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再生 54 悲嘆の涙

トウマの力を封印した後、高屋はよろめきながら生徒会室に向かっていた。

生徒会室の扉を開くと、そこには待っていたように神崎と結城がいた。

高屋は二人がそこにいることに驚く様子もなく、扉を閉めると窓から外を見ている神崎の背中を見る。

「報告します」

傷を負っている高屋を見た結城は、ほんの少しだけ驚いているように見えた。

「先程、礼拝堂前にて相良斗真を封印しました」

その言葉を聞いた神崎はゆっくりと振り返り、高屋を見る。

「そうか」

神崎はそのことを知っていたように、にやりと笑っているだけだった。

「相良斗真を封印した。それなのに、納得がいかない顔をしているな」

「そんなつもりはありません。…ただ、目的を果たした実感がないだけです」

神崎の言葉に高屋は少しだけ言葉をつまらせる。

神崎の言葉は間違っていなかった。

物語に関わるようになり、所属している生徒会役員が能力者であることを知った。神崎の目的の一つである相良斗真の封印。ようやく目的を果たせたはずなのに、もやもやした気分だった。

「(あまりにうまくいきすぎてる…)」

自分がしたことなのにどこか疑っていた。それに、さっき見た彼女の顔が頭をよぎる。

「(僕が傷を負っているのに、彼女は攻撃しなかった…)」

高屋が考えている間、神崎は高屋の顔を見ていた。

「スーマとしての能力、封印する能力は警戒していた。相良斗真を封印した今、封印する力を持つのは高屋…お前だけだ。計画を進めるにはちょうど良い」

神崎は横目で結城を見る。それをきっかけに結城が口を開く。

「気がかりなのは、覚醒して約二ヶ月、水沢凛が未だに魔法を使っていません。魔物を召喚して戦わせても、弓矢を使うだけで魔法を使わないか使えないかは定かではありません」

「…確かに」

結城の言葉を聞いた神崎は、結城と高屋の顔を見て少し考える。

神崎の表情は、何か思い当たるところがあるように見えた。

「…が、私が水沢凛に接触すると警戒される」

その時、結城の眉がぴくりと動く。

「(そうしたのは貴方ですよね)」

結城の表情を横目に、高屋は表情に出さないように少しだけ俯く。

喉まで出た言葉を心の中で留めておいて良かった。高屋はそう思いながら再び顔を上げる。

神崎を見ると、何かを企んでいるように笑いながら結城を一瞥していた。

「鍵としての器に何かあっては計画に支障が出る。念のため、彼女にはティムとしての力をつけさせなくてはな」

「(……この方は、本当に目的のためには手段を選ばないようだ)」

神崎の表情に、ほんの僅かに背筋が凍るような気持ちを覚える。

それは物語に出てくるロティルの姿が見えるようだった。



週が明けた月曜日の放課後。

教室ではホームルームが終わり、教室に残っておしゃべりをする人や足早に教室を出る人がいる中、麗は椅子に座ったまま机に肘をついていた。

「ホームルームは終わりましたよ」

後ろから聞こえる声に気づいて振り返ると、そこには鞄を持った梁木が立っていた。

「……あ、うん」

いつから梁木が後ろに立っていたか分からず、麗は驚きながらも返事をして立ち上がる。

「朝からずっと考え事をしているようでしたけど…。やっぱり、先週のことですか?」

梁木は苦しそうな顔で麗を見る。

「…うん」

先週の金曜日の放課後、大きな力を感じて梁木と滝河と礼拝堂に向かった麗は、そこで高屋によってトウマが封印されるのを見てしまう。

自分が覚醒してから、トウマはずっと気にかけてくれたり助けてくれた。誰よりも強いトウマが封印されるなんて考えられないと思っていた。

教室にはまだ残っている生徒もいる。話を聞かれるとまずいと思った麗は、鞄を手に取り椅子を引いて立ち上がった。

教室を出た麗と梁木は階段を下り、踊り場で見慣れた後ろ姿を見つけて立ち止まる。

「…大野さん?」

二階の廊下にいたのは大野だった。

麗の声に気づいたのか、大野は後ろを振り返る。

『!!』

大野の顔を見た麗と梁木は大きく驚いた。

大野は辛そうな顔でぼろぼろと泣いていた。

「お、大野さん?!」

「…どうしたんですか?!」

驚いた二人は階段を下りると大野に近づき、大野は二人がいたことに驚いて、咄嗟にスカートのポケットからハンカチを取り出して涙を拭う。

「麗さん、梁木さん…」

「どこか痛いんですか?!」

「あ、いえ…」

大野は口ごもり顔を背けようとしたが、それより早く麗は大野の手首を引っ張っていた。

「実月先生のとこに行きましょう」

そう言うと、そのまま廊下を歩いていく。

「ち、ちょっと、麗さん…?」

決しては強くない力で大野の手首を引っ張る麗の横顔は、込み上げるものを押さえつけるような顔だった。

梁木はよく分からないまま、二人の後をついていく。

「……麗様と大野さん、梁木さんも?」

三人が廊下を歩いて階段を下りていくのを、佐月は遠くから見つけていた。


保健室に着いた時には麗の勢いはなくなり、大人しく椅子に座っていた。

「それで、大野に理由を聞かず保健室まで来た、と?」

「…ごめんなさい」

実月は椅子に掛けていた白衣を羽織ると、椅子に座り直す。

「それは大野に言え」

麗は回転する椅子ごと大野の方を向いて頭を下げる。

「早とちりしてごめんなさい」

「いいえ。最初は驚きましたが、強く引っ張られたわけではないですし…」

頭を下げる麗に対して、大野は麗のことを考えてやんわりフォローする。

「僕も驚きましたが、何かあったのですか?」

実月は麗達が保健室を利用して物語について話し合ったりするのは慣れているので、特に気にせず机の上にある書類に目を通し始めていた。

「実は…」

大野はさっき起きたことを思い出して瞳が潤む。

「……さっき、二階の第二相談室の前でトウマ様にお会いしたのですが……私のことを、覚えて…いなかったんです…」

『!!』

それを聞いた麗と梁木は驚き、実月は書類をめくっていた手を止めた。

「大野、どういうことだ?」

大野が実月の方を向いて話そうとした時、扉を開ける音が聞こえる。

「佐月さん…?」

「やっぱり保健室にいた」

扉を開けて保健室にやってきたのは佐月だった。

「失礼します」

佐月は扉を閉めると、麗の近くに来て軽く頭を下げる。

「麗様が大野さんの手を引いて歩いているのを見かけまして、もしかしたら保健室に行くんじゃないかと思い、後ろをついてきました」

佐月は麗の隣に座っている大野の顔を見ると表情を曇らせる。

「大野さん、もしかして…」

何か思い当たることでもあったのだろう。麗は佐月の表情を見てそう感じた。

大野は涙を拭いて話を続ける。

「最初は話そうかどうか迷いましたが、作戦は失敗したので麗さん達に話してもいいと思います…。トウマ様は生徒会に隙を作るために、カズさん、フレイさん、佐月さん、私の力を使って自分が封印されようと考えたのです」

「能力を封印する自分が囮になることで高屋の気を引き、生徒会を油断させる。トウマ様はそう話していました」

大野に続いて佐月も話し始める。

「物語の過去でスーマ様が囚われた時、フィアは転移魔法を使ってスーマ様をどこかに移動した。あたしがフィアの能力者と知ったトウマ様は、その力のことを思ったそうです…」

トウマのことを思い出したのか、佐月の目にも涙が浮かんでいた。

「大野さん、佐月さん、それはいつ頃の話なんですか?」

話を聞いていて疑問に思った梁木は二人に問いかける。

いつも一緒にいるわけじゃないけど、自分が知らない間にそんなことが起こっているとは思っていなかった。

「あたしがトウマ様に初めてお会いしたのは一学期の終業式の時で、計画を話したのが…確か、八月の中旬くらいでした」

「凛が編入手続きをしたのも八月…」

それまで話を聞いていた麗は、八月と聞いて、凛が編入する前のことを思い出す。

「カズさんとフレイさんの無効化魔法、佐月さんの転移魔法、私のターサとしての力、四人の力を合わせれば封印する力を防げるんじゃないかと考えていましたが…」

自分達が礼拝堂に着いた時には四人の姿は見えなかったような気がする。恐らく、見えない場所に隠れていたのだろう。梁木はそう考えていた。

「…さっきトウマ様にお会いした時、私のことを知らないというような顔でした」

能力を封印されると覚醒してからの記憶がなくなってしまう。

大野はトウマの計画が失敗して記憶がなくなってしまったと感じたのだった。

「あの女子生徒は消えていましたし、カズさん、フレイさん、佐月さんが礼拝堂に来て、計画は失敗したと聞いて信じられない気持ちでした……」

大野の言葉に梁木はあることを思い出す。

「トウマが封印されるのを見た時、ショックではっきりと姿は見ていませんでしたが、礼拝堂の前にいた女子生徒は僕が前に夢に見た人に似ていました」

「それって第五章が書かれた時に言ってたよね?」

「はい。結界の中にいたということは能力者だと思いますが、名前は分かりませんし誰の能力を持っているか…」

麗もそのことを思い出して梁木の顔を見る。トウマが封印されたことにショックを受けて動けなかったが、梁木は自分が見ていないとこまで見ていたんだと思った。

「トウマ様は彼女に対してミスンの能力者だと聞いていました」

『ミスンの能力者?!』

大野の言葉に驚いた麗と梁木の声が重なる。

「はい。夏休みの一週間くらい前に礼拝堂で彼女を見かけ、月代さんに似ていると思い、お祈りしている彼女の背中が光ったような気がしました。トウマ様は第五章を読んで、彼女がマリスの片割れの能力者じゃないかと気づいたのです」

大野は話しながら今までのことを思い出していた。

「そんなことがあったのですね…」

麗と梁木、大野と佐月はそれぞれ知らなかった話を聞いて、トウマが封印されたことの大きさを改めて噛みしめる。

「……僕が呪印を刻まれた時、トウマは気にかけてくれました。呪印がどうなるか分かりませんが、もう逃げないで戦おうと決めました」

神崎によってトウマと同じ呪印を刻まれた時、カリルと同じ悪魔のような翼が現れ、梁木は自分はカリルと同じなんだと痛感した。

現実から目を背けたくて麗達から離れた時も、トウマはカリルとしての力を封印すれば覚醒していた時の記憶は消えて、抱えていた悩みが無くなると考えてくれた。

いつの間にか梁木の中でトウマの存在は大きくなっていた。

「そうだよね…」

梁木の話を聞いて、麗は凛のことを考えている。ああすれば良かった、自分がもっと側にいれば。そう考えていても、現実は変わらない。

「私も、さ…凛のことは気にしちゃうけど、ちゃんと前を見なきゃいけないよ…ね」

「えっ?」

「…凛さんに何かあったのですか?」

佐月と大野は思い悩むような麗の表情を見て問いかける。

「あっ……」

梁木以外は話してないと思って言うのを躊躇ったが、その内知られることだろうと思い、ゆっくりと話しだした。

「ショウには話したんだけど、…凛が…能力者だったの」

「…………」

麗の言葉に二人は絶句する。

「先週、一緒に帰った時、突然、結界の中に閉じ込められて、その中に凛がいて…」

結界の中に閉じ込められたということは、物語に関わる能力者ということだった。

「私は凛の編入が決まった時から、物語に関わってほしくないってずっと思ってた。…けど、いつの間にか覚醒していて、ティムの能力を持ってるって言ってて…」

姉妹で能力者だと知ったあの時、凛は安心したような表情だったのに、神崎が結界の中に入ってきた時には何かに怯えたような表現だった。

「結界の中に神崎先生がきて…凛を連れていったの」

その時のことを思い出したのか、ぽつりぽつりと話していた麗はいつの間にか涙を流していた。

「そんな…」

「凛さんが能力者だなんて…。私、同じクラスなのに…」

大野は凛が編入して同じクラスになってから、麗の代わりに凛を見ていた。それは麗に頼まれたのもあるが、物語を読んでレイナの力を持つ麗の妹がティムの能力を持っているかもしれないと恐れていたのもあった。

同じクラスで一緒にいる時間は少なくなかったはずなのに、凛が能力者だと気づかなかった。

「私が、もっと…凛さんと一緒にいれば…っ」

大野は悔しさと悲しさで胸が締めつけるような思いだった。

止まっていた涙が再び溢れ出す。

「大野さん、先週からずっと泣きっぱなし…。辛いのは大野さんだけじゃないんだから…」

そう言いながら、佐月は大野の前に立って両肩に手を置いて引き寄せる。

佐月もまた泣いていた。

誰のせいでもないし、自分だけが悲しいわけじゃない。

どうしようもないと思っていても、悔しさと苦しさは拭うことができなかった。

梁木は泣かないようにと口唇を噛み、麗、大野、佐月は声を抑えて泣いている。

それを見ていた実月は、四人の心情を察したように何も言わず、ただ黙って見守っていた。


その頃、滝河は大学部一階にあるテラスにいた。

「………そんな」

椅子に座っていた滝河は、信じられないような顔で呟いた。

滝河の向かい側に座るカズとフレイは辛そうな表情で首を横に振る。

「俺達だって信じたくない」

「いずれ滝河君も分かることだけどね」

講義を終えた滝河は、カズとフレイにテラスに呼ばれていた。双子から連絡があるのは珍しいと思い、それと同時に、何故か胸騒ぎがしていたのだった。

「兄貴が二人のことを覚えていなかったって、つまり…」

二人から聞いた話は滝河にとって耳を疑うことだった。

「トウマ様の能力は封印された」

「先週の金曜日、トウマ様の計画は失敗したんだ…」

「……計画?」

突然、呼び出されて話を聞いても飲み込めなかったし、よく分からないという気持ちだった。

「トウマ様は生徒会に隙を与えるために、俺達、佐月ちゃん、大野ちゃんの力を使って自分が封印されたように見せかけようと考えたんだ」

「能力を封印する自分が囮になることで生徒会を油断させるって」

大学部に進学して、物語に関わること以外でも何度か高等部に足を運んでいた。大野や佐月に会ってもそんな話は出てこなかった。

「……それはいつ頃の話ですか?」

双子とトウマとも学年も受けている講義も違う。頻繁に会うわけではないが、知らない間にそんなことが起きていたなんて思わなかった。

義理とは言え、血の繋がった兄弟だから自分に相談してくれてもいいんじゃないか。滝河は心の中は「どうして?」という気持ちだった。

「八月の中旬くらいだったか?」

「うん。学校の帰りにトウマ様に呼ばれて…その時に初めて佐月ちゃんに会ったかな」

「トウマ様はフィアの力を持つ佐月ちゃんに目をつけた。佐月ちゃんの転移魔法、大野ちゃんの浄化の力、そして、俺達の力…四人の力がうまく働けば、高屋の封印する力を防げるんじゃないかって考えたんだ」

「けど、計画は失敗した…」

二人が眉間に皺をよせているのは、先週のことを思い出しているのかもしれない。

「トウマ様は俺達のことを覚えていなかった…」

「能力者としてではなく、バンドメンバーとしての僕達…覚醒する前の話し方だった」

「……………て」

それまで二人の話を聞いていた滝河は、膝の上にある両手をきつく握りしめていた。

「…どうして、兄貴は俺に言ってくれなかったんだ!!」

気持ちを抑えることができなかった滝河は声をあげて叫んだ。

ホールにいた数人の生徒は滝河の声に驚いて滝河の方を見たが、少しすると何事もなかったように視線を戻した。

「あ……」

思っていたより自分が大きい声を出していたことに気づいた滝河は、慌てて立ちあがって周りに頭を下げる。

「計画を知る人が多いと、生徒会側に気づかれる恐れがある」

「計画は俺達と大野ちゃん、佐月ちゃんしか知らないよ」

「だから、麗ちゃんや梁木君達は知らない」

滝河は椅子に座り直して、気持ちを落ち着かせようとする。

カズとフレイが話してくれたのが嫌じゃない。

あの時、大きな力を感じて麗と梁木と礼拝堂に向かった。高屋によってトウマが封印されてしまうのを見て、驚きのあまり何もできなかった。

動けなかった自分が悔しいし、そんな大事な話を自分が知らなかった。やり場のない感情がこみあげる。

「きっと、高等部では大野ちゃんと佐月ちゃんが麗ちゃん達に話してると思う」

「…多分、話さないと自分を抑えられないんじゃないかな」

「…抑えられない?」

二人はどうして落ち着いて話していられるんだろう。少しずつ気持ちが落ち着いてきた滝河は疑問に思う。

「計画は絶対に成功するわけじゃない」

「それでも僕達はトウマ様と自分達を信じた」

「だけど、計画は失敗した。それが分かった時、誰のせいでもないけど自分達を責めた」

「誰かに話さないと、もっと自分を責め続けるかもしれない」

トウマと自分達が信じたことが叶わなかった。

誰のせいでもないと分かっていても自分達がトウマを守れなかった、大切な人を守れなかったと心の中でずっと残っていた。

「トウマ様がいなくなったわけじゃない」

「でも…能力者としてのトウマ様はもういない」

「俺達じゃトウマ様の代わりになれないけど、今まで以上に麗ちゃん達を守る」

「それが、トウマ様の願いだからね」

「兄貴の…願い?」

二人と話していて滝河はあることに気づいてしまう。

よく見ると二人の目は少しだけ赤く腫れていた。

「(そうだったんだ……)」

落ち着いてるんじゃない、落ち着けさせているんだ。

多分、自分の知らないところで涙を流していたのかもしれない。

「(兄貴は…もしものことを考えて、俺にあいつらを守るように伝えたかったのかもしれない)」

辛いのは自分だけじゃない。

それだけトウマの存在は大きいものだった。


授業が終わった凛は、寮に向かって歩いていた。

「……最近、普通に帰れてる」

何度か後ろを振り返っても誰もいない。

覚醒してから、一人になると結界が張られ、突然現れた獣の群れに襲われることが何度もあった。その度に、怪我をしながら弓矢で倒したり追い払っていた。

しかし、気づいたら獣に襲われることが減ったと思うようになった。

「…気のせいかな」

神崎のことが怖い。できるなら物語に関わりたくないし逃げ出したい。

「今のところ、神崎先生から呼ばれてないけど…言うことを聞かないといけないし…」

実月に話を聞いてもらってから、自分以外にも能力者がいること、実月が自分の敵ではないと分かった。

「あの時の記憶が消せるならすぐにでも消したいけど、何が起きるか分からないなら自分の身は自分で守らなきゃ…」

寮が見えてきた時、どこからか鳴き声が聞こえる。辺りを見回すと、目の前の木の枝に烏が止まっていた。

烏と目が合うと、烏は大きく口を開けて鳴いて羽根を広げている。

「最近、気づくとよく見かけるような気がする…」

広大な学園内で烏以外の鳥を見かけるのはよくあることだった。

「ま、いっか」

凛は特に気にせずに寮に向かって歩き出した。

凛の後ろ姿を見ていた烏の目の色が赤色に変わっていた。



保健室にいた実月は椅子に座って机に置いてある書類に目を通していた。

麗達四人の気持ちが落ち着くのを待ち、下校時間の前に帰るようにと促した後だった。

その時、下校時間を報せるチャイムが鳴る。

壁にかけてある時計を見ると、書類から目を離してひと息つく。

「そろそろ動くか」

そう言うとにやりと笑い、椅子から立ちあがると白衣を脱いで保健室を後にした。

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