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再生 18 静かな謎

高等部の校舎の入口で戦いは起こり、麗と悠梨は力を増した久保姉弟によって攻撃を受けて気を失っていた。

突然、二人の背後から声が聞こえ振り返ると、入口にはトウマと滝河が腕を組んで立っていた。

二人も覚醒していた。



「あんた達は…!」

久保は二人の姿を見ると何か警戒しながらも力強く二人を睨む。

トウマは二人を睨むと、倒れている麗と悠梨に近づき、その場に膝をついた。

「……………」

トウマは右手を二人の前に出し、何か呟くが二人の姿を見て呟くのを止める。

「(二人の傷が癒えている…?)」

トウマは悠梨の顔を見る。

「気を失っているだけ、か…」

トウマが立ち上がろうとした瞬間、背後から強い殺気を感じた。

「背中ががら空きよ!」

久保が地面を蹴り、トウマに向かって殴りかかろうとする。しかし、トウマの姿は消え、いつの間にか久保の背後に立っていた。

「!!」

トウマは久保の首を目がけて腕を振り下ろす。何かに気づいた久保は間一髪でそれを避けて後ろに逃げる。

「純哉!」

トウマが叫ぶと、久保の背後に滝河が立ち塞がり、トウマの攻撃を避けた久保の腕を掴むとそのまま投げ飛ばした。

「ぐっ…!!」

投げ飛ばされた久保は下駄箱にぶつかる前に滝河を睨んだ。

滝河の魔法が完成する。

滝河の右手には青い光が生まれ、光は次第に大きく膨んでいく。

「フリーズシェイキング!!」

右手から生まれた青い魔法球を地面にぶつけ、地面が大きな音を立てて割れる。地面に潜り込んだ氷の球体が再び地面に現れ、久保に向かって加速する。

「姉さん!」

氷を見た亮太は何かに怯え始め、身体が震えていた。震える身体を押さえつけ、亮太は何かを詠唱する。

「…吹き荒れる孤高の大火、その力を破り、ほとばしる赤き刃を包め…フレアブレスッ!!」

亮太の周りに炎と風が吹き出し、それが亮太の左腕に集まり渦を巻くと腕をなぎ払うようにして放った。

滝河の放った氷の光球は久保に向かって加速していたが、亮太の放った炎によって氷は溶けてしまう。

「俺の魔法を打ち消すなんて…思ったより力が増幅してるんだな」

滝河は久保に近づく亮太を見ると、驚きながら不快な顔で舌打ちをした。

氷は溶けて飛沫(しぶき)が舞い、久保姉弟の身体は濡れてしまう。

滝河が小さく笑う。

二人が何かに気づいて振り返った。トウマは右手を前に突き出すと呪文を唱えていた。

「雷轟の聖帝、疾風の環…降り落ちる衝動を撃て…ラウンドボルト!!」

二人が気づいた時には遅く、トウマの放った電撃は二人の濡れた身体を包み感電してしまう。

『ぐあぁーーーーーーっ!!』

電撃は輪のような形に変わり、二人の身体を締めつけるように光っている。

濡れた身体は電気を通し、二人は絶叫する。

電撃の輪が消え、重傷を負った二人はその場に倒れてしまう。

「俺の氷の魔法を溶かすくらい魔力があったなんて…」

「純哉、こいつらは満月の力で増幅してる。それに、この結界…並大抵の魔力じゃねえな…」

トウマは顔を歪ませて大きく息を吐いた。

その時、トウマと滝河に向かって炎が放たれる。

『!!』

二人が咄嗟に避けると、倒れてたはずの久保が起き上がり魔法を放っていた。

久保は傷を負いながらも、変わらない速さでトウマに近づき魔法を撃ち込む。

トウマが小さく何かを呟くと右手が赤く光り、幾つもの炎の球が虚空に生まれる。

久保の攻撃を避けてトウマは右手を振り下ろし、一斉に炎の球を放つ。不規則に動く炎の球を避け、久保は再びトウマに殴りかかる。

「!!」

トウマの顔は苦痛に歪み、ほんの僅かに動きが鈍くなる。トウマの服の隙間から呪印が浮かび上がっていた。

「兄貴!」

滝河はトウマを呼び、近づこうとしたが、亮太の攻撃によって距離が離れ近づくことはできなかった。

「あんたは力を使えば使うほど呪いで動けなくなるはずよね?」

呪印に気づいた久保は笑い、一瞬にしてトウマとの距離を縮めると腹部を目がけて身体をひねり大きく蹴りかかる。

「ぐっ…!」

トウマは久保を睨み攻撃をかわしたが、呼吸は乱れ胸を押さえて顔を歪ませる。

その隙を狙い久保はトウマに近づき、さらに蹴り倒す。

思わぬ速さにトウマは避けきれず、下駄箱に叩きつけられてしまう。

トウマの放った炎の球は地面に残り、炎は強く揺らいでいる。

「兄貴!」

久保は砂埃の中で動かないトウマを見ると、振り返り滝河を睨む。

地面に幾つもの炎が残っていることに気づいた滝河は驚き、炎の球が無い場所まで離れる。

久保姉弟は不思議に思い辺りを見回した。下駄箱に叩きつけられ倒れているトウマの右手は床についていて手の回りが赤く光り始めていた。

「天と地を交わりし漆黒の闇、炎を司る紅。汝に命令する…汝の陣を汚すもの全てを焼き尽くせ…」

幾つもの炎の球は光り、それぞれが線のように繋がっていくと魔法陣が描かれていく。

魔法陣の中にいる久保姉弟は驚き、その場から離れようとしたが、それより早くトウマの魔法は完成した。

「サラマンドラーッ!!」

魔法陣が強く光ると、魔法陣から炎の渦が吹き出し、巻き起こる。炎の渦が螺旋に昇り、久保姉弟を包むと激しく燃える。

「は…ぁ…はぁぁ…」

トウマは胸を押さえながらゆっくり立ち上がり、燃えさかる炎を睨む。

「(兄貴の魔力なら召喚魔法は詠唱無しでもできるはず。それなのに…呪印のせいで力が出せないのか…)」

下駄箱の上に移動した滝河は、燃えさかる炎とトウマを見ながら息を飲む。

燃えさかる炎が消えていくと、そこには火傷を負い血を流して倒れている久保姉弟がいた。

トウマの呼吸は乱れ、その場に膝をついた。服の隙間から見える呪印が濃くなっているように見える。

「兄貴!」

滝河は下駄箱から降りてトウマに近づく。

「大丈夫だ。このままねじ伏せる…!」

トウマは痛みに耐えながら呼吸を整えて立ち上がった。

突然、地面が揺れ始めると重々しい空気が漂い、天井に赤と黒のような色の魔法陣が奇怪な音を立てて浮かび上がる。

「何だ…この魔法陣は…?」

魔法陣が不気味に光ると、そこからたくさんの血のような赤い雫が滴り落ちる。

「この魔力は…」

トウマは再び苦痛の表情で顔を歪め、痛みに耐えながら大きく呼吸を繰り返す。


高等部入口のほぼ真上にある生徒会室。

結城は部屋の中心に立ち、その真下には赤と黒のような色の魔法陣が描かれていた。

「………」

結城の右手には血のついたナイフ、左腕には真新しい傷があり、傷口から血が滴り落ちていた。


「この力…血の雨、匠様の…!」

倒れていたはずの久保姉弟は重傷を負いながらもゆっくり立ち上がり、赤と黒の光のようなものに覆われていた。

「さっきより魔力が増幅した…?」

「やはり、あいつの仕業か!」

滝河は驚いている様子で天井を見つめている。

トウマの身体から冷や汗が流れ、痛みに耐えきれないのかその場に膝をついた。

「亮太!あんたは鏡を壊しなさい!あの鏡さえなければ、あたし達は死なない!」

亮太は真っ暗な廊下を睨みながら何かを気にしていたが、姉の言葉に我に返り、目の前の二人を気にしながら再び廊下の先を睨む。

「純哉、今の俺だと暴発するかもしれない…だから、お前がやれ…」

「…俺が?」

「せめて、少しでもあいつらの魔力が抑えることができたら良いんだけどな…」

トウマは滝河の顔を見ると亮太と同じように真っ暗な廊下を睨んでいた。

何かに気づいていた滝河は不安な表情を浮かべながら同じように廊下を見つめた。

久保姉弟は目を合わせると無言で頷き、それぞれに向かって動こうとした。

その時、辺りを覆う結界が揺れてどこからか別の気配が流れ始める。結界をすり抜けて侵入してきたのは梁木だった。

「ショウ…?」

「いつからそこに…?」

梁木の瞳の色は変わり、覚醒していた。

久保姉弟の後ろから現れた梁木は印を結び呪文を唱え始める。

「汚れしものの不浄なる全てを取りはらえ…」

梁木の身体は淡く光り、真下には白く光る魔法陣が描かれる。

「アンチディルク」

呪文を唱えると魔法陣が大きく広がり、白い光が辺りを包む。

「この光は…っ?!」

久保姉弟を包む赤と黒の光は消えていき、真っ暗だった空は明るくなっていく。

「外が元に戻っている…ショウの力なのか?!」

「呪印が……」

トウマは外が明るくなっていくことに驚き、滝河はトウマを見て驚いた。

「!!」

トウマの首筋辺りに浮かぶ黒い呪印が僅かに薄くなっていた。

「さっきまで濃くなっていた呪印が薄くなってる…?それに…身体が動く…」

痛みで動くことができなかったトウマは立ち上がり、右手を見ながら指を動かした。

「純哉、あいつらの動きが止まった!今だ!」

トウマは合図を送り、梁木に向かって攻撃を仕掛ける久保姉弟に向かって魔法を放ち、梁木の前に立つ。

「……………ん」

白い光に包まれた麗と悠梨の身体が僅かに動き、二人は意識を取り戻す。

「これって、一体…」

「マジで……?!」

麗と悠梨は目の前で何が起きたか分からず、ただ驚いているだけだった。

滝河は何か躊躇っているようだったか、意を決して目を閉じた。

「(頼むから暴発するなよ…)」

滝河の周りの地面が裂けると、ひび割れた地面から青い文字のような光が浮かび上がる。

「黒い剣、氷の塊…蒼き革命を汚す者に輝く天罰を…!」

青い光は形を作り、それぞれが繋がると魔法陣になり強く輝いている。

どこからか霧のようなものが吹き出すと、辺りの空気が冷えていく。

「何…この力…」

「身体が動かない…」

麗と悠梨は滝河を見ると、何かに睨まれたような感覚を覚え、身体を動かすことができなかった。

「(純哉、うまくやれよ…)」

トウマは久保姉弟の攻撃をかわし、久保姉弟は異変に気づくと、その場に立ち止まった。

滝河が両手を水平に横に突き出すと、目の前の裂けた地面が揺れて、滝河の後ろで何かが光った。

突然、滝河の後ろの壁や廊下が氷結すると、明るくなった廊下から何か見え始める。

「これは…」

久保姉弟が廊下の先を見ると、その姿に目を見開いて驚いた。

滝河の後ろには、左目の辺りに大きな十字傷のある巨大な氷の竜が現れた。

「うわぁぁぁーーーーっ!!」

氷の竜が威嚇するように吠えると、その姿を目の当たりにした亮太の身体は震え、何かに怯え始めた。

「亮太!」

隣で絶叫する亮太の肩を押さえ、自分の方を向かせる。亮太は思いきり首を横に振ると涙を流していた。

滝河は振り返ると背後に佇む氷の竜の様子を伺っている。

「召喚できた…のか…?」

氷の竜は滝河とトウマを交互に睨むと呆れたように笑った。

「ほお……ガキ共が悪巧みして私を喚びだしたか」

「俺の力だ」

滝河は冷や汗を流しながら強気に笑った。

「まあ、良い。そっちのガキ共は……確か私を喚び出して失敗した吸血鬼に似ているな」

氷の竜は久保姉弟を見ると何かを思い出して嘲笑した。

「このまま息の根を止めることも容易だが…ガキ共に免じて遊ぶだけにしてやろう」

氷の竜が再び天井に向かって吠えると、氷の竜の周りから吹雪が現れて次々に凍らせていく。

「お前ら…気がついたか?」

トウマは梁木を連れて瞬時に移動すると、動けない麗と悠梨の前に立った。小さく呪文を唱え右手を前に出すと炎のような赤い光が現れ、トウマ達に向かう氷や吹雪を溶かしていく。

「トウマ!ショウ!」

「トウマ、呪印は……?」

麗は力を使うトウマの呪印のことを思い出した。

「ああ、何故か分からねえが、呪印が薄くなってるんだ」

「レイ、ユーリ…間に合って良かったです」

梁木は二人の前に膝をつくと複雑な表情で苦笑している。

「お前ら…氷竜は知ってるな?」

麗、悠梨、梁木はトウマの声に気づいて目の前を見た。トウマは冷や汗を流しながら強気に笑い、氷の竜が放つ吹雪を溶かしていた。

「これって…第六章で見た氷の竜?」

「セルナが召喚して呑み込まれた………?」

「ああ…。これから何が起こるか分からねえから俺から離れるなよっ!」

三人は氷の竜の姿と力に驚いていたが、トウマも笑いながら警戒するように様子を伺っていた。

吹雪は辺りを凍らせ、一瞬にして久保姉弟の足元を凍らせてしまう。

「!!」

「亮太っ!」

久保は怯える亮太の手を掴もうとしたが、足元の氷は徐々に氷結していき太股のあたりまで凍ってしまう。

氷の竜は動くことのできない久保姉弟に向かって動きだし、目にも止まらぬ速さで二人の周りを旋回する。

『!!!』

氷の竜が吠えると、二人の全身が凍りつき厚い氷で覆われてしまう。

「すごい…」

全員が氷の竜の力に圧倒されていた。

氷の中の久保姉弟は怯えている表情のままだった。やがて、氷は音を立てて崩れ始め、それと同時にトウマは右手を下ろして魔法の障壁を解いた。

そして、崩れた氷から久保姉弟が力なく倒れる前にトウマは二人の胸の高さ、心臓に近い場所に手を当てる。

「交差する世界で眠れ」

トウマの言葉と同時に右手は淡く光り、久保姉弟の身体は宙に浮きだした。

「え…………?」

麗はトウマの言葉に耳を疑った。それは、一ヶ月程前に高屋の口から発した言葉と同じだった。

久保姉弟の身体から赤い気体が吹き出すと、二人の姿は次第に消えていってしまう。

高等部の入口を覆っていた結界は消え始め、宙に浮いていた氷の竜は久保姉弟が消えた場所を見ると滝河に向かって瞬時に移動した。

「ふんっ!ガキが封印してしまったか…」

「これで久保姉弟は二度と能力者になることはない」

「私も長々とお前らに付き合ってる暇はないからな。次は私を楽しませろ…」

氷の竜はそう言うと滝河の横を通り過ぎ、廊下に向かって消えていった。

いつの間にか辺りを包む冷気や氷は消えていた。

「終わったな」

トウマは大きく息をつくと瞳を閉じて、再び瞳を開く。トウマの呪印は消え、覚醒も解かれていた。

「ねえ、何が起きたの?」

麗と悠梨は立ち上がりトウマに向かって問いかけた。

「同じだ…」

「ん?」

麗は立ち上がりしばらく俯いていたが、小さく呟くとトウマの顔を見た。

「さっきのトウマの言葉…前に高屋さんが同じことを言ってた…」

麗の言葉を聞いて、そこにいる全員が驚いて麗の方を見た。

「レイ、それっていつ?」

「バレンタインでお菓子を渡した時に、覚醒した倉木さんに襲われて…その時に高屋さんが助けてくれたの…」

「え…?!」

「あいつも封印術を使えるのか…」

麗の言葉を聞いたトウマは気に入らないという表情をする。

「高等部の方から嫌な気配を感じて、たまたま大学部にいた兄貴と高等部に来たらお前らが気を失っていたんだ」

滝河は顔を背けながら答えた。

梁木も立ち上がり、前に向かって少し歩き出した。

「僕は保健室に残り、実月先生と話をしていました。そして何かが起きると感じて…その、浄化魔法なら一時的にあの二人の動きを止めることはできないのか、そう思ったのです」

「俺の呪印が一時的に消えたのはショウの力なのか…?」

「分かりません」

トウマは梁木に近づき困ったような表情で梁木を見つめる。しかし、梁木は首を横に振って答えた。

「私が目を覚ます時に感じた白い光はショウの魔法だったんだね」

「結界は解かれた。誰が来るか分からないから、どこかに移動しないか?」

滝河は誰もいないことに気づき辺りを見回した。

「終わったな」

突然、どこからか声が聞こえ、声が聞こえた方を見ると梁木の背後に実月が立っていた。

瞳の色が青く変わっていた。

「実月先生!」

「いつの間に…?」

普段、保健室で煙草を吸っている実月が今は煙草を吸っていなかった。実月は白衣のポケットに両手を入れていたが右手を出すと梁木の背中に手を当てた。

「梁木、対価をもらうぞ」

「……え?」

梁木が何か気づき振り向こうとしたが、それより早く実月は言葉を発動させる。

実月の口角が上がる。

「清らかな翼、隠された真実よ」

その瞬間、梁木の背中は光り始め右側に真っ白な翼が現れる。しかし、本来有るべきの片方は何もなかった。

『!!!』

それを見た実月以外の全員が驚き、言葉を失った。

「この感覚…カリルと同じ翼…?」

梁木は信じられない様子で翼に触れると、呆然と立ち尽くした。

「本当にカリルの力を持っているんだな、その片方だけの翼…もう片方は……」

「…清らかな翼、隠す偽りよ…!」

実月は小さく笑いながら梁木の背中を見ていたが、実月の言葉を遮り、梁木は震える手で翼に触れると言葉を発動させる。

梁木の背中に生えていた白い翼は淡く光ると、特殊な言葉によって体内に吸い込まれるように消えていく。

梁木は立っていられなくなったのか膝をついた。

実月は梁木を見下ろして梁木の背中に問いかける。

「何故、隠す?」

「……分かりません」

梁木は俯いたまま動こうとせず、その声は震えていた。

「お前はどこかで現状を認めるのが怖かったんじゃねえか?」

「……」

実月の言葉に全員が言葉を失い、それまで梁木を見ていた顔を背けてしまう。

今までの日常が本やゲームを手にしてから一変してしまった。月日が流れるごとに疑問は増していった。

実月は淡々と、どこかで楽しみながら言葉を続ける。

「ましてや、記憶の連結が早い自分がどうなるか考えると怖いだろうな」

「先生」

顔を背けて何も喋らなかった麗は顔を上げると、実月に問いかけた。

「対価って…何?」

「さっき保健室に残った梁木は俺に何かできないか聞いてきた。それに対してその対価をもらっただけだ。…案の定、生徒会の久保姉弟は覚醒してお前達に襲いかかってきた」

「…浄化魔法は僕が使いましたが、暗くなっていた外を元に戻したのは僕ではありません」

俯いていた梁木は小さい声ではっきりと答えた。

「………え?」

梁木の言葉に麗、悠梨、トウマ、滝河は驚いて実月の顔を見た。実月は何も言わずに笑っている。

「セルナとアルナの力を持つ久保姉弟は、満月の力で増幅する。誰かは分からねえが時間を操る能力者がいるとしたら…」

「言っておくが、それは俺じゃねえぞ」

「分かってる」

トウマは不快な顔で実月を睨んだが、実月な何も気にせずトウマの顔を見ている。

「トウマ、封印されるとどうなるの?さっきの二人は?」

次に麗はトウマに問いかけた。

「封印されると覚醒してからの記憶が失われ、二度と力を使うことはできない。封印術が使えるのは俺だけだと思っていたが…まさか高屋が使うとはな」

「そういえば、倉木さんはあれから変な感じもないし、前みたいに優しい感じに戻ってた」

先月、覚醒した倉木は別人のように変わり、麗に襲いかかっていた。

「滝河が言ってたように結界が解かれて誰が来るか分からない。さっきも言ったが風村のことを考えて、今日は帰ったらどうだ?」

麗は悠梨の顔を見て思い出した。戦ったとはいえ、悠梨は生徒会室に捕まり精神的に疲れ、力を十分に使うことはできなかったのだ。

麗と悠梨は顔を合わせると頷いた。

「分かりました」

悠梨が何か言いたそうな顔で実月を見ていたが、隣にいる麗は気づくことはなかった。

「水沢」

実月は思い出したように麗を呼び止めた。

麗と悠梨は振り返る。

「明日、保健室にゲーム持ってこい」

実月の一言は全員の予想とはかけ離れていた。



その頃、中西は鏡の中で傷を負いながら幾つもの巨大な氷の像を蹴り倒していた。

「はあ……ぁ…はぁぁ…っ」

中西の身体は痣や傷だらけだった。

氷の像は砕け落ちて動かなくなると、中西は大きく息をつくと辺りを見回した。

鏡の中は来た時と変わらず、水晶のように輝き水のように揺れている。

「レイ…………?」

突然、壁が水のように揺れると、先程までこの場所にいた男が姿を現した。

「師匠…さっきまで姿が見えなかったが、どこに居たんですか?」

中西は何事も無かったように強気に笑う男の前に立って問いかける。

「(私が外に出たことも気づかないくらい鍛えていたか…)」

男は回りに落ちている幾つもの氷の塊を見ると、中西の顔を見た。

「ああ…ガキ共と遊んでいただけだ」

男は口角を上げて笑っていた。

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