ローレンス家の護衛 面接編1
次の日、俺は朝食を手早く済ませると必要最低限の荷物をまとめて出かけた。
大通りへ出て俺はカレンから教えて貰った職業斡旋所へと行く。
2、30分ぐらいだろうか、しばらく歩くと他よりも大きい建物が見えてくる。
建物の中に入ると大勢の人が待合椅子に腰掛け順番を待っているようだ。
俺も整理券のような物をもらい、椅子に腰掛ける。
この世界の職業斡旋所はステムが面白くて
魔法でその人の適性を判断し、そして本人の希望と照らし合わせて
最善の職を見つけ出すという中々にハイテクなシステムだ。
順番に呼び出された人を見てみると受付の人と幾つか喋った後に
魔法陣が記された板に両手をつけると板が光りだし、空中に適性のある職が表示される。
ハリーポ○ターの振り分け帽子みたいでなんだかドキドキする。
「では次にお待ちの方こちらへ~」
呼ばれて緊張しながら受付へ行く。
「どうぞお掛け下さい」
「はい・・・」
「何か職種で希望はありますか?」
「いえ、特には どんな物があるかもあまり分からないので・・・」
「そうですか、では適性検査の結果を見てから詳細を検討しましょうか 板に両手をつけて下さい」
「はい」
複雑な魔法陣が記された板に手をかざすと青白く光り始め
そして空中に文字が表示される。
「えっ、こんな事があるもんなのか・・・」
受付の人は驚いている。
空中には 【ローレンス家の護衛】 と出ている。
他には何も表示されていない。
「えーと、結果はどうなんでしょう?」
「あっ、すいません 現状で出ている適性候補は一つだけのようです」
「通常なら複数出てくるのですが今回は一件だけのようです・・・
私もこんな結果は見たことがない・・・
その人の状態により都度内容も変わりますので、今日は一旦見送りますか?」
なるほど、結構なレアケースのようだ。
選択肢が一択と言うのは何とも他の可能性を否定されたようで悲しいが
逆に何か向いている物があるのかもしれない。
生前は肉体系の事に関しては全くだったが、今は神によって”少し強化されているらしい”ので
何とかなるのかもしれない。
物は試しだ、やるだけやってみよう。
「いえ、その仕事是非ともやってみたいです」
「そうですか、では紹介状を発行しますので少々お待ちを」
そうしてその他の手続きを終えて職業斡旋所を後にする。
時計を確認するとちょうど昼前ぐらいになっている。
午後の予定は特にないので、このまま紹介状を持って面接を受けに行こうと思う。
アポなしってのは結構勇気がいる事のように思うが
電話などの便利な通信手段がないこの世界ではよっぽど失礼な時間に行かない限りは問題ないらしい。
俺は適当な店に入って昼飯を食べ、昨日カレンに貰った地図で位置を確認する。
どうやらここからだとちょっと歩くようだ。
現在位置からだとこの都市の中心部の方へと向かって移動する。
時間にしておおよそ1時間程度の道のりだろうか。
「よし、じゃあ行ってみようか!」
地図をカバンに仕舞い、店を出る。
40分ぐらいは歩いただろうか、周りの街並みも変わってきて
立ち並ぶ家々が赤レンガを基調としたデザインで落ち着いたモダンな雰囲気になっている。
そしてその一軒一軒が大きな敷地を持っていて
道行く人々も高そうな服を着ていたり、馬車に乗っている人もいた。 ここら辺は高級住宅街なのだろうか。
新しい風景に興味津々に見とれながらさらに歩いていくと目的の場所に着いた。
「この建物はどっから入るんだ?」
その建物が見えた時に発した第一声はこれだった。
高さにして3、4メートルはゆうに超えていそうな塀が突如として現れる。
地図上では確かにここのはず。
仕方ないので塀伝いに進んでいくと、人が一人で開けるのは難しそうなぐらい大きな門が見えてきた。
その横に普通ぐらいの扉がある、俺はそっちに向かいとりあえずノックしてみた。
『コンコン』
『ガシャッ!!』
「おわっ!?」
ノックした途端に扉にあるのぞき窓がいきなり開いて
「誰だ?」
ドスの効いた声で問いかけてくる。
おそらく門番の人だろう。
「しょ、職業案内所でこちらの紹介状を頂きました、マナブと言います
今日は面接のお約束をし・・・」
俺が最後まで言い終わる前に『ガチャッ』と音を立てて扉が開く。
右手を腰に下げている剣の柄に乗せてこちらを鋭い目で見ている。
「案内する、その前に手荷物確認と身体検査をさせてもらう」
そう言って門番の人は俺に近寄りカバンの中身、ズボンのポケットの中など
隅々まで見て武器になるような物がないのを確かめる。
「よし、俺についてこい」
「は、はい」
やや早足で歩く門番についていく。
広大な敷地を進んでいき、かれこれ15分ぐらい歩くと大きく開けた場所に着いた。
その一角にある建物へと入っていく。
「レイブン隊長!志願者を連れて参りました!!」
建物の中は厳格な会議場のような感じになっていて大きな長机が入り口から奥まで伸びている。
その一番奥にかなり大柄でどっしりとしたおっさんが座っている。
「うむ、ご苦労! 持ち場に戻っていいぞ!」
「ハッ!!」
門番の人はお礼を言う暇さえ与えてくれない程素早く出て行ってしまった。
一瞬の出来事であっけに取られていたが俺は正面に向き直り挨拶をする。
「はじめまして!僕はマナブと言います こちらの職業募集の適性を頂き面接に来ました!」
かなり距離が離れているので自然と大きな声になる。
「わしはレイブンだ! じゃあ早速面接といこうか ついてこい!!」
そう言ってレイブンさんと一度建物の外に出て別の場所に向かう。
どうやら面接は別の場所でやるらしい。
まぁ確かにあんな大きくて厳正な雰囲気の会議場で面接とか色んな意味で圧迫面接だろう。
そうして連れてこられたのは先ほどの建物から少しのところにある別の建物。
外観は変わっていて一面壁だけで窓が付いていない。
「よし じゃあそこの扉から中に入れ」
「はい、えっ・・・」
建物の中に入り、内装の異様な光景に思わず声を出したのと同時に
『ガタンッ!!』
入った瞬間に勢いよく扉が閉められる。
「えっ!? ちょっと!!」
焦ってドアノブを回すが開かない!
完全に閉じ込められた!
一体どうなっているんだ・・・
内部は闘技場のような場所で周囲を垂直にそり立つ壁が囲っている。
天井は無く吹き抜けで見上げれば空が見え、逆に下は床では無く赤茶けた土となっている。
そして真ん中になぜかカカシのような形の木製の人形が置いてある。
あまりの威圧感とこの建物に閉じ込められた恐怖から、
これから何が始まるか、不安で仕方ない。
周囲をキョロキョロと見回していると上の方から声がした。
「おーい、じゃあ試験を始めるぞ!」
「試験ですか!? 面接はこの後ですか!?」
「面接だとぉ!? そんなもん職業案内所の魔法板で振り分けられた時点で終わっとる!!」
なんと横暴な人なんだろう、レイブンは続けて説明する。
「これからやるのは実技試験のみ!! ルールは一度しか言わん!! よく聞いておけ!!」
「ルールは至って簡単、その真ん中にある木人形を壁面から発射される魔弾から守るのだ!!」
「合否の基準はない!!わしが総合的に判断して決める!!」
あまりの急展開に状況が飲み込めずに慌てて口を開く。
「そ、それはいきなりすぎませんか そもそも魔弾って一体ーー」
そんな俺の言葉を遮りレイブンが驚くべき事を口にする。
「マナブよ! 護衛の仕事なのは事前に知っておろう ならばまずは肉壁となってその木人形を守ってみせよ!!」
「肉壁!?」
レイブンが大声で宣言して何やら手元で操作している。
『バコンッ!!』
『バコンッ!!』
『バコンッ!!』
『バコンッ!!』
『バコンッ!!』
大きな音がして周囲を囲む壁の一部が開き、大砲の様な物が次々に出てくる。
その砲身の先はこの建物の中心に置いてある木人形に向いている様に見える。
「では始めるぞ!! 覚悟してかかれ!!!」
おっさんの号令と同時に複数あるうちの1つから『ボンッ』っと音を立てて
青白いバレーボールぐらいの玉がすごい速さで飛んでくる。
その弾は目の前を『ビュッ』と通り過ぎると木人形にあたり、『パァーン』と破裂音を出して散った。
「これ、当たったらやばくね・・・」
呆然と立ち尽くす俺。
「おいっ!! 貴様はやる気があるのか!! 当たっても死なんから安心して壁になれ!!」
(当たって死んだらやばいだろ!!全然安心できねーよ!!)
「わ、分かりました では次をお願いします!」
「おう!!」
そうして俺は出来るだけ魔弾から木人形を守るように肉壁になった。
実際に魔弾に当たってみて分かった事は、死なないって事とやっぱりそれなりに痛いって事。
ドッチボールをクラスでやったりすると一人ぐらいは居たりする、野球部とかバスケ部のボールを投げるのが得意なやつ。
あいつらの球をくらったような衝撃がある。
ただ実際のボールと違って指先でもいいから触れればそこで破裂するらしい。
先ほどから必死に魔弾に喰らいついてみるものの、魔弾の速度は早く、尚且つ複数の大砲のどれから出てくるからは分からない。
同時発射とかの完全無理ゲーではないが、
発射時に『ボンッ』っと音がするだけでは防ぐのが間に合わない。
それを見かねてかおっさんがヤジを飛ばしてくる。
「おいおい! さっきよりはマシになったが、まだまだ防ぎきれてないぞ!!」
やれやれといった表情でため息をついたおっさんは俺にアドバイスをくれた。
「マナブ その木人形を大切な人だと思ってみろ!! 自然と自分の全力を出して守るようになるはずだ!!」
「やってみます!」
(返事をしたがどうしよう、大切な人か・・・俺にそんな人は・・・)
思えば前世では実験漬けの日々で人との関わりは殆どなかった。
(結局最後も一人だったしな・・・)
「はは」と苦笑する。
そんな時ふとカレンの顔が脳裏をよぎる。
会って間もないが色々な事があったし、随分と優しくしてくれた。
こんな俺にとっては十分すぎる程、大切な思い出をくれた人だ。
もしカレンに危険が及んだらどうするだろう?
「俺は・・・」
『チリッ』
一瞬何かが聞こえたような気がして、音のする方を見る。
音が聞こえたと思しき大砲から、何か嫌な予感がした。
それと同時に体が動き、木人形の前に立ち塞がる形で両手を目一杯に開く。
次の瞬間『ボンッ!!』と爆発音がし、魔弾がこちらに向かってすごいスピードで飛んでくる。
さっきまではおっかなびっくりで防いでいたが、
俺は魔弾から目を背けず、ただ睨んで立ち塞がる。
『パァーン』破裂音がして魔弾が俺の体にあたり粉々に弾ける。
一瞬の静寂が周囲を支配した後
「お おお うぉぉぉぉぉ!!!」
上から大きな雄叫びのような歓喜にも似た声が聞こえてきた。
「マナブ!! よくやった!! 今のはよく守れていたぞ!!!」
興奮冷めやらないそのレイブンは続けて言う。
「しっかりと大切な人をイメージできたのだな
人は大切な人を守る時には己の全てを出し切って守る
これはまだきっかけに過ぎんが、今の感覚を忘れないよう体に刻むのだ!!!」
「はい!!」
俺はなんだか嬉しかった。
運動とは縁がないと思っていた俺でも守る事が出来た。
実際には木人形を守っただけなのだが、カレンを守れたような気がしてそれが誇らしく自信が湧いてくる。
「よ〜し、じゃあ後50発は行くぞ!! しっかり体に刻み付けろ!!!」
「はっ!? 50!? いや、さすがにそれはちょ 」
『ボンッ』
「アーーーーーー」
それからは成功したイメージを基にできるだけ頑張った。
まだまだ道のりは険しいのか、最初に比べれば成功率は上がったがそれでもミスが多い。
魔弾50発を終える頃には日が暮れていた。
「マナブ!! ご苦労だったな! よう頑張った!!」
「これで一次試験には合格じゃ! これは仮採用の一時支給金のような物じゃ受け取れ」
「ありがとうございます これって一次試験なんですか・・・?」
そう言って支給金を受け取る。
これでひとまずは当面の生活は送れるだろうか。
ちなみに失礼に思えて中にどれぐらい入っているかは見ていない。
「ああ、そうだ 見込みがあるのは事実だが、実際にどこまで育つか伸び代がわからん」
「1日、2日で人を見抜くなど難しいものよ」
「確かにそうですね・・・ 分かりました! では明日からも宜しくお願いします!」
「おう!! いい返事だ!!」
その後はヴェイン家の邸宅を後にし、一度公衆浴場に寄ったのち宿へと向かった。
宿へ戻るとカレンがいつもの様に受付に座っている。
「あっ! マナブさんおかえりなさい」
笑顔で出迎えてくれるカレンにこちらも笑みがこぼれる。
「ただいま 就職先決まったよ!」
「本当ですか!? おめでとうございます!」
「まぁまだ仮採用の段階なんだけどね・・・」
苦笑しながら答えるも、嬉しくて口の端が釣り上がっている気がする。
「いえ、それでも充分すごいですよ! それでどんなお仕事になったんですか?」
「知ってるかな? ローレンス家っていう貴族の所の護衛だよ」
「えっ・・・ 今なんと・・・?」
「ローレンス家の護衛として 」
『カタンッ』
言いかけると乾いた音を立てて、カレンが持っていた帳簿用のペンが手から落ちた。
「カレン、どうしたの?」
「・・・・・・」
カレンは何も答えない、ただ驚いた顔をして俺の方を見つめて固まっている。
そして気分でも悪いのだろうか、どんどんと青ざめていく。
「カレン? カレン!?」
カレンの様子に焦って呼びかける。
「あっ、すいません せっかくマナブさんが就職先を決めて来たのに私ったら・・・」
「そんな事はどうでもいいよ それより具合が悪そうだから休んだほうがいいよ」
「そうですね、ちょっと別の者に受付を代わってもらうことにします・・・」
そう言って力なく奥の方へと入って行った。
(どうしたんだろう、何かまずい事でも言ったか?)
そうしてその日は終わった。
後にカレンの変化について知る事となるが、それはまだ先の話となる。
ちなみに一時支給として受け取った封筒には銀貨2枚が入っていた。




