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01 ボーイミーツデスサイズ

 第1話 ボーイミーツデスサイズ


 ボーイミーツガール

 ありそうでありえない日常。例えば、「遅刻遅刻~」とパンを咥え慌てて家を出る。そして家を出てすぐの曲がり角を曲がると、柔らかい衝撃と共に尻もち。それに対しぶつぶつと文句を言いながら目の前を見ると、同じく文句を言っているパンを咥えた美少女が転んだ際に打った尻をさすっている。すると彼女のパンツが見えてしまい、このことに気付いた美少女は慌てて手で隠し、男に対し一方的な罵倒を始める。朝から理不尽な罵倒を受けた男はムカムカしながら学校へ行くと、クラスに今朝の美少女が転校生として紹介され――以下省略

 安達林檎はそんなテンプレを望みながら、想像しながらも、それが現実にはありえないことだと理解している……しかし、ふとそれを実践しようと思ってしまった。

「ま、学校は今日で終わりなんだけどな……」

 そう、今日は2学期の終業式。ついでに季節は雪降り積もる冬である。ちょうど学校が終わり、皆嬉々として休みはスキーやスノボだ、旅行だなどと予定を話す声が聞こえてくる。この雪が降り真っ白になった道をザクザクと足跡を残し帰宅最中であった。そう、冬休みが始まったばかりだ。

 そんな中林檎は一人むなしく、正確には先の妄想を試すべく、友人たちの誘いを断り学校近くのコンビニへ走った。そしてホットココアを買いカイロ代わりに暖をとりながら、ビニール袋の風を切り、ジャンク感満載なマヨネーズがたっぷり塗ってあるホットドッグもどきをほうばる。うん、このジャンク感がたまらなくうまい。

「何でこんなにジャンクフードは上手いんだろう」

 どうでもいいことを呟きながら、先ほど想像したことが現実に起きないかなーと想像しながら寒空の中真っ白な息を吐き、帰路につく。

道中パンを咥えたまま、行儀悪くカイロ代わりにしていたココアを飲もうとプルタブに指をひっかけ一口――

 残念ながら林檎はこのココアを飲めずじまいで落としてしまう。――まさかさっきの想像が現実になるなんて、この時はつゆほども思っていなかった。

 ドン!

「わっ」

 まだプルタブを開けたばかりのココアは手から零れおち、真っ白だった雪の上に甘い匂いとトクトクとココアの跡を残していく。

「ああ、勿体ない」

 高校生はお金が無い生き物だというのに、凄く勿体ない事をしたと後悔する。それと同時に尻を打ちジンジンと痛む尻を抑える林檎。

「いてて……なんだよもう」

ココアを落としたせいか、少し気の立った言い方で相手に文句を告げる林檎。我ながら器が小さいと心の中で呟きつつ、周囲を見れば見慣れた風景に十字路。どうやら家の傍にある十字路で見知らぬ誰かとぶつかったようだ。

「ちょっと気をつけてくれよ……な」

「うーん……」

 ぶつかった相手からは間延びした間抜けな返事だけだ。

まてよ、この展開……もしや美少女か!?

自分の尻を触りながら、ぶつかった相手の様子を見た。

その女性は、着物を着ており、両手を影絵遊びでキツネを作るようにし、がに股でピースしながら倒れている。その様子はまるで頭の上にヒヨコがぐるぐる回っているようだ。

「おいあんた、大丈夫か?」

 幸い、倒れた先はアイスバーンのようにはなっておらず、新雪が積もり、それがクッションの役割を果たしていた。

「……」

「反応は無し……か」

 倒れているのは推定だが顔つきは幼く背は中学生程度だろう。短く切りそろえられた髪は艶のある黒髪で美しく、日本人形を思わせる。

「救急車か?」

 といっても通報してすぐ救急車が来るわけではない。それにこの寒さ、流石にここに少女を置きっぱなしというのは避けたい。しもやけ、低温やけど、凍傷になってしまう。なので頭をゆすらないように、慎重に少女の様子を見ながら林檎は、少女の背中に手をまわした。雪が手に付き、思わず体がビクっとするが我慢我慢。

「悪いな……」

 腰をゆっくり落とし、彼女の背中と太ももにしっかりと手をかけ、ゆっくりと持ち上げた。

「軽い……」

 予想以上の軽さに驚きながらも転ばないようにゆっくりと、少女の頭部を揺らさないよう林檎はとりあえず家に連れて帰った。我ながら犯罪臭のする行為だ。傍から見れば誘拐事件であるが、林檎も自覚したうえで少女をこの寒空に晒すよりは、それにこんな少女に欲情はせぬと考え、連れて帰ることを選んだ。

帰宅後、一階リビングのソファーにその少女を寝かせ、冷えた体に毛布をかけ、少女の様子を見る。

「う、ううん……」

幸い意識が少し戻ったようだ。よかった……林檎はほっと一息つき、少女に声をかけた。

「おい、大丈夫か? おーい。ストーブに火はつけてあるし、寒かったら毛布も用意するぞ」

少しうなされた様子で、返事は無い。とりあえず意識があることに安堵した林檎は救急車を呼ぼうと家電の子機にて電話をかける。

「あ、すみません。救急で。実は外で人とぶつかってしまいまして……」

林檎は119を押し、担当者に今回の詳細を伝えている。

「え、その子の様子ですか? えっと」

後ろを振り返り、少女の安否を確認する。

「あれ?」

 先ほどまで寝ていた少女は目を覚まし、背筋をきりっと伸ばしソファーに座りなおしていた。そしてただじっと、林檎を見ている。

「あ、今意識が戻ったみたいです。ええ、今代わりますね」

 電話越しにそう告げ、林檎は持っていた子機を少女へ渡した。少女は無言で受話器を見つめたのち、林檎から受話器を受け取った。

「なんでもない。大丈夫。検査もいらない」

少女の対応は意外なものだった。淡々とした口調で救急隊員に救急車は不要、心配いらないと伝え、勝手に電話を切ってしまったのである。

「おい、一応検査を」

 少女の意識が戻ったのを安堵しながらも後遺症を心配し、林檎は病院を進めた。すると少女は林檎を見つめなおし、わなわなと震えだした。どうした、寒いのか? 何か飲むかと聞くと

「婚姻前の女子を、よくも家に連れ込んだな! しかも傷ものにまで!」

開口一番、少女は林檎を指差しそう言った。

「は? 傷もの?」

 なにを言っているんだ? 責任?

「見ろ! これを!」

 少女は背を向け、林檎に後頭部を見せてきた。よく見ると小さなこぶの様な物があるようなないような

「これはあれだな、うん」

 少女は一人頷き、顔を上下に振っている。

「おい、やっぱり検査」

やっぱり頭を打っているな。そうでなきゃこんな馬鹿みたいなことは言えないだろ。林檎は少女を病院へ連れて行こうと腕を掴んだ。けれど少女は地蔵のように動こうとせず、目を見開き林檎のつま先から天辺を見て何やら頷いている。その目は鑑定士のようで、なにか品定めしているようで少し気分が悪い。

そして続けて林檎にこう言った。

「結婚、責任とれや! うん!」

 力強くそう言うと、少女は林檎の胸ぐらを引っ張っる。その力が意外と強くて驚いてしまう林檎。

「いや、無理」

 現実味のない請求に反射的に断ってしまう林檎。

「ああ?」

 チンピラのように林檎の顔を下からのぞきこみ、少女は凄んでいる。しかし残念ながら、ちっとも怖くない。

「無理なわけあるか、こんなに美少女なんだぞ。うん」

 林檎の腕に絡みつき、少女は言った。確かに鼻筋は通っていて、二重瞼の目は大きい。同級生にはモテるだろう。自負するこはある。だがその反面、少女こけしのように体の起伏が乏しく、女性特有のふくらみが少ない。まあだからこそ和服が似合うんだろう。そんな姿を見ていると天は二物を与えず。神様は上手いこと人を作るもんだと感心してしまう。

「……どこ見てんの?」

「っと、悪い。だがあいにく責任はとれない。だって俺未成年だし。そういうことは、保護者である両親に言ってくれ」

 林檎はそう告げ、少女の腕を振りほどいた。

「うるさいうるさいうるさーい! 結婚しろ!」

 まるで駄々っ子のようにそう言う少女。

「どうせ寝ている私に好き放題したんだろ、この変態! もしや外傷だけでなく既に私の身体にも手を……ひぃぃ。結婚しろ!」

目を覚ました少女は騒がしいことを除けば和服美人、いや美少女というのだろう。……しかし林檎は気付いてしまった――林檎を見るこの少女の大きな眼に光彩が全くいことを。まるで死んだ魚のような目をしていることに。

「なんとか言いなさいよ! うん! 式場はどこがいい?」

 死んだような眼で林檎を見つめ、求婚を続ける少女。不気味に思った林檎は、少女の誘いを固く、丁重に断った。

「だから無理だって。俺まだ17だし」

「ああもうイラつくわ。うん! どうして断るのよ!!」

 いら立つならこれでも飲んで落ち着け、そして帰れと林檎は食器棚の下の棚からローズヒップティーのティーバックをとり、お湯を入れて少女の前に差し出した。

「これでも飲んで落ち着け」

 ローズヒップに含まれるビタミンCはストレスに良いらしいからな。

な。

「馬鹿にして……私の心を踏みにじった罰をくれてやる! あづぅ!」

 出された紅茶を一気飲みしたかと思うと、今度は紅茶の熱さに喉を抑え悶えている。

「が、がはっ、や、やるね……喉が焼かれたような気分、こんなの久々よ。あなた中々やるわね」

 大げさな咳をしながら、少女は少年漫画のライバルのようなセリフを林檎に投げかけた。

「で、なんなんだよ。何が目的なんだ?」

 もう帰ってくれないかな。と思いながら、嫌々少女の目的を聞いてみた。

「私以外の女と結婚、婚約などしようものなら、貴様の命、もらっていく!」

「あー、ごっこ遊びなら同年代のやつとやってくれ」

 邪気眼か中二病か、面倒な少女とぶつかってしまったものだ。

「アンタ信じてないわね」

うん。と頷いた林檎に対し少女は手をかざし、林檎の目の前に純白のリング、指輪を出現させた。

「なんだ、マジックか? 上手なもんだな」

 その指輪をまじまじ見つめていると、少女は林檎に手を出せと要求してきた。

「さ、はめてあげるわ。婚約指輪よ」

 会ってそうそう婚約かよ。とツッコミを入れようとしたが、体の異変に気がついた。

「あ、アレ、体が……」

拒否しようと体を動かそうにも、金縛りにあったように林檎の体は動かなかい。しかし林檎の意思とは正反対に左手が少女の前に差し出される。

「コレは契約の婚約指輪。契約を交わしたからには私と一緒に地獄に行くわよ。うん」

少女はそう言うと林檎の左手の薬指に指輪をはめ、自分も同じ指輪をしていると林檎に左手を見せてくる。だが少女のは林檎に嵌めようとしている純白のリングとは違い、禍々しく淀んだ黒色である。

「あんたが裏切ったらその指輪、あんたの血で真っ赤に染めるから」

光彩のない真黒な瞳で林檎を見つめ、歯を見せて笑う少女。

「きっと綺麗よ。間違いないわ。うん」

恐ろしいことを笑顔で言い放つ少女。彼女の右手にはいつの間に出したのか、園芸や草刈りなどで使う鎌を見せてきた。よく研いであるのか、テーブルに置いてあった新聞を手に取り、それを鎌できれいに真っ二つに切り裂いた。

「返事は?」

 鎌をちらちら林檎に見せ、少女は笑顔で林檎の首に雑草を刈り取るかのように鎌を当ててきた。鉄の刃の冷やりとした感覚が恐怖をさらに増長させる。

「イエス、イエスマム!」

 殺されるという恐怖から林檎はうんうん首を縦に振り、命乞いをした。

「よし」

 その一言を聞き嬉しそうにする少女。

「じゃ、改めて自己紹介。私は咲。死神の咲!」

 少女改め咲はそう言うと、手に持っていた鎌を消滅させる。

「し、死神?」

「そ、見てて」

 咲は林檎の前でひらりとアイススケートでやるようなターンをした。10点。ほら、点数やるから帰ってくれ。頼むから。そう心の中で思いながら見ていると、先ほどの和服から姿を変え、黒いローブを纏い、骸骨のマスクを左手に持ち、まるで漫画に出てくる死神のような姿になった。

「お前、人間じゃなかったのか?」

林檎の面前で、通常じゃありえない光景が映った。

「コレを見ても、まだ人間だと思う? ほら、死神の鎌だってあるんだよ? うん」

大鎌ではなく、先ほど林檎を脅すのに使用した草むしりや草刈りに使う小さな鎌を少女は見せてくる。ようやく事態を把握しかけた。……だが

「それが……死神の鎌?」

 死神ってタロットとか格ゲーの死神キャラはもっとカッコいい鎌を使っていた気がするんだが……。

「あれはファッション。実際はこっちの方が使い勝手便利だし、人気なんだよ? うん」

「知りたくない事実だな……」

死神は嬉しそうに鎌を振り、それをやめたかと思うとまた林檎の首にその刃を当ててくる。

「裏切ったら、首チョンパね。あ、あと君の左手も。後は友達に頼んで君をゾンビにしてもらうか、標本にして実家に飾るから♪」

 死神に実家があるのか。って、首チョンパって……そんな小さな鎌で

「さっきも見せたけど、これ切れ味良いよ?」

 刃がきらりと光り、研ぎ澄まされた鎌が蛍光灯の光を反射しきらりと光る。そして咲は幼い顔で笑ったまま、ソファーの前にあるテーブルに置いてあった飲み干されたティーカップをその鎌で一閃。雑草を刈るかのごとく、上下真っ二つに綺麗に切り裂いた。

「うわっ!」

 驚き身をすくめる林檎。

「コレで信じたでしょ? 普通信じるよね? うん」

そしてカマキリのように咲は袖から二つの鎌を出現させ、林檎の背後にいつの間にか立っていた。その鎌は片方は林檎の首、もう片方は左手首に当てている。 


ボーイミーツガール改め、ボーイミーツデスサイズ。


この日林檎は、神を恨んだ。

 死神の名は咲。

 中学生程度の小さな体に、ストンとした起伏のない体型。本当に女かと疑いたくなる。そして光彩の無い瞳、なおも言い続ける自称・林檎の婚約者。

「ま、そんな簡単に殺さないってば。だって私のお婿様、ダーリンだからね、うん」

 鎌を消失させた咲は、林檎の背中に抱きつき、肩に顔を乗せ笑顔で微笑んでいる。光彩がないだけで……女の子の笑顔がここまで怖いものなのか。ちらりと横を向くと、咲と目が合った。咲の死んだ魚のような目は「モウニガサナイ」そう語りかけてくるようで、林檎の体は外の冬景色同様冷えていく。背中には汗もにじむ。そんな林檎に、歯を見せ笑う姿は、林檎に更なる恐怖を植え付けた。

 ――死んでも、逃がさない――

 そう語りかけてくるようだった。

「それよりよろしくね、ダーリン」


 この日気まぐれに出会いを求めた少年安達林檎に、可愛い嫁(自称)ができた。


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