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「どうだい己の計略は?」
さも自分の手がらだと言ったように誇らしげにするメフィストを見て、二人は尊敬の眼差しで見つめている。咲に至っては「パパ素敵、格好いい。うん」とべた褒めである。
しかしファウストも驚いた様子を見せたことから、おそらくそれは嘘である。咲もその様子に気が付き、「本当にパパがやったの?」と笑顔で可愛く問いかける。ファウストはしばしの沈黙の後、舌を出し「己も娘の前で格好をつけたかっただ」と悪びれずに笑っている。咲が大鎌で一刀両断にしようとすると、慌てて両手を上げてファウストは命乞いを始めだす。咲はあきれた様子で「パパ格好悪い」と告げ、鎌を向けるのをやめた。どちらにせよ武器は見つかった。これで戦えると咲は鎌を肩に担いでいる。
「もう行くのかい? せめてこれを着るといい。魔界は寒いからね」ファウストは自分のタンスから、昔着ていた丈の長いブリオーを林檎に渡した。
「いつまでもそんな狼男みたいに上半身裸は嫌だろ?」
笑いながら告げるファウスト。確かにこのままは林檎も嫌だったので、それを受け取りその場で着替えた。
ファウストは林檎がブリオーを着たのを確認すると、ベルト代わりに紐を腰に巻き付けた。林檎は「ど、どうも」と礼を言うと、「気にしないでくれ。己が好きでやっているのだ。そしてこれはオマケダヨ」と白々しくスリングショットを入れる革製のホルスターを装着した。「きっと役に立つ」とそのホルスターにスリングショットをしまう。
「いやいや、確かに剣や銃よりは扱いやすいでしょうけど、それなら斧とかハンマーの方が使い勝手が良い」と林檎は主張するも、ファウストは「疲弊している時にそんな重いものを扱うなんて、狙ってくれと言っているようなものだよ」と却下する。
「後はコレだな」
床に散らばったエロ本を、ファウストは林檎に好きなのを選ぶと良い。とだけ告げ、自慢の一品さと、誇らしげにそれら全てを見せつけてきた。
「で?」
まさか、それが良いものなんてこと、ないよな? 林檎は恐る恐る聞いてみた。すると――
「? 男の活力はコレだろ?」
ファウスト氏はコレですべてだと言わんばかりに、他に何が必要なんだ? もう十分だろうと、不思議そうな顔をしている。
「いらんわ!」
林檎はエロ本を払いのけ、地面に投げ捨てた。けれどファウストはそれを拾い、それを一つの球体に変化させる。本がビー玉のような形に小さくなったことに驚いた。
「それって……もしかして銃弾に?」
林檎の問いかけにファウストはしたり顔で「それ以外の何に見えるかね?」と林檎に聞き返す。「さあ、好きなモノを選ぶといい」林檎はファウストに支持され散らばった本を手に取る。
「ナース、警察…なんだこりゃ。獣? 忍者?」
お目が高いとファウストは林檎が手に取った様々なエロ本を奪うと、「ふむ、君に必要なのは……これだな」と一冊の本を見せてきた。中には肌色色の強い女性が多々写っており、林檎も少し興味深そうにそれに見入った。
「ねえ、そんなことしてる場合じゃないよね、うん」
「……ゴメンナサイ」
林檎の目の前にきらりと婉曲した黒光りする刃が現れ、それが首に当てられる。
「そうだな、林檎君。ヒントをやろう。あのゴリアテの倒し方だ」
ファウストの一言に二人は身を乗り出し、熱心に耳を傾ける。その前にとファウストは林檎に病院が表紙の本を手に取り力を籠め、スリングショットの銃弾にする。その後いくつかの本を銃弾にした後、林檎に斑な朱色の銃弾を手渡した。
「急いで」
鎌を片手で担ぎ、林檎を手招きする咲をファウストは「待ちたまえ」と引き留めた。咲は「急いでるの」と怒るも暖簾に釘押し、ファウストは気にせず咲に近寄り、大鎌に手を触れた。すると咲の大鎌はバラバラに砕けてしまった。咲は自身の武器を破壊されたことを大きく驚き、仲間だと思っていた父が裏切り者だと知り唖然とする。
「パ、パ……なんでそんなことするの」
けれど慌てて違うぞと否定するファウストは、バラバラになった大鎌の破片を咲と林檎に一点に集めるよう指示を出す。わけが分からないと二人は思うも時間がない、咲も父ファウストを始末しようと試みるが、林檎に「今は頼れるのはこの人だけだ」言われ、しぶしぶ言うとおりにする。すると先ほどの忍者が表紙の本を破片の上に置き、手をかざす。
すると本の上から黒装束の女性たちが複数現れ、破片の中に入っていく。そして破片はバラバラにされたファウストが元の姿に戻るように、独りでに集まり何かを形成する。
「ほおらできた」
目の前にあるのは大鎌ではない。あるのは見慣れた扱いやすい草刈り用の刃鎌。ただ今まで使っていたのとは違い、鎌の柄の部分には林檎の首輪につけられていたような鎖が付けられていた。その先には分銅。林檎はこれが忍者漫画に出てくる鎖分銅だと気が付いた。
「鎖鎌だ、咲。これの方がお前には使いやすかろう」
ファウストの言う通り、新たな鎌の握り具合を確かめる。
「確かに……でもどうやって?」
「なに、錬金術擬きだよ。大鎌と忍者の春画で、鎖鎌。出来るだろ?」
出来ないと思いつつも、林檎は頷いた。咲も新たな武器を気にいった様子で「さっきはごめんなさい」とファウストに小さく頭を下げる。ファウストは気にしていないと言った様子で、今度は林檎と向き合った。「己の話を大人しく聞く気になったかね?」その問いに二人は「手短にお願いします」と頭を下げた。苦笑したファウストは善処しようと、語りだす。
「あのゴリアテ、まあホムンクルス、小さな人間とでも言うものか、あれは己と妻が作ったものでね」
その言葉に驚きつつも「黙って聞け」と二人を叱る。「続けるよ。あれは私としても不で気だと思う物でね、いやはや……まさかあれがあんな化け物になるなんて」
「どういうことだ?」
説明してくれと林檎は言う。
「君たちはゴーレムの話を知っているかい?」
「げ、ゲームや本の世界なら、、なんとなく。あの泥人形、石人形とかですよね」
「そんなところだ。命令を忠実に遂行する、至高の生命体。私はそれを作りたくてね、魔界に来てから研究していたのだよ。その際に自身が八つ裂かれる日々を過ごしていて、また妻が様々な使用人を殺していて思ったことがあるんだ」
「思ったこと?」
今度は咲がファウストの言葉の真意を聞く。
「彼らの残された、今にも消えそうな魂を、私は使いたくなったんだよ。実験に」
一呼吸を置き、続けて研究内容を二人に教える。
「彼らの魂で、己だけの悪魔を作れないかと思ったんだよ。無論、何度も失敗を繰り返したがね」
「勝手だ!」
林檎は怒るも「勝手な悪魔、人間の集まりだからこそ地獄と呼ばれているのだよ。だからこそ地獄は面白い」とファウストは地獄を満喫した表情を見せる。、
「いくつか成功擬きはしても、本質的な成功は、望んだ成功はしなかった」
「望んだ成功?」
それがどんなものかを咲は問いかける。けれどファウストは成功とは何かを答えず、口を噤んでしまう。そして遠くを見るように扉の向こうを見ている。
「だからこそ妻も、咲に執着するのだろうな」
「回りくどいですよ、ファウストさん」
林檎はファウストに急がないとメフィストが来てしまうと急かした。ファウストも話を変えられて調度良いのか、「そうだな」と話を本筋に戻した。
「簡潔に述べると、実験の際に出来た悪魔の魂たちを妻は利用したんだ。意思なく死んでいった悪魔達の魂を、今度は同様に無残に殺していった死体の中から、優秀な肉体だけを繋ぎ合わせたんだよ。パッチワークのようにね」
「だからあれは継ぎ接ぎだらけだったのか……」
林檎は縫い跡だらけだったゴリアテの姿を思い出し、納得する。
「その通り。だからあのゴリアテを倒す際には、中身を、死んでいって尚生かされている魂を解放させる必要がある。そのために咲、お前の鎌であの縫い跡を狙うんだ。いいね」
咲は先ほどの言葉に引っかかりながらも、「わかった」と頷き鎌を強く握りしめる。
「林檎君、君は己の娘を愛せるかね?」
ファウストの問いかけに林檎は黙ってしまった。咲はそんな林檎の姿を見て悲しむ反面、当たり前だと思う自分がいた。
「私が好きだからそれでいいの! うん!」
咲は林檎が答える前に自己完結させる。けれど林檎はファウストの問いに答えた。
「俺は咲を嫌っています」
「ほう」
顎髭に触れながら、「それはなぜかね?」と問いかける。すると林檎は口を開き「こんな目にあわされた、反面自業自得な面もあるけれど、少なくとも咲に遭わなければこんなにひどい目には合わなかったから」と林檎は素直に答えている。
「ふむ、人間らしいもっともな内容だ」
ファウストもその答えに納得し、それ以上は追求しない。項垂れる咲は、「自分はこんなにも好きなのに」と小さくぼやいた。
「けど……嫌いなはずだけど、俺は心のどこかで咲に感謝していると、思う」
――だって俺は……俺は。
林檎は一瞬溜めを作り、「咲のおかげで、様々な出会いや体験が出来たから。死にかけた経験、文香を苦しめた経験も確かにして、俺は諦めたこともある。けど……咲は、咲は俺を初めて出会った時のように、すぐに殺そうとしたり迫ることは無かった。そうだろ、咲」
林檎の問いかけに咲は、口移しをしたことを思い出し恥じらった。
「けど私、地獄に連れてきてから林檎をペットにしたよ、うん」
「それでも今は、べリアルさんもだけど、咲は俺を助けようとしてくれただろ?」
咲は林檎を救いたい気持ちは本物だと力強く頷いた。
「だって林檎を、ダーリンが好きだから」
「助けてくれた恩には、いくら無力な俺でも報いなきゃいけません」
「では助けた礼に結婚でもしてくれるのかい?」
「そうなの?」
メフィストの事を忘れたように林檎に「結婚してくれるの?」を嬉しそうに見上げ話かける。林檎は思わず口ごもってしまった。
「してくれないんだ……林檎はやっぱり文香の方がいいの? いいんだ……うん」
先ほどの明るかった表情から、また咲の瞳のように死んだ表情を浮かべる咲に、「答えを焦ってはいけない」とファウストは林檎を庇った。咲は「どうして? 林檎、ダーリンは私を選んでくれないんだよ? うん」とファウストに問いかける。
「人間の人生は咲たち悪魔にとっては短いように思うが、存外長いものだ。その長い年月の果てに人は堅い石頭を川の流れがごつごつとした岩を丸い石に変えるように、形を変え思考を変える」
「それが何? パパの話は長いから嫌い」
「くっ。己が娘の言葉が、これほど鋭く、痛く突き刺さるとは」
胸を抑えながらファウストは言葉を続ける。
「その中で林檎君はまだ石頭は石頭、柔軟な年ごろに思えるが、思い込みの強い年頃でもある。そんな林檎君の心だが、いつかは咲を本気で見る日が来る。なあ、林檎君」
林檎は困惑しながらも「今はそれどころじゃないけど、落ち着いたら必ず」と返事をする。咲はその言葉を聞き、「嘘じゃないよね? 私だけを見てくれるんだよね? うん、そうだよね?」と一人舞い上がる。
「だからこそ林檎君。咲を頼むよ」
「私の心、ダーリンに捧げるよ」
――そんな話はここを出てからにしてくれ。と言いたくても言えない林檎である。
「そ、それより倒し方、倒し方教えてくれ」
ああ、そのことか。とファウストは簡単だよと、林檎に倒し方を伝授……、
「あら、みんな仲良く会談? 私も混ざっても宜しくて?」
その言葉を聞き、三人は扉の前に立っているメフィストフェレスを見た。
「ペットを連れて散歩の時間はおしまいよ、咲ちゃん」
「ペットじゃない、恋人!」
咲の出した答えにハットを抑えくつくつと笑いだす。だがハットで隠された額には小さく青筋が浮き出ていた。
「ダーリンは人間界に帰す。うん!」
「あらあら、勝手ねえ。飼うって言ったからには責任持たないと。ペットが可哀相じゃなくて?」
対抗手段が見いだされていないまま咲はメフィストに食って掛かろうとした。けれどそれを林檎は早計だと肩を掴み、「待て」と引き留めた。
「あいつは人間界と魔界を自由に行き来できるんじゃないのか? それにゴリアテの倒す方法だって」
林檎の言葉に咲は言葉が詰まったように唇を噛み、黙った。けれどすぐに林檎の胸倉をつかみ、ヒステリックに喚いた。
「じゃあどうすればいいの? 私分かんないよ!」
「分かんないって……俺だってわかんねえよ! でもな、このままじゃ勝ち目なんかない。それだけはわかる」
だからこそ冷静になれ。と林檎は咲の両肩を掴んだ。
「私だって、ママに勝てるなんて思ってない。でも、べリアル、べリアルおばさんがもうゴリアテを倒しているかも」
咲は「おばさんなら、おばさんなら、うん!」と一人頷き、希望的観測で納得している。
「ベリアルおばさんと三人掛かりならきっと、倒せるよ、うん!」
希望を見つけたように咲は林檎に「倒せるよ」と言い続ける。けれど林檎はそう簡単に浮かれることはできなかった。人間だからこそ、魔界の住人じゃないからこそべリアルが負ける可能性を考えられたのだ。だからこそ慎重に行動しようと咲に冷静になれ、落ち着け。と声をかける。
「ところで咲ちゃん、その鎌はなあに?」
「こ、これは……ママ、ママを止めて、未来を掴むための武器! うん」
メフィストは「そうなの」と頷き、林檎を見るように蔑んだ眼で咲を見つめ問いかける。
「母に武器を向けるという意味がお分かり? 今ならペットを渡すだけで許して差し上げてよ」
手を差し出し林檎をよこせと要求する。
「や、やだもん! わ、わかってるもん。うん!」
「いいえ、咲。貴女は何も分かっていない……なぜなら」
「なぜなら?」
咲は油断するまいと鎌を右手に握り、反対の手で鎖を握る。そしてメフィストの一挙手一投足に集中し、メフィストの言葉に耳を傾けた。
「殺す殺さないに言葉は不要。ぐだぐだ話したり、親子だからって躊躇するような甘さが残るようではいけませんことよ」
その姿は、ミュージカルの役者の様に大げさな身振り手振りを行い、誰もいない虚空を見上げている。メフィストは大きく響く舞台役者のようにしゃべり続けた。
「ほら、今だってこんなに隙を見せたのに、咲は私を殺そうともしない」
動きを止めたメフィストは咲の方を見ると冷酷な表情を浮かべ、そしていつまでたっても攻撃を仕掛けない咲に落胆の表情を浮かべた。
「一度徹底的に管理しなきゃダメなようね……」
スーパーボールはサイズが多々あるため、ビー玉サイズに変えました。
設定変更申し訳ありません。




