情報収集開始!
眩しい朝日で目が覚めた。
俺は寝転がったまま部屋を見渡す。
(やっぱり昨日の出来事は夢ではなかったんだな…)
俺は起き上がると荷物をベットの上に並べた。
持ち物を確認する為だ。
肩がけのバックに入っていたのは
・初級魔術の本
・昨日拝借したナイフ
・小瓶に入った赤い液体×2
・小銭が入った袋
・つぶれたパン
うーん、小瓶の液体は気になるが今は置いておこう。
とりあえず、つぶれたパンをかじりながら小銭入れをひっくり返した。
昨日人攫いから拝借した分も合わさっているため
じゃらじゃらっと金属同士がぶつかる音を立てながら沢山のコインが出てくる。
内訳は
銀色1枚
銅色17枚
鉄っぽい 23枚
うーん、貨幣価値がいまいち分からないな…
とりあえず、各色1枚ずつ取り後は袋に戻す。
そして部屋を出て受付の女の子のところへと向かった。
昨日と同じく受付に座っている。
クリーム色に近い茶色の綺麗な髪、長さはセミロングぐらいで肩に少しかかっている。
瞳は深い蒼色で優しそうな顔立ちをした子だ。
格好は落ち着いたブラウンを基調とし、下地が清潔感のある白色でメイドさんのような服装をしている。
改めて見ると同い年ぐらいに見え少し親近感がある。
「おはようございます」
「あっ、おはようございます!」
彼女は元気よくそう答える。
「ちょっと聞きたい事があるんですけど、今いいですか?」
「はい、私で答えられる事であれば大丈夫ですよっ」
ここまで来たら思い切っていこう。
「ありがとうございます、変な事を聞くようですが
このコインってどれぐらいの価値がありますか?」
彼女の前に各色一つずつ取り出したコインを並べる。
いきなり当たり前の事を聞かれて固まっている彼女に
補足の説明をする。
「えーと、こことは別のすごく遠い国から来まして
ここの通貨の価値が分からなくて・・・」
苦し紛れの言い訳、もうちょっとマシなのが言えなかったのかと
思うが、俺の語彙力ではどうしようもできない。
「ああ、すみません そういう事だったんですね」
「えーとですね」
彼女ではこんな感じ
金貨 百万円
銀貨 一万円
銅貨 千円
鉄貨 百円
物の相場から換算するとこのぐらいの貨幣価値になるらしい。
この世界では紙のお金はないらしく、殆どの場合その物質の価値が貨幣に反映されるようだ。
さながら実物資産だな。
「ありがとうございます、助かりました」
「お役に立てて何よりです」
彼女は嬉しそうに笑顔で答える。
なんだかすごくいい子で助かった。
その後は食堂へ行きご飯を食べ、また部屋へと戻り今後の方針を決める。
まずは先ほど聞いた貨幣価値から今の所持金を考える。
一泊で銅貨2枚、食事が鉄貨3枚だったので
単純計算で今の宿なら10日は泊まれる。
つまりは10日以内に仕事を見つける必要があるということだ。
この世界の就職事情は分からないから早く働き口を確保したいところでもある。
しかし昨日の今日でまだこの世界の事もよく知らない。
不用意に路地裏に入って人攫いにあった事実も含め
右も左も分からない状況で迂闊に動くのはあまり好ましくないように思える。
そうした理由も含め、俺は数日間この世界の実態調査に費やす事にした。
さて、次は情報をどうやって入手するか。
俺は根本的にこの世界の事を知らない。
道行く人やお店の人に「ここは何処でこの世界はどうなっているんですか?」
なんて訪ねようものなら一発で「お巡りさんこっちです」になりかねない。
そもそもお巡りさんが居るのかも分からないけど…
(うーむ、どうしたものか…)
その後も本を買うだとか、幾つかの事から推測してみるとか考えたが
どれも今ひとつで確実性に欠けるものばかり。
結果的にさっきの『受付の女の子に聞いてみよう』とういう結論に落ち着いた。
ただ、聞く内容が内容なだけに結構緊張してしまう。
(優しそうな感じだったしなんとかならないかなぁ・・・)
(もし変人認定されたらどうしよう・・・)
などと部屋に居ても要らない事ばかり考えてしまってどうしようもないので
聞く内容をまとめて受付に向かう。
女の子は先ほどと同じように受付に座っている。
他の客もいなく今がチャンスだ。
チャンスなのだけど、いざ本番になるとすごく緊張する。
朝とかは普通だったのに…
「あの、すいません」
「はい、なんでしょう?」
「朝に聞いた事の続きなのですが、ちょっと他じゃ聞きづらい話がありまして…」
それからはしどろもどろしながらも自分の状況を説明して
色々と聞きたい事ある旨を伝え、なんとか頼めないかとお願いしてみた。
これはダメかな?と思ったが俺の予想とは違った答えが返ってきた。
「私でよければもちろんいいですよ
ただ、今は余り時間が取れませんので、
営業終了後でよろしければお話伺います」
予想外の返答に驚く。
「っえ?本当ですか!?」
「はい、本当ですよっ」
ニコニコとそう答える彼女。
「ありがとうございます!
あっ、自己紹介がまだですね
僕はマナブです、よろしくお願いします」
「珍しいお名前ですね、私はカレンです。
よろしくお願いしますね」
その後はもう二泊分の料金を払い、営業終了後に受付で待ち合わせの約束をした。
まだ昼なので、カバンに必要最低限の荷物を入れ出かける。
ちょっと魔術の実験をしてみようと思っていたのだ。
街で幾つか材料を買い、そして大きく開けた誰もいない広場を見つけて
日が暮れるまで色々と実験をしてみたり、持ち合わせていた低級魔術書を読んだりしていた。
結果は簡単な低級魔術が使えるようになったのと、
低級以上の魔術は専門の学校で長期間にわたり学ぶか、
世界に数冊単位でしか存在しない魔道書を読まなければ使えないという事が判明した。
それがゆえに魔術を使えるものは非常に少なく、貴重な存在なのだという。
また、魔法を発動する時に魔力が必要になるわけだが、
魔力は薄い状態でそこら辺に漂っている物らしい。
人はそれの入れ物のようなもので、薄い魔力をゆっくりと吸収し
そして体内に蓄え、使用できる程に濃くしていく。
ちなみに魔力量は人によって蓄えられる量が変わるらしい。
そしてちょっと面白い記述を見つけた。
『魔力計』なんでも体内の魔力量を目に見える形で表すことのできる
魔道具らしくて、広く流通しているとのこと。
どうやらこの世界は魔法を使える人こそ少ないが、
魔道具は多く出回っていて、人々はそれを使っているようだ。
その都合上魔力量を管理しなければなず、魔力計が多く生産され
比較的安価に購入する事が出来るらしい。
「明日にでも買いに行ってみようかな?」
気がつけばもう夕方になり、広場は本を読むのも難しいくらいに暗くなっていた。
「そろそろ帰るか・・・」
そう言って立ち上がり俺は宿に戻った。
宿に戻り、食堂でご飯を済ませ部屋で少し休む。
今日の営業終了までまだありそうだ。
「今のうちに聞く事をまとめておこう」
・・・・・・・
夜も深くなり、食堂も営業を終え明かりが消えた。
教えられていた通り、窓から見える月が真上に差し掛かる手前。
「そろそろ時間かな」
そう言って立ち上がると、部屋を出て受付へ向かう。
廊下を歩きながらこれから女の子と二人っきりでお話しができると思うとなぜか嬉しくて、そわそわしてしまう。
だけれど善意で機会を作ってくれた相手に何を邪な事を思っているんだろうか、気を引き締めないと・・・
などと葛藤していると受付に座る彼女が見えた。
「こんばんは」
「あ、こんばんは
お待ちしておりました」
そう言って彼女は立ち上がって受付から出てくる。
椅子から立ち上がったり、椅子を戻したりする動作が丁寧で
上品な感じがする。
そして小さくて可愛らしい見た目の印象と比例してか、体型も小柄で
男からすると少し見下ろしてしまう形になり、向こうは少し見上げるような形になる。
彼女が見上げてくるとなんだか上目遣いのような感じになり、余計に可愛く見とれてしまう。
「どうされました?」
心配したような表情をしてそう聞いてくる。
「あっ、いや なんでもありません」
(何やってんだか・・・今日は話を聞きに来たんだ
鼻の下伸ばしてデレデレするとか失礼だよな)
「食堂を開けますのでそこでお話しましょう」
「はい、ありがとうございます」
食堂の明かりはすでに消えている。
彼女は先に一つのテーブルへ向かい、
持ってきたであろうロウソクに火を灯す。
暗い中にぼんやりと優しい明かりが灯る。
「さぁ、あちらのテーブルにかけてください」
「ちょっと待っていてくださいね」
促されテーブルで待つ。
彼女は食堂のカウンターの方へ行き、何やら作業をしている。
しばらくしてトレーにお茶とお菓子を乗せて戻ってきた。
「お待たせしました せっかくのお話ですし
お茶をどうぞ お菓子もあります」
「これはすいません ありがとうございます」
予想もしていないもてなしに驚く。
これが女の子の作法なのか?お話ともなるとお茶が出てくるのか?
寝ても覚めても科学漬けだった俺には全くわからない。
随分と親切な人だ、一晩宿に泊めた客にこれほどしてくれるとは
思わずちょっと裏があるんじゃないかと思ってしまう。
とりあえず、話が終わったら俺に出来る限りのお礼はしよう。
こっちもこれからの生活がかかっているし、出来るだけ必要な事は聞かなくちゃいけない。
正直あまりの女子力に圧倒されてしまっているけど、気持ちを切り替えていこう。
そうしてカレンさんとの話が始まった。




