Prologue - Good-bye my dear -
「さよならだ」
一つの墓の前で、白薔薇を一輪、乱暴に放る。
誰もいない墓地。
自分の声だけが、虚しく響く。
「あんたは死んだ。人は死んだら天国に行くんだろうが、生憎俺は人間じゃないんでね。まだ7回生きなきゃなんねェんだ」
自嘲的にくつくつと笑む。
八重歯が唇に刺さり、唇がぷつりと裂け、赤い血がぷくりと浮いた。
「まァ、あんたのいない世界で生きる意味なんて、無いんだけどな」
唇に浮いた血をべろりと舐める。
鉄の味が口の中にじわりと広がった。
「なァ、来世って、本当にあると思うか?」
生前、よくあんたは話していたな。
現世で結ばれなかった二人が、生まれ変わった世界で一緒になる…そんなくだらねェ夢物語を俺に何度も話していた。
「…もしもあんたが生まれ変わって、また出逢えたとしたら、いいぜ。今度こそはよ」
一方的過ぎる、自分よがりな勝手な約束。
あんたの意見なんざ知ったこっちゃ無ェ。
「今度は、一緒になろうぜ。なァ…アリス」
ざっ、と荒々しく吹いた風が、墓前に放った白薔薇を宙へと舞い上げた。
頬を伝う水が、軌道を逸れて口の中へ入った。
鉄と塩辛い味が混じり合い、思わず噎せた。
噎せたと同時に、嗚咽が喉の奥から漏れた。
Good-bye my sweet dear.
I forever will wait for you.
I believe, that's my fate.