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再生 61 心の雨

生徒たちはまっすぐ前を見ている。

そのことに実感が沸かない生徒もいれば、退屈で欠伸をする生徒、始まる前だというのにすでに俯いて泣いている生徒もいる。

長くて短い学園生活に、それぞれの思いが詰まっている。

講堂の端に置かれている台の前に一人の教師がやってくると、生徒たちは揃えて頭を下げた。

マイクを通して教師の声が響く。

「これより、卒業式を行います」


クラスメイトと写真を撮ったり、急いでどこかへ向かう生徒たちを見ながら、トウマは高等部に向かいある人を探していた。

「懐かしいな」

自分のことを思い出していると、高等部の校舎に続く並木道でそれを見つける。

「彰羅」

トウマの声に気づいた鳴尾は、少しだけ驚くとトウマに近づく。

「トウマ兄、どうしたんだ?」

トウマと鳴尾は学年も違う。卒業式で高等部に来ることが珍しいと思っていた。

「卒業式の門出の日に声をかけにきただけだ」

トウマは笑って答える。

本当に、高等部に来たのは鳴尾の顔を見たかったからだ。

「まさか、お前が大学部に進学するとは思わなかった」

以前、鳴尾に進路のことを聞いた時、大学部へは行かないと言っていた。それが、推薦入試直前になって大学部に行くと聞いた時は何かあったのかと聞き返したくらいだった。

「面白そうなことがありそうだからな」

大学部は数多くの学科や講義がある。今になって興味を持ったものがあるのかもしれない。

「純哉もいるし、また校内でも会うだろうな」

大学部でも滝河や鳴尾に会うかもしれない。

そんなことを考えていると、鳴尾はトウマの顔を見ていた。

「トウマ兄は嘘つきだな」

視線を反らさずに、鳴尾はまっすぐトウマの顔を見ている。

「…お前は本当に勘が鋭いな」

鳴尾は気づいている。

気づいたら、そう答えていた。



三年生が卒業して二週間が過ぎた。

一学年分の生徒がいなくなるだけで、高等部が静かに感じるようだ。

生徒会室では神崎と結城がいた。

「月代はどうなった?」

「二月の下旬には登校しているみたいですが、元気がない様子で私と会っても顔を背けてしまいます」

月代の担任によると、先月下旬には登校しているらしい。しかし、結城が月代に会った時、挨拶はされたものの視線を反らして足早に去ってしまった。

「何かあったな」

「一度、月代に話を聞いてみます」

「そうだな。もしも、月代の能力に何かあった時を考え、計画はこのまま実行する」

「かしこまりました」

橘は変わらず休学中だ。何があってもいいように外壁から囲んでおく必要がある。

そう思いながら、結城は神崎に向かって頭を下げた。


放課後。

期末テストが終わり、春休みが近いこともあってか、生徒たちは浮き足立っていた。

「もうすぐ春休みだね」

「今年の桜の開花は早まるってニュースで聞いたから、春休み中に桜を見に行きたいねー」

生徒たちの話を聞きながら、麗は教室を出ていく。

来月には自分たちが三年生だ。すでに進路について考えている人もいる。

「来月になったら私も三年生か。なんか、あっという間だなあ」

大学部に進学する人もいれば、他の大学や専門学校に進学する生徒もいる。

進路なんてまだ先の話だと思っていたが、もしかしたらすぐそこまできているのかもしれない。

「(進路にしても物語にしても、いつ終わるか分からない。物語は第五章までしか書かれていないけど、余白は半分くらいあるからまだ続くはず… )」

漠然とこれからについて考えながら前を見ると、廊下の少し先に梁木が歩いていた。

「ショウ!」

麗の声に気づいた梁木は振り返って立ち止まる。

「どこかに寄るの?」

中央階段を下りずに廊下を歩いているということは、まだ帰るつもりではないと思った。

「テストも終わりましたし、本の続きが書かれていないか見に行こうと思いまして」

「前に見た時に、結構余白があったから、まだ続きはあると思うんだけど…」

二人が話していると、放送の呼び出しの音が鳴る。

『二年A組、水沢凛さん。至急、情報処理室まで来てください』

それは神崎の声だった。

『!!』

その放送を聞いて危険を察知した二人は驚き、麗は咄嗟に凛がいる教室を開けた。

「水沢さん?」

扉を開けると、そこには去年、同じクラスだった女子生徒がいた。

女子生徒は放送を聞いていたのか、麗が聞こうとしたことの答えが返ってくる。

「妹さんなら、大野さんと一緒に職員室に行ったよ」

探していた妹はそこにはいなかった。



数十分前。

ホームルームが終わり、凛は教室を出ようとした時に担任に呼び止められていた。

大野と一緒に職員室に行き、来年度に使う新入生用の書類や教材を運ぶだけの作業だった。

十分くらいで終わり、そのまま帰ろうと思っていた。

職員室に向かい、教材を運んでいる最中、凛はずっと考え事をしていた。

先月、滝河が能力者だと知り、少しずつ周りが能力者なんじゃないかと考え始める。

「(誰が能力者か分からない。でも、疑いたくない…)」

能力者だと知っているのは姉の麗、滝河、実月、後は生徒会の役員が能力者だというのは聞かされていた。

「(それに、姉さんがずっと心配してたなんて…)」

編入する前から麗が自分のことを心配していたのを知った。しかし、自分が神崎に逆らえば、神崎にされたことを麗にもするかもしれない。

「(姉さんに謝りたい…)」

「凛さん?」

隣から聞こえる声に、凛ははっとして横を向く。

隣にはずっと大野がいた。

「あ、ううん、何でもない…」

考え事をしていて、隣に大野がいたことを思い出した。

「何か考え事でもしていました?」

「…私、何か言ってた?」

もしかしたら、考えながら口にしていたかもしれない。

そうだとしたら、変に思われたかもしれない。

「いいえ。ずっと黙ったままだったので、考え事をしているのかなと思って…」

隣を歩いていて何も喋らないと、考え事をしてると思われたかもしれない。

凛が何か言おうとした時、放送の呼び出しの音が鳴る。

『二年A組、水沢凛さん。至急、情報処理室まで来てください』

その声は神崎だった。

『!!』

それと同時に凛の周りに結界が張られる。

「(結界?!)」

凛は結界の中に閉じ込められたことに気づいて、驚いて後ろを振り向く。

「(放送が聞こえたし、結界を張ったのって…)」

結界を張ったのは神崎かもしれない。

辺りを見回そうとして、凛はある一つの事実を目の当たりにする。

目の前に大野がいる。

彼女の瞳は琥珀色だった。

結界の中にいる。それは、大野は能力者だということだった。

「…大野さん?」

信じられなかった。

彼女が結界の中にいること、彼女が落ち着いていること、いつからそれを知っているのか。

大野は知っていた。

「凛さんに言わなきゃいけなかったことがあるんです」

大野は落ち着いている。

「私も能力者なんです」

いつも近くにいるのに知らなかった。

驚いている凛を見ながら、大野は今まで言えなかったことを口にする。

「私は麗さんに頼まれて、凛さんが本に関わらないように、ティムの能力者として覚醒しないように見てきました」

物語を読むようになり、レイナの能力者である麗は、まだ別の学校に通っていた凛が物語に関るんじゃないかと危惧していた。

二学期に透遥学園に編入してきて、大野と同じクラスになり、麗は大野に凛のことを見てほしいと頼まれた。

「最初は麗さんに頼まれたから。それだけでした」

最初は麗に頼まれたから、麗に代わって凛を見ていればいい。それだけだった。

「でも、凛さんはそんなことを知らずに私と仲良くしてくれました」

姉の友達、姉が知ってる人、どう思われているか分からないが、凛は持ち前の明るさと社交性で大野をはじめ、クラスの人達と距離を縮めていった。

「凛さんが能力者だと知って、私は自分を責めました…。同じクラスにいながら、凛さんは物語に関わってしまった…」

自分が知らないところでそんなことが起きているとは思わなかった。

自分が考えていることと、大野の言葉がうまく飲み込めない。

「…私も能力者だと言えば、凛さんは警戒して離れていってしまう。私はそれが怖くなってしまった」

大野は胸が締めつけられるような感覚だった。

「(彼の言葉は間違ってなかった)」

夢にノームが出てきた時、彼の言葉を思い出す。

いつの間にか大野にとって凛の存在は大きくなっていた。

二人が話していると、突然、天井に幾つもの黒い魔法陣が浮かび上がり、幾つもの黒い水のようなものが滴り落ちる。

『!!』

雫は大きな球体に変わり、そこから長い体毛に尖った牙と耳、こめかみには太い角が生えた獣が現れる。

「何、これ…?」

凛は自分達を囲う獣の群れに驚いて警戒する。

「前にも見たことがある」

凛は獣の群れに見覚えがあった。

覚醒して間もない頃、廊下を歩いていると三体の獣に襲われた。

その時は、いつの間にか身につけていたネックレスが弓矢に変わり、撃退することができた。

「(大野さんが誰の能力を持っているか分からない。前みたいに追い払わないと…!)」

凛が大野の前に立とうとした時、大野はほんの少しだけ驚くと距離を縮める。

「凛さん、改めてお願いがあります」

「えっ?」

この状況で大野は何を考えているのだろう。

そう思いながら凛は覗きこむように大野を見ると、大野は厚い本を手にしていた。

「(本?さっきまで持っていなかったのに…)」

「私が能力者でも、今までと変わらず仲良くしてほしいです」

能力者だと分かり、凛は自分のことを警戒するかもしれない。大野はそう思っていた。

いつ獣の群れが自分たちに牙をむくか分からない中、大野の言葉に凛は自分の気持ちを伝える。

「…大野さんが能力者だって知って、すごくびっくりした。本の中のことが現実に起こるなんて信じられないし、誰かに言っても信じてもらえないよね」

最初は誰もが信じられないと否定した。

けど、それは夢じゃない、現実に起きていると認めなきゃいけなかった。

「今でも怖いし、夢なんじゃないかなって思う。でも、あたし達は友達だよ」

凛の言葉がまっすぐ突き刺さる。

その一言が嬉しくて大野の瞳が潤む。

「ありがとうございます」

大野は微笑すると、意識を集中させる。持っていた本の形が変わり、大きな鎌に変わっていく。

「本の形が変わっていく…」

それは、覚醒した時に身につけているネックレスと同じようだった。

凛も意識を集中させると、ネックレスは弓矢に変わる。

「私から離れないでください」

獣の群れがいっせいに咆哮すると、二人に突進していく。

凛が弓を構えるより先に、大野は大きな鎌を構える。なぎ払うように大きく振ると、なぎ払った場所が大きく揺れ、風の刃が生まれる。風の刃は獣の群れに直撃すると、一瞬にして塵になって消えていってしまう。

「すごい…」

凛は大野が誰の能力を持っているか分からなかったが、彼女の力を見て驚く。

あの時に比べると少しは力をつけたつもりだが、大野は一瞬にして倒してしまった。

獣の群れを倒しても大野は警戒していた。

「結界が消えない…」

何も起こらないし、結界が消える様子もなかった。

「ここにいたか」

声に気づいて二人は振り向くと、そこには結城がいた。

「結城先生…」

いつの間にかそこにいたのか分からなかった。

結城も覚醒してる。

「水沢、一緒に来てもらおう」

結城は凛を見ている。

大野は凛の前に立ち、行かせないようにする。

「大野、お前が地の精霊の力をつけたとはいえ、私と同等の力があると思っているのか?」

結城の眉がぴくりと動く。

そんなつもりはなくても、大野と凛にとっては威圧してるように見える。

「分かりません」

駆け引きではなく、それが本心だった。

自分が地の精霊の力を手にしても、結城の力はまだ未知数だった。

「私は水沢に用がある」

結城が右手を上げて、すっと下ろすと、突然、大野の周りに異変が起こる。

「!!」

それまで何もなかったのに、突然、周りに重圧が襲いかかる。

大野の両手から鎌は落ちて消え、立っていることもできない大野は、重力によって肘と膝をついてしまう。

「大野さん!!」

何が起きたか分からずに、凛は大野に触れようとする。

しかし、それより先に結城が口を開く。

「抵抗する力があれば別だが、私も力を出さなければならない」

その言葉を聞いて、今の状態で結城は力を出していないということに気づく。

「……」

大野は黙ったまま結城を見上げている。

「ついてこい」

結城の目が光ったような気がする。

「(結城先生の目、やっぱり宝石みたいに綺麗…)」

自分の意思はあるし、操られている感じはしないと思っている。

それでも凛は、覚醒した結城の瞳を見ると、身体や思考が思うように働かなくて、言うことを聞かなきゃいけないと思ってしまう。

「(結城先生についていかなかったら、大野さんに迷惑かけちゃう!)」

結城の目は凛を捕らえている。

凛は俯いたまま、立とうとしている大野の横を通りすぎる。

大野の顔が見れない。

「…ごめんなさい」

震える声でそう呟くと、大野に背を向けて歩き出している結城の後について歩いていった。


結城の後について階段を上ると、生徒会室の前に神崎がいた。

「…神崎先生」

「よく来てくれた」

神崎の瞳は赤色だった。

神崎の顔を見るとあのことを思い出して逃げたくなる。しかし、凛の後ろには結城がいて逃げることはできなかった。

「水沢凛さん、君にはあの扉を開けてもらいたい」

あくまで教師としての言い方をしている。

神崎がやや上に向かって指をさす。

指をさした先に、その場所にしかない扉がある。

「あそこは確か白百合の間…」

凛はその場所を知っていた。

編入する時やクラスメイトから、白百合の間というあかずの間があることを聞かされていた。

「そう、立ち入り禁止とされている白百合の間だ。この場所には特殊な結界が張られていて、私や結城先生、生徒会役員ではドアノブに手をかけることさえできなかった」

神崎もドアノブに手をかけた時、ドアノブが光に包まれて触れることができなかった。

神崎の言葉で、その場所が物語に関わっていると理解する。

「その扉を開ければ、私の願いが叶うかもしれない。そのために、君にはその扉を開けてもらいたい」

優しく言う神崎に、何か裏があるのではないかと疑ってしまう。

何のために扉を開けるか分からないが、神崎の言うことを聞かないと、自分や姉に何かあるかもしれないと考える。

「私の目的が叶えば君を解放してあげることも可能だ。それに、物語の出来事が現実に起こることが怖いなら、能力を封印してあげよう」

それは罠かもしれない。

学園にいる限り、会わないということは難しい。そして、物語のことが現実に起きて怖いのは神崎にも原因があった。

扉を開けられるかどうかは分からない。けど、物語の中でも特に強い力を持つロティルとラグマの能力を持つ神崎と結城がいる。自分の力が通用する相手ではないし、逃げたら他の人に迷惑がかかるかもしれない。

選択肢はなかった。

「…分かりました」

凛はそう答えると、階段を上っていく。

「(この奥から何か感じる。それに、懐かしい感じがする…)」

階段を上り、おそるおそるドアノブに手をかけようとする。

その後ろには神崎と結城が様子を見ている。

凛がドアノブに触れた瞬間、ドアノブが淡く光りだした。

『!!』

それを見た神崎と結城は自分達ができなかったことをした凛に驚き、凛はドアノブを回そうとする。

「…あれ?」

回したり、押したり引いたりしても扉は開かなかった。

凛は不安な表情で後ろを振り返る。

「鍵がかかっています」

力を入れても扉が開かないということは、鍵がかかっているか立て付けが悪いということかもしれない。

何かされるか警戒していたが、神崎と結城はただ複雑な表情で扉を見ているだけだった。

「扉は開かなかったものの、私たちが触れることができなかったドアノブに触れた。神崎先生、これは大きなきっかけになるのではないでしょうか?」

結城もやや困惑している様子だった。

神崎は考えていた。

自分達では触れることさえできなかったドアノブを、凛は何もしないで触れることができた。

凛が扉を開けば、自分が欲しているものがあるかもしれない。

しかし、触れることはできても扉は開かなかった。凛が何か細工をした様子もなかった。

「そうだな。彼女はドアノブに触れることができた、それは大きく好転することかもしれない」

納得はしていないが、今はこれ以上は何もできないと判断すると、神崎は階段を下りていく。

「まあ、今日はこれでいいだろう」

神崎の口調が元に戻る。

「結城、魔法を解いていいぞ」

「かしこまりました」

神崎の言葉に結城は頷くと、何かをすくうように両手を前に出した。

聞き取れない声で呟くと、結城の両手には黒い玉が現れ、黒い何かを吸い込んでいく。

周りの景色が歪んで、黒いもやみたいなのが薄れていく。

「何、これ…?」

何が起きているか分からない。

凛が辺りを見ると、いつの間にか神崎と結城の姿は消えていた。

結城が現れてから感じていた重々しい空気がなくなっている。凛はそれを結界が消えたんだと解釈した。

「そうだ!大野さん!」

凛は二階の廊下ので別れた大野のことを思い出す。

その時、複数の階段をかけ上がる音が聞こえる。

「凛!!」

血相を変えて階段をかけ上がってきたのは麗、梁木、大野、佐月の四人だった。

「姉さん…?」

麗の顔を見て、凛は思い出す。

自分がここにいるのは、放送で神崎に呼び出されたからだった。

「凛!大丈夫?!」

こんなにうろたえている姉の顔は見たことがなかった。

麗が能力者だということは知っていた。それに、さっき、大野が能力者だということも知った。

二人は物語に関わる人間として自分のことを心配したのだろう。梁木と佐月は同じ学年であり、麗の妹として仲良くしてくれている。急に呼び出されたから何があったのかと思ったのだろう。そう思っていた。

「あ、あのね…」

今まで言えなかったことを言いたい。あの時に手を振りほどいたのを謝りたい。

でも、自分に起きたことは変わらない。しかも、能力者であることを大野にまで知られてしまった。

色々考えていると、麗は凛を強く抱きしめる。

「…え?」

「凛が言いたくないなら言わなくてもいい!辛いなら私や皆がいる!もう一人で抱えこまなくてもいいんだよ!」

麗は泣いている。

滝河にも言われたが、姉からの言葉がこんなにも力強いとは思わなかった。

自分は一人じゃない。

もう悩まなくてもいいのかもしれない。

そう思うと、つっかえていたものが取れたように声をあげて泣いていた。

「…っく……うあ…、っ!」

凛も麗を抱きしめる。

梁木たちも瞳が潤む。わだかまりがとけた。それは梁木たちにとっても喜ばしいことだった。

二人が抱き合って泣いていると、階段をかけ上がる音が聞こえる。

「水沢!!」

かけつけたのは中西だった。

中西は廊下で二人が抱き合って泣いているのを見て表情を変える。

「何があったんだ?」

その表情は怒りや焦りに近かった。

「中西先生、これは…」

二人が抱き合って泣いている。

それは誰が見ても、何かがあったと分かる。

実際に凛にとっても麗たちにとっても大事なことが起きている。

凛は麗から離れて涙をぬぐうと、説明しようと中西の方を向く。

しかし、中西がそこにいる人物を見ると、何かに気づいく。

「もしかして…凛も能力者だったのか?」

そう言いながら、中西は自分自身も信じられない様子だった。

「凛、も…?」

中西の言葉に凛も何かに気づいて驚く。気づけば、言葉遣いが変わっていた。

「葵さん、能力者だったの?」

「ああ」

中西は驚きながらもはっきりと答える。

「どうして…」

大野も中西も能力者だと知り凛は驚いていたが、麗が更なる事実を伝える。

「凛、ここにいる皆は能力者だよ」

「…え?」

ここにいる皆は能力者。

つまり、梁木も佐月も能力者だということだった。

「えーーーーーっ?!」

やっとその言葉を理解した時、凛は大きな声をあげていた。

どこから聞けばいいか分からない。

凛がおろおろしていると、麗が中西に尋ねる。

「葵も放送を聞いて、ここに来たの?」

麗達は放送を聞いて五階に来た。中西もそうだと思っていた。

「それもあるんだが、その前に図書室に行ったんだが、そこで…物語の続きが見つかったんだ」

『えっ?!』

それは誰もが予想しないことだった。

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