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再生 10 嘆きの桜

どこかで鈴の音が聞こえる。

どこかで指を鳴らす音が聞こえてる。

真っ暗な場所に私は立っていた。辺りを見回しても何もなくて不安が募る。

その時、紫色の明かりが灯りはじめ、道を示すように明かりが連なって行く。

「夢かもしれない」

はっきりしない意識と重い足取りに夢だと思い始めた。

「レイ」

その時、私を呼ぶ声がした。後ろを向いても誰もいない。

指を鳴らす音が強くなっていた。

振り返ると、そこには高屋さんが立っていた。

高屋さんが私を愛称で呼ぶのも驚いたけど、彼の瞳の色が赤くなっていることに驚いた。高屋さんが複雑な表情で苦笑して、少しずつ私に近づいてくる。

濃い赤い瞳が綺麗で、その視線から目を離せなかった。

「ごめんなさい……」

高屋さんの右手が私の頬に触れる。

その手は氷のように冷たかった。



「………あ…」

麗は目を開いた。

ベッドから起き上がると、もう一度目を閉じて思い返す。

「夢に出てきたのは高屋さんだった?…あの瞳の色…覚醒してる…?」

身支度を済ませ、準備をしてる間も麗はずっと考えていた。

「高屋さんの手…冷たかった」

麗は自分の両手で頬を押さえる。十二月の朝は寒い。

「それに、あの言葉…いったい、どういう意味なんだろう…」

考えるだけで頭が痛くなり、意識が遠のいていく感じがする。

「いけない!早く学校に行かなきゃ!」

我に返った麗は急いで準備をして部屋を出た。

「レイ、おはよう」

部屋を出ると、待っていたように悠梨が自分の部屋の前で立っていた。麗は特に何も気にせず悠梨の横に並んで歩きだす。

「おはよう。いよいよ舞冬祭だね」

「そうだね。あー、緊張してきた」

悠梨の表情がいつもと違う。それは、何か警戒してるようにも見えた。

「ユーリ、どうしたの?」

「……え?」

「いつもと雰囲気違う」

麗の言葉に何かを躊躇った悠梨は、少し考えて明るく笑い、麗の肩を叩く。

「やだ、あたしだって緊張するって!」

「そ、そうだよね」

「それに、レイこそ何かあった?」

「え?」

それまで笑っていた麗の表情が曇る。

夢の出来事を話そうとすると再び頭が痛くなり。麗は首を横に振って苦笑する。

「う、ううん、ちょっと寝れなかっただけだよ」

「マジで?まだ時間あるし、先に実月先生のとこ行く?」

高等部の校舎の入口が見えてきたところで悠梨は立ち止まり、心配そうに麗の顔を覗きこんだ。

互いが何かいつもと違うように見えるようだ。

「大丈夫。先に講堂に行って打ち合わせして、練習して、それから保健室に行こう」

「うん、分かった」

笑顔で答える悠梨の表情はいつもと違うようにも見えた。


舞冬祭当日。講堂には参加する生徒や教師が集まり、それぞれ打ち合わせや音楽の確認をしていた。

「水沢、風村、こっちだ」

二人が講堂に入ると、壁際で中西が手を振って合図を送っていた。

「中西先生、おはようございます」

麗も中西も公の場では教師と生徒、普段と違う話し方をしていた。

「ああ、おはよう。早速だが…水沢、出番が最後になったそうだ」

「え?!」

「照明と生徒の衣装の関係で順番が変わったようだ」

驚く麗の顔を見て、中西は何事もなかったように説明する。

「後、一時間くらいで開会式が始まる」

中西が講堂の舞台を指すと、そこには複数の生徒が集まり、話し合っていた。

「生徒会…」

「高等部と大学部の人達で構成されてるのは本当だった……って、あの制服、中等部じゃなかった?」

「マジで?あの子、隣にいる女の人に似てる」

麗と悠梨の表情はどこか険しかった。学園祭の開会式で見た大学部の生徒、梁木が覚醒した時に結界の亀裂から現れた鳴尾という生徒、他に高等部と大学部の生徒がいる中、麗は一人の生徒を見つけると口唇を噛んだ。

「高屋さん…」

「本当にルトに似てるね」

悠梨は中西に聞こえないように麗の耳元で呟く。

「………うん」

麗の表情が曇り、俯いたままだった。

その時、講堂の入口から悲鳴にも似た歓声が起こり、麗と悠梨は驚いて振り向いた。

そこにはトウマ、フレイ、カズが講堂に入ってきていた。トウマは麗を見つけると二人に近づき、フレイとカズもトウマについて歩く。

「レイ、ユーリ」

「ど、ど、ど、どうしてトウマさんが?」

「それに、フレイさんとカズさんまで?」

指をさしてまで驚く二人を見て、中西は首を傾げている。

「あ、俺達は一応、大学部の生徒だからな」

トウマの後ろでフレイとカズが笑っている。

「俺達は見に来ただけだよ」

「二人は参加するの?」

『はいっ!』

フレイとカズの笑顔に顔を赤くした二人は同時に答える。

トウマは舞台を睨むと、麗と悠梨の顔を見て笑う。

「じゃあ、楽しみにしてる」

そう言うと、三人に背を向けて講堂から出て行く。

トウマは振り返らずに呟いた。

「フレイ、カズ、エイコ、見張ってろ」

フレイとカズは何かを考えて笑い、トウマの影が揺れた。


打ち合わせが終わり、一息つくと中西が二人に声をかける。

「一時間後には開会式だ。それまで休憩しても良いし、自由だ」

二人は大きく背伸びをすると顔を見合わせて笑う。

「あ、風村は待て。話がある」

「えー」

あからさまに嫌な顔をする悠梨を見て麗は苦笑する。ふと、辺りを見ると高屋が講堂を出て行くのが見える。麗は何かに焦り始めた。

「ごめん、保健室は行けたら行くよ!」

「レイ!」

悠梨にそう言うと、麗は後を追うように講堂から出て行く。


講堂を出て、渡り廊下を歩いていると高屋の姿を見つけた。後を追うと、高屋は横道に入り校舎の裏へ消えてしまう。

麗が後を追うと、大きな木の下に高屋が背を向けて立っていた。

意を決して名前を呼ぶ。

「高屋さん」

その声に気づいて高屋が振り返ろうとすると、霧のように姿が消えてしまった。

「…………え?」

「何かに気づいてしまったみたいですね」

高屋の声は後ろから聞こえた。

麗が驚いて振り返ると、校舎の壁にもたれかかる高屋がいた。

「瞳の色が違う…」

高屋の瞳の色は赤くなっている。それが覚醒と気づいた麗は高屋に問いかける。

「…やっぱり、高屋さんはルトの力を持っているんですか?」

高屋は何かに気づいたように苦笑している。

高屋の瞳が光ったように見えた。

その瞬間、周りに黒い霧が周りを囲み、紫と黒を混ぜたような暗い空間が広がる。

「結界…」

結界に気づいた麗はスカートのポケットに手を入れて携帯電話を握った。

「何故、僕がルトの力を持っていると気づいた上で、僕に近づくんですか?」

急に麗の視界が霞む。

「え………?」

次第に瞼が重くなり、頭が痛くなる。立っていることもできない麗は意識を失い倒れてしまう。

高屋は麗を抱きかかえ、麗の頬に触れると耳元で囁いた。

「ルトも僕と同じ気持ちだったのでしょうか…」


一時間後、悠梨は講堂に早足で向かっていた。

「保健室に実月先生はいないし、レイもいないし…開会式は始まったのに…」

渡り廊下を抜け、講堂に戻ると入口には麗が立っていた。

「ユーリ」

「ちょっと、レイ!どこに行ってたの?講堂から居なくなったと思ったら保健室は鍵がかかってたし、教室も探したんだよ?」

「ごめん、先に教室に行ってから保健室に寄ってたんだ」

麗は軽く頭を下げて説明をする。それを聞いた悠梨は何かを考えてから笑った。

「そっか」

「二人とも、そこにいるなら準備しろ。舞冬祭は始まってるぞ」

二人の話し声が聞こえたのか、入口から中西が顔を出して手招きをする。

『はーい』

二人は講堂に入り、舞台に近い準備室に入っていく。

一時間半が過ぎ、麗は舞台の袖から舞台を見ていた。

舞台では、髪を高い位置で二つに結んだ少女が民族衣装を身に纏い、優雅に踊っている。

「一年D組の佐月絢葉(さづきあやは)。音楽室で内藤先生の演奏で踊る彼女を見て、私が声をかけたんだ」

麗の後ろ姿を見かけて中西が呟いた。

「葵は本当に色々な人に声をかけたんだね」

中西に気づいた麗は胸を撫で下ろし、いつもの話し方に変える。

「ああ、この学園の行事は楽しいからな。それにしても…まだ夕方のはずなのに、空は暗くなってきてる」

二人が講堂の窓から外を見ると、四時なのに外はもう暗くなり、うっすらと満月が見えていた。

舞台では音楽が止まり、民族衣装を着た少女が拍手と歓声に包まれていた。

「次はレイと風村だな」

「うん」

舞台を見つめる麗の表情が変わっていく。舞台の反対側には悠梨がいる。

打ち合わせでは麗と悠梨が舞台の左右から現れ、ポップな音楽に合わせ可愛らしい踊りをすることになっている。

「頑張れ」

中西に肩を叩かれ、麗は静かに舞台に出る。

真っ暗な舞台に麗が立つ。この後、音楽と同時に照明が麗に集まり踊る。


そのはずだった。


突然、講堂全体が明るくなり、どこからか桜の花びらが激しく吹き荒れる。

「桜……?」

麗は入学式の時に見た桜を思い出し、目を見開くと俯いてその場に立ち尽くす。

いつの間にか講堂は黒い霧に包まれていた。

麗の異変に気づいた悠梨は舞台に出て、麗に駆け寄る。

「ちょっと…レイ、どうしたの?」

悠梨が麗の顔を覗き込もうとした時、叫び声が聞こえた。

「レイから離れろ!!」

その声に驚いた悠梨は振り返り、悠梨の隣では麗が俯いたまま笑う。

いつの間にか、麗の右手には剣が握られていた。

「!!」

麗は剣を強く握り、振り払うように切りかかった。それに驚いた悠梨は舞台から離れ、間合いをとる。

悠梨の瞳の色が変わっていく。

「ユーリ、大丈夫か?」

悠梨に近づいてきたのはトウマ、フレイ、カズの三人だった。

「トウマさん?!」

「講堂全体に結界が張られている」

トウマの瞳は翡翠のような薄い緑色、フレイとカズの瞳は金色だった。

『だから、この中にいるのは全員、能力者だよ』

「そして、この結界…」

トウマは舌打ちをすると天井に向かって叫ぶ。

「高屋雫!出てこい!」

トウマが叫ぶと剣を握ったまま俯く麗の影が揺れて、影の中から高屋が姿を現した。

「気づかれてしまいましたか」

高屋は麗の背後に立つと、わざとらしく溜息を吐いた。

「やっぱり、こいつの仕業だったのね」

「高屋と会ったことがあるのか?」

「レイから話は聞いてたし、舞冬祭の前にあたしを挑発してきたの」

悠梨とトウマの会話を聞いて高屋が微笑する。

「嫌だなあ。僕はお二人に挨拶しただけですよ」

悠梨とトウマが高屋を睨みつける。

「その態度が気に入らないんだよ!」

トウマは何か呪文を唱え右手をかざすと、手の平に炎の球が現れる。

「相変わらず怖い人ですね……ね、麗さん」

合図をするように高屋が名前を呼ぶと、俯いていた麗がゆっくりと顔を上げる。

虚ろな目と、右の頬には逆十字の模様が浮かぶ。

『!!!』

高屋以外の全員がそれに驚き、トウマは激しい怒りをあらわにする。

「…煌めく紅の閃光、すべてを呑み込む威力を宿し、天に突き刺せ…」

意識を集中するトウマの額から汗が流れる。トウマの手の平に浮かび上がる炎の球は二つ、四つ、八つと別れ、風が渦を巻いて炎の力が強くなっていく。

何かに気づいたフレイとカズはトウマに向かって叫んだ。

「増幅詠唱をしてる…」

「トウマ様!お止め下さい!このままでは…」

「うるせえっ!!」

トウマの怒鳴り声にフレイとカズの動きは止まり、言葉を失う。

身体が軋むような痛みが走る。トウマは苦痛に耐えながら発動させる。

「フレアゾーン!!」

音を立てて渦を巻く炎の球を投げつけると、加速して麗を避けて高屋を襲う。

「この場所で風の増幅詠唱ですか」

高屋が小さく呪文を唱えると高屋の身体は宙に浮き、不規則に動く炎の球を避ける。

高屋が風村の顔を見て笑うと、炎の球は急に曲がり高屋の後を追う。

「!!」

麗を避けても高屋の後を追い、高屋は焦りながら間一髪で逃げている。

「流石、神竜の力を持つ人だ」

高屋が炎の球から逃げている間に、トウマは何かに耐えながら再び呪文を唱える。

「ウインドボム!」

トウマの放った大きな風の塊は、炎の球に衝突すると次々に爆発して煙が立ちこめる。煙で全員の視界が遮断され、高屋は辺りを見回すと呪文を唱え始める。

高屋が何か大きな力を感じると、煙の中からトウマが近づき、高屋の首を目がけて回し蹴りをする。

「…っと」

高屋から余裕が消え、咄嗟に半身を引きトウマの蹴りを避ける。

「…………」

トウマも苦痛に耐えるような表情をして呼吸が乱れていた。ほんの僅かにトウマの動きが止まったように見えた。

高屋が口角を上げて笑う。

「これで終わらせてやる…!」

トウマは飛翔呪文を唱え宙に浮くと、高屋に接近して攻撃を仕掛けようとした。

「何か忘れていないですか?」

高屋が逃げるように離れると、トウマは間合いを詰めるように近づいた。

その時、トウマと高屋の間に操られた麗が高屋を庇うように割り込む。

麗は感情の無い声で呟く。

「グラスグラビディ…」

突然、麗の目の前に巨大な氷が現れ、トウマに衝突するとそのまま地面に叩きつけた。

『!!!』

それまで見ていた悠梨、フレイ、カズは驚きを隠しきれなかった。

砂埃と霧が舞って何も見えなくなっていたが、氷が溶け始めて激しく蒸気が噴き出す。

赤い壁のようなものが見えて、全身に傷を負い激痛に苦しむトウマが見える。

「防御壁を張りましたか…でも、思った通りだ」

高屋は驚きながら笑みを浮かべた。

トウマの左の鎖骨から首にかけて黒い逆十字の印が浮かび上がっていた。

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