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ホラー・ミステリ系の短編集

失敗犯罪

作者: ハルカゼ

 最近では、『パンダが中国から日本にやってくる。子供たちは大喜び』、『燃えるゴミ、ペットボトルの分別を厳しくする』、『中学生が拳銃を発砲。入手方法はパソコン』など様々な話題を耳にする。


 私が家の中でテレビを見ているとき、玄関のチャイム音が鳴り響いた。

 夫が帰ってきたな、と思い肩を落とすと、玄関の扉を開けた。

「おい、早く飯を出せ」

 帰ってきて、いきなりそれか、とため息を吐く。

 かなり酔っているようだ。どうせ女遊びでもしてきたんだろう。

 私は言われたとおり、カレーライスを差しだす。


 夫はそのカレーライスを黙々と食べ始めた。

 私はその光景を眺め、固唾を呑む。

 実は夫が食べているカレーライスには睡眠薬が入っている。

 パソコンで入手したのだ。


 現代は本当に甘い。

 こんな簡単に拳銃や薬などを入手できるのだから。


「どうした?」

 夫の言葉にどきりとする。

「お前、まさか変なもの入れたんじゃないだろうな」

 私の心の中を覗いたように言う。

「そ、そんなわけないですよ」

 夫はついに私を殴り始めた。


 また、始まったよ。毎日のように家庭内暴力をする。

 私はこんな生活から解放されたかった。


 数分経つと夫は倒れてしまった。

 きっと薬のおかげだろう。


 私はさっそく準備に取りかかった。

 まず夫を持ち上げた。

 昔、柔道部に入っていたので力には自信がある。


 そして、誰にも気づかれないように外にある車に乗せた。

 深夜の2時だから、人に見られる可能性は低い。

 すぐに運転席を入り、車を発進させた。


 いつ夫が起きるのか分からないので我武者羅に走らせる。


 数分後、裏山にたどり着くと夫を投げ捨てた。

 そして、服を脱がせる。

 最近では酒の飲みすぎで倒れてしまい、真冬で凍死する人が多い。


 私はまさに、それに見せかけたことを行うのだ。

 持ってきていた酒を無理矢理、夫に飲ませた。

 これで私は夫から奴隷のように扱われる生活から解放される。

 つい、微笑んでしまった。


 私は車に戻り、家まで走らせた。

 あとは薬の始末をするだけ。

 家に着くと、まずペットボトルのお茶を飲み干した。のどが潤うと同時に疲れが押し寄せる。

 

 でも、まだやらなければならないことがある。

 空になったペットボトルを捨てると、タンスの中に隠していた薬を取り出した。


 明日はゴミが回収される日。だから……。

 薬をゴミ箱に捨て、すぐにゴミ袋を持ち、家を出て行った。

 ゴミ置き場に着くと思いっきり放り投げた。


 これで全て終わるんだ。

 解放されるんだ……。


 あとは悲劇のヒロインを演じるだけ。

 私はそんなことを考えながら、家に帰っていった。


 翌朝。


 全て上手くいった……。

 警察の方に色々と聞かれたが、どうやら単なる事故と片付けられるようだ。


 現代は便利なものだ。

 完全犯罪が簡単に生まれる。


 私は必死に夫を亡くしてしまった悲しい妻を演じた。

 警察を騙せて本当に良かった。


 だが……。


 三日後、私は逮捕された。

 警察の方が家にやってきて、薬を見せつけたのだ。


 私は戸惑った。

 どうして、捨てたはずの薬が……。


「ゴミ置き場にあった薬を調べた結果、あなたの指紋と一致しました」

「どうして、薬は捨てられたはずじゃ」

「あなたも不運ですね。最近のテレビ、見ていなかったのですか。東京では燃えるゴミとペットボトルの分別が厳しくなったと。あなたのゴミ袋にペットボトルが入っていたから回収されなかったんですよ」


 私は絶望した。

 つい最近、耳にしていたことなのに。

 

 完全犯罪は完全ではなかった。



 ただ、現代はやっぱり甘くないということが分かった。



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