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華郷少女〜仮面舞踏会の小話〜

作者: イカスミ

お久しぶりの投稿〜

仮面舞踏会の章


「仮面舞踏会ぃ?なんだそれ?」

と言いながら唱はフィーラスの招待状を覗き込む。

「仮面を付けて、つまり顔を隠して参加する舞踏会のことだよ。それが今度俺の母国、カリメンタでやるんだよ。」

「で、なんだ。その舞踏会に私らも行くってことか?」

「うん。招待状も3枚あるしね。」

そう言ってフィーラスは三人に招待状を渡してみせた。

「3枚?4枚じゃなくて?」

美桜里がここにいる全員、唱、リュウ、フィーラス、そして自分で4枚になるはずではないかと首をかしげた。

「いや、俺は一応カリメンタの第五王子だから。招待状いらないの。」

フィーラスは曲がりなりにもれっきとした王子様なのだ。上に兄二人、姉二人いるので王位継承権は持っているが、それが来る可能性は低い。だからわりと自由がきくのでここにいられるというわけだった。

何がともあれ、とりあえず半強制的だが舞踏会への参加が決定したので四人はメイドに頼んで幾つかドレスやタキシードを出してもらった。そしてそれぞれ気に入ったものを選び舞踏会へとそなえたのだった。


___当日


「みんな準備いいかー?それじゃ、行くぞ!」

そう言って四人は時空を飛び、カリメンタのある世界へと向かって行った。


「おっし、到着!」

「おぉ、やっぱいつ見てもでかいなこの城は。」

と、リュウがつぶやいた。彼の言った通り、降り立ったのはカリメンタ王国の中心部に建つ『カリメルシア・キャッスル』の目の前だった。カリメルシアというのはカリメンタ王国の旧名称のことである。国の中心というだけあって、やはり内装も大層豪華なものだった。風雷荘も小さな屋敷のようなつくりになっているが、ここまで豪華ではないのでフィーラスを除いた三人は少し緊張しているようにも見えた。

「お前ら大丈夫か?」

「あたりまえだろ。こんなに凄いところだなんて聞いてねえんだから。」

「唱、言葉遣い気をつけて。昨日言ったでしょ?」

と、すかさず美桜里が唱の言葉遣いを注意する。普段男勝りな性格の唱は昨日美桜里と言葉遣いの練習をしていたらしいが、あまり身についてはいないようだった。

「はっ、やめだやめだ。誰に対してそんな態度取らなきゃいけねぇんだよ。」

「唱、向こうにターキーきてるぞ。」

「は?」

そう唱は振り向いて、ターキーの匂いがする方へ行ってしまった。

「おい!お前この城の構造よくわかってねぇくせに勝手に行くな!」

と、フィーラスも唱を追いかけて奥まで行ってしまった。

「私たちも行こっか。」

そうして、唱とフィーラス、美桜里とリュウは別々に舞踏会を楽しむこととなった。


「やっぱりここの食べ物は別格だな。うまいぜ。」

「あんまり食い過ぎるとまた美桜里に怒られるぞ」

「今日くらいはいいだろ。」

と、唱とフィーラスは延々と食事を続けていた。最初に見つけたターキーだけでなく、フライドポテト、サラダ、ステーキなど次から次へと味見をしていった。そんなループを止めたのは唱だった。

「お前さ、久しぶりにこっちに来たのに家族に挨拶とかしねぇのか?」

「んあ?」

と、情けない返事をしてフィーラスが振り返る。少し考えるそぶりを見せた後、フィーラスが答えた。

「めんどくさいしいいや。つーか、こんな言葉遣い悪い食欲旺盛な野生人みたいな奴といるってバレたら絶対もう二度と城から出してもらえないだろうよ。一応俺が出て来てんのは『風神のもとで修行をする』っていう目的で来てるわけだから。」

「ふーん。カリメンタは鬼神崇拝とかいう宗教だっけか?」

「そう。だからとかOKもらえたんだよ。」

「つーか、スルーしたけど言葉遣い悪い食欲旺盛な野生人って何だ」

「ぴったりでしょ」

「あ゛?」

ここでまた二人のいがみ合い(?)が始まるのだった。


一方、美桜里とリュウは廊下のど真ん中で置いていかれたまま突っ立ってるのもあれなので、とりあえずダンスホールへとやって来た。そこでは、自分たちもよく知らない、おそらく、カリメンタのものであろう音楽が演奏されていた。そこで踊る人たちは見たこともないほどの高貴な雰囲気を醸し出しホールにたくさんの華を咲かせていた。

その中でも特に美桜里の目をひいたのは、ある一組の男女だった。女性の方は、見た目は華奢なのに対し、力強いステップで舞っていた。膝ほどの高さの黒と黄色のドレスが彼女の銀色の髪と相まってより美しさを際立きわだたせていた。男性の方は女性の方と比べればいくらか大きいものの、周りの男性より小柄、というよりは二人とも見た目は子供のようだった。そんな体格だがしっかりと女性をエスコートし、ホールの華となっていた。見た目は小柄だけれども、その高貴さは身にまとっている燕尾服をしっかりと着こなしていた。燕尾服のデザインは女性の方と同じなようで、こちらも黒が主体ながら所々に黄色のデザインがあしらわれていた。男性が踊るたびさらさらとなびく金の髪は、このホールにいる女性のほとんどを釘付けにしていた。

「っていうかぁ!」

「? どうした?」

「ほら、あれ!鳳仙様と鬼火様でしょ⁉︎」

と、美桜里はリュウに耳打ちした。

「あーー、あぁ。あの二人か。うん。そうじゃないか?」

リュウは目を細めながら美桜里の指差す方を確認した。

しばらくして、一度演奏が終わると、美桜里達はその二人の方へ行ってみた。ここではほとんどの人が仮面をつけているので、本当に本人かは少し不安だったが、試しに話しかけてみることにした。

「あのう、ちょっといいですか…?」

「はい?……って、美桜里か?」

鬼火がこちらに返事をしてくれた。それに気づいた隣の女性も、「来てたのか」と少し仮面を外して微笑んだ。

「鳳仙様達も招待されてたんですね。」

「まぁ、腐れ縁でな」

「そうなんですか。…あっ!そうだ。唱とフィーラスも来てるんですよ〜」

「そうか。と、いうよりはフィーラスがここに呼んだんだろ。」

「そうですよ」

と、ここでまた演奏が始まる合図があった。それを聞いた鬼火は、美桜里とリュウに言った。

「お、なんかまた演奏始まるみたいだからお前達も踊ってきたらどうだ?」

「いや、俺らこういう踊りはあんまりやったことないんすよ。」

「鳳仙様達はもう踊らないんですか?」

「うん。これから少し飲もうかと思ってな」

「お酒…ですか?」

「美桜里知らなかったのか?こいつは結構飲むんだぜ。ついでに昔は煙管なんかもやってたし」

「そうなんですか!?」

「まあな。っていうことで遅くなるから、お前らも早めに帰れよ〜」

そう言い残して二人は奥へと行ってしまった。

「…どうしよっか。」

「とりあえず唱とフィーラスだな。」

「そうだね」


それからしばらくして、美桜里とリュウは唱とフィーラスと合流した。

「そろそろ帰るか?」

「そうだな…。」

ダンスホールを抜け、出口へ向かう廊下。ダンスに参加していない四人は早めに抜けてきたのだった。

「んー、でも本当に今帰るの?」

「え?何で?」

「だって囲まれてるよ?」

「「「は?」」」

「9人くらいいるよ。」

「美桜里〜〜!なぁーんで早く言わねぇんだよぉーーー!」

「し、唱落ちついて…」

「お前が黙ってたんだろ〜!」

と、騒がしくしている四人に諦めたように何人かの男女が出てきた。

そこでいきなり、美桜里がフィーラスに小声で質問した。

「ねぇ、カリメンタの紋章ってどんなやつだっけ?」

「え?あー、そうだ。俺の服に刺繍してあるやつだよ。」

「そっか」

「なんだ?…まぁいいか。ところでここから逃げ出す方法はあるのか?」

美桜里は少し考えてから、

「30秒ちょうだい」

と言った。それと同時にフィーラス、状況を察したリュウと唱が敵の前に立ちはだかった。そしてそのまま、戦闘態勢になった敵と素手で戦い始めた。いつもツールを使っているからか、素手ではなかなか苦戦していた。しかも相手は短剣などの武器を持っていてそれを避けていくのも体力を消耗する。それに加え今はドレスやハイヒールなどの衣装もあって戦いにくい状況だった。

30秒ほどたった頃、

「チェンジ!」

と美桜里が叫ぶと同時に四人は城の外に出ていた。

「おー、美桜里すげーじゃんどうやったんだよ?」

「ん?あのね。鳳仙様に『フェアリードール』をこの間もらったの。それをみんなが敵の気をそらしてる間にここまで移動させて、今、私たちとドールの場所を『チェンジ』で入れ替えたの」

「フェアリードールってなんだ?」

「鳳仙様が持ってる『エンジェルドール』の下位版だね。エンジェルドールみたいに個々に自我があるわけじゃないから制御が大変なんだけどね。」

「ふーん。じゃあ帰るか!」

「あ、お前ら先帰ってて。」

「フィーラスは?」

「俺ちょっと用事あるから。」

「ほーい」

こうして、仮面舞踏会は幕を閉じた。



今、フィーラスが立っているのは、無駄に豪華で大きな扉の前。そこを静かにノックする。

「フィーラスです。少しお時間いただけますか。」

「入れ」と短く返事があり、フィーラスはゆっくりと扉を開け部屋に入った。

「お久しぶりです。お父様。」

「久しぶりだな。ところで今日はどうした。」

「単刀直入に言います。今、舞踏会に参加した帰り、何者かに襲われました。あれはお父様の差し金ですね?」

「・・・。」

「我々を襲った者のうちの一人がこの国の紋章入りの指輪をしておりました。」

「そうか。」

そう言ってフィーラスの父、そしてカリメンタの国王であるゼノが椅子から立ち上がる。

「それに気づいたのは誰だ?」

「安倍美桜里です。」

「安倍か。春は観察力に優れているようだしな。それと…まだお前の活躍を耳にしない。せっかく風神様の元にいるんだ。少しは良い働きができることを期待しておこう。」

「はい。」

「もう下がれ。」

「失礼しました」

二人の再会は散々だった。親子の再会とはとても思えない。まるで他人のように話し、両者とも目も合わせようとせず。

フィーラスは護衛もつけずに城を後にした。かつての自分の家だというのに、自分の味方は一人もいない。それどころか、自分が殺される可能性もある。

それでも彼は堂々と、それはどこか強い決心を表しているようだった。














「今日はお招きいただきありがとうございました」

鳳仙達が美桜里達と別れた後、鳳仙達はパーティの主催者である国王と挨拶をしていた。

「もうおかえりになってしまうのですか?」

「あまり長居するのもよろしくないのでね。」

「そうですか。」

国王は少し名残惜しそうな様子だったが、鳳仙達はもうとどまる気は無いらしい。

「それにしても、今回は仮面舞踏会という形にしてくださって助かった。どうも雷神はこの辺じゃ歓迎されていないようだから。」

「この国は鬼神崇拝で風神を信仰、隣のカプリア共和国はアルト聖教でマリア・アルティアを信仰していますからね。それを考慮した上での開催でした。楽しんでいただけたようで良かった。」

「それじゃあ、もう俺らは帰るか?」

「そうだな」

「そうですか。お気をつけておかえりください。風神様も雷神様も。」

「では。」

二人が去ろうとした瞬間、

「あ、忘れてた」

と鬼火が振り返る。

「うちの子、お手柔らかにお願いしますよ」

「・・・! 風神様はなんでもお見通しのようで。」

と国王はわらった。

「それじゃあ、また。」

こうして本当にこの物語は幕を閉じた。








閉じた?

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