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再生 19 仮想と現実のかけら

春休み直前。

期末テストは終わり、卒業式の後は入学式がある。

朝日は生徒会室で来年度の入学式に向けて書類を纏め、使わない備品の整理をしていた。朝日の他に生徒会室には結城が椅子に座り幾つかの書類に目を通していた。

朝日が結城の近くを通ると、結城は朝日の名前を呼び、朝日は返事をして結城の顔を見た。

「え……?今、何て……」

それは天気を聞くくらいにさらっと言われたので、朝日は耳を疑った。

朝日の目の前にいる結城は手に持っている書類を机の上に立てて、書類の束をまとると、二回も言わせるのかというような雰囲気でもう一度言った。

「久保姉弟の力が封印された。さっきもそう言ったはずだが?」

「…申し訳ありません」

睨んではいないものの結城は何か言いたげに朝日を見た。朝日は困ったようなばつが悪いような顔をしてしまう。

同じ能力者であっても力の差もあり、教師と生徒という立場上、不満や反論は言えなかった。

「昨日の昼過ぎに久保姉弟はレイナの力を持つ者に接触し、有翼人の力を持つものが何か特殊な力を使ったのか…私の力がかき消された」

「結城先生の力がかき消された…?」

朝日は結城の言葉を聞いて驚いた。自分より強い結城の力がかき消された、それは朝日にとって信じられないことだった。

「久保杏奈に頼まれ私の力で時間を早めたが、それも効果が失われ、私の結界を通り抜けた滝河達によって封印された」

朝日がふと結城の左腕に目がいくと、シャツの間から真新しい包帯が見えた。

「そして私の力も無効にされた」

生徒会室の扉が開き、生徒会室に入ってきたのは神崎だった。

「神崎先生」

「どういうことなんですか?」

朝日は結城と神崎の二人がいることに緊張したが、神崎の方を向くと問いかけた。

「先週末だったかな…風村悠梨を捕らえていたが、昨日、保険医の実月が現れた途端に私の力はかき消された」

信じていなかった訳ではないが、神崎の言葉を聞いて朝日は驚きを隠しきれなかった。

不思議な力を持つものがいることに朝日は少なからず焦りを感じる。

神崎の話によると、覚醒してからの記憶は無くなった久保姉弟は、何事も無かったように校舎を歩いていたそうだった。

「生徒会としての役員業務には就いてもらう」

神崎は窓側に向かって歩き、窓から校庭を見下ろすと、何かを思い出して不快な顔を露わにした。

「実月響一…」



その頃、実月は保健室にいた。

保健室の壁にもたれかかっている人物を見ると呆れたような溜息を吐いた。

「風村や梁木は来ると思ったが、まさか滝河と相良(さがら)も来るとはな…」

『さが、ら……?』

椅子に座っている麗、悠梨、梁木の三人は聞きなれない名前に首を傾げる。

三人の反応に滝河とトウマは反応して、トウマが答える。

「ああ、言ってなかったか?俺の苗字だ」

「え?」

「ほら…ちゃんと大学部の生徒だ」

トウマはポケットから生徒手帳を出すと、三人に向けて開いて見せた。そこには相良斗真という名前と写真が貼られていた。

「本当だ」

麗はトウマの生徒手帳を見ると納得したように小さく頷いた。

「で、持ってきたか?」

実月は麗に声をかけると、麗は膝の上に置いた鞄を開けて中からプラスチックのケースを取り出した。それを実月に渡すと、実月は机の上にあるパソコンのディスクの取り出し口に入れた。しばらくすると画面にはゲームのタイトルが表示される。

「水沢、こっち座れ」

実月は手招きすると、麗は実月の隣に座りパソコンに繋いであるマウスを動かした。

悠梨、梁木、トウマ、滝河もパソコンの画面が見えるように移動する。


ゲームは最終章。

スーマは何者かによって殺され、レイナ、カリル、マーリの三人は魔族を支配するロティルという男がいる城に向かっていた。

幻精郷にある城に到着し、中に入り進んでいくと三人の目の前には蒼流(そうりゅう)空間と呼ばれる真っ青な部屋が広がる。

そして、そこにいたのはレイナの双子の妹のティムだった。

「え……?」

画面を見ていた麗は驚き、手が止まってしまう。

「ティムって前に滝河さんが言ってましたよね?」

梁木は後ろを振り向いて滝河の顔を見た。

「ああ、俺はこいつを探してる」

滝河は組んでいた腕を下ろすと、画面のティムという女の子を指差して答えた。

「レイ、双子の妹っているの?」

悠梨の言葉に麗は迷いながら小さく頷く。

「うん、双子の妹…いるよ。でも、私と違って別の公立の高校にいるし…メールしてても、本のことも覚醒のことも何も言ってなかったし…」

麗、悠梨、梁木は驚きを隠せない顔で互いの顔を見合わせ、滝河とトウマは視線を合わせて何かを考えていた。

ゲームの中では、ティムは二人が住んでいた村が火事になってしまったのを姉のレイナがやったと思っていたのだった。

誰かの視線を感じたのか、麗はその視線に気づいて苦笑した。

「大丈夫。私の住んでた町は火事になってないよ」

レイナと戦い、二人の間に何かが食い違ってしまい、ティムは平静を失ってしまう。

そして何かの力によってティムの姿はどこかへ消えてしまう。

『!!!』

レイナ達の目の前に現れたのは、ラグマという男性とマリスという少年だった。

レイナとカリルを先に進ませようとするマーリはマリスと戦うことになってしまう。

マリスと戦いマリスの技にかかり、マーリは身体が動かなくなってしまう。

『神竜の牙と翼だ』

マーリを見下し嘲笑するマリスの台詞を見て、スーマを殺したのはマリスだと知る。

それを見た実月以外の全員が驚き、トウマは怒ったようにゲームを見ていた。

「スーマを殺したのはマリス…この能力者も学園にいるのか…」

そのトウマの表情を梁木は見ていた。

ゲームは進み、マーリの大技を受けてマリスはどこかに消えてしまい、戦いによってマーリは動けなくなってしまう。

「こいつ、どこかで見たことあるような…」

滝河は画面のマリスを見て何かを考えていた。

レイナとカリルが先に進んでいくと、再びラグマが現れ、レイナとラグマの戦いが始まる。

レイナが強力な魔法を使い続けた結果、ラグマは倒れてしまい、レイナは足元がおぼつかず倒れそうになる。

「レイナ…強い」

麗はゲームを進めながら、次々に起こる出来事に驚いてばかりだった。

レイナとカリルはどんどん先に進み、大きな広間にたどり着いた。そこにいたのはロティルという男性とレイナに瓜二つの人物だった。

「レイナが二人……?」

いつの間にか全員は、物語に深く入りこむように画面を見ていた。

レイナは禁呪と呼ばれる力を使い、瓜二つの人物を滅ぼすとレイナは血を吐いて倒れてしまう。レイナとカリルはロティルの戦うが圧倒的な強さに歯が立たなかった。

マーリは合流し、マーリの魔力によってカリルとレイナの力は回復して起き上がる。

マーリも加わり、再びロティルに攻撃するが、力の差が大きく、カリルとマーリは倒れてしまう。

レイナはどうすることもできないまま立ち尽くし、ロティルの攻撃を受けて窮地に陥ってしまう。しかし、レイナ達の前に謎の女性が現れ、彼女とレイナの強大な力によってロティルは滅ぼされる。

「…終わったの?」

悠梨が不安な表情で息を飲む。

ロティルを滅ぼし、城は崩れていく。

謎の女性とレイナは向き合い、彼女の言葉で二人は親子だと明かされる。

『!!!』

その言葉に全員は驚き、麗以外の全員は麗を見た。

「お父さんもお母さんも、私が小さい時からいなくて…親戚の叔母さんが私達を育ててくれたんだ」

麗は少し悲しそうに笑う。その顔を見て、梁木は何故か胸が締めつけられるような苦しい顔をしていた。

戦いが終わり、レイナ、カリル、マーリの三人はそれぞれ違う道を歩き出す。

ゲーム画面は暗くなり、エンディングが流れ始める。

画面は白く光り、THE ENDと表示される。しばらくすると、再びタイトルが表示された。

「終わった…?」

ゲームがクリアできたことを見た五人は終わったような、不安や焦り、色々な感情が合わさった顔をしていた。

「本とゲームの内容が同じなら…私達はこの人達と同じ力を持つ人と戦わなきゃいけない…」

麗はパソコンから離れると椅子を引いて俯いてしまう。

「新しく出たきたのはティム、マリス、ラグマ、ロティル…そして最後にレイナを私の娘と言った謎の女性。俺は覚醒してから生徒会の奴らが怪しいと思い始めた。俺に呪いをかけた奴もいるかもしれない、と」

トウマは左の鎖骨辺りに手を置いて答えた。

「俺も生徒会の奴らが怪しいと思う」

「あのマリスという少年、色は違いますがカリルと同じ有翼人に見えました。もしかすると、マリスの能力を持つ人は僕と同じなんでしょうか…」

昨日、実月の呟いた特殊な言葉によって梁木の背中から翼が現れた。

梁木は自分と同じで、覚醒したら翼が生えるのか、そう考えてしまったようだ。

「実際にそいつが覚醒しないと分からねえな」

「魔力の気配を感じる場所は、高等部だけでもたくさんある…生徒会の奴らがどう動いてくるかだな」

麗だけではなく梁木、トウマ、滝河もどこか不安な表情で何かを考えていた。

「葵は本当に能力者なのかな…?」

麗はふと、中西のことを思いだして誰にも聞こえないように小さく呟いた。

「ゲームを始めてから二時間か…。水沢、ゲーム切るぞ?」

実月は壁にかけてある時計を見ると、取り出し口の横にある小さなボタンを押してディスクを取り出した。

実月がディスクを持つと、ディスクの裏側が一瞬だけ淡く光っていた。

「先生。今、光らなかった?」

「あ?ゲームの見すぎで疲れたんじゃねえか?」

麗はディスクを指差すと実月は笑い、麗からケースを受けとるとディスクをはめ込みケースの蓋を閉じる。

「お前らは来月から二年、後少ししたら春休みだが……注意しろよ」

『はい』

実月の言葉に麗、悠梨、梁木は声を揃えて頷いた。



一階にある鏡の中では、未だ中西は全身傷や痣だらけになりながら鍛えていた。

中西の目の前にいる男の周りには幾つもの巨大な氷の塊が落ちていた。

「はあ…はぁぁ…」

中西は肩を大きく動かし息を整えながら、それでも拳を握り胸の前で構えていた。

「お前がここに来てから三日か…」

「え…?」

男が強気に笑うと中西は考え、それを理解するまで少しの間があった。

「お前の疑問は晴れたか?」

「…確かに図書室でWONDER WORLDの本は読んだ。けど…本当に魔法やファンタジー映画のような出来事が起きてるんですね。そして、私もその本に関係してる…」

「外に出れば、他の能力者も…お前を狙う者もいる。私が言ったことを思い出せよ」

男が右手を前に突き出すと、中西の背後の水晶のような壁が水のように揺れ始める。

「葵…力は戦う時、大切な者を守るために使え」

「はい!」

中西は一礼すると、壁をすり抜けて消えていった。


どこかで水が跳ねる音が聞こえると、中西の目の前には見慣れた高等部一階の廊下があった。後ろを振り返ると、大きな鏡がある。

「本当にこの中にいたのか…それに…ん?」

外を見ると、空はまだ明るい。中西は男の言葉を思い出す。

「師匠は確か私が来てから三日って……私がこの場所にいたのは土曜だから……って、あーーっ!!」

中西は何かを思い出し、今にも走り出したい気持ちだったが、自分が教師だということを思い出すと、走らないように廊下を早歩きした。

「三日も経ってれば、生徒や先生方も何か不思議に思ってるんじゃないか…っ!」

中西は真っ直ぐ廊下を歩き、下駄箱を通り過ぎて階段をかけ上がろうとしたがその場所を思い出すと一瞬だけ立ち止まった。

「レイ……?」

保健室の明かりはついていた。



「ん?」

誰かに呼ばれたような気がした。

振り返っても誰もいない。

結城はそう思いながら、高等部校舎の裏道を歩いた。

遠くには学生寮が見える。

校舎の入口に向かって歩いていると、どこからか音が聞こえた。結城が音のした方を見ると、そこには月代がうつ伏せで倒れていた。

「月代!!」

結城は月代に近づき膝をついて抱きかかえた。鞄が近くに落ちていたことから下校中だったのかもしれない。

「結城先生…」

「どうした?!」

月代は結城に気づくと、痛みに耐えながら話しだした。

「最近…今年に入ってからかな、少しずつ肩甲骨が痛くて…温室の前を通ったら、急にまた痛みだして…」

月代の言葉を聞いて、結城は鳥篭のような小さな温室を見て考えた。

「(黄昏の温室…か)」

昨日、有翼人の力を持つ者が特殊な言葉によって純白の翼が生えた報告は聞いていたが、もしかしたら月代にも起きるのかもしれない。

その時、遠くから複数の声が聞こえる。誰かが近づいてると思った結城は瞬時に覚醒すると、月代を抱えていない右手を広げた。結城の右手から黒い霧みたいなものが吹き出すと、温室を覆うほどの結界が現れた。

「結城先生…?」

結城は少し考えると月代の胸に手を置いた。

結城が小さく呟く。

「隠された真実よ」

突然、月代の身体は黒い光に包まれ、身体が宙に浮くと結城から離れていく。

結城の目の前で月代は宙に浮き、黒い光が強くなると月代の背中から漆黒の翼が現れる。

月代はゆっくりと瞳を開く。その瞳は青くなっていた。

「これ……」

月代は自分の背中にあるそれに触れた。神経は繋がっていて、動かそうと意識を集中するとそれは動いた。

月代に翼が現れたことに結城は驚き、月代の背中の漆黒の翼を見た。

「本当にマリスの力を持っているんだな…。その力があれば私達の目的は果たせるかもしれない…」

宙に浮いている月代は虚ろな目でどこかを見つめている。

「俺は…城でレイナ達を倒すためにラグマ様についていって、それから………っ!!」

どこか遠くを見ていた月代は急に顔を歪ませ、両手で頭を抱え込み始めた。

「頭、が………痛い…」

月代の身体が地面に着くと、意識を失い再び倒れてしまう。

背中の翼は消えていた。

倒れた月代を再び抱きかかえた結城は、月代の顔を見ながら不思議に思っていた。

「今の記憶は月代ではなくマリスの…」

その時、通り道の草むらから音が聞こえ、気配を感じて結城は後ろを振り返った。

「誰だっ!」

草むらから何かが現れ逃げるように去っていく。

太股辺りまで伸びた黒く長い髪、高等部の制服を着ていた少女は後ろを振り返ることなかった。

結城が右手を振り払うに動かすと、少女の回りに黒く光る槍のようなものが現れる。それは瞬時に幾つも組み合わさり、檻のように少女を囲ってしまう。

しかし、少女の指が微かに動くと、檻のようなものは朽ちていき少女はそれをすり抜けて走り去ってしまう。

「私の力が効かない…?!」

誰かは分からないが結界内にいるということは能力者であり、自分の魔法をかわした人物がいることに驚いていた。

「あの少女、誰かに似ている。黄昏の温室…調べる価値はありそうだな」

結城は気を失った月代を抱きかかえ、何故だかその少女の後ろ姿をを見るだけしかできなかった。



「始まりそうですね…」

高屋は五階の階段の窓から外の温室を見下ろして溜息を吐くと、少しだけ笑った。

「何が始まるんだ?」

高屋が振り返ると、そこには朝日が不快な顔をして立っていた。

「精風士…いえ、朝日生徒会長。どうしたんです?そんな顔をして?」

朝日は普段から難しい顔をしてるが、今日はいつにも増して機嫌が悪いように見えた。

「久保姉弟が封印された。それと結城先生と神崎先生の力を退ける力を持つ者がいるらしい」

「水沢麗の周りにいる人達ですね。有翼人の力を持つ者、竜族の力を持つ者…後、変わった人もいますね」

高屋は朝日を見上げながら階段を上り、朝日の横を通り過ぎようとした。

「滝河と大野は生徒会から離れたも同然、鳴尾も気まぐれ…。で、何が始まるんだ?」

朝日の言葉が高屋の足を止める。

「ああ…まだこの学園には能力者が潜んでいる、ということでしょうかね」

高屋はさっきのことを思い出して朝日の顔を見て微笑した。

「お前は戦わないのか?」

朝日は睨むような目つきで高屋に問いかける。

高屋は何か思いついたように窓の近くまで歩き外を見下ろした。校庭の回りや校舎までの道に咲く桜は少しずつ開き始めていた。

「桜が咲き始めましたね」

質問の答えになっていない、そう思った朝日は眉間に皺を寄せて不快な顔をした。

「だから…っ!」

朝日は声を上げて何か言おうとしたが、高屋は桜のつぼみを見ながら何かを企むように笑っていた。

朝日はそれを見て何か察知して言葉を変えた。

「行くのか?」

高屋は朝日のほうを向くと、再び朝日の横を通り過ぎようとする。

「遊びに、ですよ」

朝日の横を通り過ぎた後、後ろを振り返るとはぐらかすように微笑した。

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