表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/100

再生 23 過去に揺れる真実

梁木は放課後、トウマに呼ばれて、先日、白百合の間から降り注いだ光によってカリルとスーマの過去を見たという話をしていた。

それが自分達と何か関係があるのか気になった二人は、本が置かれている図書室に向かうことにした。



「お待たせしました」

二階にある来客用の入口で待っていたトウマを見つけると、梁木は足を早めてトウマに近づく。

高等部の生徒は一階の下足場で靴を履き替えるが、それ以外の生徒や保護者などの人は昇降口とは別の階段を上って、二階にある来客用の入口で履き替えなくてはいけなかった。

「気にするな。じゃあ、行く……」

トウマが右を向いて階段を上ろうとしたその時、階段をかけ下りる音が聞こえる。それに気づいた二人が見上げると、大野が焦っている様子で下りて来る。

「…トウマ様、梁木さん!」

「大野?」

大野は少し後ろを振り向くと、階段を下りてトウマの前で小さく頭を下げる。

「どうした?」

何かを気にしている様子を見てトウマが声をかけた。

普段から落ち着いて見える大野が焦っているのは何かあったと思ったからだった。

「…実は」

大野が顔を上げて口を開くより先に、大野に続いて誰かが階段から下りてくる。

「やっと、止まってくれたー」

後ろから聞こえた声に反応して、大野は小さく肩を揺らした。

ゆっくり階段を下りてきたのは私服を着ていた男性だった。

制服を着ていない事から大学部の生徒か教師に思える。

「大野ちゃん、待ってって言ってるのに逃げちゃうんだもん…って…」

にこにこと笑いながら降りてきた男性はトウマと梁木の存在に気づくと、変なものを見るように眉をしかめる。

「なーんだ、相良君も高等部にいたんだあ」

「…藤堂」

トウマもまた藤堂と呼んだ男性を見ると、一瞬だけ不快な顔をする。

三人の関係を知らない梁木はトウマを見て問いかける。

「トウマ、この人は……?」

「藤堂渉。俺と同じ大学部の生徒…と言っても学年は違うから、学園で見かけるくらいだ」

トウマは藤堂の雰囲気や喋り方が苦手だった。

それを聞いた梁木は藤堂を見ていたが、何か嫌な感じがした。

「相良君ってば、僕の方が年上なんだけどな」

「うるせえ!」

藤堂は困ったような顔で溜息を吐くが、そんな風には見えなかった。

「藤堂、大野に何の用だ?」

「べっつにー。ただ、上で大野ちゃんを見かけたから声を掛けただけだよ。それなのに、大野ちゃんったら僕の顔を見ると駆け足で逃げちゃうんだもん」

「私は用はありません」

大野が困ったように藤堂を見ている。

トウマが藤堂を睨む。

「うーん…それか、大野ちゃんのことが好きだからかなー」

藤堂は少し考えると軽い口調で答えてにっこり笑う。

それを聞いた大野は言われたことが無いのか顔を赤らめ戸惑い、梁木もまた驚いた。

「てめえ……!」

トウマも驚いていたが、それ以上に怒りや不快の感情も混じっていた。

「んー?怒ってるの?相良君、大野ちゃんの彼氏じゃないよね?」

トウマの反応が楽しいのか、藤堂は首を傾げて笑っている。

「大野の嫌がる顔を見たくないだけだ!」

トウマは挑発されていると分かっていても、大野が嫌がっていると思い、その顔を見ていたくなかったのだ。

「それに、ここは二階。職員室や応接室も近いから、そんなに大声出したら驚いて誰か来ちゃうかもね?」

「………」

藤堂の言うように、階段近くには来客用の受付や職員室が近かった。トウマは不満そうな顔で藤堂を睨む。

「ま、僕も用事があるから、相良君達に構っていられないんだよねー」

藤堂はそう言うと三人の横を通り、階段を下りていく。

すると、何かを思い出したのか藤堂は首だけ振り返り、大野に向かってウインクする。

「じゃあ、またね」

それを見た三人は驚いて言葉が出なかった。

「何だったんだ…あいつ…」

「トウマ様…申し訳ありません」

呆気に取られていた大野は我に返り、隣に立つトウマの方を向いて小さく頭を下げる。

「いや、お前が気にする事じゃない」

トウマは自分が少しでも藤堂の挑発に乗ってしまったことに反省した。それから、目的を思い出すと小さく咳払いをする。

「大野…さっき、ショウと話していて強い気配を感じたんだが、俺達と図書室に行かないか?」

先日の戦いで大野がいれば自分の呪印が一時でも消えると思い、また、一緒にいれば心強いと思っていた。しかし、大野は申し訳なさそうに頭を下げた。

「すみません。課題の提出がまだなので美術室に行かなくてはいけないのです…」

急いで階段を下りる大野に驚いて気づかなかったが、大野は筆記用具とスケッチブックを持っていた。

「そうか」

「本当に申し訳ありません」

トウマの役に立てなかったと思った大野は顔を曇らせる。

「いや、気にするな。だが、お前も気をつけろよ」

「はい」

大野は優しく微笑むと、トウマと梁木に頭を下げて、二人に背を向けて二階の廊下を歩き出した。

「さ、行くか」

トウマは梁木の顔を見てから階段を上り、それより少し遅れて梁木も階段を上っていく。

「ショウ、どうかしたか?」

階段を上りながらトウマは梁木に問い掛ける。

「え?」

「不思議そうな顔をしてたぞ」

梁木は思っていたことが顔に出てたことに気づかなかったが、少し考えて言葉を選びながら答える。

「彼女…大野さんは本当にトウマを、尊敬というか心から慕っているのですね」

「ターサは神竜に仕えていた巫女、それは分かっているんだが…あくまで本の出来事だから、そんなにしなくても良いって言ったんだ」

トウマが言うには、初めて大野に出会った時には互いに覚醒していて、大野はトウマの前に駆け寄るとその場に膝をついて涙を流したらしい。

「周りに誰もいないのが幸いだったな。誰か見てたら不思議に思われていた」

トウマは当時の事を思い出すと苦笑する。

階段を上りきると、左に図書室が見える。扉を開くと、中にはちらほらと生徒達がいた。

中間テストが近いせいか、本を読む生徒より机に資料や教科書を広げて勉強している生徒の方が多かった。

「確かこの奥だったよな」

二人は図書室の奥まで歩き、角を曲がるとSF・ファンタジーという見出しのある本棚を見つける。本のある場所を見上げると、梁木は何かに気づく。

「…WONDER WORLDがもう一冊ある?!」

「何?!」

トウマも驚いて本棚を見上げると、二冊の本が二人の視界に飛び込む。

WONDER WORLDは深い緑色の表紙に金色の文字の本、その隣には赤色の表紙に金色の文字の本が並んでいた。初めて見たのに、本は少し古く色あせていた。

「過ぎ去りし記憶…?過去の話だとしたら…」

トウマは手を伸ばし本を取り出した。

「これは…」

表紙をめくると題名が書かれていて、また一枚めくると見たことのある名前が書かれていた。

レイナ、カリル、スーマ、マリス、ティム、それぞれ五つの章に分かれている。

トウマの横で梁木も顔を近づけて本を除き込む。

「五人の名前…」

「読んでみるか」

本をめくり二人は読み始めた。

二人が気になったのはカリルとスーマ、自分達に関係のあるの人物だった。二人で読むからペースは違うが、前作の本より厚くないので互いに見やすいようにゆっくりと読み始める。

以前、保健室でゲームを見たおかげか情景を想像しやすく、すぐに物語に入り込むことができた。



カリルはルキアという妹と小さな集落で暮らしていた。

ある日、ルキアは長と呼ばれる人に集落の中央にある広場に来るように言われた。

カリルはルキアを先に広場に行かせ、持っていた本を家に置いてから広場に向かう。

広場に行くと、ルキアと同じ白い翼を生やした人達が捕らえられていた。

カリルは木の影に隠れて様子を伺っていると、ルキアが十字架に(はりつけ)にされていることに気づく。驚きを隠しきれず、広場の中央にいたリークという人物に気づかれてしまう。

カリルは背後に立っていたタインと呼ばれた二本足で立つ大きな獣に捕まり、リークの前まで連れていかされる。

リークは友好的な態度とは裏腹に冷たく刺さるものを感じ、カリルは怒りをあらわにする。

リークの話によると竜族、獣族、有翼人との戦いが起こり、有翼人はほぼ全滅。計り知れない力を持っているということから残っている全ての有翼人を殺せと告げられたらしい。

カリルはリークが竜族だと思っていたが、実は尖った耳を生やし、背中には透き通る蝶のような羽を生やしたエルフと呼ばれる種族だった。

やがて、リークは周りにいる従者に命令すると、従者は捕らえられていた有翼人の翼をもぎ取って殺してしまう。

それに激高したカリルは魔法を使ってタインから逃れ、磔にされていた妹の元へ駆け出した。しかし、すぐにリークに捕まってしまう。

リークはカリルを捕らえ特殊な言葉を発動させると、カリルの背中から右には純白の翼、そして、左には悪魔のような形の黒い翼が現れる。

動くことのできないカリルの右頬を目がけて剣を突き刺し、カリルが痛みで叫び顔を上げると、磔にされているルキアの横に立っていたルイアスはルキアに向かって矢を射ると炎を放った。

カリルは怒りを抑え切れず、呪文を詠唱したが、魔法は失敗して暴発してしまう。リークは全身に火傷を負って倒れたカリルを踏みつけ、悪魔のような形の黒い翼だけを引きちぎると、どこかへと消えてしまう。

怒りや悲しみ、絶望に苛まれた。

カリルは幻精卿にある別の世界に移動できる木を見つけて人間界に移動した後、気を失う。

やがて、カリルは強くなり、幾年か過ぎた時には知識も力もつけ、リークとタインを滅ぼした。

その後、とある町に辿り着いたカリルに声をかけたのはレイナだった。



トウマは微かに震える手でゆっくりとページをめくっていく。



スーマは竜族の中で最も強いと恐れられているが、争うことは嫌いだった。

自分の城から何かが起きていると感じると、ロティルと呼ばれる人物の罠にかかり、毒薬を飲まされて身体が縮んでしまう。

ロティルの側にはラグマと呼ばれる銀の髪の男性、そして、その後ろにはスーマの側近であるフォスとダモスというそっくりな顔立ちの双子が虚ろな目で立っていた。

力が出なくなったスーマは押さえつけられ、その中でも怒りが込み上げるが、薬のせいで意識が薄れ気を失ってしまう。

目が覚めた時には牢獄に閉じ込められ、魔法も力も使えず月日だけが流れていった。

ある時、神竜に仕える巫女のターサが牢獄にやって来る。スーマは今までの話を聞かされて、今、起きていることを知る。

ロティルの策略により戦争が起こし、部下に有翼人を残らず抹殺するように命じた。彼は闇王と名乗り、周りも彼を恐れて従うようになり、また彼に背く者は全て殺されてしまった。

スーマの側近であるフォスとダモスは開放されたことを伝えると、ターサは誰かに呼ばれて牢獄から去っていく。

スーマは城と向かい合うように建つ神殿にいる大天使と呼ばれる人物に思いをよせる。

そして、それから長い月日を経て、人が寄らない牢獄に訪れたのは、フィアと呼ばれる艶のある薄紅色の髪を高い位置で二つに結んだ幼い少女だった。彼女は大天使に仕える巫女であり、彼女の命によりスーマを助けに来た。

スーマは大天使の名前を聞いて彼女の事を聞いたが、フィアは震える声で二人の子供を人間界に預けた後、闇王に殺されたと告げる。

驚きと動揺を隠すのが精一杯だったスーマに対してフィアはここから逃げるように伝え、力を使えないスーマの前で転移魔法を使う。

大天使の子の名前はレイナとティム、その名前だけ聞こえると、転移魔法によってその場から消えてしまう。


スーマが目を覚ました時には身体は元に戻り、今いる場所が幻精郷ではないことに気づく。

スーマは汚れているローブを脱ぎ、中に着ていた身軽な黒い服だけになると持っていたナイフで自分の髪を切ってしまう。

愛した人を失って受け止めることが出来なかったが、生き返らせる術は無く呆然としていた。

有翼人の中でも最も強く、綺麗な翼を生やした人物、それがユルディスだった。

そんな中、スーマの目の前に大天使ユルディスが現れる。

スーマは驚いて優しく笑う彼女に近づこうとしたが、次の瞬間、彼女は醜く笑うと姿を変えていく。

それが闇の精霊シェイドと気づいた時にはすでに遅く、スーマはシェイドによって操られてしまう。



二人の物語を読み終わった後、トウマは顔を歪ませたまま手が微かに震えたままだった。

「これが…カリルとスーマの過去…」

トウマの横で小さな声が聞こえて振り向くと、隣で梁木が両手で口を塞ぎながら涙を流していた。

「ショウ?!」

トウマは声を出さないように顔を歪ませて泣いている梁木を見て驚いたが、カリルの過去を読んで何も感じないということは出来なかった。

「…覚醒した時に、翼が片方しか無いのは…このためだったのですね…。カリルは片方の翼と妹を失って、リークとタインに復讐を誓った…」

梁木は両手を離して流れる涙を拭うと、苦しい顔のままゆっくりと口を開く。

トウマも本を開いたまま少し俯いて考える。

「…闇の精霊シェイドに操られた後、レイナとカリルに会ったんだな。しかし…シェイドはレイナとカリルの事を知っていて襲ったのか…?」

梁木はカリル、トウマはスーマのことを考えていた。

「カリルとスーマの物語を読んで、新しい人物が現れましたね」

「ああ。リークにタイン、それに、フィア。すでに覚醒してるのか…?」

トウマは疑問を感じて首を傾げる。

ふと、トウマは柱に掛けられた時計を見た。四時半を過ぎていたが、まだ時間はあるだろうと思い梁木に提案しようとした。

「ショウ、時間はまだあるから残りも読む……」

その時、突然、下から突き上げるような地震が起こる。図書室が大きく横に揺れて、幾つもの本棚から本が落ちて棚も倒れてしまう。

二人は危険を感じ、トウマが近くの背の低い本棚に本を置くと、本棚が倒れていない道を選んで急いで図書室を出る。

図書室を出ると人がいなくなったように静かだった。

図書室を出ると揺れはぴたりと止まり、二人はあることに気づく。

二人の瞳の色は変わっていた。

「ショウ…気づいたか?」

「はい、結界が張られています。いつの間にか図書室にいた人達は消えていましたし、地震が起きてから微かに魔力を感じました」

梁木は困ったような苦しいような顔で辺りを見回す。

「さっき、図書室の次に地下に続く階段って言ってたよな?」

「…はい」

トウマは少し前に梁木が言った場所を思い出す。梁木は左を向いて突き当たりの廊下を指差した。

「あっちから強くて…何というか重たい空気を感じます…」

その時、二人の後ろから何か音が聞こえる。それは次第に近く大きくなり、渇いたような音が重なっていく。

梁木とトウマはゆっくり音が聞こえる方を振り返る。図書室の横にある階段から剣が見え、そこには大きな剣を持った幾つもの骸骨が階段を上って近づいていた。

『うわ!!!』

二人は驚いて同時に声をあげた。それを聞いた骸骨の群れは勢い良く骨を鳴らし階段をかけ上がり始めた。

二人は同時に廊下を走り、その後を骸骨の群れが追いかける。

「なんだ、あれっ?!」

「ほ…骨?!」

梁木が振り返ると、何かに気づき、もう一度振り返る。

「(まさか…そんな…)」

初めて見た気がしない。

「ショウ!もっと走れっ!」

トウマの声を聞いて我に返り、気づいたら骸骨の群れとの距離は縮まっていた。梁木は前を向いて力強く走りトウマに追いついた。

「(いつの間にか結界が張られた?それに、この骸骨の群れを操る能力者…)」

もしかしたらそうかもしれない。

けれど、そうなって欲しくない。

先日の戦いで脳裏に浮かんだカリルの過去、カリルの妹に矢を放ち、魔法を放った褐色の肌の男性。幻精卿で会った時に骸骨の群れや腐敗した死体の群れを操っていた竜族の一人…。

梁木の恐怖は強くなり、気持ちが高鳴っていく。

廊下を走っていると中央階段が見え、二人が下りようとしたが、階段の下から先程と同じような大きな剣を持った骸骨の群れゆっくりと階段を上って近づいてきた。

「こっちだ!」

トウマはすぐに向きを変えて真っ直ぐ走り、梁木も少しでもトウマに近づこうと廊下を走る。二人の後ろを走る骸骨の群れがほんの僅かに距離を縮めている。

二人は、どうして骸骨の群れが動き、自分達を追っているのか分からずに走り続けていた。

「この骸骨の群れ…魔力によって動いてるな」

「はい……もしかしたら、この、能力…」

トウマは息も乱れず走っていたが、トウマに比べて体力が無いのか梁木の息は乱れ、疲れの色が出ていた。

それに気づいたトウマは立ち止まると、ぐるりと振り返った。

「先に走れっ!!」

トウマは叫び、梁木がトウマの横を通りすぎるのを見てから後ろを振り返る。骸骨の群れは近づいていた。

「吹き荒れる孤高の大火、その力を破り、ほとばしる赤き刃を包め…フレアブレス!!」

トウマの周りに炎と風が吹き出し、それが左腕に集まり渦を巻くと、腕をなぎ払うようにして放った。

炎は勢いを増して加速し、襲いかかる骸骨の群れを包み燃やしていく。

梁木は振り返ってトウマに加勢しようと思ったが、トウマに言われた言葉を思い出して廊下の突き当たりまで走り、階段を駆け下りていく。

少しすると駆け下りる音が増え、梁木はトウマが牽制してから自分の後ろにいると思っていた。

さっきよりカタカタと鳴る骨の音が小さくなったような気がする。

そう思いながら一階まで下りた時、梁木に何か衝撃が起きる。

それが誰かとぶつかったと気づいた時には、目の前の人物はよろめいて今にも転びそうだった。

「………っと」

梁木は咄嗟に手を引こうとしたが、それより早くその人は両手で梁木の胸を掴んだ。

「あ…………あ……っ、助け…助けて!助けて!!」

耳の下くらいまでの短い髪、梁木より少し背の高い女子生徒は梁木を見るなり何かに怯えた表情で声を震わせて助けを求める。

梁木は誰かとぶつかってからずっと驚いていた。

目の前の女子生徒は後ろを気にしながら、何かに震え、大粒の涙を流している。

女子生徒は地下に続く階段を上ってきたのか。なぜ怯えてるのか。

その顔に何かが重なる。

梁木が女子生徒の手を離して声をかけようとした瞬間、女子生徒の背後、地下に続く階段から乾いた骨の音が聞こえ、梁木の背後からトウマの声が聞こえる。

「離れろ!」

梁木の背後から風が巻き起こり、梁木と女子生徒の間に、風でできた壁のようなものが現れる。

「!!」

梁木が後ろを振り返るより先に、誰かに強く腕を引っ張られる。それがトウマだと気づいた時には女子生徒との距離は離れていた。

「お前、能力者だな?」

トウマは梁木の腕を離すと、訝しげに女子生徒を睨む。

それを聞いて梁木ははっとする。

「…結界の中に居られるのは能力者だけ」

梁木はトウマの顔を見た。後ろから骸骨の群れは襲ってこなかったが、トウマは覚醒したままだった。

二人の目の前にいる女子生徒は俯いて指で涙を拭うと楽しそうに小さく笑う。

顔を上げてると瞳の色が淡い緑に変わっていた。


それは覚醒だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ