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雲の上の少女

作者: halyoshi2394

雲の上に女の子が立っていた


こちらを向いたので手を振った

彼女もそれに気づいて、手を振ってくれた



大学でもまた、その雲を見つけた

薄くて真っ白な雲

その上にやはり少女が立っている

こちらを向いたので手を振った



彼女はいつも夏模様だった

雲と同じ白いワンピース

僕はいつも彼女を探して空を見ていた




霧の濃い朝だった

明け方の空気が好きな僕は、ジャニスを聴きながら散歩をしていた

霧と雲は同じものでできてるというので

彼女が下りてくるかもしれないと、期待していた


予感的中

さっそく話しかける


「やぁ、君は雲の上の子かい?」

「そうですけど、とっても目上の人みたいですね」


彼女が笑ってくれた


「いつもあそこで何をしているの?」

「たとえばあなたがあそこにいたら、何をします?」

「下を見る」

「でしょう?」

「ですね」



「僕が手を振ったのは覚えてる?」

「ごめんなさい、一日に何度も手を振られるから」

「そっか、そりゃそうだ」

「ごめんなさい」



「でも地上で会ったのは、あなたが3人目ですよ」

「それは光栄です」

「だから覚えました」

「ありがとう」



「そろそろ行かなきゃ」


霧が薄くなってきていた


「また会えたらいいね」

「雲の上から見てますね」

そう言って手を握ってくれた




たまにあの雲と彼女を見かけた

彼女のほうから手を振ってくれた

覚えたというのは本当みたいだ



在学中は、もう会うことはなかった

彼女が他の人間と出会っている可能性を考えると

自分の器の狭さに嫌気がさす



僕が26歳になったとき、また彼女に会うことができた

「やぁ、また会えたね」

「お久しぶりです」

「君はちっとも変わらないね」

「5年も前の私を覚えてるのですか?」

「鮮明に」

「怖いですよ」

「それだけ衝撃だったんだよ」

「ああ、なるほどです」



「君は、他の人間ともこうして会っているのかい?」

「そうですね」

「たとえば?」

「ぐいぐい聞きますね」

「気になるからね」

「私は日本担当なので、日本に限られますが

今まで出会ったのは9人ですね」

「5年で6人にしか会えないのかい?」

「日本担当はスルーですか

まぁそうですね、そもそも私を見ることができる人はマイノリティです」

「そうなんだ、じゃぁ僕は特別なんだ」

「そういうことです」

「ちなみに日本担当っていうのは?」

「日本の特定の方々の監視です」

「特定?」

「はい、俗にいう魔法使いです」

「…え?」

「20超えても童貞の方の俗称ですね」

「やっぱそっちですよね」

「そうですね」



「監視してどうするの?」

「今は私の口からは言えません」

「そっか」

「でもそんなに複雑なことではないです

いくつか可能性を考えてみてください

その中に答えはあります」


ドキッとした


「そうか」

「はい」

「君は僕に何かするの?」

「時期が来たら、そうですね」

「他の人にも?」

「5名はすでに終わってます

残り4名ですね、今のところ」

「そうか」


「ではそろそろ」

「ああ」




零細企業での業務が終わり、空を見上げた

彼女はとても寂しそうな顔をしていた

童貞に対して何かするなんて

下衆なことか、抹殺かしか思い浮かばない

どちらにしても、僕は嫉妬で吐き気がする


彼女を僕のものにしたい

だなんて、2回しか会ってないのに、そんなこと



「え?」

彼女だ

雨の街で見つけた


「なんでここに?」

「あ、見つかりました」

「びっくりしたよ」

「びっくりさせてしまいました」

「雲か霧がないと会えないと思ってたのに」

「そうですか?

何かするときには、その縛りは無くなるって考えは無かったです?」

「ありました」

「でしょうね」

「何をするの?」

「その前に、あなたの名前を教えてください」

「ハルト

晴れる人でハルト」

「雲と霧を待ち構えるハルトさん

面白いですね」

「いいだろべつに」



「さて、ハルトさん」

「なんだい?」

「晩ご飯、食べました?」

「これからだよ」

「ご一緒します」



「何が食べたい?」

「ハルトさんは?」

「パスタはどう?」

「あんまり好きじゃないです」

「女の子はみんなパスタが好きだと思ってたよ」

「魔法使いのくせに知った口を!」

「申し訳ない」

「いえいえ」

「僕はビーフシチューが好きなんだけど、どう?」

「私の服装に相応しい献立でしょうか?」

「申し訳ない」

「ふふっ、いいですよ、それで」



「それで、何をするんだい?」

「食後の紅茶が出てくるまで待ってください」

「ああ」



彼女の食事作法は美しかった

一体どこで身につけたのか

考えると吐き気がする



「さて、ひと段落しましたね」

「そうだな」

「あれ?なんだか怒ってます?」

「そんなことはないよ」

「でも顔色が」

「大丈夫さ、それより話してくれよ」

「了解です」



「私の使命は魔法使いの方々を抹殺することです」

「そっか」

「はい、だから殺しますね」

「でもなんで食事に?」

「殺す前に、対象の望むことをひとつ叶えるのがルールです」

「そうか」

「はい」

「では、何か望みはありますか?」

「えっ?」

「食事は私の希望です」

「そうなんだ」

「そうなんです」



「ちょうど、僕の望みも君との食事だったんだよ」

「そうですか、困りました」

「これ以上は望めないよ」

「今までの方々と比べて、器も欲も小さいですね」

「そう思う」



「今までの人の望みって、どんなのがあるの?」

「そうですね、童貞を捨てたいというのがダントツです」

「叶えたの?」

「まさか」

「そうなんだ」

「めちゃくちゃ安堵の顔してますよ、ハルトさん」

「そりゃそうだよ」

「えへへ、ありがとうございます」

「…いえいえ」



「望みがないなら、処分保留です」

「そうなの?」

「そうなのです」

「心を覗く的な能力はないの?」

「えーとですね」

「あるのか」

「どうでもいいじゃないですか、殺しますよ?」

「あっはっは」

「笑わないでください」



「保留なので観察継続します」

「わかった」

「雲の上の少女は地上でしばらく暮らします」

「どこで?」

「決めてません」

「そっか」

「そうなのです」



end

雲を見ていて空想しました

お付き合いありがとうございます

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