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何でも屋アールグレイの休日  作者: 冬影
何でも屋アールグレイは空を飛ぶ
4/22

プロローグ

 いつの間にか月は雲に隠れ、辺りは闇に包まれていた。

 歌い終えて、彼女は深いため息を吐く。

 その微かな息遣いに重なるように柔らかな風が通り過ぎ、さわさわと森がざわめく。

 その向こうで、波が穏やかに寄せては返している。


 静かだった。


 その静けさを、胸を締め付けるようなすすり泣きが満たしていた。


 雲が緩やかに流れてゆく。

 徐々に月光が漏れ出して、それが建物の方に差し込み、欄干にもたれ掛かった彼女の姿を白く浮かび上がらせる。


 彼女は泣いていた。

 竪琴を奏でていた、その姿勢のまま。

 唇を噛み締め、僅かに俯きながら。

 光の玉が月明かりの中を滑り落ち、地面にぶつかって砕け散る。


 一つ、また一つ。


 その全てが、自らの命を惜しむかのように、何度も、何度も、煌いてみせるのだった。




 ――美しい――


 アッサムは心からそう思った。

 けれどもそれは、どうしようもない痛みを伴っていた。

 言葉にならない痛み、経験した事のない痛み。


 どうして彼女は、あんな嘘を吐かなければならなかったのだろうか。

 どうして自分は、あれが嘘であったことを哀しく思うのだろうか。

 ああ、そうか、俺はたった今……




 そこで再び風が駆け抜けた。

 彼女は靡く髪を手で抑え、雲間の月に一瞥を与えると、そのまますっといなくなってしまった。


 伸ばした手は何も掴めない。


 蝋燭の灯が、掻き消えるように。

 夜空に星が、流れるように。


 月はまた、雲に隠れてしまった。




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