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再生 39 記憶の印

内藤は能力を封印され、持っていたハープは落ちて壊れてしまう。

ハープについていた赤い玉が外れて転がり、皆がそれに手を伸ばしている中、拾い上げたのは麗が温室で出会った男性だった。



突然現れた男性に、麗以外の全員が驚いて警戒している。

男性の薄い橙色の瞳は、自分達と同じ能力者ということを表していた。

男性は拾い上げた赤い玉を太陽にかざすと、ゆっくりと口を開く。

「混沌の焔…深紅の瞳」

その瞬間、赤い玉から激しい炎が吹き出して人の形に変わっていく。

透き通った身体、揺らめく火のような髪に尖った耳、そして、炎のような法衣を纏っている。

それはゆっくりと目を開いて辺りを見回した。

「我ハ火ノ精霊サラマンドラ。混沌ノ焔ヲ携エ、生命ノ燈火ヲ支配スル万物ナリ」

「あれが…」

「火の精霊サラマンドラ」

滝河と梁木はサラマンドラを見て更に驚き、トウマは後悔しているような表情でサラマンドラを見上げる。

「やっぱり先生のハープに潜んでいたか…」

男性は麗を見るとやや困ったように笑う。

「麗、すまなかったな。これは私達の役目なんだ」

「隊長…」

『!!』

トウマ達は男性が麗を知っていることにも驚いたが、麗が男性を知っていることにも驚いていた。

特にトウマ、梁木、滝河は麗が男性を知っているというより隊長という名前に反応する。

「内緒にしろって言ったのに…」

男性は小さく溜息を吐くと、近くにいる高屋とトウマを見て楽しそうに笑う。

「お前達も、せっかく言葉が浮かんだのに残念だったな」

『!!!』

男性の一言に、トウマと高屋は考えていたことが言い当てられて、驚きを隠しきれなかった。

それまで何も動かず男性の背後に佇んでいたサラマンドラは男性を睨みつける。

「…汝、選定者ナリ」

そう言うと、サラマンドラは右手を上げる。

すると、屋上を囲っていた炎がサラマンドラの右手に吸い込まれていく。

「後はお前達に任せるとしようか」

屋上を囲っていた炎が消えて炎がサラマンドラと男性を包むと、炎と一緒に男性とサラマンドラの姿は消えていく。

男性とサラマンドラが消えた後、全員が何が起きた分からず呆然としていたが、高屋の背後に立っていた滝河が口を開く。

「おい」

滝河は高屋に向かって鏡牙を構えていた。

「大人しくしろ」

威圧している滝河は、今にも切りかかりそうだった。隣で梁木は何か呪文を唱えている。

高屋は振り向こうともせずに笑う。

「いいえ、まだやることがあるので失礼します」

高屋の身体が紫の霧に包まると、一瞬にしてどこかに消えてしまう。

その直後に梁木の呪文が完成する。

「ブレスウインド!!」

梁木が両手を前に突き出すと、両手の回りに風が起こり、風の刃が現れる。

風の刃は加速して月代に襲いかかる。

月代は翼を広げると風の刃を次々に避けていく。

「漆黒の翼…マリスの能力者…」

梁木は月代の背中に生える漆黒の翼を見て、自分と同じように翼が生える能力者がいることに驚く。

「…禁忌の異端児」

月代は梁木を睨むと、翼を羽ばたかせてどこかへ飛んでいってしまう。

「僕がカリルの能力者だと知っている…?」

物語を最初から読まない限り、梁木がカリルの能力者だと分からない。月代は、翼が無い梁木をカリルの能力者だと気づいていたのだった。

屋上を囲っていた炎が消えると、瞳の色が元に戻っていく。

トウマが麗の側へ近づくと、梁木達も麗に近づいた。

「レイ、聞きたいことがある。さっきの男…隊長って言ってたけど、会ったことがあるのか?」

麗は男性から内緒にしてほしいと言われていたが、ばれてしまったので、少しだけ考えてから答えた。

「始業式の日に温室で会ったの。名前は教えてくれなかったけど、初めて会った時に、何故か物語のファーシル隊長が頭をよぎって…」

「やっぱり隊長っていうのはファーシルの能力者だったんだな」

麗の言葉にトウマ、梁木、滝河は反応して頷く。

麗は話を続ける。

「そこで剣の特訓をしてもらったの。隊長は温室にいることを誰にも話すなって言ってたけど…理由は教えてくれなかった」

麗の言葉を聞いて、梁木は麗の左手首に巻かれている包帯の理由を知った。

「…俺が去年、温室で強い力を感じて中に入った時は何もなかったぞ」

トウマは思いだしたように呟き、麗もトウマの言葉を聞いて去年、自分がトウマを見掛けたことを思い出す。

「あ、その時、見掛けたよ。学園祭の後に階段の窓から」

「…もしかしたら、機会を伺っていたのかもしれないな」

「ところで、トウマはどうして屋上に私達がいるって分かったの?」

男性が誰で、どこに消えてしまったか、ずっと話していても話が前に進まないと思った麗はトウマに質問する。

「俺は図書室に行ったら物語の続きが書かれていて、読んでいたら上から力を感じて屋上に来たんだ」

「俺もだ」

「僕も同じです」

滝河の返事に隣にいた梁木が頷く。

「えっ?物語の続きが?!」

麗は物語の続きが書かれていた事と、三人が同じ理由で屋上に来た事に驚いた。

「ああ。レイはまだ読んでないのか?」

「…うん」

「内容は言ったほうがいいか?」

「ううん、明日…できなかったら、合唱会終わったら自分で見に行く」

麗は首を横に振って答える。

物語の続きを知っている三人は麗が望むなら続きを話そうとしたが、麗がそれを望まなかったので、これ以上の話はしないと決めた。

「トウマ様」

それまで四人の話を聞いていた佐月は、話が落ち着くのを待ってから話を切り出した。

「あの…内藤先生はどこに行ってしまったのですか?」

佐月は内藤に何が起きたか分からず、不安な表情でトウマを見た。

トウマは佐月が消えてしまった理由を知らないと思い、佐月の方を向いて答える。

「実際に見るのは初めてだな。能力者の中に力を封印できる人物がいる。力を封印された能力者は力を失い、覚醒してからの記憶が無くなる」

「………え?」

一瞬、言葉を理解できずに佐月の思考が固まった。

「実際、封印された人物に会っても、何も知らない様子だった」

トウマは封印された人物に会った時、本当に今までの記憶が無いのを何度か見てきた。

「記憶がなくなる…。ということは、あたし達の事も覚えていないのですか?」

「お前と内藤先生がいつ覚醒したかは分からないが、少なからず今日の事は覚えていないだろう」

トウマは眉間に皺を寄せて答える。

「そんな……」

トウマが嘘を言っているようには思えず、麗達も何かを思い出して辛い表情をしている。

それでも佐月には信じられずに表情が強張る。

「…その力を封印することができる人物はあの人だけなんですか?」

佐月は少し俯いて問いかける。

「力を封印できるのは今のところ俺と高屋だけだ」

「えっ?」

内藤の力を封印した生徒の名前が高屋と分かった事よりも、トウマも力を封印できる事が佐月にとっては驚く事だった。

「だから、あの時…!」

佐月は何かを思い出してトウマの顔を見た。トウマは何も言わずにをたしなめるように佐月を見る。

それに気づいた佐月はすぐに頭を下げた。

「も、申し訳ありません!」

二人のやり取りに何か引っ掛かるようなものがあったが、それより気になることがあった梁木が口を開く。

「トウマ、彼女は誰ですか?」

「俺も気になっていた」

隣で滝河も答える。

梁木と滝河と初対面だという事を思い出した佐月は慌てて頭を下げる。

「ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。あたしは高等部二年の佐月絢葉、大天使に仕えていたフィアの能力を持っています」

「フィア?」

フィアという名前に二人は反応する。

「さっき、俺達は図書室で続きを読んだが、フィアが出てくる」

「後…あ、でも、続きは自分の目で確かめたほうがいいですね」

梁木は続きを話しそうになったが、佐月も麗と同じで続きを読んでいないと思い、話すのを止めた。

「今日の事は大野に伝えておくとして、これ以上ここにいても仕方ない。また改めて話さないか?」

結界が消えて、サラマンドラと共に男性もどこに消えてしまった。トウマはもうここにいる理由はないと思った。

「そうだね」

麗が答えると、梁木達も同じように頷いた。

先に扉を開けて出ていく梁木達に続いて麗も出ようとしたが、何かを感じて振り返る。

「…」

しかし、そこには何もなく、麗は気のせいだと感じて屋上を後にする。



次の日の朝。

鳴尾は生徒会室にいた。

始業前に呼び出された鳴尾は顔を反らして欠伸を噛み殺すと、目の前に座っている神崎の方を見る。

神崎は特に気にせず鳴尾に話し掛ける。

「鳴尾、朝早くに呼び出してすまないな」

「いえ。で、何の用ですか?」

教師と生徒という立場は弁えているが、鳴尾は面白くないという様子だった。

「昨日、高屋から報告があった。屋上で高屋が内藤先生を封印し、火の精霊サラマンドラが現れたが、突然、現れた男と一瞬に消えてしまった、と」

「……」

鳴尾は表情に出さないようにしていたが、内心は面倒な話だと思っていた。

「水沢麗は男を隊長と呼んでいたそうだ。物語の中で隊長と呼ばれる人物はヴィースが師と仰ぐファーシルだけだ。お前はその男と会ったことがあるか?」

「一学期の終わりに会いました」

鳴尾は言葉を濁したりしないで普通に答える。

「それで、会って何をした?」

「別に。ただ、剣を打ち合っただけ。俺も剣を振るいたかっただけだし…」

「…」

神崎は鳴尾に対して疑った表情で見ていたが、それにすぐ気づいた鳴尾は少しだけ楽しそうに笑った。

「神崎先生、俺と剣で打ち合ってくれますか?」

鳴尾は射抜くように神崎を見ている。

「……お前の剣術と体力は群を抜いている。遠慮しておこう」

神崎の言葉を聞いた鳴尾はつまらなさそうに溜息を吐く。

「他に何かありますか?」

「いや、話は以上だ」

「…分かりました」

用件が終わったと分かると、くるりと向きを変えて入口に向かって歩き出す。入口の前で思いだしたように一礼すると、扉を開けて生徒会室から出ていく。

扉が閉まった後、神崎は溜息を吐くと椅子から立ち上がる。

「…あからさまな態度をしやがって」

それは、苛立ちというより困惑に近かった。

「(しかし、骸霧という魔法剣と鳴尾の滞在能力…実際に戦うとしても簡単にはいかないだろうな)」

その時、始業前のチャイムが鳴る。

「確か明日は合唱会…。その前に続きを読みに行くか」

神崎も扉を開けて生徒会室を後にする。


放課後。

昨日の事が気になった麗は温室に向かっていた。

合唱会の前にもっと練習したいと思ったが、それより先に昨日の事が気になっていた。

温室に着いた麗は扉を開けて中に入る。

「(前みたいな力は感じないし、誰かが隠れてる…と言っても、温室じゃ隠れる場所なんて無いよね)」

温室は木々や鉢植えなどもあったが、人が一人隠れる場所は見当たらなかった。

誰もいないことを確認すると、温室から出ていく。

扉を閉めると、麗を呼ぶ声が聞こえる。

「レイ」

麗が振り向くと、トウマが近づいていた。

「レイも温室を見に来たのか?」

トウマは麗の前で立ち止まると、温室を見た。

「うん。じゃあ、トウマも?」

「ある意味、温室だな」

トウマの答えに、麗は疑問に思ったが、再び遠くから声が聞こえる。

「トウマ兄ー」

二人が振り向くと、鳴尾が走ってきていた。

「彰羅」

鳴尾はトウマの近くで立ち止まると、隣にいる麗に気づく。

「水沢がいる!」

「今頃、気づいたのか」

トウマは、鳴尾が麗に気づいていなかったことに対して苦笑する。

「まあ、いい。ここに来ればお前も来ると思ったのは間違いじゃなかった」

トウマは鳴尾を見る。

「(一学期の終わりに比べると、少し雰囲気が変わったか?)」

トウマと鳴尾が最後に会ったのは一学期の終わり頃。それに比べると、鳴尾は見た目も雰囲気も少し変わっていたように見えた。

「どうした?」

「何でもない。ところで、彰羅、前に温室である男性に会わなかったか?」

トウマは名前が分からない男性をどう呼ぼうか考えたが、とりあえず思っていることを口にする。

「ああ、トウマ兄もか」

「俺も?」

「朝、呼び出されて神崎先生にも聞かれた。昨日、屋上で師匠が現れたんだってな」

『!!』

神崎も同じことを聞いていた事に麗とトウマは驚く。

「高屋が神崎に話したか…」

生徒会の中で昨日の出来事を知っているのは高屋と月代の二人、トウマは鳴尾は嘘をついていないと考えた。

「一学期の終わりに、温室で師匠と会って特訓をしてもらった」

「鳴尾さんも隊長に会ったんですか?」

それを聞いて麗は鳴尾に問いかける。

「ああ。その言い方だとお前も師匠に会って力をつけてもらったな」

鳴尾は麗の顔を見て答え、何かを考える。

「お前、俺と剣で打ち合わないか?」

「…え?!」

麗は前に鳴尾が梁木と戦った事、鳴尾に自分が標的になった事を思い出して警戒する。

しかし、鳴尾は麗の左手首に巻かれている包帯に気づくと、つまらなさそうに舌打ちして両手を頭の後ろに組む。

「なんだ、怪我してるなら本気を出せないな」

鳴尾はちらっとトウマを見る。

「トウマ兄、代わりにやらないか?」

「しない」

鳴尾の期待とは反対に、トウマは即答した。

「だいたい、明日は合唱会だろ?来月は学園祭の準備もある。そもそも、お前は三年生だ。大学に行くか行かないかはお前次第だが、高校生活の行事は大事にしておけ」

トウマは年上だからか経験なのか、鳴尾に説教を始める。

鳴尾は聞きたくないのか、明らかに嫌そうな顔で両手で耳を塞いでいる。

「分ーかーっーてーるー!」

二人のやり取りを見ていて、麗は新鮮に感じる。鳴尾との接点はほとんど無いが、トウマが自分や梁木達に見せる顔と違っていた。

トウマは小さく溜息を吐く。

「まあ、合間を見て俺達が相手してやるから」

「本当かっ?!」

それまで嫌そうな顔でトウマの話を聞いていた鳴尾は、トウマの一言で嬉しそうに目を輝かせる。

「分かった、今日は大人しく帰る。約束だぞ!」

そう言うと、鳴尾は手を上げて走り去っていく。

トウマは手を振って鳴尾の背中を見送るが、何かを思い出す。

「……レイ」

「何?」

「…さっき、彰羅に俺達が相手してやるって言ってしまった」

「……」

麗はさっきのトウマの言葉を思い出す。何かに気づいた麗は焦り始める。

トウマは「俺達」と複数系の言葉を使っていた。

「あ……!」

その言葉に麗自身も含まれている事に気づいた麗はトウマの顔を見て更に焦りだす。

「トウマ!」

「咄嗟に出てしまったんだ…すまない、諦めてくれ」

トウマは申し訳なさそうに苦笑する。

まだ先の出来事を考えるだけで、憂鬱な気分だった。



合唱会当日。

土曜日の授業は無くなり、代わりに午後まで発表が行われる。

講堂の舞台では、麗達のクラスの発表の直前だった。ピアノの伴奏が聞こえる。麗は内藤の言葉を思い出し、皆で楽しく歌うことを意識する。

発表が終わり、拍手に包まれながら麗はクラスメイトと一緒に舞台の袖に移動していく。

発表が終わって一段落した麗はほっと息をついた。

その時、麗の後ろから佐月が現れる。

「麗様」

佐月は麗達だけに聞こえる声で名前を呼ぶ。

麗と梁木が振り返ると、佐月は二人の目の前で立ち止まった。

「……」

佐月は口唇を噛むと声を震わせる。

「…本当に、内藤先生は覚えてないんですね」

佐月はクラスの発表後、内藤に今まで練習してきた事を話した。しかし、内藤は何も覚えていない様子だったらしい。

「…私も大切な友達が居なくなった時、誰も覚えてなくて、本当に辛かったです」

麗は毎日のように一緒にいた彼女の事を思い出して俯いた。

梁木も彼女の事を思い出して苦しそうな顔をする。

佐月は、麗も梁木も自分と同じ気持ちを経験していた事を知って更に落ち込む。

しかし、落ち込んでいた空気を変えたのは麗だった。

「…私はこれ以上好きな人達の記憶が無くならないようにしたい!」

「そうですね」

それを聞いた梁木は麗と顔を見合わせて頷いた。

俯いていた佐月は顔を上げて麗の顔を見る。

何かを決めた麗の表情はきりっとしていた。

「あの…もし、宜しければ合唱会の後に、物語の続きを読みに行きませんか?」

佐月は麗に提案をする。一昨日、トウマ達から物語の続きが書かれている事を知ったが、佐月はまだ図書室に言っていなかった。

「はい、分かりました」

「何かあった時のために僕もついていってもいいですか?」

「うん」

「では、後で図書室で」

三人は頷いて、残りのクラスの発表を聞くことにした。


合唱会が終わり、麗、梁木、佐月は図書室にいた。室内で大野と会い、四人で物語の続きを読むことにした。



物語は、旅の吟遊詩人アーヴァとフィアが現れ、アーヴァが持つハープに火の精霊サラマンドラが潜んでいた事が書かれていた。サラマンドラによって森が火の海に変わってしまい、フィアはサラマンドラに攻撃をする。サラマンドラはフィアに攻撃し、避けきれないフィアを助けたのはスーマだった。

スーマの助けもあり、その場は難を逃れて、スーマはまたどこかへ消えてしまった。



「一昨日と同じ、内藤先生が持っていたハープに精霊が宿っていた…」

物語を読み終わった後、最初に口を開いたのは佐月だった。

本を持っている麗も隣にいる大野も驚いている。

「僕と滝河さんは、一昨日、物語の続きを見つけて急いで読んでから屋上に行きました。…トウマは僕達より先に続きを読んだみたいですね」

「トウマ様から話は聞きましたけど、サラマンドラは言葉を解放した男性の中に溶けこんだり、大きな力を得たわけではないんですよね?」

一昨日の出来事を見ていなかった大野は、三人の顔を見る。

「そうですね。ノームやシルフの時と違って、男性は言葉を解放して、サラマンドラと一緒に消えたように見えました」

「もしかしたら、サラマンドラはまだどこかに存在してるという可能性もあるかもしれませんね」

梁木と大野の話を聞いていて、麗に小さな疑問が生まれる。

「大野さん、中西先生も言ってたけど、精霊を解放する言葉は突然浮かんできたんですか?」

「中西先生に聞いていないので同じかは分かりませんが、初めてノームと会った時、すっとその言葉が浮かびました」

大野はノームと会った時の事を思い出しながら答える。

「…その男性、私は隊長って呼んでたけど、トウマと高屋さんに、言葉が浮かんでいたのに残念だったなって言ってた」

「確かにそう言ってましたね」

麗の言葉に、梁木も思い出しながら答えた。

突然現れ、サラマンドラと一緒に消えてしまった以上、本人に会って確かめるという選択肢はなかった。

麗が次のページをめくると、新しい題名が書かれている事に気づく。

「次のタイトルが書かれてる…!」

麗の言葉に反応して、梁木達は話を止めて麗が開いている本に視線を落とす。

「…美しき勝負師」

佐月は題名を口にする。

「僕達が読んだ時はありませんでした」

一昨日読んだはずの梁木は、新しい題名が書かれている事を知らなかった。

「まだ、私達が知らない人物っていたかな?」

麗は物語を思い出す。梁木、佐月、大野も考えている。



その頃、中西は職員室でくしゃみをしていた。

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