タイムリミット
最後の六〇分、何をすればいいのかもう分からなかった。ただひたすらに歩き、針はさらに三〇分進んだ。秒針はどんどん加速し、どうしようもなくなった私は、歩きながら彼女に話した。
「時雨君、付き合ってくれと言ったのは、申し訳ないが本心だ。八足の時のように観察の対象としてではなく、一人の女性として、結婚を前提に君と付き合いたいと思ったのだ。実はな、この一週間ずっとそのことばかりを考えていて、いつ言おうか迷いに迷って、昨日の出来事が起こり、とうとう今日が来てしまったのだ。その今日も、もうあと三〇分で終わってしまう」
「教授、私・・・」
「良いんだ。時雨君、どんな答えでも構わない。どんな答えも正しい。ただ、答えを聞くまでに少しでいい。もう少しだけこの時間を過ごさせてくれないか」
また彼女の話をさえぎってしまった。また、沈黙だけが我々の間に広がってしまっていた。私はもう、自分の足しか見ていなかった。気が付けば、足はいつもの分かれ道にたどり着いていた。
「ここが分かれ道だ。時雨君、答えを聞かせてくれないか。もう、時間だ」
夏の涼しい夜風が、私と彼女の間を通り抜けた。時間は、二三時五五分。彼女はゆっくりとその口を開いた。
「教授、あの、私、教授はずっと八足さんのことが好きなんだと思ってました。だって、最近になって八足さんとすごくよく会うようになったし、八足さんの話も、たくさんするようになって、それに、教授の・・・彼女だった人ですし。私、あの、ダメです。ダメなんです。教授にいつも迷惑ばかりかけて、そんな自分が大嫌いで。でも」
「もういい。分かった。ありがとう、時雨君。ありがとう」
「教授・・・」
「明日、また研究室で会おう」
「教授!」
昨日と似たような結果と、昨日と似た行動。私の時計の針は、三本とも真上を向いたまま止まってしまった。




