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再生 30 重なる闇の望み

トウマの身体を乗っ取ったシェイドは階段を上っていた。

自分の意思と違い、二階の来客用の入口で靴を履き替えから階段を上ったのは、どこかでトウマの意識がまだ残っていたのかもしれない。

そんな事を一瞬だけ考えると、すでに五階に着いていた。

「(神竜としての記憶、それに、この器の記憶と力…少しずつ流れていく)」

廊下を歩いていくと、右手に階段が見える。

「(この辺りは特に強い力を感じる…)」

シェイドは一度立ち止まると辺りを見回した。それから階段の先を見上げる。

「やはり光はここか。その前に…」

シェイドは左を向くと、扉の上に生徒会室という札がかけられている場所を睨みつける。

「軽く押さえつけるか」

煩わしいという表情で呟くと、目の前の扉を開けた。

扉を開けると、中央にあるやや楕円形のテーブルと窓際には二つの机があり、楕円形の椅子には高屋、窓際の椅子には結城が座っていた。そして、窓際には神崎が立っていた。

高屋と結城は突然現れた人物に驚いて立ち上がり、それと同時に警戒した。三人にとってトウマは目障りな人物だった。

「相良斗真……?」

高屋の瞳が赤色に変わる。

「いや、覚醒した相良斗真の瞳の色は薄い緑色だったはず。しかし、今は赤色…」

いつも冷静な結城も驚いている。結城の瞳も黄金色に変わり、扉の前に立つ人物を睨む。

生徒会室に入ってきた人物は少しだけ辺りを見回し、窓際に立つ神崎を睨んだ。

「我の力が流れているからどんな奴がいると思ったら…。それに鍵もいないとなると、ここには用はないな」

シェイドは自分の思っていた事と違った様子で溜息を吐く。

「我の力……?」

神崎の瞳も赤色に変わり、目の前に立つ人物の言葉に何か違和感を覚える。

神崎、結城、高屋の三人に共通するのは闇の力だった。

「まさか……っ!!」

それに気づいて更に驚いたのは結城だった。神崎もそれに気づき、ゆっくりと口を開く。

「闇の精霊…シェイド」

神崎と結城を見たシェイドは見下すように笑った。

「そうだ。我は闇の精霊シェイド」

シェイドが答えた瞬間、押し潰されそうな空気が流れ、三人は精霊がそこにいると認識すると眉をひそめてさらに警戒した。トウマが闇の精霊シェイドの力を得たのか、闇の精霊シェイドがトウマの身体を操っているのか分からない。

しかし、覚醒したトウマを知っている三人は、瞳の色や雰囲気が違うと感じていた。

「相良斗真が闇の精霊の力を得た…という訳ではありませんね」

睨まれただけで萎縮してしまいそうになる身体を抑え、高屋は笑いながらシェイドを睨みつけた。

「否、この器はすでに我のものだ」

「物語と同じ、ということか…」

神崎も僅かに警戒した様子で一歩、踏み出した。

「お前、この身体に印を刻んだな?」

シェイドは神崎に問いかけた。

神崎は強気に笑ったまま答えようとしなかった。シェイドは鼻で笑い、踏み出すこともなく踵を返す。

「まあ良い。鍵がいないのなら我がここにいる意味はない」

シェイドは三人に背を向けて扉を開けると、再び振り返り三人を睨みつけた。

「ああ…消されたくなければ、我の邪魔はしないことだな」

そう言うと、シェイドは生徒会室を後にした。

扉が音をたてて閉まり、生徒会室を覆っていた冷たく押し潰されそうな空気は少しずつ消えていく。

シェイドが生徒会室からいなくなった後も、三人はシェイドの存在とトウマの身体に乗り移った事に驚いていた。

「まさか、物語と同じになるとは思わなかった…」

結城は冷静でいるつもりだったが、自分自身少なからず動揺していたようだった。

「しかも、私が彼の身体に呪印を刻んだのを見透かしていた」

「良いのですか?闇の精霊は何か企んでいますよ?」

神崎も彼の存在と、トウマの身体に呪印を刻んだ事実を知っている事に驚いていた。

高屋はシェイドが去った先を見つめると、振り返って神崎と結城に問いかけた。

高屋はこうなるかもしれないと思っていたが、シェイドの魔力とトウマの魔力が合わさると自分の予想を越えている事に驚き、それと同時に恐怖と、僅かな楽しみが生まれた。

「…良いも悪いも、闇の精霊を止めるのは容易ではない」

敵対する人物の力を封じる事は、自分の実現する事の一つだと思っているが、トウマの能力に闇の精霊の力が加わった今、その力は計り知れなかった。

神崎はそれを分かっていて、相手の様子を伺っていたのだった。

「闇の精霊が言っていた鍵とは一体…。これは何か起きそうだ…」

そう呟くと、生徒会室の天井を見上げてにやりと笑った。


生徒会室を出たシェイドは目の前にある階段の前で立ち止まると、その先を睨む。

「(確か、力がある者が覚醒すると瞳の色が変わる。という事は、神竜の能力者を押さえつけながら、力を出さないようにするのか…面倒だ)」

目を閉じて息を吐いて、再び目を開けると、瞳の色はトウマが覚醒する前に戻り始める。

「あそこから大きな光の力を感じる。鍵を探すのが先か、無理矢理こじ開けるのが先か…」

シェイドが考えていると、少し離れた場所の扉が開き、声が聞こえる。

「あ、トウマー!」

シェイドは声が聞こえた方を向くと、別の教室の扉を閉めて歩いてくる麗がいた。麗が出てきた場所の上には音楽室と書かれた札がかけられていた。

「(この女は……。ちょうど良い)」

シェイドは気づかれないように笑うと、小さく手を上げた。

「(我に気づいていないな)」

麗は笑顔でトウマの前まで歩き、トウマを見上げる。

「トウマ、どうしたの?」

「ちょうど良かった。実は…今からあそこに行こうと思うんだが、一緒に行かないか?」

シェイドは左を向いて上を指差した。麗も同じ方を向くとそこは白百合の間に続く階段があった。

「白百合の間…?」

麗は前に悠梨が白百合の間に向かおうとして、神崎と結城に見つかり捕まってしまった事を思い出して考えた。もしも、自分がそうなった時に逃げる事ができないかもしれない。しかし、麗は自分より強くて戦いの経験があるトウマと一緒なら大丈夫だと思い、小さく頷いて答えた。

「…分かった。トウマと一緒なら大丈夫だね」

「そうか…ありがとう」

麗は一歩踏み出し、階段を上ろうとした。

その後ろで彼はにやりと笑った。

瞳の色が赤に変わっていく。

「水沢」

後ろから聞こえた声に違和感を覚え、麗はおそるおそる振り返った。

階段の一つ下にいる人物は笑っている。

「水沢………って。それに、トウマの覚醒した瞳の色が薄い緑じゃない…」

トウマはいつも麗の事をあだ名で呼んでいた。

今になって自分の事を苗字で呼ぶ事も変だと感じたが、それ以上に、覚醒した瞳の色や普段の表情と違い、何か企んでいるような目つきで自分を見ていた事がおかしいと感じたのだった。

麗の脳裏に突然、物語の最初が浮かび、物語の登場人物であるレイナが戦った相手が頭をよぎる。

麗の表情が強張る。

「スーマを操っていた…………闇の精霊…」

麗の目の前にいる人物は呆れたように溜息を吐くと、さっきまで見せた表情と違い傲慢な表情で麗を睨みつけた。

「…このまま気づかずに大人しくしていれば良いものを」

「!!」

自分の目の前にいるのがトウマではないと分かり、そこから逃げようとしたが、それより早くシェイドは麗の喉元を掴み力を加えた。

「ぐっっ………!!」

「そうだ、我は闇の精霊シェイド。この器は我のものだ!」

「(そんな……!!物語と同じでトウマも闇の精霊に操られちゃったのっ?!)」

喉元を押さえられて声が出ない麗は必死にシェイドの手を離そうとするが、ぴくりとも動かず、力はゆっくりと確実に強くなっていた。

「さあ、大人しくあの扉を開けてもらおう」

シェイドは見下すように笑い、再び階段の先を睨んだ。

「(目の前にいるのはトウマなのに…声もトウマなのに…別人みたいに冷たくて威圧されてるみたい…。怖い……っ!)」

麗は躊躇なく自分の首を絞めるシェイドが怖くなり、うっすらと涙を浮かべる。

呼吸が苦しくなり、自分の両手に力が入らなくなっていく。意識がどこか遠くにいってしまいそうになる。

その時、どこからか声が聞こえる。

「フリーズスピアーッ!!」

シェイドと麗が声に気づいて振り向くと、シェイドが歩いてきた廊下と反対側から、何本もの大きな氷柱が勢い良く加速しながらシェイドを狙う。

「!!!」

シェイドは僅かに驚いて、麗の首を掴んでいた手を離して大きく後ろに下がり、攻撃をかわした。

反対側の廊下から走ってきたのは滝河と梁木だった。

滝河と梁木は階段の前で立ち止まると、滝河はシェイドの前に立ち塞がり、梁木は階段の段差で座り込んで大きく咳をしている麗の元に駆け寄った。

「大丈夫ですか?!」

梁木はうっすら涙を流している麗の背中に触れる。麗の身体は少し震えていた。

「これはどういう事なんだ?!」

滝河は目の前の出来事に驚いていた。

高等部から嫌な気配を感じて梁木と高等部に行ってみるとトウマが麗の首を絞め、更に、トウマの表情と瞳の色が違っていたからだった。

「……」

滝河の目の前の人物は冷たい目つきで笑っている。

滝河と梁木の疑問に答えたのは麗だった。

「トウマは……物語と同じで、闇の精霊シェイドに操られてるの…」

『!!!』

麗の言葉を聞いた滝河と梁木は驚き、目の前にいるシェイドを睨んだ。トウマが覚醒した時の瞳の色は薄い緑だが、今の瞳の色は赤だった。

「そんな…」

「兄貴が…。確かにいつもの雰囲気じゃねえな」

三人が知るトウマはそこには居なかった。

「お前らも力を持つ者か…。しかし、我の目的はそこの女、死にたくなければ大人しくしておく事だ」

シェイドは滝河と梁木を見下しているようだった。麗は落ち着いたのかゆっくりと立ち上がり、梁木は階段を下りて麗の前に立った。

シェイドの言葉を聞いた滝河は、ほんの少し俯くとすぐに顔を上げて声を上げた。

「はい、そうですか……って言うわけねえだろっ!!」

滝河の両手が青く光り、周りに無数の氷が生み出される。

「ダイアモンドブレスッ!!」

氷の粒は刃の形に変わり、不規則な動きでいっせいにシェイドに向かう。シェイドに直撃する瞬間、シェイドの地面が盛り上がり、そこから大きな岩の壁が現れ、無数の氷の刃は全て壁にぶつかって消えてしまう。

『!!』

壁が崩れて消えると、シェイドはただ笑っているだけだった。

その時、シェイドの後ろから足跡が近づいてくる。やって来たのは覚醒した大野だった。大野はシェイドの後ろの辺りで立ち止まると、悲しそうな表情で俯いた。

「大野さん……?」

麗と梁木は何が起きたか分からず大野がシェイドの後ろに立った事に驚き、滝河はそれとは別に驚いていた。

「大野!一体、どういうつもりだ!!」

滝河はシェイドの後ろで顔を反らしている大野に問いかけた。

「…………」

大野は顔を反らしたまま答えなかった。

滝河は大野がトウマが操られてる事を知らないと思い、少し焦ったが、表に出さないように再び問いかける。

「兄貴は闇の精霊に操られてるんだ!!」

大野は何かを恐れるようにぎゅっと目を閉じて、ゆっくりと目を開く。

その顔は苦しく、その表情が答えのように見える。

大野の声は震えていた。

「…申し訳ありません」

その時、大野が両手で持っていた本が形を変え、先端が尖った棒のようなものに変わり、大きな鎌に変わっていく。

『!!』

それを見た麗と滝河は驚いた。大野はいつも礼拝堂にいるとトウマから聞いた事があったが、死神や不吉なものを連想する大きな鎌と繋がりが無かった。

梁木は、大野が地の精霊の力を得た時に本から大きな鎌に変わるのを見ていたが、それでも焦り警戒する。

大野は大きな鎌を構えると、なぎ払うように大きく振った。

すると、大野がなぎ払った場所が大きく揺れ、地面が剥がれると大きな力が急激に加えられたように空気の刃が生まれる。空気の刃は勢いを増すと目の前の滝河に襲いかかる。

「…これが地の精霊の力を得たって事か!」

滝河は今までに見たことの無い大野の力に驚きつつ、意識を集中させて青みがかった白銀の長剣を生み出した。

滝河は空気の刃を剣で弾こうとした瞬間、梁木の魔法が完成した。

「ウインドウォール!」

梁木の放った幾つもの風は滝河の目の前に吹いて壁のように立ち塞がる。大野の放った風の刃は、風の壁にぶつかるとそのまま消えてしまう。

滝河は梁木が魔法を放ったと思って振り向こうとしたが、一瞬、殺意を感じて滝河は咄嗟に剣を構えたまま振り返った。

「!!」

振り返ると、剣と剣が激しく音を立てる。シェイドは両手に短刀を構え、滝河の死角を狙って切りかかっていた。

「(死角を狙うだとっ!!まじで殺すつもりかよっ!!)」

滝河はシェイドの攻撃を防いだが、死角を狙ってきた事、躊躇なく切りかかってきた事に少なからず動揺していた。

シェイドと距離をとった滝河の後ろで麗が呪文を唱えている。

「風の精霊シルフよ、汝の力を変え渦と化せ…タイフーングレイヴ!」

麗が両手を前に突き出すと、麗の周りに幾つもの竜巻が現れ、激しく巻き起こる。強い竜巻によって床は壊れ、放たれた竜巻はシェイドを襲う。

シェイドはその場に立っているだけで動こうとしない。

激しい風が吹き荒れ、シェイドにぶつかろうとした瞬間、再びシェイドの目の前の地面が盛り上がり、そこから大きな人の形のような岩が現れる。それは両腕を伸ばすと麗が放った幾つもの竜巻を全て受け止め、握り潰してしまう。

「嘘っ?!」

大野が地の精霊の力を得た事は聞いていたが、麗もまた大野の力に驚いていた。

「…こんなものか」

シェイドは消えていく竜巻の間から滝河と麗を睨んだ。

その時、シェイドの後ろから梁木の声が聞こえる。

「空の一雲薙ぎ払う瞬く光よ、輝く刃となり風を弾け…ライトエッジッ!」

梁木の目の前に光り輝く魔法陣が描かれ、そこから無数の光の刃が飛び出した。光の刃は勢いを増してシェイドを襲う。

「!!」

梁木の気配に気づかずシェイドが驚いて振り向くと、無数の光の刃がシェイドに直撃する。

梁木は複雑な表情でシェイドを睨む。シェイドによって操られているが、身体はトウマのもの。できれば傷つけたくないと思っていたが、シェイドと意識を離すことが第一だった。

無数の光の刃がシェイドの身体を切り裂き、全身から血を流していた。

それを見ていた大野はほんの少しだけ考えると、小さく呟いて右腕を前に出した。すると、シェイドの身体が淡く光り傷が癒えていく。

大野はずっと悲しい顔をしていた。

その顔を見てシェイドは見下すように笑うと、麗達の方を向いた。

「今度は我の番か」

シェイドは右手を前に突き出した。

その時、梁木が口を開く。

「汚れしものの不浄なる全てを取りはらえ…」

梁木が右手を前に出すと、シェイドの真下が白く光り始める。麗と滝河は梁木の魔法を信じて力強く頷いた。しかし、それより早く大野が呟いた。

「…ボルトアース」

『!!』

突然、麗達の上空に幾つもの大きな雷の塊が現れ、勢い良く降りかかる。そして、シェイドが右手を払うように動かすと、シェイドの周りに青黒い光球が現れ、稲光に変わると麗達に襲いかかる。

麗達は大野とシェイドの放った魔法を避けきれず直撃してしまう。

激しい稲光の音が響き、麗達の姿は見えなかった。

やがて、稲光が消えると、全身に傷を負った三人が足元もおぼつかないまま立っていた。梁木と滝河はその場に片膝をつき、麗も大きく息をしながら倒れそうな身体を抑えようと耐えている。

それを見たシェイドは冷たい目つきで笑っていた。

「力を使うための言葉とは…面倒だな」

シェイドはゆっくりと麗に近づく。

「さあ、扉を開けてもらおう」

シェイドが麗の目の前に立った瞬間、どこからか声が聞こえる。

「彷徨う火神が掲げる紅き槍、フレイムスピアーッ!」

突然、シェイドの目の前から複数の炎の槍が現れるとシェイドだけに向かって加速する。

「!!」

シェイドは少し驚いて、後ろに下がり複数の炎の槍をかわしていく。麗、梁木、滝河は驚いて魔法が放たれた方を振り向いた。

ゆっくりとこちらに向かう足音が聞こえる。

「………えっ?」

麗はその姿を見て目を疑う。麗達の前に現れたのは中西だった。

中西の瞳は鮮やかな赤色だった。

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