再生 46 胸騒ぎの試練
何となく。最初はそれくらいの気持ちだった。
最初に物語を知った時、すでに兄貴は覚醒していた。
兄貴は物語に出てくるスーマが自分に似ていると言う。そのスーマが殺されてしまうのを防ぐため、同時に自分に呪いをかけた人物を探していた。
その頃には俺は生徒会に所属していた。
その後、物語を読んでいくと、何となくティムという少女が気になりだす。彼女の過去を読んで、彼女がロティルに襲われてしまうことを知る。
彼女はまだいない。けど、もし彼女の力を持つ者が覚醒して、ロティルの能力を持つ神崎に襲われるかもしれない。
杞憂に終わるかもしれないと思っていても、神崎がいる生徒会に近づけさせたくなかった。
最近になって、水沢の双子の妹が編入してきた。
水沢は妹には物語に関わって欲しくないと言っていた。
血は繋がっていても彼女は水沢と違う。
ただ、今は放っておけない感じだった。
十二月になると吐く息は白く、冷たい風は肌に染みるようだった。
チャイムが鳴り、ホームルームが終わる。教室から出ていく生徒達の顔は、何かを達成したような顔や疲れたようだった。
「終わったー」
麗は椅子から立ち上がると腕を伸ばして背伸びをする。
「お疲れ様です。これで全部の教科のテストが終わりましたね」
背伸びをしている麗の後ろから梁木が話しかける。
「ショウもお疲れ様。これで追試が無かったら、楽しい冬休み!…って言いたいんだけどさ」
麗は壁にかけられている時計を見る。時間は十二時を過ぎたところだった。
梁木は周りを見て人がいないことを確認する。
「…この後、鳴尾さんと手合わせでしたっけ?」
「うん、一時に温室で。明日は舞冬祭だから体育館や校庭は練習する人がいそうだし、講堂は舞冬祭の準備で使えそうにないしね」
外の寒さを考えると講堂や体育館が良かったが、舞冬祭の前日は準備や練習場所で使われていた。
梁木は苦笑すると、真面目な顔で麗を見る。
「…僕も行ってもいいですか?」
「えっ?」
「僕は以前、鳴尾さんと戦いましたが、これからどんな敵が現れるか分かりません。少しでも何かの参考にしたいと思いました」
麗は前に梁木と鳴尾が戦った時のことを思い出す。少し考えると、頷いて答えた。
「滝河さんもいるみたいだし、ショウも大丈夫だと思う」
「分かりました」
二人は鞄を持つと教室から出ていく。
午後一時。
麗と梁木が校舎裏の温室に向かうと、すでにトウマ、滝河、鳴尾が待っていた。
「待ってたぜ」
鳴尾は嬉しそうな顔で麗を見る。
滝河は麗の少し後ろにいる梁木を見る。
「梁木も来たか」
トウマと滝河の中で梁木が一緒に来るのは想定内だったようだ。
「本当はトウマ兄が連絡してくれてからすぐにでもやりたかったが…」
鳴尾はトウマの顔を見ると、トウマはやや呆れた顔で答える。
「期末テストが終わってからだ。全く、これで受験生とは思えないな…」
「一応、生徒会にいるから成績は悪くはないんだけどな」
トウマの隣で滝河が苦笑している。
「トウマ兄が俺との約束を忘れてたからだ!」
「…そこは悪かった」
鳴尾は開き直ったようにトウマに言い寄り、トウマは言い訳はしなかったが、ほんの僅かに視線を反らした。
「まあ、いいや。あれから二ヶ月も待ったんだ」
鳴尾は笑うと、足を開いて構える。
それを見たトウマは左右を見ると、どこかに合図を送る。すると、トウマ達の周りに薄い金色の幕のようなものが辺りを覆っていた。
五人の瞳の色が変わっていく。
「なあ、トウマ兄」
鳴尾は何かを考えると後ろにいるトウマの顔を見る。
「どうした?」
「久しぶりに手合わせしないか?」
何かを期待しているような目でトウマを見ている。
「何で俺が…」
トウマは考える。自分が鳴尾と手合わせをすることによって、麗達に色々な戦い方を教えられると思っていた。
しかし、考えていることとは反対に首を横に振る。
「この後、用があるからまた今度な」
「ちぇっ、つまんねーの」
鳴尾は明らかに面白くないというような顔をしたが、不安な表情で立っている麗を見ると、にやりと笑った。
「さ、やるか」
その瞬間、鳴尾から鋭く突き刺さるような殺気を感じる。それを見た麗は背筋が寒くなったが、気迫に負けてはいけないと思い、意識を集中させる。
梁木は麗から離れ、トウマと滝河に近づく。
「鳴尾さんは、本当に戦うというか…身体を動かすのが好きなんですね」
「うまく言葉を選んだな」
「俺や純哉はもう何回もしてる。お前も挑まれたことがあっただろう?」
梁木の言葉に滝河とトウマは少しだけ苦笑いをした。
梁木は以前、鳴尾に挑まれたことを思い出す。手加減はなかったが致命傷を負わせることはなかった。
「確かに」
「彰羅は骸霧だけの力だけじゃなく、剣の腕や体力もそれなりにある」
「魔法は使えないが、魔力がないわけじゃない。水沢はどう戦うか…」
三人は視線を麗と鳴尾に戻す。
麗は考えていた。
大きな剣を扱えるということは自分が思っているより力は強い。魔法も呪文を唱えている間に攻撃を仕掛けられるかもしれない。
それに加えて、骸霧が物語に出てくる剣そのものの力があった。
麗が考えていると、鳴尾が名前を呼ぶ。
「水沢」
いつの間にか少しだけ俯いていた麗は、鳴尾の声に気づいて顔を上げる。
「あんまり考えてばっかだと…」
鳴尾は意識を集中させて両手を広げる。すると、その場所が光り、赤と黒の混ざった幅の広い長剣が現れた。
「何も動けないぜ!!」
それを力強く握ると、麗に向かって走り出す。
「!!」
麗は一瞬、出遅れたがすぐに意識を集中する。虚空から長剣が現れるとそれを握り、上段で構える。
気づけば鳴尾は剣を振り下ろしていた。
「っ!!!」
鳴尾の剣を受け止めたが、麗は痛みに顔を歪ませる。
「(前より力が強いし、重くなってるような気がする…!)」
剣と剣がぶつかり合い、麗は剣を弾いて間合いをとろうとする。しかし、それより早く鳴尾は押していた力を引いて麗と間合いをとる。
「(鳴尾さんが距離を置いた…。となると)」
麗は鳴尾が次に何をするか考え、剣を右手だけで持ち直すと呪文を唱える。
「水の精霊ディーネよ、連なる水を描き、凍れる刃を与えよ…」
麗の左手は青く光り、冷たい空気が広がっていく。
鳴尾は笑い、麗に向かって勢いよく剣を振り降ろした。すると、剣を振り下ろした場所から衝撃波のような黒い刃が幾つも現れ、麗を襲う。
「フリージング!!」
言葉を発動させると、両手から幾つもの氷の柱が現れ、鳴尾に向かって加速する。
麗は魔法で衝撃波の刃を弾こうとした。もしも、魔法で弾くことができなくても何とか避けることができる。そう考えていた。
氷の柱は黒い刃とぶつかり激しい音を立てていたが、氷の柱は粉々に砕けて消えてしまう。
「!」
黒い刃が麗に向かっている。麗は両手で剣を構え直して弾こうとした。
その時、麗は迫り来る黒い刃の後ろにあるものに気づく。
「嘘っ?!」
黒い刃の後ろには複数の黒い刃と、鳴尾が剣を構えたまま麗に襲いかかっていた。
鳴尾は剣を二回振り下ろし、そのまま麗に向かっていたのだった。。
麗は必死に黒い刃を避けようとするが、黒い刃が目の前を通りすぎると、目眩に似た感覚に襲われる。
「さ、お前はどうする?」
鳴尾は楽しそうに笑い、剣を下から上に振り上げる。
「?!」
麗は間一髪で剣を振り下ろして鳴尾の剣を受けとめ、思いきり両手の力を込める。
その時、麗は胸の辺りに痛みを覚え、顔を歪める。
「骸霧の力…」
鳴尾は剣を弾くと、少しだけ麗と距離をとる。
「知ってると思うが、骸霧は人の生気を吸い取り、切りつけられたら毒に侵される。魔法で治すか、それより先に俺を倒すか…」
鳴尾が話している間に、麗は左手を下ろして小さく呪文を唱える。
「汚れしものの不浄なる全てを取りはらえ…」
麗の身体は淡く光り、真下には白く光る魔法陣が描かれる。
「アンチディルク」
呪文を唱えると魔法陣が大きく広がり、白い光が辺りを包む。
白い光が消えると、血の気が引いていた麗の顔色が元に戻っていく。
「お前も使えるんだな」
「…ショウに教わったから」
麗は大きく息を吸うとゆっくりと吐いた。
「へー」
鳴尾は特に気にした様子はなく、ただ麗を見ていた。
「(さっきより身体は楽になったけど、多分、一時的。あの剣や黒い刃に近づくとふらふらする。…けど、私より剣は大きいから目で追える!)」
麗は意識を集中させると、剣を握り直して鳴尾に向かって走り出した。
「へへっ、まだまだこんなもんじゃないよなあ!」
鳴尾も走り出したと同時に剣を振り払い、再び黒い刃が麗を襲う。
麗は剣を握りしめると素早く呪文を唱える。
「ブレスウインド!」
麗が言葉を発動させると、周りに大きな風が起こり風の刃が現れる。
風の刃は鳴尾に向かって加速する。
鳴尾は風の刃に当たり、腕から血を流しても避けることなく、麗に向かって剣を振り上げた。
風の刃と黒い刃が音を立てながらぶつかり合う。
鳴尾の剣を受けとめようとした時、鳴尾の目つきが変わる。
「甘いな」
鳴尾は力を加えながら剣の向きを変え、下から上に剣を振り上げる。
「!!」
突然の鳴尾の動きに麗は驚き、剣を弾かれてしまう。
『!!』
それまで見ていた梁木達三人も、鳴尾の力や動きに驚いていた。
弾かれた麗の剣はくるくると宙を舞い、勢い良く地面に突き刺さってしまう。
「剣が!」
麗は後ろを向いて剣を取りに行こうとしたが、考えるより先に口が動いていた。
「光の精霊ウィスプよ、輝く風を束ね聖なる光を剣に宿せ、ホーリーブレード!」
麗の右手が光ると、それは剣の形に変わっていく。
それを見た梁木以外は驚いていた。
「レイが光の魔法も使えるか」
「!!」
トウマと滝河は興味深く麗を見ている。
麗が剣を構えて振り払うと、光の剣から無数の光の衝撃波のようなものが現れる。
「魔法でできた剣で骸霧に撃ち合うつもりだな!」
鳴尾は驚いていたが、次第に嬉しそうな顔で麗に向かって剣を振るう。
麗が作り出した光の剣と、鳴尾の剣が激しくぶつかり合う。
「(気づいたら呪文を唱えてたけど、本当に剣無しでできちゃった…)」
麗は思っていたことができたことに驚いていた。
剣と剣がぶつかり合い、距離をとると麗の額から汗が流れる。
「(やっぱり骸霧の力は魔法では治せないかもしれない…。力が抜けていく感じがする…)」
苦しそうに顔を歪めていると、鳴尾が口を開く。
「お前が思っていることを言っておくと、骸霧の力は魔法では治らない。…あー、あいつならできそうだけどな」
思っていたことを見透かされて驚いたが、意識を集中させて剣を強く握る。
それを聞いていたトウマが二人の顔を浮かべる。
「彰羅が言っているのは大野か佐月だな」
「そうか。二人とも巫女の力を持っているから、もしかしたら骸霧の力を弱めることができるかもしれないな」
トウマの隣で滝河が納得したように頷いている。
「ま、それはいいや。今は今で楽しまなきゃな!」
鳴尾は笑って剣を持ち直すと、全身から炎のようなものが噴きだし、それは竜の形に変わっていく。
次の瞬間、鳴尾が大きく踏み込んだ姿が見えた。斬られる。
そう思った麗は咄嗟に攻撃を避けようと後ろに下がる。
「この速さの俺が見えるとは、やるじゃねえか!」
鳴尾は、麗が何かに気づいたことに少しだけ驚いたが、麗を逃がさず何度も斬りかかる。
麗は攻撃を避けたり受けとめていたが、再び、目眩に似た感覚が麗を襲う。
「(さっきより攻撃が重いし、動きが速い…。目で追うのがやっとだ…)」
麗は何とか意識を保ち、鳴尾の攻撃を避けていく。
その時、視界に地面に突き刺さった剣が見える。
「(魔法を解いて剣を取りに行くか、このままチャンスを待つか…どうしよう…)」
麗は鳴尾の力に圧倒されながら反撃する機会を考えていた。
「もう終わりか?!」
鳴尾は麗を睨みつけて挑発するように剣を振るう。手が届きそうな場所には、地面に突き刺さっている剣があった。
さっきよりも身体が重く感じる。
麗がそう気づいた時には、目の前で鳴尾が剣を振り下ろそうとした。
「しまった…!」
麗は僅かに驚いたが、剣を振り上げて攻撃を受けとめようとした。
『!!!』
その時、全員が麗を見て驚いた。
麗は一瞬で地面に突き刺さっていた剣を抜いて右手で握り、そして、左手には光の剣を握っていた。
両手でそれぞれの剣を握り、鳴尾の剣を受け止めていたのだった。
「レイが」
「二刀流…?」
麗の行動は梁木や滝河も考えていなかったようだ。
麗の目つきが変わる。
鳴尾の剣を弾くと、そのまま勢いをつけて踏み出し交互に剣を振り上げる。
「へえ…やるじゃん!」
鳴尾も最初は驚いていたが、次第に楽しそうな表情に変わっていく。
鳴尾の攻撃を受け、苦痛の表情を浮かべながら両手に持つ剣で攻撃していく。
鳴尾が麗の剣を弾き、僅かに距離ができた時、麗は左手で握っていた光の剣を地面に突き刺した。
「空の一雲薙ぎ払う瞬く光よ、輝く刃となり風を弾け…ライトエッジ!」
麗が左手を前に突き出すと、光の剣の前に白く輝く魔法陣が描かれる。そこから無数の光の刃が飛び出すと、鳴尾に向かって加速する。
「!!」
鳴尾は僅かに驚いたが、剣を構え直すと襲いかかる光の刃を全て弾き落とそうとした。しかし、光の刃は勢いを増して次々と鳴尾に襲いかかる。
光の刃は鳴尾の剣を弾くと、鳴尾を覆うように降り注ぐ。
「ぐあぁーーーーっっ!!」
鳴尾の叫び声が聞こえ、やがて光の刃が消えていくと、地面に突き刺さっていた光の剣も消えていってしまう。
麗は震える身体を堪え、苦しそうに大きく息を吸うと、その場に膝をついた。
「レイ!!」
梁木は傷だらけの麗の元に駆け寄り、魔法で傷を治そうと思ったが、前に鳴尾は勝負の最中に手を出されるのが嫌いと言っていたことを思いだし、駆け寄りたい気持ちを抑える。
しかし、梁木の隣で見ていたトウマはいつの間にか鳴尾の方に向かって歩いていた。
「…トウマ?」
トウマは何かを呟いている。
梁木は麗がいる方を見ると、鳴尾もまた全身傷だらけでふらふらと立っていた。
「…よし!」
鳴尾は麗と同じで傷だらけだったが、目の前で膝をついている麗を見てすっきりした様子で笑う。
「終わったな」
鳴尾の動きを見ていたトウマは二人に近づく。それと同時に麗と鳴尾の身体が淡い光に包まれ、一瞬にして二人の傷が癒えていく。
「物語でレイナが二刀流だったが、お前も使えたんだな」
「彰羅は知ってたか?」
トウマの後に続いて滝河と梁木も二人に近づく。
「レイ、大丈夫ですか?」
「…うん、瞳の色も元に戻ってるから、骸霧の力も無くなったみたい」
麗や鳴尾の瞳の色が元に戻り、辺りを覆っていた金色の結界は消えていた。
梁木は麗に近づき、手を差しのべる。麗はその手を取って立ち上がる。
「あくまで俺の意見だが、最初にこいつの手を見た時に、軽そうな剣なのに両手で持つのが変だと思った。それと、合唱会の前に会った時に左手に包帯を巻いていた。もしかしたら、師匠がこいつに何か教えたんじゃないかって思っただけだ」
鳴尾は麗とあまり会っていないはずなのに、麗の動きやちょっとした変化だけで何が起きたか予想をしていた。
「それだけで、そこまで考えるか…」
「彰羅の勘というか洞察力は相変わらず凄いな」
麗は鳴尾の言葉に耳を傾けながら、鳴尾の洞察力に素直に驚く。
「確かに、私は隊長と出会って特訓をしてもらったけど、咄嗟に剣を抜いたのも気づいたら身体が勝手に動いてて…」
麗は自分がしたことを思い返しても、どうしてそうなったか自分でもよく分かっていなかった。
「それと、前より変わったような気がしたから、戦いたくなってみたかったんだ」
鳴尾は両腕を伸ばして大きな欠伸をすると、校舎に向かって歩き出そうとした。
「ま、今日はこれくらいで止めてやるから、もっと強くなれよ」
そのまま校舎に向かって歩き出そうとしたが、何かを思い出して顔だけ振り返る。
「トウマ兄、次はやろうな」
「…分かった」
トウマは半ば呆れたように返事をする。
鳴尾はそれだけ言うと、振り向くことなく校舎の中に入っていった。
鳴尾の姿が見えなくなり、麗は大きく息をつく。
「緊張した…。攻撃してもすごい勢いだし、あの剣も切られたり黒い刃に近づくだけで体力が奪われるんだもん」
「確かに。僕も以前、戦った時はその気迫に何度も心が折れそうでした」
麗の隣で梁木が難しい顔で頷いた。
「彰羅が悪いやつじゃないのは分かって欲しい」
「…本当に戦うのが好きなだけ、というか、あいつ俺に何度も挑むあたりタフだなって思う」
滝河もトウマも鳴尾のことを知っているため、呆れることはあるが、悪いことは言わなかった。
「さ、お前らはテストが終わって疲れただろう。来週の終業式が終わったら冬休みだな」
「追試が無いといいな」
トウマと滝河は笑い、麗と梁木も顔を見合わせて少しだけ不安な様子で苦笑した。
遡ること約一時間前。
生徒会室には神崎と結城がいた。
結城は思い出したように後ろを振り向いてから、目の前の椅子に座る神崎を見た。
「先程、鳴尾が温室に向かう姿を見ましたが…」
「ああ。誰かは特定できないが結界も張られているな」
神崎は特に気にした様子も無く机の上にある書類に目を通している。
「それがどうした?」
「いえ、手を出されないのかなと思っただけです」
結城も特に気にせず、わざとらしく答える。
神崎は結城の意思を理解した上で、呆れたように息をつく。
「…あいつは誰かに勝負を挑む時、邪魔をされることを嫌う。下手に手を出すと、余計面倒なことになる」
「魔法は使えない反面、魔力が無いわけでもない。それに、剣術や身体能力は、もしかしたら生徒会の中でも一際優れているのはないでしょうか」
「鳴尾にしか扱えない骸霧という剣の力もその一つか?」
「否定はしません」
結城は興味がないというより、鳴尾の力を評価していた。
神崎もそれは認めていた。
「それより、今は水沢凛だ。物語の続きも読んでいる。私が召喚して襲わせている魔物も…まあ、時間は要するが倒している。彼女にも私の駒になってもらう」
結城は神崎の一言だけ疑問を抱いたが、神崎の顔を見て密かに微笑む。
神崎は何かを企んでいるように笑っていた。