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再生 25 まだ知らない思い

梁木とトウマが高等部にいる頃、麗は寮に帰っていた。


鍵を開けて扉を開くと、大きく欠伸をして天井に向かって腕を伸ばした。

「はぁー…テスト終わったからかな…何だか眠い…。ショウに心配されたしな…」

扉を閉めて靴を脱ぐと、鞄を机の上に置く。そして、習慣なのか無意識なのか、そのまま机の上にあるパソコンの電源をつける。

「…そういえば、二年生になる前に保健室でゲームの続きを見たっけ」

小さく欠伸をすると、パソコンの側にあるWONDER WORLDと書かれているケースを手に取った。

ケースを開けると、中に入っているディスクをケースから出した。

「あの時、確かに何か光ったような気がしたんだけど…」

春休みの直前、保健室で実月やトウマ達とゲームを見ていた時、実月がディスクに触れた後に微かに光ったような気がしたのだった。

ディスクを持つと、パソコンの横にある小さなボタンを押した。すると、すぐ横の小さな蓋が開き、ぼーっとしていた麗は、ディスクを表裏反対に置いてしまう。

「あっ!」

気づいた時には遅く、そのまま蓋を閉じて読み込み始めた。

「…読む込まずに戻ってくるよね」

麗の思いとは反対に、データを読む込む音が続く。

やがて、パソコンの画面が光ると、深い赤色の背景に金のような文字で「WONDER WORLD~過ぎ去りし記憶~」と映し出された。

「嘘?!」

画面に写された文字を見て、麗は大きく驚き、意識もはっきりしていた。

「そんな…ゲームはクリアしたはずなのに。これ、続き…?」

麗は椅子に座り、マウスを移動させて画面に写されたSTARTという場所をクリックする。

画面は変わり、五つの項目が書かれていた。

「レイナ、カリル、スーマ、マリス…ティム。WONDER WORLDの登場人物だ」

五つの項目は物語の登場人物の名前であり、それを見た麗は自分と関係してるレイナが気になり、マウスを移動させてその場所をクリックした。



レイナは双子の妹のティムと父親と山と森に囲まれた小さな村で仲良く暮らしていた。

二人は十四歳。レイナは錬金術や剣術、魔法を学び、ティムは狩りや弓の技術、魔法を学んでいた。

ある日、レイナは父親に頼まれて村の奥にある鉱山に向かう。

普段から着ているワンピースから黒い服と肩を保護するプレートがついた黒いマントを身につけたレイナは、言われた通りに鉱山に向かい、山の奥にある鉱石や宝石を取っていた。

すると、突然、地震が起こり、何か嫌な予感がして下山すると村は火事によって真っ赤に染まっていた。

目の前の出来事に驚いたレイナは急いで家に戻ろうとした。

家に戻る途中、倒れていた人の話を聞き、突然、村に来た男の人達が魔法で火を放ったことを知る。

急いで家に戻ると、家は崩れていて、瓦礫の山から何かが動き、それが父親だと分かるとすぐに駆け寄った。必死になって瓦礫の山をどかそうとしていると、突然、父親からレイナとティムは自分の子供ではない事を告げられる。村が燃えている中、更に信じられないことを耳にしたレイナは驚き、父親の言葉を遮るように声をあげていた。

そして、レイナの目の前に結界が張られると、父親は呪文を唱えてにっこり笑っていた。

結界によって周りの景色や音が遠くなり、父親の転移魔法によってどこかへ消えてしまう。


それから一年後、旅をしていたレイナはとある街の食堂でティムに関する情報と一緒に旅をしてくれる仲間を探していた。

そこで出会ったのは、薄い紫の長い髪、横顔には古い傷のある人物、カリルだった。



「そんな…」

パソコンの画面が暗くなると、麗はそのまま動くことができなかった。

「レイナとティムは父親と血が繋がっていなくて、誰かが村に火を放って…レイナが旅をしている理由って…」

自分でも何を呟いてるか分からず、麗は落ち着こうと目を閉じてゆっくりと深呼吸を繰り返す。

少しして落ち着いたのか、目を開けるとまたパソコンの画面を見つめて考え始める。

「これ…物語の続きじゃなくて、物語の前…過去のことだ。十四歳で住んでる場所が無くなって、実は本当の父親じゃなくて…妹とも離ればれになって…」

麗はレイナを自分に重ねて、胸が苦しくなった。自分だったらどうなるんだろう、そう考えてしまう。

「街で偶然カリルと出会って旅をするようになったんだ。…ん?さっき、出てきたティアって誰だろう…?」

ゲームを操作して進めていくというよりは、本のように文字を読んでいく中で、麗はティアという名前の人物に興味を持った。

「特殊な体質で体術が秀でている…。もしかしたら、ティアの能力を持つ人も学園内にいるのかな?」

麗は顔を上げて思いあたる人物を考える。

「体術っていうことは運動能力があって、身体を動かすことが好きな人…」

麗の頭の中に一人の人物が浮かび上がる。教師と生徒という関係の他に、小さな頃から本当の姉妹のように仲の良い髪の長い女性…。

「葵、…まさかね」

そんなことは決して無い。

自分が覚醒してから今まで、そんな様子は無かった。

麗は自分の思ったことに小さく笑う。

「まだ時間はあるし、次は誰にしよう…」

パソコンの画面は最初に戻り、再び五人の名前が並んでいる。

麗は五人の名前を見て、最後の名前を目にするとマウスを動かす手を止める。

「ティム…」

それはレイナの双子の妹の名前だった。



ティムは双子の姉と父親と三人で小さな村で仲良く暮らしていた。

ある日、父親に言われて村の奥にある鉱山にレイナを迎えに行くことになった。

鉱山に着いた時には姉の姿は見当たらず、すれ違ったと思ったティムは急いで山を下りる。森を抜けると、村が炎に包まれ、遠くで木々や建物が焼け落ちる音が響いていた。

急いで自分の家に戻ろうとしたが、突然、家が崩れて瓦礫の下敷きになってしまう。怪我を負い、動けないティムの近くで何かが聞こえる。

それが呪文だと気づいた時には、ティムの真下に魔法陣が浮かび上がり、そこから幾つもの火柱が渦を巻いた。火柱に巻き込まれたティムは声を上げる間も無く、全身に火傷を負い痛みで起き上がる事が出来なかった。

足音が近づき、ティムが顔を上げると、そこには二人が普段から着ているお揃いのワンピースを着たレイナが笑っていた。

信じられない様子で目を見開いていたが、レイナは何も言わずに後ろを振り返りどこかへ行ってしまう。

地震が起こり、ティムは瓦礫に押し潰されてしまう。目の前で起きたことが信じられず、痛みで意識を失いかけたその時、誰かの呪文を唱える声が聞こえる。

目を開けると、黒い翼を生やした少年と、銀の髪の男性が立っていた。

ティムは驚き、顔を上げて二人を見つめようとしたが気を失ってしまう。


ティムが目覚めると、そこは見慣れない場所だった。少しの間があり、自分がベッドで寝ていたことに気づく。

自分の隣にはアルナという女性が椅子に座っていて、部屋の隅には彼女に似た少年が壁にもたれかかっていた。

そこはロティルと呼ばれる人物が支配する城であり、ティムはラグマと出逢う。そこで傷を癒やし、数日後、城での階級をつけるテストをすることになってしまう。

人のように二足で立つ獣が吐いた炎によって、村の大火事を思い出したティムは動けなくなってしまい、その場に倒れてしまう。自分に牙をむく獣に恐れて叫ぶと、何故か獣はぴたりと止まってしまう。

疑問に思う中、ロティルの後についていった場所で獣王(ビーストマスター)という称号を与えられるが、不思議な力によってティムの身体は動かなくなり、ティムはロティルに襲われてしまう。


気を失い、意識を取り戻した時には再びベッドの中にいた。部屋を訪れたラグマの表情と話で、自分がロティルに襲われたのが現実だと知ってしまう。

ラグマの優しさに触れ、ティムは強くなろうと決意した。



「…………嘘だ」

ティムの物語を見た麗は目を見開いて驚き、気づいたらそう呟いていた。

マウスを握る手が汗ばみ、震えている。

「レイナとティムの話が違う。だから、ゲームの第七章でティムは勘違いしたんだ…。ティムの目の前に現れたレイナは誰だったんだろう?」

手だけではなく自分の声を震えている。

麗が気づくと、両目から大粒の涙が零れていた。

「ティムは、ロティルに襲われ、た…」

突然、嫌な予感がして麗は涙を拭い、制服のスカートのポケットから携帯電話を取り出すと、指を動かして右の耳に当てる。

少しの間の後、携帯電話から声が聞こえる。

『もしもし、姉さん?』

「もしもし…あ、えーっと………」

麗は声が聞こえたことに落ち着いて、何を伝えようか、考えるのを忘れてしまった。

『どうしたの?』

「あ………さ、最近どう?何かあった?変なこと無かった?」

やっと出てきた言葉に麗自身もよく分からない感覚になり、話している相手も不思議に思うとからからと笑った。

『え?やだ、何もないよー。こっちも中間テストが終わったくらいだよ。姉さんも中間テスト終わった?もしかしたら、テスト明けで疲れてるんじゃないの?』

声を聞いて安心したのか、身体の震えは止まり、声も元に戻っていた。

麗は椅子にもたれ掛かり、小さく笑う。

「そうかも」

『やっぱり?ね、そっちはどう?透遥学園って中等部から大学部まであるし、学生寮や他にも色々あるんでしょ?いいなあ、楽しそう』

電話の相手も笑いながら楽しそうに話している。

「確かに色々あるけど、勉強とかはそっちと変わらないよ」

『そっか。あ、夏休みはこっちに帰ってくる?帰ったら、買物に行こうよ』

「うん、良いよ。じゃあ、またね」

麗は携帯電話のボタンを押すと通話が終わり、携帯電話を机の上に置いた。

「良かった…相変わらず元気そう。そうだよね、本は高等部の図書室にしか無いし、能力者なんて…」

麗は椅子から立ち上がると身体を伸ばして、そのままベッドに倒れ込む。

「カリル、スーマ、マリス。確か、ティムとの戦いの後に登場した黒い翼のキャラだったよね。マリスとマーリは戦って……って、あれ?」

麗は目を閉じて何か疑問を抱く。目を開けて何かを考えている。

「前にマーリの能力者の滝河さんと戦った時…滝河さん、ティムを知ってた?」

去年の舞冬祭の少し後に滝河と戦い、その時、滝河は麗を見てティムの名前を出していた。

「滝河さん…敵じゃないと思うけど。明日、ショウやトウマに相談しよう…」

パソコンの画面を見ていて疲れたのか、麗は目をこすり再び目を閉じた。

「少し寝ようかな…」

パソコンをつけていた事を忘れ、目を閉じた麗は、涙を流しながら眠りについた。



遡ること、約一時間前。悠梨は保健室にいた。

目の前には実月が座っている。

「地の精霊ノームが、力を与える者を選んだみたい」

悠梨の口調はいつもと違い、おっとりとした様子だった。

実月は持っていた煙草を吸うと、机の上に置いてある灰皿の上に置いた。

「二年の大野だろ?」

「ええ、トウマをスーマと同じように慕う子よ」

「まさか大学部に居るとはな…」

実月は足を組み直し、呆れたように呟く。

「学園内にはまだまだ潜んでいるみたい。それに、もう少ししたら戦いが起こる」

「ふーん…」

実月は立ち上がると悠梨の前に立つ。悠梨が顔を上げると、実月は悠梨の頬に触れる。

「お前の予感はどうした?」

「まだまだ…いえ、そうなりたくないけど、近いうちに起きる」

悠梨は首を横に振ると、何かに迷うように苦笑した。

「光はきっとあの場所を射している。けれど、神崎達も何か企んでいると思う」

「…探りに行ったら、また襲われるかもな」

悠梨の頬に触れた手を離し、実月はからかうように笑う。

それを聞いた悠梨は呆れたようなうんざりした顔に変わる。

「本当…あの性格まで似るなんて」

悠梨が実月の顔を見ると、実月は一瞬だけ視線を扉に向けて、再び悠梨の顔を見る。

「さ、生徒と保険医に戻るか…」

悠梨は何かに気づくとふっと笑い、それからいつものように明るく答えた。

「…そうだね。誰かが来る前に帰らなきゃ」

悠梨は椅子から立ち上がるり、椅子の下に置いてある鞄を持つと扉に向かって歩き出した。

「風村」

悠梨の後ろから実月の声が聞こえる。悠梨が振り返ると、実月は再び椅子に座り、煙草を吸っていた。

「…お前、試験勉強しなくていいのか?中間テストは五教科だったが、期末テストは九教科だぞ」

実月の言葉を聞いて悠梨は何かに気づく。悠梨は去年の冬の期末テストで赤点を取っていた。

悠梨の表情がみるみる変わっていく。

「後一ヶ月、勉強しておけよ」

悠梨の顔を見て、実月は笑っている。

「次は助けてやらねえぞ?」

実月の何か企んだ笑いを見て、悠梨は顔をしかめて肩を落とす。

「(本当、こっちも相変わらずなんだから…)」

悠梨は溜息を吐くように答えた。

「はーい」

悠梨が保健室から出た後、しばらくすると、誰かが近づく聞こえてきた。



五階の生徒会室では、神崎と結城が話をしていた。

「生徒会の中で封印されたのは久保姉弟と朝日…」

「残っているのは鳴尾、高屋、月代。大野と滝河は生徒会から離れていますが、まだ利用価値はありそうです」

結城は手にしていたファイルを開き、何かを見ている。

椅子に座っていた神崎は組んでいた手を机の上に乗せた。

「大野は巫女の力を持つターサの力を持っている。それに、滝河は何か隠しているように見える」

「はい」

「西浦に従順だった倉木は高屋が封印した。…全く、あいつの行動は私でも読めないな」

そう言いながら、神崎は笑っている。

「結城」

「…はい?」

「私は上の椅子が欲しい」

神崎が何を言ってるかすぐに理解した結城は、小さく頷くと開いていたファイルを閉じて左手で持ち直した。

「白百合の間、ですね」

「ああ。この学園の地位や権力、経済…その為には、理事長の座が欲しい」

「ですが、白百合の間は礼拝堂に似た…いえ、礼拝堂以上に強力で清らかな結界が張られています。以前、私が白百合の間の扉に触れようとした時、強力な結界の壁に阻まれ触れることすらできませんでした…」

結城は僅かに天井を見上げると、再び神崎を見つめる。

「清らかな力を持つ者…」

頭の中で何かが浮かび、神崎は椅子から立ち上がり結城から背を向けるように窓際に立つ。

「あれはまだか?」

結城は表情一つ変えずに答える。

「恐らく、もうそろそろだと…」

「そうか。後少しで一つの強大な力が動くだろう」

「地下倉庫ですね」

「ああ。私は利用できるものは何でも利用する」

背を向けていた神崎は振り返ると、結城を睨む。冷たい眼差しが結城を捉える。

「動かせる駒はまだある。あいつに見つかる前に私が手にいれなくては…」

神崎の瞳が赤くなり、企むように口角を上げて笑う。

「かしこまりました」

それを見た結城は目を閉じて微笑した。

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