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再生 5 覚醒

僅かな時間が長く感じる。


剣とボーガンを握りながら二人は息を飲む。緊迫した空気が張り詰めていた。

二人の後ろにはドーム状に広がる黒い膜が見える。二人を囲むデビルデーモンは様子をうかがいながら距離を縮めている。

「ユーリ、どうしよう…………?」

「分からない…」

麗がほんの僅かに悠梨を見た瞬間、麗の目の前に立つデビルデーモンが空に向かって吠えると腕を振り上げた。

「!!」

驚いた麗は剣で塞ぐ間もなく吹き飛ばされてしまう。

「レイ!」

黒い膜にぶつかり麗は剣を持ったまま尻餅をついてしまう。

「痛……っ!この膜…壁みたいに硬い…」

麗はよろめきながら立ち上がる。太股は擦れて血が流れていた。

「結界!」

麗と距離をおかれた悠梨が叫ぶ。

「実月先生が言ってた、力が有るものをその場所に残したり、攻撃を反射したり防ぐやつ!」

麗は何かを思い出して声をあげた。

悠梨はボーガンの矢を放ち、デビルデーモンに攻撃しながら麗との距離を縮める。

「あたし達、結界の中に閉じ込められたみたい…」

「どうしよう…」

悠梨の攻撃を受けたデビルデーモンは腕や胸に矢が刺さったままよろめいて立ち上がった。

「攻撃は効いてるみたい」

考えてる間にデビルデーモンの群れは二人に襲いかかる。

二人は動きをかわしながら攻撃した。デビルデーモンは攻撃を受けるもよろめくだけで何度も立ち上がり唸っている。

二人に焦りと不安が増す。逃げられない空間で自分達がどうなるか、目の前の現実を受け入れることができなかった。

麗の両手が震える。


歯が立たない。

怖い。


そう感じて息を飲んだ瞬間、どこからか力強い声が聞こえる。

「フレイムボム!」

二人はとっさに声が聞こえたほうを向いた。硬い壁のような結界が水のように波紋を投げて何かが見える。幾つもの大きな炎の塊が結界に侵入し、加速すると二人を避けてデビルデーモンに直撃した。デビルデーモンが炎に包まれ絶叫する。

「炎………」

「これって…魔法?」

二人は目を丸くして驚いた。ゲームで見る光景が目の前で起こっている。

その間にどこかから足音が聞こえる。

二人の横から誰かが侵入してくる。再び結界が水のように揺れて誰かの足が見えた。

「貴方は…」

「…嘘、でしょ?」

金に僅かに黒が見える髪、背が高く、両耳にはピアスをしている。前とは違う服装だが、それはトウマだった。

「お前ら、大丈夫か?」

トウマは二人を見て様子を伺う。

「トウマ…さん?」

「ああ、どうかしたか?」

麗の声にトウマは少し首を傾げた。

その瞬間、黒く焦げたデビルデーモンの一匹が起き上がり、大きな口を開けると炎のような光線を吐いた。

「しまった!」

炎のような光線は麗と悠梨の合間をかすめ、結界の壁に反射した。麗は光線を避けて悠梨とトウマから離れてしまう。それを狙ったように他のデビルデーモンが麗に向かって口から光線を吐いた。勢いを増して麗に向かっている。避けきれない麗は咄嗟に目をつぶった。

その時、悠梨が叫んだ。

「風よっ!」

悠梨の言葉に麗は驚いた。麗の回りを風が覆い光線を掻き消してしまう。

悠梨を見ると片手を前に出して、自分自身に驚いているようだった。

「風の防御壁?」

トウマも悠梨を見た。悠梨の瞳の色が白に近い水色になっていた。

「レイ、あたし…」

「ユーリ!後ろ!」

呆然と立ちつくす悠梨の背後にデビルデーモンが近づいていた。


麗は震えが止まらなかった。


悠梨がどうなるか分からない、悠梨を助けたい。何かに祈るように瞳を閉じて、心の中で叫んだ。

「(どうしよう……ユーリが危ない。………助けて…っ!レイナッ!)」

麗が目を開いた瞬間、麗の身体が光り出して結界の中が光に包まれた。

麗の瞳の色が深い水色に変わっている。麗は頭の中で浮かんだ言葉を口にした。

「水の精霊ディーネよ、悪となり聖となる氷河…その力を聖とし氷の飛礫(つぶて)と化せ……ダイナストダスト!」

胸の前で両手を合わせ、手を広げていくと青い光が冷気を帯びていく。両手の間に氷の粒と青い光が冷気を纏った球体になり、悠梨の背後に迫るデビルデーモンに向けて放たれた。冷気の球は勢いを増してデビルデーモンに直撃し爆発する。冷たい空気が流れ、デビルデーモンが氷漬けになり砕け散っていく。

その時、黒い結界に亀裂が走りガラスのように砕けて消えていく。そこには何事も無かったように、いつもの風景があった。

「終わったな」

トウマは溜息を吐くと二人に近づいた。

「トウマさん…瞳の色が…」

麗はトウマの顔を見て驚いた。前に見た時と瞳の色が違って翡翠のような薄い緑色だったからだ。

「ああ、これか。お前らも違うぞ」

トウマの言葉に二人は顔を見合わせてさらに驚いた。

「マジで…?」

「…違う」

まるで別人みたいだった。その様子を見てトウマは苦笑している。

「覚醒してるから瞳の色も違う。意識を戻せば元に戻るさ」

トウマがゆっくり瞬きすると、また瞳の色が変わっていた。二人も深呼吸してゆっくり瞬きすると、瞳の色が元に戻っていく。

「元に戻ってる…」

「お前ら、何を見て覚醒した?」

トウマに聞かれて麗は今までの事を話した。高等部の図書室で見つけたゲームと同じ題名の本を開いた事、本を開いた途端に光が吹き出して目の前にゲームに出てくる獣に襲われた事、パソコンに映し出された奇妙な文字、この状況を教えてくれた保健医の実月先生の事など、隠さずに話した。

「そっか、そのゲームと本の内容は同じみたいだな。この学園で覚醒してる奴がいる。それが誰なのか、どこにいるか分からないが…特に高等部から強い力を感じたのは確かだ」

「あの…」

様子を伺ながら麗が呟いた。

「トウマさんは誰の力を持っているんですか?」

「その髪とさっきの瞳の色、まさか…」

悠梨も何かに警戒しているように問いかけた。それを見て、トウマはあっさりと答えた。

「ああ、俺はスーマの力を持っている」

スーマの一言に二人は驚いてばかりだった。ゲームの中でも一際強くレイナと共に行動していた人物だった。髪の色や喋り方、仕種まで、トウマはスーマに似ている。

「人によって違うかもしれないが、俺は覚醒してからスーマの記憶や力を感じるようになった。さっきも嫌な魔力を感じて来たら結界が張られていたんだ。ったく、誰の結界なんだか………っと、まだ名前を聞いてなかったな。お前ら、名前は?」

トウマは何かを考えて独り言のように呟いていたが、我に返り二人の顔を見た。

二人は落ち着いたのか、少し様子を伺って顔を見合わせている。

「レイ…どうしよう?」

悠梨の言葉にトウマが麗のほうを見た。

「ん?レイっていう名前なのか?」

麗はトウマの顔を見ると何かを考え、頬を赤らめて答えた。

「…水沢麗。レイはあだ名みたいなのかな」

「じゃあ、俺もレイって呼んでいいか?」

トウマの優しい顔に麗の声があがる。学園祭で見た時とさっきの戦いの時とどちらも見せることがなかった表情だ。

「えっ?」

「さっきの力と瞳の色…レイナの力だろう?」

「は、はい…」

話の中で言っていないことを先に言われて麗は驚きを隠しきれなった。

「俺もトウマでいい」

「トウマ…さん?」

「呼び捨てでも、さんをつけてもどっちでもいい。…で、そっちは?」

次にトウマは悠梨の顔を見て笑った。

「あたしは風村悠梨。レイにはユーリって呼ばれてる。誰の力があるか…あの時、マジで焦ってて誰か思い出せないんだよねー」

「…レイにユーリだな」

悠梨の言葉にトウマは何か疑問を感じたが、何事もなかったように話を切り替えた。

「これから誰が覚醒するか、何が襲いかかるか分からない。が、俺はお前らの味方だ。よろしくな」

トウマは握手をしようと右手を差し出した。麗と悠梨が落ち着いて右手を出した瞬間、緊張の糸が切れたのか麗は気を失い倒れてしまう。

「レイ!」

隣で倒れる麗の腕を引いて肩を抱いたのは悠梨だった。トウマも片方の腕を肩にかけて二人で麗を支える。

「集中力がきれたんだな」

「どうしよう…寮に帰るか保健室に行くか…」

「とりあえず移動しよう」

二人は麗を抱えて歩いて行く。




校舎の窓から見下ろす神崎の姿はなく、別の階の校舎の窓から一人の男子生徒が腕を組み、様子を見ながら微笑んでいた。

「覚醒しましたね…楽しくなりそうだ」

男子生徒はそう呟くと階段を下りて暗くなった校舎を歩いていった。


どこかで一羽の烏が鳴いていた。

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