新生活の始まり(学校→自己紹介)
「檍 信と言います。よろしくお願いします。」
ここは七五三野高校、『七五三重点支援都市郡』の西端に位置する学校だ。
新たな中核都市を目指し三つの市、五つの区、七つの町を合併して誕生したのが由来となり『七五三』と名付けられた。若者からは『ナゴミ』の愛称で親しまれている。
その中でも七五三野地区は東側のビル群がそびえ立つ中心地区とは違い、ニュータウン開発が進む中、緑が豊かで四季を感じながら過ごすことができるベッドタウンとなっている。さらに電車やバスなどの交通の便がいいこともあり学校が多く、若者の街とも化している。駅前だけでなく、地区内を通っている幹線道路沿いには複合型商業施設、すなわちショッピングモールがあり休日は利用客で賑わっている。
俺はそんな街に湿度が高くなり、そろそろ衣替えの時期に越してきた。
「ぃよろしくぅ!」
テンションと背が高く、制服のベストにワイシャツを腕まくりした髪がツンツンしている男子が話しかけてきた。
「俺様は『ミノ高の青い閃光』、青鹿だ!仲良くしようっぜ!」
ボディビルダーかよってくらい一言ずつ全身でアピールしながら最期に白い歯を見せながら手を差し出してきた。
「よ、よろしく。」
勢いに圧倒されながら握手に応じたところ、静電気がバチッと指先に走った。青鹿は感じなかったのか笑顔を崩さず、驚いて距離が開いた俺の手を、
「おうっ!」
と言って、力強く捕まえに来た。
「ところで、『ミノ高』って?」
手を離しながら疑問を口にする。
「『なみいの』って『七五三野』って書くだろ。」
空中に指で漢字を書きながら解説を始める青鹿。
「この後ろの『三野』の部分を『みの』って読んで『ミノ高』だ。」
「へー、納得。」
「それよりよォ、お前こっちに越してきたばかりだろ?案内してやんよ。」
「あー・・・、ありがたいんだけど遠慮しておくよ。今朝到着したばかりで荷解きが終わってないんだ。」
「んだよ、そんなもん夜にやればいいだろうが。放課後にちょろっと時間をくれればいいんだよ。」
「あー・・・そうだね・・・。」
押しの強さにどうやってやり過ごそうと考えていると、
「ちょっと、転校生くんが困ってるでしょうが!」
髪が短かめの活発そうな女子がこちらに近づきながら話に割り込んできた。
「んだよ『モノ』、邪魔すんな。」
「だれが『モノ』じゃーい!あたしの名前は『物』だって言ってるでしょうが!どこからどう見てもれっきとした人間だろがい!」
ツッコミと呼ばれる平手にした手の甲を相手に向けて叩きつけるように振り、体の真横あたりでビシッと止める動作を披露する『モノ』と呼ばれる少女。
「おっと。」
と言い、青鹿はツッコミを避けた勢いで小走りに駆け出し、セリフを残していく。
「ほいじゃあ、放課後。考えとけよー。」
教室を出て行く青鹿を見送ると、物が話しかけてきた。
「ごめんねー。あいつ昔っから好き放題やって他人に迷惑かけるのよ。」
「なんとなくわかる。」
ちょっと笑いながら答える。
「ずっとあんな感じなの?」
「そうだよ。小さい頃から一緒なんだけど、嫌だって言っても聞かないし、巻き込まれないように距離をとってもいつの間にか共犯者に祭り上げられてるしで、あれと一緒にいて良かったって思えたことが一度もないわ。」
ため息混じりにぼやく物。
「ご愁傷様。」
「もう慣れっこだけどね。それよりも、あいつに目をつけられたなら早々に逃げるが吉よ。逃げ遅れると哀れな末路が待っているわ。まぁ、終業のチャイムが鳴ると同時に学校を出られるのなら、の話だけどね。」
「へ、へー。」
哀れな末路という言葉をつぶやいている時の目が実例があることを物語っていたので、そこに悪寒を感じつつも、希望の光が見えたことに安心もした。
「学校を出なきゃいけないの?」
「そう!学校。教室を出るとかじゃ全然ダメ、階段を下りる前に捕まるわ。私の知る限り最長で逃げれたのが玄関までよ。」
「逃げ切れるよう努力します・・・。」
「無理だろうけど・・・ガンバ。」
「うん。」
その日から終業のチャイムが鳴るたびに全力疾走で帰る日々が2週間続いた。
最後は俺が疲れて折れた。
やっとこさいくつかの設定が決まりました。もう少しテンポよくストーリーを進めたいですね。