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 俺ってこんな奴だったけな。

自問自答に耽るも、息絶え絶え。

情けない。俺が必死こいて辿り着いた祠跡に神林の姿は無かった。ここが目的じゃないならどこにいるのか。そっちの方が気になったりする。しかし、さっきのは何だったんだ。神林が背負ってたのは何だ? 祠跡近くの石に腰掛けた。無駄足だっただけにやたら悔しい。出来れば何なのか知りたかった。もしかしたら、神林はこの事件と何か関係があったりして。それなら面倒だ。噂をすればナントやら。脇の藪からひょっこり神林登場。辺りを見回し俺に気付いた様子。俺を見て少し悩んでいるみたいだ。「隣の席の」と小さく聞こえる。神林はどうやら物覚えがいいようだ。完璧ではないものの、目立たない俺のことを覚えていた。

「神崎」

 俺が呟く。

「神崎」

 俺を指差し呟く。

「呼び捨てかよ」

「……神崎くん」

 相変わらずの無愛想。少し揺すりをかけてみたが動揺する素振りもない。読めない奴だ。

「神崎くん、何してるの?」

 藪から体を半分だけ出した神林。早く出てくればいいのにと思う。

「神林さんこそ」

 背負っているものからはさっきの嫌な感じはしない。

「私は、秘密」

 神林はそれだけ言って藪の中に戻っていった。それから暫くは会話も無く、梟の鳴き声を二人で聞いていた。

「帰らないの?」

 藪の中から神林が呟く。

「暫くは」

 俺も何となく呟く。今はもう結構いい時間だろう。出来れば早く帰りたいが、自分の中の僅かな好奇心に従うことにした。何かが起こる気がするのだ。

 その直後、祠から光が溢れた。それは泉に湧いた水のように鮮やかなものだが、あまり見ていて気持ちのいいものじゃない。

「何だこれ?」

 俺は唖然として声を零した。その光は点灯を繰り返している。光が強くなるとその度に金属の擦れるような音が辺りに響く。

「やっと出て来た」

 神林の言葉を合図に何かが祠から飛び出した。

 金属の擦れた音とざらついた低い音が不協和音を奏でる。光は音に合わせて屈折を繰り返し、徐々に形を成していく。やがて光が薄れてその姿を明らかにする。そいつは赤黒い染みを体中に持つ不気味な程巨大な蛇だった。俺より一回りでかい。そいつは俺に見向きもせず、ある一点、藪を見つめる。そこは確か神林が居るところ。

「許スマジ…」

 その大蛇はざらつく声を響かせた。

「許スマジ……!」

 最初の声とは違い、怒気を孕んだ唸り。大蛇の唸りに大気が震える。この祠一帯が声帯の役割を果たしているかのように感じる。大蛇は藪からゆっくりとした動作で出てきた神林を尚も睨み付ける。

「やっぱり、まだ生きてた」

 神林は溜め息一つ吐くと、面倒くさそうに背中の何かに手を掛けた。それは長い竿状のもので布が巻かれている。

「二度ト遅レハトルマイゾ」

 大蛇は体をうねらせた。大蛇の体中の染みから闇より濃い黒色の霧が吹き出す。

「そんな体で?」

 口は真一文字の神林が挑発の言葉を口にするとより馬鹿にされた気がするのだろう。

大蛇は唸り声を上げて鎌首を上げる。周囲の木々が太さに関わらず全てが若竹のように容易くしなった。簡単な動作だが、無駄に迫力がある。異常な光景の中心で凛と佇む神林。それを眺める俺はさも場違いに思えるが、情けないことに腰が抜けて動けない。というか、これは何の特撮だ? 軽く放心している。

「早く死んでよ」

 神林は背中のものを正面に構える。巻き布を払うと出てきたそれは素人目に見ても立派な日本刀であった。美少女が日本刀を構える姿はなんとも不自然で非現実的な風景をさらに深めてくれた。

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