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家に着いた俺は着替えもそこそこに眠りに就いた。転校生が隣の席なのだから明日から確実に騒がしくなる。それは勿論、神林に向けられた興味であり、俺に対するものは一切含まれていない。それでもやはり、近くでがやがや騒がれるのは迷惑だ。安眠妨害だ。よって家でくらいはゆっくりと寝かせてもらおう。
その結果、俺は夜半目を覚ますというなんとも中途半端な状態になってしまった。どうしようか。暇つぶしにテレビを点けるが深夜の天気予報に興味は無い。
あまり当たらないし。
なんとなしにカーテンの向こう、窓の外を眺める。ぽつぽつとモザイク状に街灯が街を照らしている。この街には光害の影響はなく、いつも晴れれば満天の星空だ。そして、どうやら今日は新月らしく月は無い。その方が却って星が綺麗に見える。いや、別に俺はそこまでロマンチックな趣味は無いが。そういえば、部屋の窓からは件の裏山も臨める。あそこの祠、壊されたんだよなー。と思ってからそこに到るまで一時間も掛からなかった。
問題の祠は何を祀っているのかは知らないが小さな頃はよくお詣りにきていた。しかし、何故だろう。いつの間にか近付かなくなった。子ども心に何かあったのか? 祠の周りにはよくドラマでみるような黄色いテープに『keep out』の文字。あまりにベタな光景と無残な瓦礫と化した祠との対比がシュールだった。
「警察沙汰ってことはやっぱり器物破損になるんだな。昨日のあれって犯人なのか?」
そんなことを呟く。周りに人は居ない。梟の鳴き声が無性に寂しくさせた。
「……帰るか」
俺は壊れた祠という事実だけ確認して帰ることにした。コンビニでも寄ってカップヌードルでも買って帰ろうか。そう考えながらの帰り道。裏山の遊歩道もどきの半ば程で、俺は意外な奴を見つけた。長く艶やかな黒髪。夜闇に朧気に浮かぶ白磁の肌。毅然とした立ち姿に真一文字の口。そう、転校生神林竜姫だ。女の子がこんな時間に何やってんだ? とは思うものの声は掛けられない。別に俺がシャイだからとかじゃなく、神林の異様な気配に圧倒されたからだ。あれは何だ? 神林は背中に軽く背負うようにして何か細長いものを持っていた。それはこの夜闇の中、確かな存在感を有している。俺は自分の脈拍で鼓膜が破裂しそうだった。何でこんなにも心臓が脈打つのかは分からない。ただ神林から目を反らせずにいた。
神林は俺に気付く様子もなく、山道を登る。
ゆっくりと、しかし確実に。その先には祠くらいしかない筈。神林も祠を見物に来たのか? いつもならどうでもいいことなのに、俺は遊歩道を駆け上がった。祠に向かって。神林はゆっくりと歩いていたが、全然追いつける気がしない。息が上がってきた。何でこんなに必死になってんだよ? 分からない。ただ、耳鳴りが煩くて仕方なかった。
―イマナラマダマニアウ―ヒキカエセ―……と。