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短編

孤独

作者: RK

 僕達は暗い部屋に押し込められた。

 人数は20人だろうか?

 国籍はバラバラだが共通しているのは僕達が孤児であること、年齢が同じ程度であると言うことだろう。

 僕達の大半は言語の壁により孤独を感じていた。

 金髪の子供達は共通した言語、おそらく英語で話している。

 やることもないので僕は薄暗い部屋を調べて回ることにした。

 明りは間隔をあけて裸電球がある。ぼんやりと弱々しい明りなので月明かり程度の明るさしか確保できていない。

 パッと見で分かることはここが20人が居ても狭さを感じない程の大部屋。

 壁の方に歩いて行く。暗くて分かりづらかったが近づいてみると壁際にはタンスやクローゼットなどの収納がある。

 部屋の中央には20人全員が座れる長テーブルが置いてある。

 収納の中に何かないか、調べてみようと思い引き出しを開けてみる。

 重厚なフォルム。金属の放つ冷たい存在感。非現実の象徴。命を刈り取る武器。

 グリップ部分も刀身と同じ金属で作られている削りだしのこれは戦闘に耐える強度を保ちつつ様々な機能を追求したサバイバルナイフが抜き身で置いてあった。

 この手のナイフはグリップにコンテナがあると以前、知り合いのホームレスが自慢げに語っていたのを思い出す。

 グリップ部分を開けるが中には何も入っていなかった。

 とりあえずナイフを抜き身のまま持っていては要らぬ警戒を抱かせてしまうだろう。

 何を意図してナイフをあんなところに置いたのかは知らないがこの様子だと部屋の至るところに武器が隠されているのではないだろうか?

 言葉の通じない僕達が武器を持って対面しては何が起きるかわからない。ナイフは慎重に紙で包んで上着のポケットに仕舞った。

 僕は部屋の探索を続ける。その間に他の子供達は言語が近い者同士で集まったようだ。

 何処とも違う言語が共通しない国、日本人の僕は一人だった。

 

 窓もなく、薄暗い部屋。僕達の時間間隔はとっくに狂っていた。今が何時なのかすらも分からない。

 問題なのは空腹だ。僕達に食事が出るはずが無い。空腹は僕達の精神を苛む。

 苛々が募り始め些細なことで喧嘩を始める。

 4度目の睡眠を取った後は会話など無く、不気味なほどの沈黙が漂っていた。

 7度目の睡眠。

 飢えも乾きも限界だ。言語の違いでコミュニケーションもままならない。取れても片言な僕達の精神は異常を来たしていたのかもしてない。

 だから事件は起きるべくして起きた。

 アジア系の少年――言語から察するにおそらく中国人――が英語圏の少年を手に持ったワイヤーで絞殺したのだ。

『お前ら、みんな殺してやるよ…!』

 一緒にいた子供達は呆気に取られていた。突然の凶行に頭が追いついていないようだ。中国人の少年は何を言ってるかはわからないがトーンや状況を考えればどの国も大差ないだろう。きっと殺してやるとか仕返しだとかそんなことだろう。

 あの中国人の少年は度々白人系の子供たちに暴行を加えられていた。この空間ではそれが唯一の娯楽だったのだろう。だが、暴行を加えられた被害者はどうだろうか?

 彼の鬱憤は晴らされることなく溜まる。空気の詰まりすぎた風船はどうなるか?

 

 破裂する。


『お前!ふざけるなよ…!』

 中国人の少年がまた一人手にかける。そこで他の子供達も行動に移す。

 少年を殴りつけ地面に転がす。暴れる少年を抑えつけ殴る、蹴る。

 中国人の少年はやがて動かなくなった。

 僕はそれを黙って見ていた。

 なぜなら、僕は日本人だからだ。

 中国人と日本人は同じ黄色人種だ。一度植えつけられた恐怖が取り除かれることはない。

 似た外見の僕を見て、その恐怖を思い出し理不尽な暴力にさらされるのはごめんだ。

 今のやり取りで体力を使ったのか僕以外の子供達は反対側の壁際に移動して休んでいるようだ。

 それはそうだろう。

 一週間近く飲まず食わずであれだけ暴れれば体力も底をつくだろう。

 ここには何も食べるものもないんだから。

 ああ、喉が渇いたしお腹もすいた。肉が食べ―――。

 肉?

 ああ、丁度いいのがあるじゃないか。

 ついさっきまで生きていた新鮮な肉が。

 僕は他の子供たちに気付かれないように今は動かない肉塊となった中国人の少年のところに移動する。

 ああ、おいしそうだ。

 空腹はスパイスと言うが

 僕はナイフを取り出す。肉を食べやすい大きさに切り取る。

 意外と力を使うが僕は目の前の食料の事だけを考え一心不乱に切り刻む。

 一口食べる。

 血は鉄の苦みの中に甘みを感じ、喉に絡みつくが渇きを癒してくれた。

 肉は今まで食べたことのない少し臭みがある。硬さも少し筋張っていたがそれでも美味しい!

 調理できる場所があればもっと美味しく食べれるのだろうがそこまでは贅沢は言えない。

 中国人の少年が小柄だったせいもあるか内臓を除いた部分は食べ終えてしまった。

 3時間程度だろうか?一心不乱に食べ続けていたせいで腕は痛いし顎も疲れている。

 だけど満腹になった心地良さは格別で初めて食べた人の肉のおいしさにも感動した。

 ああ、食べ物も飲み物もあるんだ!

 ここは楽園のような場所だ!

 それからは殺戮の始まりだった。

 寝ていた彼らに近づき声を出す暇も与えず刺し殺す。

 心臓の場所はもう分かっていた。振り下ろすなんてことをしたら肋骨に阻まれてしまうので隙間に当てて力強く一気に刺す。

 少女の心臓をついた感触がする。鼻に豊潤な香りが届く。臭いで起きてしまわぬように次に移る。

 5人目くらで慣れてきたのでスピードは上がってきた。だが臭いが強くなったせいで他の子供が置き始めた。

『なんだ…この臭い…?』

 その子供が眠気眼を擦っている間に近づき喉を刺す。それを見ていた子供が叫ぶ。

『うわぁぁぁぁ!!』

「うるさいなぁ」

 ただの叫び声は全世界共通だ。うるさくて耳障り。

 先ほどとは比べ物にならない地獄絵図に腰を抜かす少年、壊れたように笑う少女、命乞いをする子供達。みんな殺した。

 最後の一人を殺してから気付いた。

「保存する場所が無いな…」

 そこで閉ざされていた扉が開かれた。

 急に強い光が入ってきた為に目が慣れない。強烈な刺激となって視覚を襲う。

「はい、そこまで。君がたった一人の生き残りだ。今回は稀に見るクレイジーな結末だが君は生き残りだからな。丁重に扱わなくてはいけないんだ」

 男の声が聞こえる。軽薄そうな声で正直癇に障る。

「おっと、暴れるんだったら話は別さ。君みたいな素人がプロの僕に勝てると思うのかい?」

 そう言われると仕方ない。勝てる見込みはないだろう。それに大人の肉はおいしそうじゃない。

「そう、それが賢明さ。手を引いてやるからついてきな」

 言われるがままについて行く。次第に目が慣れてきて視界を確保する。どうやらここは金持ちの家らしい。いちいち豪華な造りの壁や置物、シャンデリアなどが目にまぶしいほどに光っている。持ち主が成金趣味なのだろうか。

 そんなことを考えている内に目的の場所に着いたらしい。

 扉を開けて中に入る。

「連れてきましたぜ。日本人だ」

 その瞬間にざわめきが生まれる。

 居るのは老人ばかりだ。モニターが壁にかかっておりそこには先ほどの部屋が映し出されていた。

「ええ、今回の賞金は私が頂きますようですな」

 身なりのいい男がそう言う。日本人のようだ。よく見れば子供たちと同じ国籍の人間しかいないのかもしれない。

 僕達は賭けの対象にされたのだ。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 路上で生活していた僕は食うに困っていた。

 だけれども、彼らは僕に教えてくれた。最上の食物を。

 爺婆共が勝手に話をしているが耳に入ってこない。

 その後、僕はそれなりの金を貰って日本に戻ってきた。


 戻ってきてから3年経った。

 あの賭けごとをやっていたボケ老人どもは死んだらしい。

 誰もが苦しみながら死んだようだ。

 僕は社会に適合できずにひっそりと暮らしている。

 3日に一度、人を狩って食べるので食費はかからない。

 どうやら僕は人と違うらしい。

 肉体の構造が、だ。

 精神は既に狂っているのだろう。だが肉体の構造はあの時の密室以来ではないだろうか?

 蟲毒。

 それと同じ現象が起きたのではないだろうか?

 本来なら殺し合うだけだったはずなのに僕が食べてしまった。

 密室という状況、死者を食すという状況が重なり合って僕は人毒となったのだろう。

 僕は人ではない存在になった。

 人ではない存在は人に排斥される。

 僕は食人鬼だが一人で生きて行くには心がついてきていない。

 孤独の蟲毒。

 僕は死ぬまで蟲毒で孤独なのだろう。

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