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「どこ触られたの? ここ?」

程よい筋肉で引き締まった林檎のお尻に手を添え、ゆっくりと赤子の背中を撫でるように尻を撫でる文香は、小さく「ずるい」と呟く。続けて文香は先ほどの再現だと言ったように、林檎の尻を優しい手つきから徐々に鷲のように手を丸め、尻肉を掴もうとする。場所を考えろ。やめてくれと林檎が注意しお願いするも、文香は「なにこれ小さい……私なんて…㎝なのに。ずる」と熱心に林檎の尻を研究し、揉むのをやめない。咲も林檎が望むならと、袖から見慣れた刃鎌を取り出し「草刈り得意」と鎌を見せつける。

 咲に慌ててそれを隠せと林檎と文香は言うと、しょんぼりと鎌を消した。林檎は文香の方を再度見やると、文香も「害虫は叩き潰さないと」と物騒なことを言っていることに気が付き、慌てて「大丈夫だから」と即答する。「本当に?」となお心配する文香に礼を言い、物産展を見に行こう。と再度手を繋いだ。

「あれ?」

「咲ちゃんは?」

先ほどまでいた咲がいつの間にか消えていることに気が付いた二人。そして先ほどの行動から、咲が草刈りならぬ人狩りをしているのではないかと脂汗を垂らす二人。慌てて二手に分かれ周囲を探すと、意外にも咲はすぐに見つかった。最初に見つけたのは文香で、次に周囲を一周してきた林檎が二人を見つけた。

咲の手にはいつの間に買ったのか、真っ赤な大福が握られている。咲は物産展脇に複数設置された食事のできる休憩所の四人掛けテーブルの一席に座っている。

「はあ……」

 怒る気力もなくしため息をつく文香を心配したのか、咲はもぞもぞと袋から焼きそばなどの容器としてよく使われているフードパックを取り出し、「文香のぶん」と中にある異色な大福を差し出した。

「ありがと、ところで何味? 紫って何?」

「はすかっぷ……鉄分。うん」

 なんてマニアックな……。文香はそれを食べるならお茶いるでしょ? と自販機に向かおうと奥の自販機に向かう。

「あ、お茶なら俺が持ってるぞ」

 テレビで和菓子系の店舗が多いと聞いていた林檎は、咲を見つける途中で見つけた自販機で文香たちの好きな濃厚緑茶のペットボトルを三本購入していたのだ。まだ冷えているペットボトルのお茶を文香に見せると、文香は「ああもう!」と言いペットボトルを受け取り、咲の隣に座ると大福を頬張った。。

「あむっ、はむっ」

 文香はストレスを発散する勢いで大福を食べている。紫、黄色、緑。様々なカラーの大福を食べては、茶で流し込む。味わっていないように見えて、「これ甘くておいしい」「塩気と粒あんがたまらない」など感想を述べているのだから大したもんだとその姿を見つめる林檎。

「どう?」

 大福を渡した咲も、味がどんなものなのか気になっているようで、文香に味を聞いている。

「お茶」

 文香は口に入ったダイフクが出ないように口元を手で隠しながら茶を要求してきた。なので持っていたお茶を文香に渡すと、文香はそれを受け取り喉を気持ちよく鳴らしながら、一気に飲み干した。……ああ、俺の。

「どう?」

 咲は文香に再度聞いている。

「酸っぱかったけど、美味しかったわ。それにどの大福もアンコに様々なフレーバーや果肉がしっかり練り込まれていて食べやすかったわ。どこで売ってたの?」

 食べやすいサイズに、有名アイスクリーム店のように様々な種類の味があることを気にいった文香は、お土産として帰りに寄ろって詰め合わせを買うと決めた文香。

「あそこ……団子屋の、となり」

 場所を伝えるべくその隣で咲が買った店舗を指し示した。御当地銘菓! 珍しいからか、ご当地銘菓と銘打たれた旗の下に大量の客が群がっていた。

「そう……ところで咲ちゃんが食べているの大福のお味はどう? 美味しい?」

 

「赤エンドウ……真っ赤で素敵。栄養豊富、文香も食べる? 美味しいよ、うん」

 聞きなれない名前の豆大福にかじりついた咲は、半分残した大福の断面を林檎と文香に見せてくる咲。

「かじりかけを人にあげるんじゃありません。咲ちゃんが食べていいわ」

感想聞かせてね。とだけ言うと、差し出してきた大福を咲の口へ押し込んだ。咲は慌てずそれをもぐもぐとハムスターのように口に含むと、一気に飲み込んでしまった。

「甘い……もう一個」

「そりゃ大福だからな。まだ食うのか」

 空のフードパックを重ね、小さくげっぷをする咲。

「そもそも、なんでいきなり物産展なのよ」

「文香が好きだから」

「そう、そりゃよか――はぁあ!?」

 林檎の言葉にガタリと席を立ち、額から汗を流し、目を泳がせている。聞いてもいないのに自分の好きなモノを話す小学生のように、林檎について語りだす。

「そりゃ私だって初めて会った時は背の高いボーイッシュな女の子だなあと思ってみたけど、で、気が付いたらスーパーからの帰り道が一緒で、いろいろ話すようになって、男の子だって知ってめちゃくちゃ謝ったり……でも林檎君、ダーリンは慣れているから平気って言ってくれて、でもよく見たら青筋が額に浮かんでて、それでも笑顔を維持して帰宅したダーリンに私は後日お詫びの意味で、両親も留守だから一人でご飯も作っていないだろうからおかずを作っていったら……それが後で半生の焼き魚とガリガリに煮えていない肉じゃがだってお夕飯の時に気が付いて、それで慌てて取りに行ったらダーリンってば「歯ごたえがあって肉じゃが美味しかったですよ」とか、「魚が半生だった際には電子レンジで温めれば良いんです」とか言っちゃって、私のこと庇ってばっかりで……美味しかったですよって、美味しかったですよって……美味しかったわけないのに……ううう」

 咲の問いかけに今は味見をしているから大丈夫だと林檎が教える。文香は咲の問いかけに気付いていない様子で、一人興奮した様子で手で真っ赤になった顔を手で隠し、リンゴとの出会いから今までを語ろうとする。しかし文香のような美人だと周りからの注目度も大きく、「何事か」と野次馬が徐々に増えてしまう。そう懸念した林檎は、先ほどの「好き」という意味が「文香は物産展が好き」と慌てて説明した。しかし文香は「好き」と言う単語だけしか聞き取れていない様子で、「何度好きって言えば気が済むのよ!!」と林檎を更に困らせた。

「ダーリンは別に文香なんて好きじゃない。思いあがるな牛女」

 最後の一つ、豆大福を食べながら悪態をついた。

「んふふ、何か言った? 負け犬、負け猫? ちゃん」

 聞き捨てならないと咲に聞き返すと、咲は再度「牛女、脳まで脂肪が詰まってるのか。うん」と、文香の神経を逆なでするように冷たく答える。

「……決着つけようか?」

「嫌だ。うん。ここは美味しいものを愛でる場所。戦う場所じゃない。牛女、そんなこともわからないんだ。可哀相。うん、可哀相」

 冷静さを欠いた文香は闘牛のように、咲に食って掛かる。反面TPOを弁えた発言をする咲に驚く。普段と立場が逆転し、これではどちらがお姉さんかわからない。林檎はこの場を収めるべく、先ほど勘違いさせてしまったことを謝罪した。だが文香のことを好きだというのは本当だ。それがライクらラブなのかはわからないが。と林檎は付け足そうとするも、一人舞い上がり、一人勝手にショックを受けた文香の言葉に遮られる。

「な、なんで謝るのよ……謝るのよ、謝るのよ」

 呪文のように呟いた文香は林檎の気まずそうな顔を見て、尚も「謝るとか……あ、謝るのよ。それじゃあ私、勘違いしてたっていうわけ? 好意を持っていたのは私だけで」

 直ちにそれは違う。と訂正しようとするも、文香は「私だけ? 私だけ……私だけ」と壊れたテープレコーダーのように呟き続ける。普段と正反対の、黒いオーラを纏った重苦しい様子の文香を正気に戻すべく、林檎は一旦その場から全員で離れようとした。

文香の手を握り、咲に食べ終えたゴミをごみ箱に捨てるよう指示を出す。咲は「片付けは大事。うん」と立ち上がり、食べ終えて空になったパックをごみ箱に捨てに行く。捨て終えて戻ってきた咲は言うことを聞いたからご褒美がほしいと文香の手を握った林檎に要求した。林檎は今はそれどころではない。と考えながら、その要求を断ると咲までおかしくなるかも。と思い、「後でな」と要求を飲んだ。

 咲はやった。と両手で小さくガッツポーズをし、喜ぶ。

――また咲ちゃんばっかり。ダーリン、アイツは悪魔、死神。敵なのよ? 敵だよね?

 文香は心の中に、人間や護る者のためではなく、自身の欲望のために悪魔を倒したい。護るべき者に優しくされるその悪魔に、天使にあってはならない嫉妬の炎が文香の心の奥に小さく、種火となり生まれたことを文香はまだはっきりと認識していなかった。ただ文香は、その気持ちをダーリン、仮初の婚約者、林檎を守りたいと思う気持ちと勘違いを起こす。

林檎は物産展のある八階から一つ上の階にあるレストラン街へエスカレーターで移動した。そしてレストランではなく、少し手狭だが席と席の衝立が高く作られていたため、また開店したばかりのためか客足が一人もない小さな喫茶店を選び、入店する。ここなら話しをするのに都合が良いと判断したためだ。そして入るなり奥の席に座らせてほしいと活発そうなウェイトレスに頼む林檎を、文香や咲の様子を一瞥し修羅場中と認識した店員は「大変ですね! ざまあ! どうぞ奥は空いているのでご案内しまーす。男女関係が拗れた三名様ご案内でーす」と林檎たちを奥の席に案内する。

 林檎は咲と文香に紅茶を、自分にはアイスコーヒーを。と頼んだ。すると「あいあいさー」と喫茶店に相応しくない言葉で返事をした先ほどのウェイトレスはマスターに「注文はいりやしたー」と居酒屋でも言わないような、フランクな物言いで接客を続けている。

 大丈夫か、この店。と思う林檎であるが、その店員も言葉遣いは変だが過剰接客はしてこないため、安心して先ほどの話を続けようとする。咲はメニューにあるスペシャルパフェに興味を持っている。「文香と一緒に食べるか? 奢るぞ?」と聞く林檎に、咲は嬉しそうに「分ける」と賛成。先ほどのウェイトレスに注文しようとするがしかし、文香は「だーめ、今日の目的はパフェじゃないでしょ」とパフェの注文をひっこめた。

「一緒に食べよ。分けよう、うん」

 文香の服の裾をつまみ子供のようにお願いする咲に、文香はシンプル明瞭に「ダメ」とノーを突きつける。なら一人で食べる。と宣言する咲に、文香は「目的を忘れたの?」と釘を刺した。その様子に今なら話しかけても大丈夫と判断した林檎は、咳ばらいをし文香に話しかけた。

「文香、あの……さっきのことだけど」

 林檎はばつの悪そうに自分の言葉が足りないせいで文香に不愉快な思いをさせた。と謝罪し頭をテーブルにこすりつけるように深く下げる。反応はない……頭を下げている林檎は、謝罪に対し一向に反応がない文香が気になりゆっくりと頭を上げた。すると文香はなぜ謝るの? と疑問を呈した様子で変なダーリン。と細い指を口に当て、笑っている。

「文香?」

 それでも自分の気が済まないと頭を下げる林檎に、謝罪に水を差すように先ほどのウェイトレスが「注文の品でーす」とタイミング悪くやってくる。謝る様子の林檎を見たウェイトレスは状況を判断し、文香に「今なら無料でコーヒーぶっかけキャンペーンやってますよー。……やります?」と耳打ちをする

すると文香は何やら考え込み、「そうね……」と呟いた。

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