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再生 40 思いがけない新しいシナリオ

夢を見た。

壊れかけた建物の中で僕達の目の前に氷漬けの青い竜がいる。

それを見て声も出ないくらいだった。僕の周りに滝河さんに似た青年と中西先生に似た女性がそれが何か知っているように驚いている。

建物の中なのに、空気は真冬のように冷えきっていた。



合唱会も終わり、少しずつ秋の気配を感じ始めた頃、学園は学園祭の準備期間の真っ最中だった。

麗と凛は廊下を歩いていた。

「学園には慣れた?」

「うん、まだ分からない場所もあるけど、だいぶ慣れたかな」

「そっか」

麗は二学期から編入した凛が気になり、時間のある時は話をしたり、なるべく一緒に寮に帰っていた。

「学園祭まで二週間きってるし、姉さんも準備で忙しいのに」

凛は麗の気持ちを知っていて、それでも嬉しくて笑っている。

「大丈夫。私のクラスは模擬店だけど、準備は進んでるよ」

「あたしのクラスもカフェをやるんだけど、家庭科部の人達がエプロンの型紙を作ってくれてて、皆でエプロンを縫ってるんだ」

楽しそうに笑う凛を見て、自分も嬉しくなると同時に去年の事を思い出す。

「(去年はユーリと一緒に実行委員だったなあ。覚醒してもうすぐ一年…)」

まだ忘れていないし、悲しくないと言ったら嘘になるけど、あの時より気持ちは落ち着いていた。

「姉さん、どうしたの?」

反応が無かったのか凛は麗の顔を見る。

それに気づいた麗は顔の前で手をパタパタと振った。

「ううん、何でもない。それで、エプロンはできた?」

「まだ。あ、今、教室に行くと葵さんがいるかもしれない」

「葵が?」

思い出したように話す凛の横で、麗は中西の名前を聞いて疑問を抱く。中西は体育を教えているが、凛のクラスの担任ではなかった。

凛のクラスの前を通ろうとした時、教室から女子生徒の悲鳴に似た歓声が聞こえる。それを聞いた麗は小さく驚き、凛はちょうど良いと思い、教室の扉を開ける。

扉を開けると、制服にシンプルな白のエプロンを着けている男子生徒、生徒にフリルがたくさんついたエプロンを着けている女子生徒、そして、中西が黒のベストにズボン、黒の前掛けのようなものを着けていた。

中西の姿を見た麗は驚き、凛は目を輝かせながら中西を見ていた。

「中西先生」

「やっぱり教室にいたー」

麗と凛に気づいた中西は二人を見て恥ずかしそうに笑っている。

「水沢か。こ、これはだな、ダンス部の生徒が家庭科部の生徒にかけ合ってくれて私のも作ってくれたそうなんだが…」

中西は自分の姿を見ながら恥ずかしそうにしているが、まるで前から着ていたようにしっくりとしていて、周りの女子生徒は凛と同じようにキラキラと目を輝かせていた。

「似合ってますよ!」

凛は中西を見て、笑顔で親指を立てる。

「そうか」

中西は安心したように頷くとベストと前掛けを外して腕にかけた。

「当日は少しだけ私も手伝うからな」

「はいっ!」

中西は隣にいる女子生徒に声をかけると、女子生徒は嬉しそうに頷いた。

麗は他の人に聞こえないように小声で話す。

「凛、葵ってこんなに人気だっけ?しかも、男子より女子に」

「他のクラスは分からないけど、結構、女子に人気だよ」

麗が再び中西を見ると、中西の周りにいるのは男子生徒より女子生徒のほうが多かった。

「凛、私も教室に戻るね」

「うん」

中西が声をかけて教室を出るのを見て、麗も凛に声をかけて教室から離れる。

「水沢のクラスも模擬店だったか?」

「はい」

扉は閉めたものの、いつ誰に聞かれるか分からないのか二人は言葉遣いを改める。

「学園祭は生徒の自主性を大切にしているが、楽しみなのは生徒だけじゃないんだ」

そう話す中西の顔は本当に楽しそうだった。

中西と麗は教室の前で別れ、麗は自分の教室に向かって歩いていく。

歩いていると、目の前に手を振る女子生徒が見える。

「水沢さーん」

「柿本さん」

それは同じクラスで演劇部に所属している柿本という女子生徒だった。

「これから練習?」

「ううん、今日は講堂の舞台で打ち合わせ。セットの場所や照明の位置の確認みたい」

柿本と呼ばれた女子生徒は手に筆記用具と舞台の台本を持っていた。

「柿本さん、演劇部とクラスの模擬店と掛け持ちで大変だね」

「演劇部の練習がない時は模擬店の準備してるし、演劇部の練習も予定通りできてるから大丈夫。それに、水沢さんが台本の読み合わせをしてくれるから有り難いよ」

部活とクラスの企画とかけ持ちをしている生徒は少なくない。麗も去年、自分が実行委員をしながらクラスの出し物の準備をしていた事を思い出す。

「劇は悲劇だっけ?」

「そう。お姫様は隣国にいる王子様に恋をするんだけど、二人の親がそれを許さなくて…。まあ、結ばれない恋っていうの?」

柿本は台本をめくりながら答える。台本をよく見ると、マーカーで台詞に線が引いてあったり、ページの角が折ってあった。

「私、そろそろ行くよ」

柿本は腕時計を見ると、台本を閉じて廊下を歩いていく。

「またね」

麗は手を振り柿本を見送ってから教室に入っていった。



二日後。

梁木が一階の廊下を歩いていると、向こう側からトウマ、フレイ、カズが歩いてくる。

「ショウ」

トウマは手を上げると、梁木も気づいていたのかトウマの前で立ち止まる。

「トウマ、講堂の帰りですか?」

「ああ、今年も舞台に出させてもらうことになった」

「レイから聞きました。去年、講堂でライブをしたんですよね。僕はクラスの出し物があって見れませんでしたが…」

「梁木君」

「今年は見に来てくれる?」

トウマの後ろでフレイとカズがにっこり笑っている。

「そうですね。当番の時間じゃなければ見に行きます」

梁木もつられて笑って答える。

「今年の舞台担当の役員は高屋らしい」

「えっ!?」

トウマは周りに誰もいない事を察すると、少し目つきが変わる。

「去年は純哉が担当だったが、高等部の生徒会役員は少ない。何もないといいんだが…」

「…レイは今年はクラスの出し物だけと言っていたのですが、気をつけておきます」

高屋は特に麗を狙っているように思い、梁木もトウマも僅かな不安がよぎる。

「…トウマ」

「何だ?」

梁木は話そうかどうか悩んだが、学園祭の準備で次にいつ会えるか分からないと思い、話をする。

「いえ、学園祭とは関係ありませんが、先日夢を見まして…。光り輝く炎に包まれたトウマ…いや、あれはスーマでしょうか。その夢を見た後に、物語の第二章が書かれました」

「……」

トウマは頷きながら梁木の話を聞いている。

「そして、昨日、荒れ果てた建物の中で氷漬けの青い竜を見つけ、滝河さんに似た青年と中西先生に似た女性が出てきた夢を見ました…。もしかしたら、また続きが書かれているかもしれない…」

話を聞いていたトウマは氷漬けの青い竜と聞いて、後ろを振り返る。

「青い竜か」

「氷と言えば…」

「水…?」

フレイとカズは顔を見合わせて梁木の言葉から考えている事を答える。

「水と言えばプール…。そういえば、純哉は水泳部だったし、それ以外でもよく第二プールに行ってたな」

「去年も確か、第二プールにいました」

「滝河君は僕達に警戒していましたけどね」

フレイとカズは懐かしそうに笑いながらトウマの顔を見る。

「あいつが言うには、特に第二プールが落ちつくらしい」

三人が話している中、梁木は自分の一言で話がまとまらなくなってしまったと思い、慌てて謝る。

「す、すみません。僕の一言で考えさせてしまって…」

梁木の言葉にフレイとカズは梁木の反応に笑う。

『気にしないよ』

「そうだ。付き合いが短い訳じゃないし、いちいち謝らなくてもいい」

トウマも苦笑している。それは怒っているとか迷惑とかそんな表情ではなかった。

「お前は遠慮してるかもしれないが、今みたいに何かあったら話してくれ」

梁木は麗やトウマ達に出会えて、少なからず感謝していた。遠慮というより誰かに迷惑をかけてしまうかもしれないという気持ちがどこかであった。しかし、麗やトウマ達は自分は自分でいいと思えるような気持ちになれた。

「ありがとうございます」

梁木は安心したように笑う。

「よし。俺達は大学部に戻るか」

トウマは納得すると顔だけ振り返ってフレイとカズを見る。

『はい』

二人は同時に頷き、トウマ達はまた廊下を歩いていく。

梁木も廊下を歩き、階段を上っていった。


滝河が二階の来客用の入口で靴を履き替えていると、階段を上る足音が聞こえる。

「あ、滝河さん」

滝河が右を向くと、階段を上っていたのは凛だった。凛は滝河に近づく。

「水沢」

「あたしも名前でいいですよ」

「分かった。…学園には慣れたか?」

「はい、だいぶ慣れました」

まだ名前で呼ぶことに慣れていない滝河は名字で呼んだが、凛は気にしない様子で笑う。

「学園祭、近いな」

「はい。あたし達のクラスはカフェをやるんですよ。良かったら、滝河さんも遊びに来てください」

「ああ」

目の前でにっこりと笑う凛を見て、滝河に小さな葛藤が生まれる。

「(…俺は、どうしてぎこちないんだ?)」

麗だけではなく、他の女子生徒には普通に接してきたはずなのに、凛はうまく言葉が見つからない時がある。

「(妹は能力者じゃないし、関わってほしくないって言っていたな)」

滝河は双子の姉である麗の言葉を思い出す。

「えっと…、学園は色々なイベントがある。まだ慣れないところもあるかもしれないが、学園祭…うまくいくといいな」

「はい、ありがとうございます」

凛は滝河の顔を見て微笑む。

その顔を見て、滝河も嬉しくなって微笑んだ。

「あたし、教室に戻ります。失礼します」

凛は頭を下げると、後ろを向いて再び階段を上っていく。

滝河は凛の後ろ姿を見送ると、廊下を歩き出した。


階段を上り、自分の教室に戻ろうとした凛は、ふと、左を見た。

「そういえば、図書室ってあんまり行ったことないかも。ちょっとだけ見たら戻ろう」

そう思い、左を向いて図書室の扉を開ける。

図書室は学園祭の準備期間中でも普段と変わらず、本を読んだり、調べものをする生徒が何人かいた。

凛は図書室の奥に向かって歩き、本棚に並べられた本を見ていく。

突き当たりの角を左に曲がると、SF・ファンタジーという見出しのある本棚を見つける。何となくそこで立ち止まり、上を見ると一冊の本が目についた。

「WONDER WORLD…」

少し色あせた深い緑色の表紙の本は金色の文字でWONDER WORLDと書かれていた。

「へえー…」

凛は興味を持って本を手に取る。

表紙を開くと、突然、本から光が溢れて強い風が吹きだした。

「!!」

強い光に驚いて凛は視線を反らす。

本はひとりでに音を立ててめくれ、輝く光と風はしばらく止むことはなかった。

やがて、光と風がおさまると、凛はゆっくりと目を開く。

「…何だったんだろう?」

凛が不思議に思っていると、近くの窓が開いている事に気づく。

「窓、開いてたっけ?」

自分がそこに着くまで、窓が開いていたかどうか気にとめていなかった。

凛は窓の上に掛けられている時計を見る。時間は四時を過ぎていた。

「いけない!教室に戻らなきゃ!」

凛は慌てて本を閉じて本棚に戻すと、早足で図書室を出ていく。

その後ろ姿を結城が見ていた。



次の日。

朝、麗が教室にいると、誰かが教室に入ってくる。

「水沢さん、おはよう」

麗が振り返って挨拶をしようとした時、いつもと違う事に気づいて驚く。

「か、柿本さん?!」

彼女の声に元気がなかったのは、右足の包帯と一本の松葉杖のせいだった。

「足、どうしたの?!」

「昨日、階段から足を踏み外しちゃって。他に怪我はないんだけどさ…」

「学園祭まで一週間…舞台はどうするの?」

悔しそうな顔をしている柿本を見て、麗は演劇部の舞台の事を考える。

台本の書き込みの量や舞台に対する彼女の心構えは、麗がよく知っていた。

「衣装もできてるって言ってたし、とりあえず、お昼に打ち合わせがあるから行ってくる」

「…そう」

松葉杖を使って自分の席まで歩く彼女はどこか悲しそうだった。


放課後、クラスメイトと模擬店のためにポスターに絵を描いていると、教室の入口から声が聞こえる。

「水沢さん、ちょっと家庭科室に来てくれないかな?」

柿本に言われて、麗は絵を書いている他の生徒に声をかけ、柿本について教室を出る。

「お昼休み、どうだった?」

階段の手すりに手をつきながら松葉杖を使って階段を上っていく柿本に問いかける。

「……うーん、まあ、家庭科室で話すよ」

柿本は言葉を濁して苦笑する。

麗は不思議に思いながらも柿本についていく。

五階の家庭科室の扉を開けると、劇に使うと思われる衣装を着ている生徒や、メジャーを片手に採寸している女子生徒が何人かいた。

「あ、来た来た」

衣装を着ている女子生徒が柿本に気づくと声をかける。

その横にいる眼鏡をかけた女子生徒が麗に気づく。

「あなたが水沢さんですか?」

「はい」

「私は舞台担当の実行委員です。演劇部の柿本さんから聞いているかもしれませんが、柿本さんが怪我をしてしまい舞台に出られる状況ではありません。しかも、相手役の生徒も盲腸でしばらく入院する事になり、代役を探しています」

メジャーを持っていた女子生徒が続けて話す。

「衣装はほとんど出来てて、今から手直しをすると本番まで間に合いません。そこで、柿本さんに聞くと、サイズが合って、台本の読み合わせをしている水沢さんの名前があがりました」

「…………えっ?」

二人の言っている事が理解できなくて、麗は前にいる柿本をじっと見る。その視線に気づいたのか、柿本は振り返り両手を合わせて頭を下げる。

「水沢さん、お願い!代わりに劇に出てほしいの!」

「え…えーーっ!!」

ようやく自分の身に何が起きたか理解した麗は声をあげて驚く。

「そ、そ、そんな、演劇部じゃないし、台本を読んでるって言っても全部じゃないし無理だよ!」

「分かってる!でも、こんなこと頼めるのは水沢さんしかいないの!」

麗は柿本が学園祭でやる劇の台本をもらった時から、どんな気持ちで練習を続けていたのか知っていた。しかし、演劇の経験がない自分が出ることによって演劇部に迷惑をかける、自分にはできないと思っていた。

二人の話を聞いていた衣装を着ている女子生徒が柿本に声をかける。

「私達のことはいいのよ」

「え?」

「柿本ちゃんは、私達三年生にとって最後の舞台だから成功させたいって思ってるのよね?」

「…はい」

女子生徒は柿本の気持ちを察した上で話を聞いていた。

「まだ時間はある。今から台詞を直したり、衣装を直したり、代役を探したりして残りの時間を有効に使いましょう」

柿本はがっくりと落ち込む。女子生徒の言い分は間違ってなかった。

麗の演劇の経験は小学生の劇以来だった。クラスメイトを助けたい気持ちはあるが、自分にはできないと思い悩む。

でも、彼女が遅くまで練習しているのを知っていた。

柿本は手を下ろして、顔を上げる。

「水沢さん、ごめん…やっぱりいいよ。他を考えるね」

諦めきれないような顔をしつつ、どこかで分かっていた柿本は謝った。

「……私、やってみるよ」

「えっ?」

麗の一言に、柿本は変な顔をする。

「柿本さん、ずっと楽しみにしてたって言ってたし、私じゃうまくいかないかもしれないけどさ…」

悩みながらも答えてくれた麗を見て、柿本は驚いて目を潤ませるとぼろぼろと泣き出した。

「水沢さん…ありがとう…!」

柿本は松葉杖を脇に挟み、両手で麗の両手を握って上下に大きく振る。

それを見ていた衣装を着ている女子生徒が麗を見て笑った。

「ありがとう。台本は少し見直すとして、次は衣装ね」

女子生徒は机の上に置いてあった衣装を手にすると、麗に渡した。

数分後、柿本達は一点を見ていた。

「…ほぼぴったり」

柿本が着るはずだった衣装は麗にぴったり合っていた。

麗は初めてドレスを着て、嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちが合わさったような気分だった。

メジャーを持っていた女子生徒も驚きながら感心したように頷く。

「お姫様の衣装は問題ないですね。後は王子様…」

女子生徒は後ろにある準備室と繋がる扉を見ると、大きな声を出した。

「お姫様は問題ないでーす。そっちはどうですかー?」

少しの間の後、扉越しに男の声が聞こえる。

「こっちも大丈夫でーす」

麗が不思議な顔で扉の方を見る。

「王子様役の代役の人に衣装を着て、待ってもらっていたの」

扉が開くと、一人の男子生徒が出てくる。

「いやあ、こっちも衣装の手直しをしなくて良かったです。ほとんど合ってました」

安心したような顔をする男子生徒の後からマントの端が見える。

『………え?』

二人は互いを見て驚いて声を出す。

準備室から出てきたのは王子様の衣装を着た高屋だった。

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