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再生 13 二つの秘めた可能性

滝河の結界の中、麗と梁木は滝河の魔法で二人の足元は氷結して自由を奪われていた。

その時、二人の後ろから声が聞こえ、どこからか現れた炎によって氷は溶けていく。

結界をすり抜けて侵入したのはトウマだった。


義兄(にい)さん…」

滝河の言葉に二人は耳を疑った。

「え?」

「二人は兄弟なの?」

戸惑う二人を見てトウマは少し呆れた表情で滝河の顔を見る。

「純哉、いつもの呼び方でいいって言ってるだろう」

「…」

「まあ良いさ。それより、さっきお前はレイとショウに試してやるって言ったよな?」

トウマは強気な笑みで麗と梁木に近づいている。滝河はトウマを睨みながら様子を伺っていた。

二人の前に立つと、手の甲を向けて手招きをするように動かす。

「俺が相手をしてやるよ」

『えっ?!』

トウマの言葉を聞いた三人は驚いてトウマの顔を見る。

「なんだ、俺じゃ不満か?」

トウマは強気な笑みを浮かべながら様子を伺っている。何かに気づいた梁木が麗の顔を見て呟いた。

「トウマさん…挑発してますね」

「え?」

麗はトウマの背中を見つめ、トウマと同じく動かない滝河を見た。

「それとも…水の力が強く流れている場所でも力が出せないのか?」

トウマの一言で滝河は何かに反応して、腹を立てて声を上げた。

「…兄貴の言う通り、相手してやるよっ!!」

滝河は杖を両手で持ち直すと、トウマに向かって走り出す。トウマの両手が赤く光ると二本の短剣が現れる。それを刃を下にして構えると、滝河の振り下ろした杖を弾いて、杖を目がけて大きく足を上げて蹴る。

滝河は咄嗟にかわすと地面に手をついた。トウマは滑り込むように蹴ると、滝河はそれを避けて立ち上がった。

二人の速さに麗と梁木は何もできずに目で追っていた。

「トウマ、すごい…」

「スーマは魔法に長けていると思っていましたが、剣術や体術もすごいですね」

二人がそう思っていることなど知らずに、トウマと滝河は様子を見ながら次々に攻撃していた。滝河は呼吸を整えるとトウマとの距離を置くとトウマを睨んだ。

トウマは息一つ乱れていない。

「どうした?」

「…兄貴は何を考えているんだ?」

「俺は俺のやりたいことをやる。お前みたいにな」

「…」

「本気出せよ?」

トウマは明らかに純哉を挑発していた。

純哉は納得のいかない表情でトウマを睨むと杖を右手で持ち直した。滝河が動くより先にトウマは短剣を構え直して滝河に斬りかかる。滝河は杖でトウマの短剣を弾くと、再びトウマと距離を置く。

トウマの目つきが鋭くなり滝河を睨む。

「純哉、引き金を引け!」

滝河は驚くように何かに気づき、廊下に広がる水をすくうように杖を振り払い、トウマに向かって杖を振り上げる。

トウマはそれをかわすと滝河の背中を目がけて斬りかかる。滝河はトウマの後ろに回り、鏡と向かい合うような位置に立った。

滝河は大きく息を吐くと、持っていた杖は滝河の手から離れ目の前に浮き始めた。

「水の王リヴァイアよ、静となり動となる力。静、慈悲なる力…動、混沌の刃…静寂の怒りをここに示せ…」

滝河は俯きながら呪文を唱える。鏡が光り、そこに描かれた魔法陣が浮かび上がる。滝河の足元の水が揺れ始め、後ろには青い竜の姿が浮かび上がる。両手から渦が現れると次第に大きくなっていく。

呪文に気づいたスーマは笑い、小さく呪文を唱え始める。

「タイダルウェイブッッ!!」

滝河が言葉を発動させると、巨大な渦は滝河の手から離れ、滝河の杖を飲み込むと勢いを増してトウマに向かって加速する。

『!!!』

杖を飲み込んだ渦は滝のように上から下に叩きつけトウマの姿は見えなくなる。

渦と杖は鏡に向かって進み、吸い込まれていく。

「はぁ……はぁ…ぁ……」

滝河は大きく呼吸をして渦が消えていくのを待っていた。

トウマの姿が見えると、トウマの回りには赤い球体のような壁ができていた。切り裂かれたように傷を負い、左の鎖骨から首にかけて黒い逆十字の印が浮かび上がっていた。

「やっぱり呪印が浮き出るくらい魔力を使ったんじゃねえか…どうして…?」

「…俺の賭けだ」

滝河の後ろでは危険を察知した梁木が魔法で風の防御壁を張っていた。

突然、鏡が光ると鏡は水のように揺れると中から青みがかった白銀の柄が現れ、次第に刃が見え始める。

「これって…」

滝河はトウマの横を通りすぎ、鏡に近づいた。滝河は鏡から現れた剣を掴むと、まばゆいほどに輝きだした。

鏡牙(きょうが)…見つけた…」

「カズとフレイに第二プールに行かせたが、そこまで大きな魔力は感じなかった。次に目をつけたのがこの鏡だった」

やがて光は止み、トウマは安心したようにその場所に膝をつくように座った。

「じゃあ、この魔法陣は兄貴が……?」

「いや、俺じゃない。が、干渉はした」

トウマは大きく呼吸を繰り返し、腕の傷口をおさえる。麗と梁木はトウマに近づき、梁木が小さく呪文を唱えると、トウマの身体の傷は淡い光に包まれ傷は癒えていく。

「傷は治りました…けど…」

梁木はトウマの首筋を見て顔を曇らせる。

「実月から聞いてないか?呪いを解かないとこれは消えない」

首筋に浮かぶ逆十字の呪印は消えていなかった。

トウマは鏡に描かれた魔法陣が消えていないのを見て何かを考える。

「俺の役目は終わった。だから、後は任せたぞ」

トウマは苦痛の表情を浮かべながらも麗と梁木を見て少しだけ笑った。

「??」

トウマは力を出して立ち上がりよろめきながら壁に向かい座った。

三人はトウマの言葉に首を傾ける。

「出てこいよ」

トウマは目の前の地下へ続く階段を見た。すると何かを切り裂くような音が響き渡る。階段の目の前の空間が裂けて、そこから誰かの足元が見える。焦げ茶色のような髪に紅い色の瞳、左手首には黒いブレスレットを身につけている。現れたのは大きな長剣を持った鳴尾だった。

「彰羅…?」

「貴方はあの時の…」

滝河と梁木は鳴尾の姿に驚き、麗は瞳の色が違うことに気づき警戒し始める。

「鏡牙、見つかって良かったな」

鳴尾は滝河を見て自分のことのように嬉しそうに笑い、梁木の顔を見て握っていた長剣を梁木に向ける。

「梁木翔、もう一度力を見せろ!」

切っ先を向けられた梁木は何か躊躇ったが、何かを決めたように麗から離れた。静かに息を吐き、目を閉じると梁木の右手には短剣が現れ、それを両手で握る。

梁木もカリルも両手で短刀を握ることが無かったので、麗は何か疑問に思う。

二人が同時に動く。

鳴尾は廊下を走り梁木に斬りかかろうとする。それより少しだけ早く梁木が呪文を唱える。

「光の精霊ウィスプよ、輝く風を束ね聖なる光を剣に宿せ…ホーリーブレード!」

梁木の持っている短剣まばゆい光に包まれ、光を型どった長剣に変わる。

それを見た全員が驚き、鳴尾は犬歯を見せて笑った。

剣と剣がぶつかり合い鳴尾が力で押していたが、距離を置くと、梁木に向かって勢いよく剣を振り降ろした。その時、剣から鎌のような空気の刃が幾つも現れ、梁木を襲う。

「!!」

梁木は危険を感じてそれを剣で弾いて避けた。

突然、梁木は顔を歪ませ胸を押さえて大きく呼吸を繰り返す。

「その剣、骸霧そのものですね」

「やっぱりお前はカリルの力を持つ奴だな」

鳴尾は長剣を振り回すと楽しそうに笑っている。

骸霧(がいむ)も知ってるなら話は早い。これは人の生気を吸い取る力もあるし、切りつけられたら毒に侵される」

「そんなこと簡単に言っても良いんですか?」

梁木は苦痛の表情を浮かべながらも鳴尾に問いかける。

「楽しくなればそれでいいさ」

鳴尾が剣を持ち直すと、全身から炎のような蒸気が噴きだし、それは竜の形に変わっていく。

次の瞬間、鳴尾は目に見えない速さで梁木に接近して梁木に斬りかかる。身体の痛みに気をとられていた梁木は鳴尾に斬られてしまう。

「ショウ!!」

麗は叫び、瞬時にして剣を生み出すと鳴尾に向かって走り出した。

その時、斬りつけられた梁木は氷のように砕け、光が反射すると水蒸気のように消えていってしまう。

麗、鳴尾、滝河は驚き、トウマは笑った。

「ショウが消えた…?」

「虚像ですよ」

麗の背後から声が聞こえ、振り返ると麗の後ろには傷を負った梁木が立っていた。

「どうして…?」

「この場所には水の魔力が強く流れています。僕の作った光の剣を利用して偽物を作ったんです」。

梁木は小さく呪文を唱えると、梁木の傷口は光り、傷が癒えていく。

「赤竜士ヴィースとカリルの力ははっきりとしてる。…だから僕は僕なりに考えたつもりです」

「へえ、頭いいんだな」

鳴尾は驚きながらまだ笑っている。梁木の傷は癒えてきたが、苦痛の表情は変わらなかった。

鳴尾は次々に攻撃を仕掛ける。梁木は剣を受け止めながら攻撃を防いでいるが、動きは鈍くなっていた。隙ができた時、鳴尾は梁木の背後に回り梁木を蹴り飛ばす。

「がっっ!!!」

梁木は壁にぶつかり廊下に倒れる。

壁に座り込むように倒れ、再び結界の中の空気が冷えていく。

「つまんねー」

その時、鳴尾の真下の水が光り水は氷結し始める。水は魔法陣を描き、梁木の声が響く。

「吹き荒れる風、煌めく螺旋の刃、凍てつき刹那に切り裂け……」

一瞬の出来事に鳴尾の動きは止まってしまい、氷が厚くなり輝き始める。

「!!!」

梁木は顔を上げて右手を前に出していた。右手は青く光り輝いている。

「アイスヴィントッッ!」

その瞬間、鳴尾の足元が凍りつき、氷は勢いを増して鳴尾の身体を覆う。鳴尾の身体を覆うと再び強く光り、氷は爆発する。

「ぐあぁぁぁーーーーっっ!!!!!!」

爆発する中で鳴尾が絶叫する。

氷が粉々に砕け、辺りは水蒸気に包まれる。水蒸気が消えていくと、そこには全身に深く傷を負った鳴尾がふらふらになりながら立っていた。

肩で大きく呼吸を繰り返し、今にも倒れそうだった。

鳴尾は傷つきながら笑っている。

「……よしっ!」

鳴尾は満足そうな顔で滝河を見つめて、無言で頷く。

それに気づいた滝河は意識を集中させて両手を合わせる。鳴尾も目を閉じて両手を合わせた。

滝河の結界が揺れて二人が両手を開くと、手のひらから深い青色と赤い直方体のようなものが現れ回りを包む。

「結界…」

それを見たトウマは痛みが和らいだのか立ち上がって辺りを見回す。

「トウマ、結界って確か…」

麗は不思議な顔でトウマを見た。

「使用した者以外の姿や声を周りから遮断するものの言われているが、どうやらそうでもないな。俺達もこの中にいる」

トウマは結界を見渡してから、麗の顔を見た。

「ある程度なら結界の範囲を広げることはできる。これで、中は外からは見えないし会話も聞こえない」

滝河は鳴尾に近づき身体を支えようとしたが、鳴尾は手を払いのけた。

トウマは二人を睨む。

「彰羅、どういうつもりだ?」

「トウマは二人を知ってるの?」

麗の声に拍子が抜けたのかトウマは苦笑した。

「純哉が最初に言ってなかったか?純哉は義理の弟だ」

『えーーっっ!!』

トウマの言葉を聞いて麗と梁木は驚いて声を上げる。

「彰羅と純哉は小さい頃から仲が良いんだよな」

滝河と鳴尾は黙ったままだった。

「彰羅、お前はどうして生徒会にいる?」

トウマが厳しい目つきで鳴尾を見る。それに対して鳴尾はあっさり答えた。

「俺は強い奴を見つけて、戦えればそれでいいさ」

鳴尾は思い出したように麗の顔を見ると何か言いたげに睨む。

「お前」

緊張が走り麗は構えている。

「あいつには気をつけろ」

そう言うと、持っている長剣で虚空を切り、目の前の空間が裂ける。

そこに向かって歩き、鳴尾の姿は消えていった。

赤い直方体のようなものは消え、滝河の結界だけが残っていた。

「純哉、結界を解け。このままだと誰かに気づかれるぞ」

滝河は納得したようにゆっくり頷き、意識を解いた。

廊下を流れていた水は消えていき、滝河の目の色が元に戻ると長剣も消えていた。

「この鏡に仕掛けをしたのは誰か分からないが、今日はこのまま帰る」

滝河は三人を見ると、歩き出し三人の横を通り過ぎていった。

結界が解けた廊下は何もなかったように綺麗だった。

「とりあえず、終わったな。ショウ、立てるか?」

トウマは動かない梁木に近づき手を引っ張って立ち上がらせる。

「なんとか動けます…」

梁木はトウマの手を借りて立ち上がる。

「あの言葉…何だったんだろう」

麗が思い出したように呟くとトウマは腕を組む。

「あいつも気まぐれだからな」

トウマは何かを思い出したように麗と梁木を見る。

「お前ら、物語はどこまで見た?」

それを聞いた二人の表情が曇る。

「カリルが有翼人で…精風士ルイアスと対峙したとこ…」

「僕も同じです」

「じゃあ……ショウにも翼が…?」

「それは分かりません」

梁木は首を横に振って俯いた。

「カリルは精風士ルイアスと対峙して、過去を暴かれ、悪魔と天上人の混血児の有翼人という種族だと知らされました…。片方には純白の片翼、もう片方は…」

物語のカリルの片方の翼が生えていなかった。

梁木は背中に鋭い痛みが走るのを感じた。しかし、俯いているので苦痛に歪む顔は二人に気づかれることはなかった。

「ところで…俺のことは分かったか?」

何を言っているか分からず二人はきょとんとする。

「まだ知らないようだな」

安心したような困ったような顔で小さく呟くと、トウマは歩き出した。

「ここにいても誰が来るか分からない。俺も帰るぞ」

そう言うと片手を振り、廊下を歩いていく。

ふと何かを思い出したトウマは振り返り、厳しい目つきで二人の顔を見た。

「風は回っている。何があってもいいように強くなれ」

トウマは何かを知ったような顔をしている。


いつの間にかトウマの首筋に浮かぶ逆十字の呪印は消えていた。

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