。

「それで、またここで情報整理しようと?」

実月は呆れたように溜息を吐くと足を組む。

「だって、ここなら安全かなって思って」

麗は口元を指でかいて苦笑する。

教室だと誰が聞いているか分からない、図書室だと敵に襲われるかもしれない。

今のところ、敵に襲われずに能力者が集まる場所に適しているのは保健室以外なかった。

実月は好きにしろと言わんばかりの顔をしているので、麗は話し始める。

「えっと、どこから話そうか?」

「先ずは一昨日のことじゃないでしょうか?」

麗は保健室に移動して話そうと考えていたが、何から話していいか分からずに梁木の顔を見る。

「あ、うん」

麗の考えが分かったのか、梁木は特に考える様子もなく提案する。

「凛、言いたくないことは言わなくてもいい。一昨日、神崎先生に呼び出された理由を聞きたい」

凛の意思を尊重しつつ、呼び出された理由を知りたかった。勿論、無理に聞こうとは思っていない。

凛はどう言おうか考えながら話していく。

「あの放送の後、結界が張られて…」

凛は向かい合うように座っていた大野を見る。

「一緒にいた大野さんが能力者だっていうことを知ったの。大野さんは、あたしが編入してから姉さんに代わってあたしを見てくれてた。あの時には、もう皆は能力者だったんだね」

大野は頷いて答える。

凛が編入してから最初の放課後、麗、梁木、大野がいた。

「話してると獣の群れに襲われて、その時は大野さんが倒したんだけど…その後に結城先生が来て…。あたしは大野さんにも迷惑がかかると思って、結城先生についていったの」

自分が抵抗したり結城に攻撃をすれば、大野や麗達に何があるか分からない。大人しく言うことを聞けばいいと思っていた。

「五階に着くと神崎先生がいて、白百合の間の扉を開けてほしいって言ったの」

『えっ?!』

凛が神崎に呼び出された理由を聞いて、麗、梁木、大野は驚いて声をあげる。

もしかしたらと不安がよぎっていたが、白百合の間に関わることだと思っていなかったようだ。

「白百合の間は神崎先生や結城先生、生徒会の人が触ろうとしても触ることさえできないって言ってて…、白百合の間には神崎先生が叶えたいことがあるみたいだけど詳しくは分からない。逃げようにも神崎先生と結城先生がいるから、あたしは素直に白百合の間のドアノブに触れた。そしたらドアノブが淡く光って、神崎先生と結城先生は驚いてた…」

白百合の間はあかずの間と言われていて、立入禁止である。

それは高等部にいる人間なら、当たり前のように知っていることだった。

「…ということは白百合の間は物語に関係してるのでしょうか?」

梁木の言葉に大野が思い出す。

「春に高屋さんと戦った後、白百合の間から光が降り注いだことがありました。可能性は大きいと思います」

梁木と大野は互いの顔を見て頷く。

麗は高屋と聞いて、口にしなかったものの、自分が操られた時のことだろうと思った。

「扉が開かないことが分かると、神崎先生と結城先生はいなくなってて、結界も聞いていて…。その後に姉さん達が来たんだ」

どうして凛が呼び出されたのか分かり、新しい問題も出てきたが、凛に何もなかったことが分かると麗はほんの少しだけ胸を撫で下ろした。

「姉さん達の後に葵さんも来て…、まさか、全員が能力者だと思わなかったよ」

凛は苦笑する。あの時は何が起きているか分からなかったけど、思い返すと全員が能力者だと思うことはできなかった。

凛は麗と話すように自然に中西を名前で呼ぶ。

「しかも、佐月さんがいきなり泣きそうになりながらあたしに膝をついて凛様って言うから、もう何から言えばいいか分からなくて」

中西がかけつけた後、凛が能力者だと分かった佐月は、安心したように涙を浮かべて凛に跪いたのだった。

その佐月は、部活の集まりがあってここにはいない。

「あー…」

佐月はフィアの能力を持っている。佐月は物語と同じように麗に様をつけて呼んでいる。

麗も初めは同い年だからかしこまらないで欲しいと伝えて、佐月なりに話し方を改めてくれたが、慣れてしまった部分もある。

「佐月さんは物語の過去にも出てくるフィアの力を持っていて、最初はもっとかしこまった言い方だったんだよ。佐月さんに悪気がある訳じゃないし、多分、そのうち慣れるよ」

そう言いながら、同い年に様をつけて呼ばれたり、敬語を使われるのはまだ少し慣れていなかった。

「佐月さんがフィアの力を持っていて、梁木さんも能力者なんだよね?」

凛は梁木の顔を見る。

「はい、僕はカリルの力を持っています」

「後、中西先生はティアの力を持っています」

中西のことを知らないと思った大野は、梁木に続いて答える。

「梁木さんがカリルで、葵さんがティア…。あ、滝河さんも能力者なんだよね?」

「凛、知ってるの?!」

麗は凛が滝河も能力者だと知らないと思っていた。

梁木と大野が驚いているということは二人とも知らなかったのだろう。

「あ、うん。先月、高等部で滝河さんに会って、互いに能力者だって知ったよ」

先月、食堂の横で覚醒した滝河と会い、互いに能力者だと知った。その時、突然現れた炎によって互いの力も見ていた。

滝河のことを思い出しながら、凛は頭の中でひっかかっていたことを思い出す。

「あ、ちょっと待って、あたしも気になることがある。神崎先生に呼び出されてから、姉さん達が来るまで、多分、三十分くらいかかったと思うんだけど、皆、ばらばらな場所にいたんだよね?」

正確な時間は分からないが、放送が流れてから麗達が五階に到着するまでそれなりに時間はかかっている。

麗は梁木と大野の顔を見て考える。

「私とショウは三階で放送を聞いて、すぐに五階に行こうとしたんだけど、結界が張られたって気づいたら、階段を上っても上ってもずっと続いて、まるで階段が一つ繋がってるみたいだったの。教室の扉も壁になったり、廊下が塞がっていて、迷路みたいになってたんだ」

麗の隣で梁木が同意するように頷いている。

「私は凛さんが行ってしまった後、重力のようなものに押さえつけられていて、結界が消えるまで動けませんでした」

「恐らく、結界によって僕達を五階に来させなかったのではないでしょうか」

実際に結界が消えてから、塞がっていた壁は無くなり、階段を上ると四階に着いた。

階段を上っていると、後ろから大野と佐月も階段をかけ上がっていた。

「凛さん」

それまで少し俯いて考えていた大野が顔を上げる。

「差し支えない程度で良いのですが…、いつ覚醒したんですか?」

それは麗と梁木も知りたいことだった。

物語を読んでいれば話したくないこともあるかもしれない。それでも、大野は知りたいと思っていた。

それを分かっていて凛は、思い出しながら話していく。

「えっと…覚醒する前に図書室で本を見つけて、本を見つけたのが学園祭の一週間くらい前だったかな。その時は本を開いただけだったけど、学園祭後に本を読もうとしたら、二本足で立つ獣に襲われて…」

「同じだ…」

凛が話している時に麗がそれを遮る。

麗は不思議なものを見るような顔をしている。

「私も、と言っても私は一昨年なんだけど、学園祭の前に図書室で本を見つけて、学園祭の後にモンスターに襲われたの」

「じゃあ、やっぱり皆、図書室で本を読んでから覚醒したの?」

「覚醒した場所は違うかもしれませんが、きっかけは図書室で本を読むことだと思います」

「そうですね」

梁木に続いて大野も答える。

恐らく能力者は全員、物語を読んでいる。そう感じた。

「その後も何度か獣に襲われることもあって、二月の初めに第二プールで滝河さんに会って、滝河さんはマーリの力を持ってるって言ってた」

いつも誰かが凛の側にいるわけではない。

自分が知らない間に、凛は覚醒して物語に関わっていたんだと、麗、梁木、大野はそれぞれ感じる。

「凛、私はね、こうしてちゃんと話し合うことができて良かったって思うよ」

互いに能力者だと分かって、これからのことを話そうとした時、神崎が現れたことによってそれは叶わなくなった。

まだ凛は話していないことがある。でも、それは、触れてはいけないことだと分かっている。

それでも能力者として、血の繋がっている姉妹として、少しでもわだかまりが無くなったのは嬉しいことだった。

「…うん」

それは凛も同じだった。

自分自身が話さない限り、麗達は神崎に襲われたことを聞かないだろう。

そのことも何となく気づいているかもしれない。

それでも、あの時、手を離してしまったことを謝りたかったし、ちゃんと話したいと思っていた。

二人は顔を見合わせて笑う。

それを見た梁木と大野も自然と笑みが零れる。

「話が落ち着いたとこで、次は物語の続きでしょうか」

「そうだね」

一昨日、中西に言われて物語の続きが見つかったことを知った。

神崎や結城に狙われるかもしれないと思った麗達は、一昨日と昨日と二日に分けて何人かで読みに行くことにしたのだった。

物語の続きは前編と後編に別れていて、デッドという街でとある家に警告文が届く。それがマリスの仕業だと気づいたレイナ達は、自分達もマリスが狙う宝石を見張ることになる。

その頃、別の場所ではマリスがディアボロスという悪魔を召喚する。それがラグマの本来の姿だった。

ラグマの企みによって、マリスは背徳の王と呼ばれる者の力を得る。

真夜中、宝石を見張るレイナ達の前にマリスが現れる。マリスが宝石を奪おうとした時、精霊を召喚する翼を生やした少女によって奪われてしまう。マリスは彼女を獣王(ビーストマスター)と言っていた。

「そこで物語は終わりましたが、それでも新しいことが見つかりました」

「光の精霊がいること、マリスが白い翼から六つの翼に変わって新たな力を手にしたこと、そして…最後にマリスが言っていた獣王という名前…」

麗は梁木の方を向く。

梁木も同じことを考えていたようで麗の方を向いていた。

「先月、屋上でマリスの力を持つ月代さんとミスンの力を持つ橘さんが戦って、橘さんは物語と同じように不思議な力を使って消えちゃったよね?で、その後、月代さんの黒い翼が抜け落ちて結城先生と一緒に消えちゃったけど、月代さんも物語の通りになるのかな?」

「続きがどうなるか分かりませんが、物語の通りになるのであれば彼も新たな力を手にするのではないかと思います」

今まで物語の通りにならなかったこともあるが、あれから橘の姿を見ていない。

これからどうなるか予想することができなかった。

「それで、最後のマリスの言葉さ…」

麗は様子を伺うように凛の顔を見る。

「獣王っていうのは確か、ティムの称号だと思うんだけど、凛は翼があるの?」

獣王というのは物語の中でティムを指している。ティムの能力を持っているのなら、凛にも翼があるのかもしれない。麗はそう考えていた。

「翼?ないよ?」

もしかしたら聞いてはいけないことかもしれないと思っていたが、凛はあっさり答えた。

本当に知らなさそうな顔をしている。

「ティムに翼があるのなら、レイナもあるんじゃないでしょうか?」

「確かにそれはあるかもしれないけど、翼が生える兆候とかないし…」

梁木に言われて麗は考える。

もしも、宝石を奪った翼を生やした少女がティムなら、レイナにも翼が生えるかもしれない。しかし、麗は思い当たるようなことがなかった。

「物語の続きがいつ書かれるか分かりませんし、一昨日のことで生徒会が何か考えているかもしれません。一人で行動する時は気をつけないといけないですね」

大野も分かっていた。

物語に関わる以上、いつ狙われるか分からない。

麗、梁木、凛はそれぞれ頷く。

話に区切りがついたのを見て、実月が四人を見る。

「お前ら話は終わったか?俺はこの後、用事がある。話が終わったなら帰れ」

実月は壁に掛けられている時計を見る。

麗達が保健室に来てから一時間は過ぎていた。

「はい」

「すみません」

四人はいっせいに立ちあがり、足元に置いてある鞄や手提げ袋を持って保健室から出ようとする。

「あ、実月先生」

麗が思い出したように実月の名前を呼ぶ。

「何だ?」

「先生は結局、誰の力を持ってるの?私が覚醒した時からずっと教えてくれないし…」

それは梁木、大野、凛も気になってたことだった。

自分が覚醒した時からアドバイスしてくれたり、誰かを入ってこさせないような結界を作ることができる。物語の中で出てきていない登場人物なのかもしれない。

「前にも言ったが、そのうち分かるさ」

実月は笑いながらはぐらかす。

「追試や補習がなければ、楽しい春休みを過ごせよ。三年になったら、あっという間だぞ」

『はーい』

保健室に向かう前に話していたが、四人とも追試や補習はなかった。

「じゃあ、次に会うのは始業式だね」

「失礼します」

「レイ、寮までついていきます」

「では、私も」

四人は挨拶をして保健室を出ると、それぞれ話しながら歩いていく。

「…世話焼きなのは俺も同じか」

そう言いながら実月が笑い、保健室から見える木の枝に留まっていた烏が答えるように鳴いた。



約一時間前。

神崎と結城は生徒会にいた。

「一昨日、水沢凛を呼び出すために校内放送を使った理由を教えていただけませんか?」

初めは今年度と来年度の資料をまとめていたが、作業が終わって結城が椅子から立ち上がった時、結城は疑問を口にする。

「あの放送をした結果、水沢凛が能力者だと知る人物が集まりそうになりました。それを分かっていて、私に結界を張らせ、水沢麗達を近づけさせないようにしました」

内容は一般的でも、わざわざ校内放送を利用するということは、高等部にいる能力者全てに何かあると明かしてしまうことになる。

「そうなると、今までの計画に支障が出るのではないのでしょうか?」

結果的に白百合の間の扉は開かなかった。しかし、自分達が触れることさえできなかったドアノブに触れることができたのは彼女だけだった。

神崎は結城が話し終えるのを待つと、迷いもなく答える。

「水沢姉妹を関わらせないようにしてきたのは事実だが、白百合の間が開かなかったのは計算外だった。次に試すとしたら姉の水沢麗だな」

神崎自身も凛がドアノブに触れられたこと、扉が開かなかったことには驚いていた。

「例え、水沢凛が姉や他の能力者と共に戦うとしても、私が彼女にしたことは変わらないし、彼女はそれを忘れはしないだろう」

それに対して結城は眉間に皺をよせようとしたが、平静を装う。

「それはさておき、結城、物語の続きが見つかったが内容は目にしたか?」

神崎にとって、今は計画を改める必要があると判断していた。

「ラグマがディアボロスと呼ばれる悪魔だということ、ラグマによってマリスが背徳の王と呼ばれる人物の力を得た。それと、ティムが生きていた…。お前は悪魔の姿に変えることができるのか?」

「できません」

神崎は、もしかしたら結城が悪魔の姿に変身するのではないかと考えていたが、結城はあっさりと返す。

もし変身できるのなら、自分は改めてラグマの力を持っていると認識するし、その力を使って何かできるように考えるだろう。

「物語の続きは私も確認しました。続きがどうなるか分かりませんが、ティムが精霊を召喚する力を持っているならば、水沢凛にも精霊を召喚する力が持っているのではないかと思います」

「その可能性はある」

そう言うと、神崎は机の上に広げていた書類をまとめて椅子から立ち上がる。

「まあ、今は明日からの春休みを大いに楽しみ、束の間の休息を与えよう」

それは、春休みの間は何もしないと捉えることができる。

生徒達は春休みだとしても教師は春休みではない。新学期に向けて、やることがたくさんあった。

神崎が結城の横を通りすぎた時、結城はその後ろをついて歩く。

「もうすぐ桜も咲く」

言葉を省いていたり、言い換えていても、神崎が何を言っているか分かる時がある。

調べることがまた一つ増えた。

「かしこまりました」

少しだけ口角を上げると、結城は神崎の後について生徒会室を後にした。

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