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第七章 教師との出会い

ハイドに付いて恐る恐る部屋に入った私の目にまず飛び込んで来たのは、ホールかと思うほど、物凄く広い部屋と高い高い天井。

三階建てのビルぐらいの高さはあるんじゃないかと思うほどの天井のてっぺんには幾何学模様のステンドグラスがはめ込まれ、太陽の光を浴びてとても綺麗に見える。

そして部屋をぐるりと囲むようにこれまた高い高い本棚があり、隙間なくびっしりと本が詰め込まれている。

部屋の一番奥には数段の低い階段と祭壇のようなものがあり、その両側に水晶のようなものが埋め込まれた燭台が据えられていた。

凄い・・・図書館みたい!

私が膨大な本の量に圧倒されて口を開けていると、一人の女性がこちらに近付いてきた。さっき返事をしてくれた女性だろうか。

「ご無沙汰しております、ハイド様。この方が例の・・・?」

「そうだ。アイリという」

「は、はじめまして!アイリと申します。今日からお世話になります!」

ぺこっと頭を下げて挨拶する私を見て、彼女は微笑む。

「まぁ、ご丁寧にありがとうございます。私はこの部屋の雑務を担当しております、ビスクドールのエファと申します。以後お見知りおきを」

紫の髪と紫の瞳が特徴的な彼女はそう言って丁寧にお辞儀をする。・・・ん?

「え、ビスクドール?」

「左様でございます。私はアベル様の魔力によって命を吹き込まれましたオールビスクの人形でございます」

その証拠に、とエファは袖を少しまくって見せる。

人間の肘に当たる部分には球体がはめ込まれており、関節の役目を果たしていた。

つやつやした白い肌は、まさに陶磁器。

顔は非の打ち所がないほど整っていて、常に優しい笑みを浮かべる唇は薔薇色だ。

「・・・綺麗・・・」

思わず口に出してしまった私を見て、その丸い目を少し細めて

「ありがとうございます。何よりの褒め言葉ですわ」

そう言って、私に手を差し伸べる。

「改めまして、これからも宜しくお願いいたします、アイリ様」

私はその手をそっと取り、握手を交わす。

「エファ、アベルは奥か?」

握手する私たちを微笑ましげに見ながらハイドが尋ねた。

「失礼いたしましたハイド様。では、奥へご案内いたします。こちらへ」

優雅に案内するエファに従い、私たちは奥に進む。

見渡す限りの本棚に隙間なく収納されている本に圧倒されていると、前を歩くエファが声をかけてきた。

「ここには世界中に存在する魔道書が保管されています。最近書かれたものから、古いものは何千年も昔の巻物など、その蔵書数は数百万冊とも言われています」

「数百万!?」

「はい。ですが数が多すぎるので、正確な数を把握している者は誰一人おりません。以前は蔵書の場所や概要をある程度把握している魔機がいたのですが、数年前に故障してしまい、それからは手付かずとなっております」

「そうなんだ・・・読んでみたいな」

私は素直な気持ちを口にした。

「読んでみればいい。ここは城で生活している人たち全てに開放されているからね」

ハイドはそう言ってくれた、けど・・・

「・・・私、言葉は話せても、こっちの文字はきっと読めないと思う」

そう。なぜか言葉は最初から問題なく話せているが、多分文字になると読めない気がする。

「アイリ・・・」

何かを言おうとしてかハイドが私の名前を呼んだけれど、そのまま口をつぐんでしまう。

きっと私が別の世界から来たんだって事を思い出したんだろう。

一瞬、気まずい沈黙が流れた。

それを破ったのは、涼やかなエファの声だった。

「それならば、アベル様に文字も教えて頂いてはいかがでしょうか?」

「え?」

予想外の提案に、私はエファの後ろ頭を見つめる。

「これから専属として生活していくのであれば、最低限の文字が読めなければ業務に支障をきたす恐れがあります。それならば、本格的に働き出す前に魔法と共にアベル様から教わるのが最適かと」

「あ、そうか・・・」

「ハイド様がお許しになる限り、時間はたっぷりとございます。まずはこの世界の理と常識に慣れる事からお始めなさいませ」

淀みなく正論を話すエファだが、その口調はとても優しくて温かかった。

「そうだな、それが最善策だろう。確かに文字が読めなければ部屋のプレートも読めないだろうから、何かと不便を感じるのは間違いないし」

横を歩くハイドを見上げれば、少し眉を下げてこちらを見ていた。

「ごめんね、アイリ。無神経な事を言った」

「そんな事ないよ。別の世界から来た私でも他の人たちと対等に接してくれて、嬉しい」

そう言って笑ってみせると、ハイドはほっとしたように微笑んだ。

「さあ、こちらでございます」

エファがひとつの扉を指し示した。

本棚に埋もれるようにして存在するその扉は、一見何の変哲もない木製の扉なのだが、どこか高貴な雰囲気を醸し出していて、おいそれと近づけないオーラを滲ませていた。

「こ、ここ・・・?」

「はい。ここがアベル様の執務室でございます」

エファは扉をノックし、

「失礼いたします。ハイド様、ならびにアイリ様をお連れいたしました」

と告げた。

少しの間が空いて、

「開いてますよ、どうぞ」

涼やかな男性の声がした。自然と肩に力が入る。

「失礼いたします」

エファが静かに扉を開き、私たちを奥へと促す。

私は緊張の面持ちでゆっくりと部屋へ足を踏み入れた。


そこは一見、先ほどのホールをぎゅっと凝縮させたような部屋に見えた。

だけど、一番奥にあった祭壇らしきものはなく、代わりにラデューの部屋にもあったような、大きな水晶が鎮座していた。

ラデューの部屋にあったものは少し青みがかっていたが、ここのものは無色透明で、向こうの壁が透けて見えた。

その横に、一人の男性が立っていた。

輝く銀色の髪に、エメラルドが埋め込まれてるのかと思うほど鮮やかな瞳は穏やかに微笑んだ口元と相まって神々しくさえも感じる。

・・・ま、また美形が・・・ここは美形しかいないのですか!?

心の中で私は頭を抱えた。エファといいアベル様といい、いい加減美形ラッシュに慣れなければ・・・

「・・・は、はじめまして。アイリと申します」

おずおずと挨拶をすると、私の顔をふ、と見て、軽く目を見開いた。

「・・・あなたは・・・!」

「え?」

なんで顔見て驚いてるんだろ?私、顔に何か付いてた?

「・・・アベル」

自分の顔を触って困惑する私の横で、苦りきった口調でハイドがアベル様の名前を呼んだ。

「アイリは知らない。それに言う必要もない。・・・もう終わった事だ」

「・・・そうでしたね。失礼しました」

「??」

訳が分からないけど・・・何か良くないことなんだという事だけは何となく分かった。

だから、特に何も口出しせずに黙っていると、取り繕うようにアベル様が口を開く。

「はじめまして、アイリ。私はここの管理人をしています、アベル・リブ・ミシェットといいます。これから貴方の教師役として頑張りますよ」

「あ、こちらこそお世話になります」

「アベル、お前本当の役職を隠そうとしてるな」

ハイドが眉間に皺を寄せて突っ込む。

「本当の役職?」

「最近は滅多にそっちのお声がかかる事のないもので。平和な証拠でいいんですけどねぇ」

何の話だろう?と首を捻る私を見て、

「アベルは大神官だ。すなわち、この国では魔法使いのトップという事になる」

「たまたまですよ。私よりも魔力の高い人が出てくれば今すぐにでも譲りたいんですが」

「お前より魔力のある人間なんていないっての。・・・アイリも相当だけどな」

そこで二人揃って私を見る。・・・美形にいっぺんに見られたら穴が開きそうです!

「ここに入ってきた時から思っていましたが・・・久しく見ていませんでしたね、この魔力の質は。確かに自ら魔力を制御出来るようにならなければアイリの身まで危険が及びますね」

「あ、あの・・・」

「大丈夫ですよ、アイリ。貴方は聡明そうですから、制御そのものはすぐに出来るようになりますよ。制御が出来たら、色んな術を勉強していきましょう」

「アベル様、お願いがあります。私に文字も教えて頂けないでしょうか?」

「文字を?」

アベル様は怪訝そうに私を見たが、すぐに理解してくれた。

「そうでした、貴方は別の世界から来たのでしたね。私で良ければもちろんお教えしますよ」

「ありがとうございます!」

「じゃあアイリ、俺はそろそろ仕事に行くよ。また夕方迎えに来るから、終わってもここで待ってて」

「うん、ハイドもありがとう」

ハイドは私の頭をくしゃっと撫でると、アベルによろしく、と言って部屋を出て行った。

「さて、それでは早速ですが始めましょうか」

「はい、よろしくお願いします、アベル様」

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