犬のおまわりさん、その続き
「迷子の迷子の子猫ちゃん~ あなたのおうちはどこですか~」
童謡を集めた絵本、開かれているページにはいぬのおまわりさんの歌詞とその情景が絵がかえれている。迷子になってえんえん泣いている子猫、助けに来た犬のおまわりさんも子猫が名前もお家も分からないというから困ってしまっている。
開いた絵本を両手で支えてソファーに座る杏奈は、高校性の頃よりも少し大人びて見える。二番まで歌い終わると、絵本の様子と初めて浅葱と出会った時の光景が重なって知らずに笑みがこぼれていた。
ふっと隣に座る二歳の娘に視線を向けると、娘はじぃーっと絵本を眺めていて杏奈に尋ねてきた。
「ねえ、子猫ちゃんはどうなったの? ママには会えた?」
二歳にしてはたくさん喋れる娘の言葉でも、母親の杏奈以外が聞いたら正確に聞き取ることはできないようなまだまだ拙い喋り方だった。
質問された杏奈は、うーんと首をかしげて、いましがた歌った歌詞をみつめる。
二番まである「いぬのおまわりさん」有名なのは一番だが、二番の歌詞でも結局、子猫のおうちが分からなくておまわりさんが困ったままで終わっている。
娘の質問はもっともだけど、今までそんなことを疑問にも思わなかった杏奈は、今度は反対側に首をかしげる。それからつい今しがた思い出した懐かしい光景を思い出してふわりと娘に笑いかける。
「迷子の子猫ちゃんね、実は迷子札をつけていたんだ。犬のおまわりさんがそれに気づいてくれて、手をつないで一緒にお家まで帰ってくれたの」
不登校で教室に行くことができなかった杏奈。
なくしてしまったひだまりに焦がれて、探して、迷子になって……
そんな時に声をかけてくれたの浅葱だった。
探していたものはすぐそばにあったのに、目を背けていて気づいていなかった杏奈それを教えてくれたのも浅葱だった。
「子猫ちゃん、お家が分かってよかったね。嬉しくなった子猫ちゃんはおまわりさんにキスしちゃったね」
そんなことを言った娘を、杏奈は驚きにもともと大きな黒目を見開き、次の瞬間にはふふっとひだまりのような温かな笑みをこぼす。
「そうね。犬のおまわりさんはうれしくて泣いちゃったかもね」
ふふっと杏奈が笑うと、にこにこと杏奈にそっくりな娘がふふふっと笑う。
二人が座るソファーには、大きな窓から太陽の光が降り注ぎ、ひだまりの空間を作っている。
ガチャっと玄関の扉が開く音がして、ソファーに座っていた娘がぴょんっと飛び降りて廊下に続く扉に駆け寄っていく。廊下からこちらに近づいてくる人影が見え、扉を開けてリビングに入ってきた瞬間、娘がその人物に飛びついた。
「おかえりなさい、パパ」
娘を抱え上げて愛おしげに頬を寄せた後、ソファーから立ち上がった杏奈を見つめて陽だまりの笑みを浮かべる。
「ただいま」
「おかえりなさい、浅葱君」
※ 童謡「いぬのおまわりさん」作詞:佐藤義美 作曲:大中恩 より引用